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捨柒 古き都ヴェステンエッケ①
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ヴェステンエッケは古都として、知られている。
かつて大陸をほぼ手中に収めた巨大な帝国があった。
その都として、西の要衝の地に築かれたのがヴェステンエッケである。
四方を堅牢な城壁で囲まれた鉄壁の城塞都市であると共に区画整理の行き届いた美しい街並みでも非常に名高い。
統一国家たる帝国が滅んで久しく、政治的な中心地ではなくなったヴェステンエッケだが習熟した文化の集まる地として、未だに隆盛を誇っている。
升目のように美しい区画で整備された街並みはことに有名で城門を入り、大通りを直進した先にはかつての王城が聳えている。
その西には后や女官が暮らしていた宮があり、東には王太子を始めとした王族が暮らしていた宮がかつて、あった。
二つの宮は過去にあった大火で消失しており、その後再建されていない。
現在はかつての栄華を忍ぶことが出来る閑静な公園になっていた。
そんな古都にコーネリアスの姿があった。
彼は今年で十六歳になる。
十六歳ともなれば、成人と認められる以上、己が進む道を決めねばならない。
幸いなことにコーネリアスは勉強することが嫌いではなく、学問を修めることにも興味があった。
これには学問好きの父トマスや次兄カイルの影響がなかったとは言えないだろう。
ましてやコーネリアスには三十歳まで生きた光汰という前世がある。
歴史が好きだった光汰の記憶もまた、影響していたのだ。
七年前、二人の旅人――シニストラとバドに出会い、思うところがあったコーネリアスは己が知っている歴史と齟齬が生じていることに気付いた。
既に故人となっているはずの長兄ジャクソンは未だに健在である。
歴史通りに動いていれば、トマスとカイルがある人物に仕えているはずだったが、その兆しは全くない。
トマスは未だにストンパディの村で皆に慕われる代官を務めていた。
ただ、コーネリアスの気に掛かることがあるとすれば、カイルがとある古い家柄の貴族に仕える文官となったことである。
「おかしいな。戦が起きなかった」
コーネリアスは首を捻るしかない。
光汰の好きだった戦国時代にそっくりな異世界だと考えた。
現在、強国の一つと考えられるエンディア王国が織田家に相当するのではないかとコーネリアスは推理していたが、それは強ち間違いでもなかった。
エンディア王国の現国王ノエルが革新的な考えの持ち主であることは周知の事実として、田舎にあるストンパディにも伝わっていた。
そのエンディアが一切、派手な軍事活動を見せていなかった。
しかし、これはエンディアに限ったことではない。
胸に野望を抱く、数多の英雄が覇を競った乱世とは言い難い世の中になっていた。
ストンパディが辺鄙な場所にある小さな村だったのが災いしている。
各地の情勢が早く伝わらないどころか、性格に伝えられることすら稀なのである。
コーネリアスが生まれた年、戦国時代でも有名な合戦『桶狭間の戦い』が起きている。
同様の事象が彼の生まれた世界でも起きるはずだった。
大国として知られたラピドゥフル王国がエンディアに攻め込み、王ヨシフが討ち取られ急速に勢力を衰えさせるという大きな事件だ。
ところがそのような大規模な戦闘行為は起きてすらいない。
エンディアとラピドゥフルは強固な同盟関係を築いており、ラピドゥフルと縁戚関係にあるファルクス王国とガレア王国も両国の意向に沿う形で恒久的な軍事同盟が結ばれていた。
強力な軍を擁するこれらの国の動きは、取り巻く他国にも多大な影響を与えることになったのである。
だが、このことをコーネリアスは知らない。
それゆえに首を捻るしかないのである。
かつて大陸をほぼ手中に収めた巨大な帝国があった。
その都として、西の要衝の地に築かれたのがヴェステンエッケである。
四方を堅牢な城壁で囲まれた鉄壁の城塞都市であると共に区画整理の行き届いた美しい街並みでも非常に名高い。
統一国家たる帝国が滅んで久しく、政治的な中心地ではなくなったヴェステンエッケだが習熟した文化の集まる地として、未だに隆盛を誇っている。
升目のように美しい区画で整備された街並みはことに有名で城門を入り、大通りを直進した先にはかつての王城が聳えている。
その西には后や女官が暮らしていた宮があり、東には王太子を始めとした王族が暮らしていた宮がかつて、あった。
二つの宮は過去にあった大火で消失しており、その後再建されていない。
現在はかつての栄華を忍ぶことが出来る閑静な公園になっていた。
そんな古都にコーネリアスの姿があった。
彼は今年で十六歳になる。
十六歳ともなれば、成人と認められる以上、己が進む道を決めねばならない。
幸いなことにコーネリアスは勉強することが嫌いではなく、学問を修めることにも興味があった。
これには学問好きの父トマスや次兄カイルの影響がなかったとは言えないだろう。
ましてやコーネリアスには三十歳まで生きた光汰という前世がある。
歴史が好きだった光汰の記憶もまた、影響していたのだ。
七年前、二人の旅人――シニストラとバドに出会い、思うところがあったコーネリアスは己が知っている歴史と齟齬が生じていることに気付いた。
既に故人となっているはずの長兄ジャクソンは未だに健在である。
歴史通りに動いていれば、トマスとカイルがある人物に仕えているはずだったが、その兆しは全くない。
トマスは未だにストンパディの村で皆に慕われる代官を務めていた。
ただ、コーネリアスの気に掛かることがあるとすれば、カイルがとある古い家柄の貴族に仕える文官となったことである。
「おかしいな。戦が起きなかった」
コーネリアスは首を捻るしかない。
光汰の好きだった戦国時代にそっくりな異世界だと考えた。
現在、強国の一つと考えられるエンディア王国が織田家に相当するのではないかとコーネリアスは推理していたが、それは強ち間違いでもなかった。
エンディア王国の現国王ノエルが革新的な考えの持ち主であることは周知の事実として、田舎にあるストンパディにも伝わっていた。
そのエンディアが一切、派手な軍事活動を見せていなかった。
しかし、これはエンディアに限ったことではない。
胸に野望を抱く、数多の英雄が覇を競った乱世とは言い難い世の中になっていた。
ストンパディが辺鄙な場所にある小さな村だったのが災いしている。
各地の情勢が早く伝わらないどころか、性格に伝えられることすら稀なのである。
コーネリアスが生まれた年、戦国時代でも有名な合戦『桶狭間の戦い』が起きている。
同様の事象が彼の生まれた世界でも起きるはずだった。
大国として知られたラピドゥフル王国がエンディアに攻め込み、王ヨシフが討ち取られ急速に勢力を衰えさせるという大きな事件だ。
ところがそのような大規模な戦闘行為は起きてすらいない。
エンディアとラピドゥフルは強固な同盟関係を築いており、ラピドゥフルと縁戚関係にあるファルクス王国とガレア王国も両国の意向に沿う形で恒久的な軍事同盟が結ばれていた。
強力な軍を擁するこれらの国の動きは、取り巻く他国にも多大な影響を与えることになったのである。
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それゆえに首を捻るしかないのである。
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