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幕間 動き出す神々
閑話 勇者マグニ・不吉を呼ぶ来訪者
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名も無き島の日常は良くも悪くもレオニードを中心に動き、平穏な時が過ぎていった。
レオニードの成長は人間の子供にしてはやや遅く、難破した小舟から助け出されたのは随分と昔のことだ。
セベクは長命のリザードマン亜種ということもあり、見た目では老いを判断しにくい。
しかし、勇士と名高いセベクであろうとも老いによる衰えを感じずにはいられない。
それほどの時の流れを感じていた。
特に短命のゴブリンなどではその流れが顕著である。
レオニードがまだ赤子だった頃、主だった者達の姿を脳裏に思い浮かべながら、セベクは思う。
あいつらはグラズヘイムで楽しく、暮らしているのだろうか、と……。
そして、再び、名も無き島に変革の時が訪れようとしている。
レオニードは幾分、成長した。
それでも人間でいえば、十歳程度の子供にしか見えない。
だが、元気過ぎる彼の無鉄砲さに屈強なことで知られる魔物が振り回されるほどだ。
「レオはどこに行きおった!」
「スナハマ」
日が昇り始めたばかりだというのに血管が切れそうな勢いで天に向かって叫ぶセベクに日向ぼっこをしようと体を伸ばしていた植物型の魔物が素っ気なく、答える。
名も無き島のいつもの朝の風景だ。
「フネキタ」
植物型の魔物――全身に棘のような突起物が生えた緑色の体はまるで仙人掌のようだが、牙の生え揃った鰐に似た長い口吻と長い二本の触腕を備えていた――はセベクを一瞥することなく、ぶっきらぼうにそう言うと動かなくなった。
「あいつめ。また、修行をサボったのか!」
かつて自分を乗せた小舟が流れ着いた砂浜にレオニードの姿がある。
自分と同じく、流れ着いたモノである遠眼鏡で水平線の彼方に目をやっていた。
「船だ!」
微かに見える黒い小さな影の正体は吹けば飛ぶような一人乗りの小舟だった。
帆を張り、大海原を駆ける姿は中々どうして、絵になるものだ。
しかし、それ以上に妙な点に気付いてしまうだろう。
絶海の孤島に一人乗りの小舟を駆り、近づいてくる者がまともな神経の持ち主ではないということに……。
剣術の修行をサボったレオニードに喝を入れようと現れたセベクを始めとする島の魔物達を前に小舟から、降り立った男は自らの名をルングニルと名乗った。
世界各地を見聞の為に旅をしている学者であり、世にも珍しい動植物の記録を取っているのだという。
ルングニルは上背こそあるもののひょろひょろとした貧相な体つきに不健康そうな青白い肌をした学者先生そのものといったイメージの男だった。
「うむ。それでルングニル殿はなぜ、この島に来られたのか?」
不自然ではあるが客人を持て成すのが礼儀と心得ているセベクはレオニードと暮らす質素な丸太小屋にルングニルを招くと第一声、疑問を口にする。
「古い文献にあったのです。南洋にある小さな島には僕達学者にとって、宝物があると。文献は間違っていなかった。僕は感動しています」
いささか大袈裟に思えるくらいに泣いて見せるルングニルにさしものセベクも毒気を抜かれたように持て余していた。
不自然に思えるがゆえに居丈高に問い質してみたら、肩透かしを食らったようなものだったからだ。
「僕はこの島にいる伝説の黄金鳥を是非とも、この目で見てみたいのです」
「黄金鳥だと!?」
「ピーちゃんのことかな?」
セベクとレオニード。
血の繋がりこそない二人だったが、咄嗟の反応は実によく似ていた。
黄金鳥のことに対する反応があまりにもあからさまなので初対面の人間にもバレバレな態度だったのだ。
この黄金鳥とは文字通り、全身が黄金色に輝く、美しい鳥型の魔物の一種である。
不死鳥の雛鳥で永き時を生きた黄金鳥が不死鳥へと変化するとも言われているが真偽のほどは明らかではない。
「ピーちゃんは恥ずかしがり屋だからね。待ってて。僕が話してくる!」
そう言いながら、あっという間にレオニードは出て行く。
まるで一陣の風が吹いたように。
セベクが声を掛ける間もなく、出て行ったレオニードを見送る形となったルングニルは口角を上げ、邪な笑みを浮かべるのだった。
レオニードの成長は人間の子供にしてはやや遅く、難破した小舟から助け出されたのは随分と昔のことだ。
セベクは長命のリザードマン亜種ということもあり、見た目では老いを判断しにくい。
しかし、勇士と名高いセベクであろうとも老いによる衰えを感じずにはいられない。
それほどの時の流れを感じていた。
特に短命のゴブリンなどではその流れが顕著である。
レオニードがまだ赤子だった頃、主だった者達の姿を脳裏に思い浮かべながら、セベクは思う。
あいつらはグラズヘイムで楽しく、暮らしているのだろうか、と……。
そして、再び、名も無き島に変革の時が訪れようとしている。
レオニードは幾分、成長した。
それでも人間でいえば、十歳程度の子供にしか見えない。
だが、元気過ぎる彼の無鉄砲さに屈強なことで知られる魔物が振り回されるほどだ。
「レオはどこに行きおった!」
「スナハマ」
日が昇り始めたばかりだというのに血管が切れそうな勢いで天に向かって叫ぶセベクに日向ぼっこをしようと体を伸ばしていた植物型の魔物が素っ気なく、答える。
名も無き島のいつもの朝の風景だ。
「フネキタ」
植物型の魔物――全身に棘のような突起物が生えた緑色の体はまるで仙人掌のようだが、牙の生え揃った鰐に似た長い口吻と長い二本の触腕を備えていた――はセベクを一瞥することなく、ぶっきらぼうにそう言うと動かなくなった。
「あいつめ。また、修行をサボったのか!」
かつて自分を乗せた小舟が流れ着いた砂浜にレオニードの姿がある。
自分と同じく、流れ着いたモノである遠眼鏡で水平線の彼方に目をやっていた。
「船だ!」
微かに見える黒い小さな影の正体は吹けば飛ぶような一人乗りの小舟だった。
帆を張り、大海原を駆ける姿は中々どうして、絵になるものだ。
しかし、それ以上に妙な点に気付いてしまうだろう。
絶海の孤島に一人乗りの小舟を駆り、近づいてくる者がまともな神経の持ち主ではないということに……。
剣術の修行をサボったレオニードに喝を入れようと現れたセベクを始めとする島の魔物達を前に小舟から、降り立った男は自らの名をルングニルと名乗った。
世界各地を見聞の為に旅をしている学者であり、世にも珍しい動植物の記録を取っているのだという。
ルングニルは上背こそあるもののひょろひょろとした貧相な体つきに不健康そうな青白い肌をした学者先生そのものといったイメージの男だった。
「うむ。それでルングニル殿はなぜ、この島に来られたのか?」
不自然ではあるが客人を持て成すのが礼儀と心得ているセベクはレオニードと暮らす質素な丸太小屋にルングニルを招くと第一声、疑問を口にする。
「古い文献にあったのです。南洋にある小さな島には僕達学者にとって、宝物があると。文献は間違っていなかった。僕は感動しています」
いささか大袈裟に思えるくらいに泣いて見せるルングニルにさしものセベクも毒気を抜かれたように持て余していた。
不自然に思えるがゆえに居丈高に問い質してみたら、肩透かしを食らったようなものだったからだ。
「僕はこの島にいる伝説の黄金鳥を是非とも、この目で見てみたいのです」
「黄金鳥だと!?」
「ピーちゃんのことかな?」
セベクとレオニード。
血の繋がりこそない二人だったが、咄嗟の反応は実によく似ていた。
黄金鳥のことに対する反応があまりにもあからさまなので初対面の人間にもバレバレな態度だったのだ。
この黄金鳥とは文字通り、全身が黄金色に輝く、美しい鳥型の魔物の一種である。
不死鳥の雛鳥で永き時を生きた黄金鳥が不死鳥へと変化するとも言われているが真偽のほどは明らかではない。
「ピーちゃんは恥ずかしがり屋だからね。待ってて。僕が話してくる!」
そう言いながら、あっという間にレオニードは出て行く。
まるで一陣の風が吹いたように。
セベクが声を掛ける間もなく、出て行ったレオニードを見送る形となったルングニルは口角を上げ、邪な笑みを浮かべるのだった。
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