嫌われ者のハシビロコウキャラに転生した俺、どうすればいい?

黒幸

文字の大きさ
35 / 37

参捨伍 コーネリアス、大盤振る舞いする

しおりを挟む
 コーネリアスは前世を思い出す。
 光汰だった頃はとにかく空気を読むのに徹した。
 何よりも場を乱すことを恐れたからだ。

(それをやってしまうとはな……)

 ほぞを嚙むコーネリアスだが、時既に遅しだった。

 蛙人グルヌイユのノウスからは胡乱な視線を向けられる。
 ジョスランとマケールからは「早く消えないと殺すぞ」と殺意の籠った視線を向けられる。

 ノウスに加勢しようと動きながら、散々な結果だったがヤンの解錠オープン・ユア・アイズでコーネリアスは勇気に満ちている。
 満ち溢れた勇気は不要なまでの自信を生んだ。
 折りから来合わせた人物がまた悪かった。

「いいポコ! もっとやるポコ!」
「|ᛟᚾᚢᛋᛁᚴᛟᛋᛟᛟᛏᛟᚴᛟᚾᛟᚾᚪᚴᚪᚾᛟᛟᛏᛟᚴᛟᛞᛖᚪᚱᚢ《お主こそ、男の中の男である)」

 パストラス十勇士の面々は気のいいヤツラの集まりと言っていいだろう。
 しかし、パストラスの再興を掲げる彼らは一丸のように見え、実は一枚岩とは言い難いところがある。
 それぞれ腹に一物あり。
 様々な思惑が絡み、一堂に会しているところが否定出来ない。

 その中でも読みにくい人物が二人いる。
 穴に棲む者ブレローのトゥーリパとスライムのエンテメシスである。

 トゥーリパは見た目だけなら、動く大きなタヌキのぬいぐるみにしか見えない。
 ところが幻惑魔法の使い手とも言われる彼らが、腹の中で何を考えているかは皆目、見当がつかない。
 大きな目は垂れていて、可愛らしいが口許から偶に覗く鋭い犬歯は人の首を切り裂き、血の海を見せるのに十分なのだ。

 訳が分からないといった意味ではエンテメシスの方が上だ。
 スライムはそもそもが知性や個性を有しているのかも定かではないと言われてきた種族だった。
 不定形のぬめぬめとした粘液質の体は半透明だが、酷く雨が降った後の荒れた川のような色合いをしている。
 目、鼻、口といった器官も見当たらず、彼らはその体全体で獲物を体内に捕らえ、消化するのだと信じられているが実際にそれを確認した者はいない。

 知的好奇心を抑えきれない学者が、愚かにも己の身を使い実験をした。
 結果は見るも無残なものである。
 彼は骨まで全てを溶かされてしまい、どうなるのかを報告出来なくなったからだ。
 身に着けていた服などを残し、学者は存在そのものがこの世界から消えた。
 ゆえにエンテメシスが『森の賢者』と呼ばれていようともその真意を悟れる者などいなかった。

 ヴェステンエッケはこのように個性的な二名の人物(?)が通りを闊歩しようとも特に騒ぎなど起きない。
 伊達に千年の古都ではないのだ。

「え、ええと。そのですね。私にこの場を収めるいいアイデアがありまして」
「貴公、何者でござるケロ?」
「そうだ、そうだ。てめえ、何だ? いきなり出てきやがって、やんのか? おう?」
「パン。まあ、待て。話を聞くのも悪くあるまい?」

 三者三様の反応にどう出れば効果的であるのか、コーネリアスも考慮する必要に駆られた。
 二人組を納得させるよりもノウスという男の心の琴線に触れねば、意味がない。

 石田三成はどうしたのか。
 コーネリアスは腹積もりを決めた。

「私はコーネリアス・ストンパディと申します。ヘルヴァイスハイト家に仕える小身者です」

 ノウスと二人組から射竦められながらも動揺を見せず、落ち着いた声色で名乗りを上げたコーネリアスに場の空気が僅かに変わった。
 ノウスは微かに興味を抱いたのか、大きな瞳をぎろりと動かしコーネリアスの挙動に注視している。
 マケールは小身者との名乗りに己も大差ない身でありながら、明らかに侮った。
 ジョスランは涼し気な瞳を維持しつつ、ノウスと同じく注視する構えだった。

「ノウス殿、コレで私の下に来てくださいませんか」

 コーネリアスはやや大仰に右手を出すと掌を大きく広げ、五本の指を強調する。

 現在、禄をむ者であるジョスランとマケールはコーネリアスと同じ小身者であるだけにその意味をすぐに理解した。
 彼らは直臣ではなく、陪臣。
 王に直接仕えているではなく、王家に仕える貴族の厄介になっている身となる。
 言わば家来の家来であり、見習いに近い身分であれば禄もたかだか知れている。

 そうである以上、コーネリアスが出した五本の指が禄全て――銀貨五百枚を意味しているのだと気付いたのだ。
 銀貨はもっとも流通している通貨だった。
 日本円にすれば、一万円ほどの価値がある。
 禄は年俸制なのでコーネリアスの年収がおおよそ五百万。
 コーネリアスが十七歳とまだ若く、仕官して間がないのに好待遇のように見えるがこの世界に必要経費や残業代といった概念はない。
 必要な物があってもそれは禄で賄えが罷り通るのだ。
 諸々を差し引けば、自由に使えるお金はそれほど手元に残らないのである。

 その禄を全て、差し出そうとは酔狂どころの騒ぎではない。
 ノウスもかつては禄を食んだ身だった。
 まだ男と呼ぶには幼さが残る少年に近い者が、冗談で言ってのけるものではない。
 コーネリアスの目はぶれずにまっすぐと己を見ている。
 ノウスは「何とも豪気なことケロ」と率直に思い、「実に面白い男だ」と好意的に捉えた。

「私がされた暁にはノウス殿にを守っていただきたいのです」
「ほお?」

 大言壮語と取られてもおかしくない発言だった。
 しかし、ノウスはそう受け取っていない。
 「この少年であれば、もしや」などと考えてすらいる。
 ハシビロコウを思わせる物静かで何も語らぬ真っ直ぐな瞳にはそう信じさせる何かがあった。

「ふむ。拙者はお主についていくことに決めたケロ。今日これより、拙者の命はお主のものでござるケロ」
「なんだと……」
「……やめておけ、パン。帰るぞ」

 事態を飲み込めず、納得していないと言わんばかりに怒りと悔しさで顔を紅潮させたマケールが今にも掴みかからん勢いで向かおうとした。
 静かな言い方だった。
 しかし、確実に抑えようとする強い威圧感を感じる物言いだ。
 途端に顔を青くしたマケールは踵を返し、去っていくジョスランを慌てて追う。

 かくして豪傑ノウスはコーネリアスの被官となったのである。

 エンテメシスもまた「ᛁᛁᛗᛟᚾᛟᚥᛟᛗᛁᛋᛖᛏᛖᛗᛟᚱᚪᛏᛏᚪいいものを見せてもらった」とこれまた静かに去っていった。
 その上に器用にも乗っかったトゥーリパを見たヤンは「あれ、乗れるんだ」と妙なところに感心するのだが、これはまた別の話である。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@2025/11月新刊発売予定!
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。 《作者からのお知らせ!》 ※2025/11月中旬、  辺境領主の3巻が刊行となります。 今回は3巻はほぼ全編を書き下ろしとなっています。 【貧乏貴族の領地の話や魔導車オーディションなど、】連載にはないストーリーが盛りだくさん! ※また加筆によって新しい展開になったことに伴い、今まで投稿サイトに連載していた続話は、全て取り下げさせていただきます。何卒よろしくお願いいたします。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

処理中です...