薔薇の姫は夕闇色に染まりて

黒幸

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第二部 偽りから生まれる真実

第38話 夕暮れと薔薇姫のラブゲーム・破

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(アーベント視点)

 椅子に腰かけたアリーさんは俺に全てを預けるように無防備な姿を晒している。
 自分で選んでおいて、怯むとは俺らしくない。
 しかし、思った以上に背中が開いたデザインだった。
 非常にまずい。

 彼女は下着をつけていない。
 頼りない肩紐が唯一の命綱になっており、透き通るような白い肌が露わになっているだけでなく、豊かな胸が今にも零れ落ちそうになっているのだ。
 寝る前で髪をアップにしているせいか、うなじと細い首も目の毒にしかならない。

 冷静になれ、アーベント。
 お前は今、ミッションに挑んでいるだけだ。
 俺はプロフェッショナル。
 心を平静に保て。



(クレメンティーナ視点)

 ふふふっ。
 全く、ちょろい旦那さんで助かったわ。
 先輩まで騙しちゃったのは悪いとは思うんだけど……。
 でも、これも先輩の為!

 さて、どんな夫婦の声が聞こえるのかなぁ?
 いけないことをしているみたいでドキドキしてくる。

「あんっ。そこはダメです。そこは……そんな強いのダメですってばぁ」

 いきなり、先輩の何とも艶めかしい声が聞こえてきた。
 心臓が止まるかもって、くらいにビックリしちゃった。
 先輩が色っぽい……。

 え? 何なの?
 あの二人、リビングで何をしてるの?
 夫婦だから、そういうことなの!?

はここが弱かったかな? こんなに硬くして、悪い子だな」
「あぁんっ。そこ。そこがすごく気持ちいいです」
「ここかい?」
「ダメぇ。あんっ」

 ダメ!
 これ以上、聞いちゃいけないって、心の中では分かってる。
 分かってるのにやめられない。
 止められない。

 あの感情表現の苦手な人が!?
 頭の中にたくさんの疑問符が浮かんでは消えてく。
 嬉しくても喜んでいても一歩、線を引いたようなはにかむ笑顔を薄っすらとしか、見せない先輩が……。

「そこ。そこをもっとしてください。ひゃん」

 くっ、これ以上、聞いてらんないっ!
 思わず、耳に付けていた魔道具を手に取って、握り潰した。

 先輩はちゃんと旦那さんに愛されているんだ。
 あたしが考えすぎただけなんだ。
 盗聴までしちゃってバカみたい……。

 でも、よかったわ。
 先輩は幸せなんだから。

「あれ……?」

 あたし、何で泣いてるの?
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