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幕間 ある悪役令嬢の奇妙な物語
閑話 悪役令嬢奇譚3
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ゲメトー王国の混乱はそれだけで終わらなかった。
女狐ヒラリーに唆されるがまま、ヒューバート王の暴走が始まる。
ジョーレー侯爵家の離反を恐れるあまり、悪手とも言うべき手段を取った。
外交の一手を担っていたマーカスの権限を剥奪するとジョーレー侯爵夫妻の身柄を拘束。
これもまた、ニブルヘイムへと送り込んだのである。
だが、ヒューバート王はさらなる凶行に走った。
王と王妃が戻れないように国境を封鎖したのだ。
そればかりか、実の両親である王と王妃を捕らえ、これもニブルヘイムに送った。
彼に逆らえば、容赦なく首が飛ぶ恐怖政治が罷り通る。
次々と起こる凶行にも表立って逆らう者はいなかった。
ついにはヒューバート自らが王位に就く。
ゲメトー王国最後の王ヒューバートの誕生である。
この頃になると既にヒューバート王から、民心が離れていた。
大幅に上げられた税率に民草は苦しんでいたのだ。
貴族からの反発も高まっていた。
王が認めない限り、貴族間の婚姻を認めないと発布され、多くの令嬢が王の名の下にその毒牙にかかった。
まず、落ち度のない息子を殺されただけではなく、晒されたザーケンナ伯爵が反乱の口火を切った。
これに呼応するように娘を失ったツイタルネン辺境伯までもが挙兵した。
内乱は切っ掛けに過ぎなかった。
虎視眈々とゲメトー王国に眠る鉱石を狙っていた大国がついに動きを見せ始める。
狡猾にもまず、反乱軍の頭目であるザーケンナ伯爵とツイタルネン辺境伯への援助を申し出たのだ。
ヒューバート王は元より、精強で知られる辺境伯軍にすら手を焼いていた。
正規の騎士団がごっそりと抜けてしまい、破落戸紛いの半端な騎士とも呼べない輩しか、残っていなかったからだ。
そこに大国の介入があっては防衛線が決壊するのにさして、時を要さなかった。
ヒューバート王の最期は惨めで哀れなものだったと伝えられている。
既に守る者すら、まばらになった王城に反乱軍が突入すると玉座に座る瘦せ細った男がいたのだという。
男は年の頃は五十歳を超えており、老人のようにしか見えなかった。
しかし、王冠を被り、豪奢な装束に身を包んでいることから、彼がヒューバート王で間違いないことが判明した。
ツイタルネン辺境伯もあまりに衰弱した王の姿をさすがに憐れに思ったのか、名誉を重んじ、自決するよう促したがヒューバート王はこれを拒否する。
狂ったように剣を振り回し、暴れるヒューバート王に止めを刺したのは自らが反乱者の汚名を着ることを決意したザーケンナ伯爵だったと言う。
倒れ伏したヒューバート王の体に群がり、兵士達が剣を振るった為、その遺体は見るも無残に切り刻まれた。
ヒューバート・ロー・スデズク、享年十九歳。
王位に就いてから、僅か一ヶ月もしないうちにこのような最期を迎えるとは彼自身も思っていなかっただろう。
ヒューバートが今際の際まで、その名を呼んでいた最愛の女性ヒラリー・ド・インデスだが、その足取りは杳として掴めなかった。
王城にはヒラリーという人間が存在した形跡は全くというほど、なくなっていたのだ。
彼女はストロベリーブロンドに瑠璃色の瞳という珍しい容姿の持ち主だったにも関わらず、その姿を見かけた者が誰もいなかったのだと言う。
忽然と姿を消したヒラリーを実は大国が送り込んだ腕利きの間者だったのではないか? と実しやかに語られていたがその真相は未だにはっきりとしていない。
女狐ヒラリーに唆されるがまま、ヒューバート王の暴走が始まる。
ジョーレー侯爵家の離反を恐れるあまり、悪手とも言うべき手段を取った。
外交の一手を担っていたマーカスの権限を剥奪するとジョーレー侯爵夫妻の身柄を拘束。
これもまた、ニブルヘイムへと送り込んだのである。
だが、ヒューバート王はさらなる凶行に走った。
王と王妃が戻れないように国境を封鎖したのだ。
そればかりか、実の両親である王と王妃を捕らえ、これもニブルヘイムに送った。
彼に逆らえば、容赦なく首が飛ぶ恐怖政治が罷り通る。
次々と起こる凶行にも表立って逆らう者はいなかった。
ついにはヒューバート自らが王位に就く。
ゲメトー王国最後の王ヒューバートの誕生である。
この頃になると既にヒューバート王から、民心が離れていた。
大幅に上げられた税率に民草は苦しんでいたのだ。
貴族からの反発も高まっていた。
王が認めない限り、貴族間の婚姻を認めないと発布され、多くの令嬢が王の名の下にその毒牙にかかった。
まず、落ち度のない息子を殺されただけではなく、晒されたザーケンナ伯爵が反乱の口火を切った。
これに呼応するように娘を失ったツイタルネン辺境伯までもが挙兵した。
内乱は切っ掛けに過ぎなかった。
虎視眈々とゲメトー王国に眠る鉱石を狙っていた大国がついに動きを見せ始める。
狡猾にもまず、反乱軍の頭目であるザーケンナ伯爵とツイタルネン辺境伯への援助を申し出たのだ。
ヒューバート王は元より、精強で知られる辺境伯軍にすら手を焼いていた。
正規の騎士団がごっそりと抜けてしまい、破落戸紛いの半端な騎士とも呼べない輩しか、残っていなかったからだ。
そこに大国の介入があっては防衛線が決壊するのにさして、時を要さなかった。
ヒューバート王の最期は惨めで哀れなものだったと伝えられている。
既に守る者すら、まばらになった王城に反乱軍が突入すると玉座に座る瘦せ細った男がいたのだという。
男は年の頃は五十歳を超えており、老人のようにしか見えなかった。
しかし、王冠を被り、豪奢な装束に身を包んでいることから、彼がヒューバート王で間違いないことが判明した。
ツイタルネン辺境伯もあまりに衰弱した王の姿をさすがに憐れに思ったのか、名誉を重んじ、自決するよう促したがヒューバート王はこれを拒否する。
狂ったように剣を振り回し、暴れるヒューバート王に止めを刺したのは自らが反乱者の汚名を着ることを決意したザーケンナ伯爵だったと言う。
倒れ伏したヒューバート王の体に群がり、兵士達が剣を振るった為、その遺体は見るも無残に切り刻まれた。
ヒューバート・ロー・スデズク、享年十九歳。
王位に就いてから、僅か一ヶ月もしないうちにこのような最期を迎えるとは彼自身も思っていなかっただろう。
ヒューバートが今際の際まで、その名を呼んでいた最愛の女性ヒラリー・ド・インデスだが、その足取りは杳として掴めなかった。
王城にはヒラリーという人間が存在した形跡は全くというほど、なくなっていたのだ。
彼女はストロベリーブロンドに瑠璃色の瞳という珍しい容姿の持ち主だったにも関わらず、その姿を見かけた者が誰もいなかったのだと言う。
忽然と姿を消したヒラリーを実は大国が送り込んだ腕利きの間者だったのではないか? と実しやかに語られていたがその真相は未だにはっきりとしていない。
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