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捨弐 奇天烈な旅人②
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コーネリアスも初めの内は気にしていなかった。
バドが言葉少なに対応するのも共に旅をしている寡黙なシニストラを無意識に真似ているのだと思っていたからだ。
だが彼は人並み外れた観察力で気付いていた。
「バドってさ。無理してないか?」
「……し、してない」
大袈裟なほどに首を大きく、左右に振るバドの様子にコーネリアスの疑問は確信へと変わった。
この子は無理をして、自分を抑えているのだと……。
コーネリアスは前世である光汰の記憶も総動員して、この不自然な状況を推し量ろうとした。
シニストラは明らかに訳アリの騎士だった。
先を急ぐ旅という発言から、二人が何者かに狙われ、追われていると推察することが出来た。
だが何者に狙われているのかまでは推理のしようがない。
光汰が知っていた石田三成の幼少期に類推されるようなエピソードはなかった。
石田村にもこの時期に不審な人物を匿っていたとされる逸話は伝わっていない。
そうだとすれば、シニストラとバドは一体、何者なのか?
考えを巡らせれば、巡らせるほどに迷宮に迷い込んだかのように答えに辿り着けない。
だがコーネリアスにはっきりと分かったことが一つだけ、あった。
バドは本来、おとなしくもなければ、喋るのが苦手な訳でもないのだ。
シニストラのようにしなければ、ならないと無理矢理、自分を抑え付けているに過ぎないのだと……。
シニストラとバドがストンパディ家の別宅に逗留してから、一ヶ月余りが経過した。
シニストラの怪我が軽傷だったのと村の老医師の腕が良かったのもあり、早い時期に怪我は回復している。
それでも彼が村に逗留していたのは、ストンパディ家の長男ジャクソンの存在が大きい。
ジャクソンはこの時期、実家にふらりと帰省している。
学問にこそ、向いていなかったジャクソンだが元来、真面目な質である。
朝、日が昇り、目が覚めると修練を行うのを欠かさず、行っていた。
止むを得ない病により、剣の道は諦めたものの新たな道を模索し、手探りの中、辿り着いた棒術だった。
その修練の様子をそっと見守っていたのがシニストラだった。
さすがに見ているだけでは居たたまれなくなったのか、寡黙なシニストラにしては珍しく、声をかけた。
以来、ジャクソンの棒術を師匠代わりに指導していた。
ジャクソンもあまり、饒舌な部類には入らない。
師弟揃って、言葉少なにただ得物を振るうだけの日すらあった。
その緩やかな空気がシニストラに心地良かったのかもしれない。
ともあれ、本来はもっと短かったはずの逗留が思ったよりも長くなっていた。
「あ、いや、うん。ありがとう」
「どういたしまして」
目にも鮮やかな黄色の花が一面に咲いた花畑でコーネリアスは首を傾げるしかない。
例え、器用な手つきで花冠を編んだバドが満面の花笑みを浮かべていようとも……。
コーネリアスは何もバドに否定的な考えを持っている訳ではなかった。
バドの間に当初、存在した緊張した関係はどこへやら。
どこへ遊びに行くのも一緒の仲睦まじい姿が、方々で目撃されるほどに距離も縮まっている。
しかし、彼にはどうにも気になって、夜も眠ぬほどに頭を悩ませる案件があった。
花冠だけでも十分に疑うべき要素だった。
その他にも疑おうと思えば、疑わしき要素はいくらでも出てくる。
「そろそろ、帰ろうか」
「うん。そうだね」
あの日、藪を前に手を繋いだのは、無意識だったからに違いない。
コーネリアスはそう考えていた。
切羽詰まった状況にあり、我を忘れたが為に意識していなかったのだろう。
そうでもなければ、説明出来ないのだとも考えた。
隣を極近い距離で歩くバドの横顔を見て、コーネリアスは思いを馳せる。
手を握ろうとするとはっとした顔で頬を僅かに赤らめ、あからさまに恥じらいの表情を浮かべたバドのことを……。
そして、その日、事件が起きる。
バドが言葉少なに対応するのも共に旅をしている寡黙なシニストラを無意識に真似ているのだと思っていたからだ。
だが彼は人並み外れた観察力で気付いていた。
「バドってさ。無理してないか?」
「……し、してない」
大袈裟なほどに首を大きく、左右に振るバドの様子にコーネリアスの疑問は確信へと変わった。
この子は無理をして、自分を抑えているのだと……。
コーネリアスは前世である光汰の記憶も総動員して、この不自然な状況を推し量ろうとした。
シニストラは明らかに訳アリの騎士だった。
先を急ぐ旅という発言から、二人が何者かに狙われ、追われていると推察することが出来た。
だが何者に狙われているのかまでは推理のしようがない。
光汰が知っていた石田三成の幼少期に類推されるようなエピソードはなかった。
石田村にもこの時期に不審な人物を匿っていたとされる逸話は伝わっていない。
そうだとすれば、シニストラとバドは一体、何者なのか?
考えを巡らせれば、巡らせるほどに迷宮に迷い込んだかのように答えに辿り着けない。
だがコーネリアスにはっきりと分かったことが一つだけ、あった。
バドは本来、おとなしくもなければ、喋るのが苦手な訳でもないのだ。
シニストラのようにしなければ、ならないと無理矢理、自分を抑え付けているに過ぎないのだと……。
シニストラとバドがストンパディ家の別宅に逗留してから、一ヶ月余りが経過した。
シニストラの怪我が軽傷だったのと村の老医師の腕が良かったのもあり、早い時期に怪我は回復している。
それでも彼が村に逗留していたのは、ストンパディ家の長男ジャクソンの存在が大きい。
ジャクソンはこの時期、実家にふらりと帰省している。
学問にこそ、向いていなかったジャクソンだが元来、真面目な質である。
朝、日が昇り、目が覚めると修練を行うのを欠かさず、行っていた。
止むを得ない病により、剣の道は諦めたものの新たな道を模索し、手探りの中、辿り着いた棒術だった。
その修練の様子をそっと見守っていたのがシニストラだった。
さすがに見ているだけでは居たたまれなくなったのか、寡黙なシニストラにしては珍しく、声をかけた。
以来、ジャクソンの棒術を師匠代わりに指導していた。
ジャクソンもあまり、饒舌な部類には入らない。
師弟揃って、言葉少なにただ得物を振るうだけの日すらあった。
その緩やかな空気がシニストラに心地良かったのかもしれない。
ともあれ、本来はもっと短かったはずの逗留が思ったよりも長くなっていた。
「あ、いや、うん。ありがとう」
「どういたしまして」
目にも鮮やかな黄色の花が一面に咲いた花畑でコーネリアスは首を傾げるしかない。
例え、器用な手つきで花冠を編んだバドが満面の花笑みを浮かべていようとも……。
コーネリアスは何もバドに否定的な考えを持っている訳ではなかった。
バドの間に当初、存在した緊張した関係はどこへやら。
どこへ遊びに行くのも一緒の仲睦まじい姿が、方々で目撃されるほどに距離も縮まっている。
しかし、彼にはどうにも気になって、夜も眠ぬほどに頭を悩ませる案件があった。
花冠だけでも十分に疑うべき要素だった。
その他にも疑おうと思えば、疑わしき要素はいくらでも出てくる。
「そろそろ、帰ろうか」
「うん。そうだね」
あの日、藪を前に手を繋いだのは、無意識だったからに違いない。
コーネリアスはそう考えていた。
切羽詰まった状況にあり、我を忘れたが為に意識していなかったのだろう。
そうでもなければ、説明出来ないのだとも考えた。
隣を極近い距離で歩くバドの横顔を見て、コーネリアスは思いを馳せる。
手を握ろうとするとはっとした顔で頬を僅かに赤らめ、あからさまに恥じらいの表情を浮かべたバドのことを……。
そして、その日、事件が起きる。
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