【完結】ラグナロクなんて、面倒なので勝手にやってくださいまし~ヘルちゃんの時にアンニュイなスローライフ~

黒幸

文字の大きさ
37 / 58
第3章 茨の姫君

第20話 荊姫と小さな勇者

しおりを挟む
 六人までの勇者候補との面接が終わって、合格者が一人もいないですわ。
 どうしましょう?
 困りましたわ~。

 嘘ですわ。
 わたしは元々、そのような儀式に同行者の必要性を感じてませんから、最悪、合格者がいなくても構わないと思ってますの。
 わたしにはそれだけの力がありますし、お兄様イェレミアスの体がありますもの。
 わたしを害せる者など、この世界に片手の指ほどもいないですわ。
 注意すべきはお祖父様オーディンの魔槍グングニルと伯父様トールのミョルニルくらいかしら?
 もっともお兄様のヨルムンガンドとしての頑丈さがあれば、必殺のミョルニルでも耐えられましてよ。

「あと一人しか、いないですがいいのですか?」
「いいのですわ。それに……何でもありませんわ」

 ドローレスはやや睨みながら、きつめの言い方をしてくるけども彼女なりの優しさと気遣いですわね。
 そのあと一人こそ、実は気にかかっている子だとは言えなくてよ。



 七人目。
 最後の候補者レオニードはミドガルドの絶海の孤島を救い、小さな勇者と呼ばれている。
 えぇ、確かに小さいですわね。
 まだ、子供ですわ!

 わたしもまだ、子供ですって?
 でも、わたしはもう大人の仲間入りを果たしてますわ!
 よく分かりませんけど、準備が出来ているので大人なのですわ。

 少なくとも彼より、背だって高いですわ。
 大人ですわね。

「レオニード……です。よろしくお願いします」

 レオニードは恥ずかしそうにそう言うと顔を上げましたの。
 その時、彼の曇りの無い瞳と目が合いましたわ。
 その刹那、思い出しましたの……。
 あのきれいな紅玉ルビーの色の瞳は間違いありません。

 仮面舞踏会でわたしに永遠の愛を誓ってくれたあの人と同じ色……。
 あら? おかしいですわ。
 わたし、仮面舞踏会に出たことがあったかしら?

 そうですわ。
 これは夢の話。
 かつてのわたしが経験した記憶に違いありませんわ。
 前世というにはあまりにも茫洋としていて、それなのに深く刻まれてますの。

「えーと、レオニード君。君の武器はどうしたのかな?」

 少々、どこかへ旅をしていたわたしを現実に引き戻したのはシンののんびりとした問い掛けですわ。
 そういえば、不思議でしてよ。
 これまでの勇者候補が全員、何らかの武器を手にしていたのに彼は持っていないんですもの。

「あっ……えっと、壊れちゃってないんです」
「そっか。なるほどね」

 そういえば、書いてありましたわ。
 リストに小さく注意書きで『霜の巨人ヨトゥンを倒す際、不思議な力を発揮。使用した剣は復元不可能なまでに破損状態』と。

「分かりましたわ。ではこのわたしが……」
「ち、ちょっと! まだ、早いのでは!」
「あっー!?」

 ドローレスとシンから、非難の声が上がってますが気にしませんわ。
 わたしはもう決めましたの。
 レースのカーテンを開けて、彼の顔を直に見たかったんですもの。

「ごきげんよう。小さな勇者さん」
「小さいって……そういう君も」
「わたし、決めましたの。あなたで決まりですわ」
「え?」

 困っているということを隠そうともせず、はにかんだ顔を見せてくれる彼から、目が離せませんわ。
 互いに見つめ合ったまま、ただ静かに時が過ぎていく。
 そのことが心地いいですわ。

「何やってるんですか、馬鹿姫様!」

 ついにキレたドローレスの怒鳴り声に現実に引き戻されたのは言うまでもありませんわ。
しおりを挟む
感想 36

あなたにおすすめの小説

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

敗戦国の元王子へ 〜私を追放したせいで貴国は我が帝国に負けました。私はもう「敵国の皇后」ですので、頭が高いのではないでしょうか?〜

六角
恋愛
「可愛げがないから婚約破棄だ」 王国の公爵令嬢コーデリアは、その有能さゆえに「鉄の女」と疎まれ、無邪気な聖女を選んだ王太子によって国外追放された。 極寒の国境で凍える彼女を拾ったのは、敵対する帝国の「氷の皇帝」ジークハルト。 「私が求めていたのは、その頭脳だ」 皇帝は彼女の才能を高く評価し、なんと皇后として迎え入れた! コーデリアは得意の「物流管理」と「実務能力」で帝国を黄金時代へと導き、氷の皇帝から極上の溺愛を受けることに。 一方、彼女を失った王国はインフラが崩壊し、経済が破綻。焦った元婚約者は戦争を仕掛けてくるが、コーデリアの完璧な策の前に為す術なく敗北する。 和平交渉の席、泥まみれで土下座する元王子に対し、美しき皇后は冷ややかに言い放つ。 「頭が高いのではないでしょうか? 私はもう、貴国を支配する帝国の皇后ですので」 これは、捨てられた有能令嬢が、最強のパートナーと共に元祖国を「実務」で叩き潰し、世界一幸せになるまでの爽快な大逆転劇。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

処理中です...