【完結】ラグナロクなんて、面倒なので勝手にやってくださいまし~ヘルちゃんの時にアンニュイなスローライフ~

黒幸

文字の大きさ
55 / 58
閑話・後日談

閑話 僕のお姫様

しおりを挟む
レオニード視点

 泉に行くまではリーナと手を繋いでいた。
 彼女の機嫌も良かったと思う。
 胸がドキドキして、ちょっと苦しかった。
 これくらい歩いた程度で息が切れたりしないから、不思議だ。

 氷の壁みたいな大きな崖を見た時のことだった。
 リーナの様子がおかしくなっていたけど、僕にも変な声が聞こえたんだ。
 それに頭の中に直接、送られてきたような奇妙な記憶……。
 一瞬だけ、見えた髪の長い女の子はリーナに良く似ていた気がする。
 ずっと昔に知っていたような不思議な気持ちだった。

 でも、泉に着いたら、彼女が急に怒り出した。
 何が原因か、分からなくて、困ったよ。
 服を着替えるのにどうして、見てはいけないんだろう?
 全然、分からなかったんだ。

 だけど、父さんから、約束は守るものだと教わった僕だ。
 約束は破ってはいけないんだ!
 リーナに言われた通り、決して振り返らないぞ。
 何か、あったらすぐにでも行くけど、そうではない限り、約束は絶対だ。



 リーナが泉に向かってから、暫くしてから、アイツが現れた。
 見たことがない魔物だった。
 狼みたいな頭をしているけど、ライカンスロープとは違う。
 体つきが大きくて、ごついし、気持ち悪い。
 僕が知っているライカンスロープよりも遥かに悪いヤツだとはっきりと肌で感じられる。

「小僧。怪我をしたくなかったら、どけ」

 島で会話の出来る魔物はほとんどいなかった。
 父さんセベクが珍しかったんだ。
 コイツ、普通に喋った。

「ダメだ。僕はここを守るって、約束したんだ」
「そうか。ならば、死ね」

 大きな体の割に動きが速かったけど、驚くほどのことはなかった。
 リーナに貰ったカタナという武器を使って、攻撃を捌くの自体はそれほどに難しくない。

 それよりも僕を苦しめたのはリーナとの約束だった。
 決して、振り返らずにこの場を守る。
 それは動きを制限されるということだ。

 アイツはそれを見破ったのか、僕は避け切れず、捌き切れずに傷を負った。
 体中が痛いし、たくさん血を流しちゃったみたいだ。
 意識を失いかけたけど、約束を守る為に最後の力を振り絞った。

 彼女を守るって、約束したから。
 絶対に守るんだと願ったからか、あの時みたいにスゴイ力が出たみたいだ。
 でも、それが僕の限界だった。
 何だか、眠くなってきて、目の前が段々と暗くなっていった。

 もしかしたら、僕は死ぬのかもしれない。
 意外と怖くないんだと変に冷静になれたのは何でだろう。
 僕はこれが最期なら、もう一度、リーナに会いたいと願った。

 願いが叶ったんだろうか?
 それとも幻を見たんだろうか?

 泣いているリーナが僕を抱き締めていた。
 温かくて、気持ち良くて、僕の意識は深い闇に落ちていくように消えていった。



 そこから、先のことはあまり、覚えてない。
 あれだけ、服を脱ぐところを見るなと怒っていたリーナが何も着ないで僕を抱き締めてくれて、助けてくれたことは何となく、分かった。
 その後の記憶があやふやなんだ。
 いつの間にか、頭におおきなたんこぶが出来ているし。

「ごめんなさい。レオ」

 しおらしい顔をして、癒しの魔法をかけてくれるリーナはかわいく見えた。
 きれいな金色に光る手で僕の傷を触って、治してくれる姿はまるでお姫様みたいだ。
 実際、お姫様なんだよね?
 その割に結構、暴力的で言いたいことを言ってくるんだけど、お姫様という生き物はこういうものなのかな?

「レオ。忘れなさいよ。さっき、見た物は忘れるの」
「は、はい」

 心の中でかわいいとほめたら、これだよ。
 でも、リーナは怒っているようで怒ってないのかな?
 彼女の顔はちょっと赤くなっていて、怒っているのに微笑んでいるような不思議な表情を浮かべていたから。
しおりを挟む
感想 36

あなたにおすすめの小説

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

悪役令嬢は廃墟農園で異世界婚活中!~離婚したら最強農業スキルで貴族たちが求婚してきますが、元夫が邪魔で困ってます~

黒崎隼人
ファンタジー
「君との婚約を破棄し、離婚を宣言する!」 皇太子である夫から突きつけられた突然の別れ。 悪役令嬢の濡れ衣を着せられ追放された先は、誰も寄りつかない最果ての荒れ地だった。 ――最高の農業パラダイスじゃない! 前世の知識を活かし、リネットの農業革命が今、始まる! 美味しい作物で村を潤し、国を救い、気づけば各国の貴族から求婚の嵐!? なのに、なぜか私を捨てたはずの元夫が、いつも邪魔ばかりしてくるんですけど! 「離婚から始まる、最高に輝く人生!」 農業スキル全開で国を救い、不器用な元夫を振り回す、痛快!逆転ラブコメディ!

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

敗戦国の元王子へ 〜私を追放したせいで貴国は我が帝国に負けました。私はもう「敵国の皇后」ですので、頭が高いのではないでしょうか?〜

六角
恋愛
「可愛げがないから婚約破棄だ」 王国の公爵令嬢コーデリアは、その有能さゆえに「鉄の女」と疎まれ、無邪気な聖女を選んだ王太子によって国外追放された。 極寒の国境で凍える彼女を拾ったのは、敵対する帝国の「氷の皇帝」ジークハルト。 「私が求めていたのは、その頭脳だ」 皇帝は彼女の才能を高く評価し、なんと皇后として迎え入れた! コーデリアは得意の「物流管理」と「実務能力」で帝国を黄金時代へと導き、氷の皇帝から極上の溺愛を受けることに。 一方、彼女を失った王国はインフラが崩壊し、経済が破綻。焦った元婚約者は戦争を仕掛けてくるが、コーデリアの完璧な策の前に為す術なく敗北する。 和平交渉の席、泥まみれで土下座する元王子に対し、美しき皇后は冷ややかに言い放つ。 「頭が高いのではないでしょうか? 私はもう、貴国を支配する帝国の皇后ですので」 これは、捨てられた有能令嬢が、最強のパートナーと共に元祖国を「実務」で叩き潰し、世界一幸せになるまでの爽快な大逆転劇。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

処理中です...