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伍 問題を解決する五歳児
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コーネリアスは少ない状況証拠から、結論を導き出した。
(きんぞくあれるぎいだ!)
ジャクソンの症状で考えられるのは金属アレルギーによるアナフィラキシー反応で間違いないとコーネリアスは考えた。
コーネリアスの記憶と光汰の記憶が混ざり合い、見えなかったものが見えるようになったことが大きい。
ジャクソンが生来、体が弱いとされていた理由も全ては金属アレルギーで説明がつく。
実家で剣術の修行をしていた際はそれほどに酷い症状に陥っていなかった。
症状が悪化し始めたのは寄宿舎のある学舎へと進学し、実家を離れてからだった。
これは騎士を目指し、実戦的なトレーニングを行うようになったせいではないのか。
コーネリアスがそう考えたのも無理はない。
騎士は金属製の甲冑を身に着ける。
身体は下に身に着ける服があるのでそれほど影響はなかったのだろうとも推察が出来た。
問題はフルフェイス方式の兜だった。
金属アレルギーの人間が被ったら、ひとたまりもないに違いない。
実際、一時かなり重篤な症状に陥ったジャクソンは学舎を退学することになり、実家で療養することになったのだ。
実家では剣を握ることもなく、穏やかな日々を過ごしていた。
その姿をコーネリアスも目撃している。
その理由を推理するにあたって、もっとも怪しい場所は厨房であるとコーネリアスは考えた。
アレルギーといった概念自体が一般的ではない以上、金属製のスプーンでジャクソンの病が悪化すると誰も考えていないのは明らかだった。
だが、それだけではないとコーネリアスは睨んでいる。
厨房でまかないを一手に引き受けているのはパメラという名の老女だった。
トマスが生まれた頃からストンパディ家に仕えており、家のことであれば、トマスやゾーイよりも詳しいばあやである。
「ねえ、ばあや」
「おやおや。コウ坊ちゃま。こんなところに珍しい」
パメラがそう零すのも無理はない。
コーネリアスは生まれてこの方、厨房に顔を出したことがなかった。
いくら利発な子供といえどもまだ五歳である。
年長の兄と姉は過保護気味でコーネリアスが、危険物が多い厨房に近付くのをよしとしなかったからだ。
「ばあや。それはなあに? なにをつくってるの?」
コーネリアスは不審に思われないよう出来るだけ、自然に子供らしい振舞いを見せる。
パメラが木製のおたまでがりがりと音をたてながら、混ぜているのはそれなりに大きな鉄鍋だった。
恐らくは肉と野菜をぐつぐつと長く煮込んだ何の問題も無いスープが入っている。
「夕食のスープですよ、坊ちゃま。よおく煮込んでこうして、混ぜないといけないんですよ」
パメラは何ら躊躇することなく、相変わらず、おたまでがりがりと鉄鍋を混ぜている。
「ははん。それが原因だったか」とコーネリアスは気付いた。
鉄分を摂取する目的で鉄製の金属器で同様のことをしているのはコーネリアスも知っていた。
それだけならば、恐らくは問題が無かったはずだろうとも……。
「ばあや。そんなにがりがりするとあにうえ、いたいいたいになるんだ」
「あらあら。ええ? どういうことです、坊ちゃま」
聞き捨てならない一言にパメラはがりがりとやっていた手を止め、雇い主の末っ子に目をやる。
大きな目は瞳が夜空で瞬くようにキラキラと輝いている。
噂の末っ子坊主が利発であるとパメラも理解はしていた。
だが、さすがに幼児言葉では何の話かまでは分からない。
分かりようがなかった。
パメラは実直な人柄ではあるもののそれほど頭の回転が速い訳ではない。
猶更のこと、理解に苦しんだのも仕方がないことである。
「だからね。ばあや。あにうえのびょうきはコレなんだ」
「おや? 鉄の釘?」
コーネリアスが取り出したのは一本の鉄釘だった。
それを掌に押し当てる。
「あにうえはてつがだめなんだ」
「鉄が駄目? ええ? どういうことなんです?」
五歳児が祖母にあたる年齢の人間に分かりやすく、それでいて変に思われないよう説明することがどれだけ大変なことなのか。
さすがのコーネリアスも骨身に染みたらしい。
暫くの間、彼はおとなしくなったがその代わりとでも言うようにジャクソンの身の回りから、金属製の物が極力、取り除かれた。
(きんぞくあれるぎいだ!)
ジャクソンの症状で考えられるのは金属アレルギーによるアナフィラキシー反応で間違いないとコーネリアスは考えた。
コーネリアスの記憶と光汰の記憶が混ざり合い、見えなかったものが見えるようになったことが大きい。
ジャクソンが生来、体が弱いとされていた理由も全ては金属アレルギーで説明がつく。
実家で剣術の修行をしていた際はそれほどに酷い症状に陥っていなかった。
症状が悪化し始めたのは寄宿舎のある学舎へと進学し、実家を離れてからだった。
これは騎士を目指し、実戦的なトレーニングを行うようになったせいではないのか。
コーネリアスがそう考えたのも無理はない。
騎士は金属製の甲冑を身に着ける。
身体は下に身に着ける服があるのでそれほど影響はなかったのだろうとも推察が出来た。
問題はフルフェイス方式の兜だった。
金属アレルギーの人間が被ったら、ひとたまりもないに違いない。
実際、一時かなり重篤な症状に陥ったジャクソンは学舎を退学することになり、実家で療養することになったのだ。
実家では剣を握ることもなく、穏やかな日々を過ごしていた。
その姿をコーネリアスも目撃している。
その理由を推理するにあたって、もっとも怪しい場所は厨房であるとコーネリアスは考えた。
アレルギーといった概念自体が一般的ではない以上、金属製のスプーンでジャクソンの病が悪化すると誰も考えていないのは明らかだった。
だが、それだけではないとコーネリアスは睨んでいる。
厨房でまかないを一手に引き受けているのはパメラという名の老女だった。
トマスが生まれた頃からストンパディ家に仕えており、家のことであれば、トマスやゾーイよりも詳しいばあやである。
「ねえ、ばあや」
「おやおや。コウ坊ちゃま。こんなところに珍しい」
パメラがそう零すのも無理はない。
コーネリアスは生まれてこの方、厨房に顔を出したことがなかった。
いくら利発な子供といえどもまだ五歳である。
年長の兄と姉は過保護気味でコーネリアスが、危険物が多い厨房に近付くのをよしとしなかったからだ。
「ばあや。それはなあに? なにをつくってるの?」
コーネリアスは不審に思われないよう出来るだけ、自然に子供らしい振舞いを見せる。
パメラが木製のおたまでがりがりと音をたてながら、混ぜているのはそれなりに大きな鉄鍋だった。
恐らくは肉と野菜をぐつぐつと長く煮込んだ何の問題も無いスープが入っている。
「夕食のスープですよ、坊ちゃま。よおく煮込んでこうして、混ぜないといけないんですよ」
パメラは何ら躊躇することなく、相変わらず、おたまでがりがりと鉄鍋を混ぜている。
「ははん。それが原因だったか」とコーネリアスは気付いた。
鉄分を摂取する目的で鉄製の金属器で同様のことをしているのはコーネリアスも知っていた。
それだけならば、恐らくは問題が無かったはずだろうとも……。
「ばあや。そんなにがりがりするとあにうえ、いたいいたいになるんだ」
「あらあら。ええ? どういうことです、坊ちゃま」
聞き捨てならない一言にパメラはがりがりとやっていた手を止め、雇い主の末っ子に目をやる。
大きな目は瞳が夜空で瞬くようにキラキラと輝いている。
噂の末っ子坊主が利発であるとパメラも理解はしていた。
だが、さすがに幼児言葉では何の話かまでは分からない。
分かりようがなかった。
パメラは実直な人柄ではあるもののそれほど頭の回転が速い訳ではない。
猶更のこと、理解に苦しんだのも仕方がないことである。
「だからね。ばあや。あにうえのびょうきはコレなんだ」
「おや? 鉄の釘?」
コーネリアスが取り出したのは一本の鉄釘だった。
それを掌に押し当てる。
「あにうえはてつがだめなんだ」
「鉄が駄目? ええ? どういうことなんです?」
五歳児が祖母にあたる年齢の人間に分かりやすく、それでいて変に思われないよう説明することがどれだけ大変なことなのか。
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