我欲するゆえに我あり

黒幸

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32 首無しと体無し①

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 ワイン?
 冗談が過ぎるってもんだ。
 地中から湧いてきて、グツグツと煮立っているかのように泡が出てくるワインがどこにあるのか。
 傍を通ると微かな異臭も漂っているから、マジで毒の沼じゃないか、これ。

「ここにあるじゃない?」
「あるけどさ。そういうことじゃねえんだよなあ」
「あっそ」

 オルガはどこまでもクールに徹しているようだが、心無し手が僅かに震えていることに気付いた。
 心拍数と脈拍にも多少の異常が出ているようだ。
 本当は動揺しているのに平静を装うとする姿はむしろ、見習うべき姿かもしれない。

「牛の方は気味が悪いだけみたいだな」
「あれで狂暴だったら、大変でしょ」
「言えてる」

 見た目は恐ろしく、気味が悪いが元々、おとなしい種の牛だったんだろう。
 何をするでもなく、オブジェのようにいるだけの存在に見える。
 牛がいるという事実だけで充分だったということか?
 よく分からない考え方ではある。

「さて、何がいるんだか」
「解決しないと報酬もないんだし、やるしかないわね」
「それに気になるしなあ。こんな悪趣味なのを用意したヤツだ。どんな顔していると思う?」
「そうね。きっと意地悪いそうな顔をしてるのよ」
「ありえそうだな」
「でしょ」

 そんな冗談を交わして、まだ笑っていられる余裕があったのはそこまでだった。
 古びた扉だ。
 木は腐食しているし、金属も錆びつくだけ錆びついていた。
 状態があまりに酷いので扉の役を成しているかも分からない。
 そんな板切れ同然の扉だから、開けただけのつもりなのになぜか、ぶっ壊れた。
 力加減を誤った訳ではない。

「わざとじゃないぞ?」
「分かってるって。あれだけボロボロなんだから、仕方ないわ。でも……」
「でも?」
「おかしいと思わない? この古城も観光資源の一つらしいのよ」
「うん? つまり、どういうことなんだ?」

 オルガは呆れつつも説明してくれる。
 なんだかんだ言っても彼女は親切で優しいのだ。
 本人曰く、そんなに優しくも無ければ、悪い子らしいんだが俺にはそう思えない。

「さて、本当にここを行くのか?」
「でしょうね。デバイスもそう指しているし」
「マジか」
「マジよ」

 ボルドーのギルドで正式登録されたデバイスには便利な機能がある。
 それが目的地までナビゲートしてくれるものなんだが、行先は壊れた扉の先を示している。

 顔を見合わせて、溜息を吐くしかない。
 壊れた扉の先に続くのは真っ暗闇の長い廊下だ。
 深淵を覗いたら、どうのこうのって感じの真っ暗闇で何がいるのかも分からない。
 試しにカサドールの能力でじっくり見ても何も見えない。
 案外、この能力も頼り切りになるのは危ないと思っている。
 何より、熱を感知する視覚能力というのがネックだろう。
 熱を発しない相手だったら、どうにもならないというのはエビ野郎との戦いで既に経験済みだ。

「行くしかないか」
「そうね」

 そう言いながら、オルガはやる気満々だ。
 ストレージと呼ばれる収納空間から、自分と同じくらいの大きさがある大剣を取り出した。
 せっかちなのか、好戦的なカサドールの気質ってヤツなのか。
 俺もそんなこと言っておきながら、ストレージから得物を取り出している。
 人のことを言えたもんじゃないとは思っている。

「微妙になんだ、これ……」
「誘われているって感じね?」
「そんな気がするよな」

 俺達が一歩を踏み出すと廊下を薄らと照らす不思議な灯りが灯る。
 嫌らしいことに先が見えるように照らさない。
 一歩進めると数歩先の灯りが灯る。
 実にもどかしい。
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