【完結】殿下から逃げ出したい転生者と、転生者を手に入れたい殿下の攻防〜味方のはずの父と兄は殿下とグルでした〜

ウミ

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悪魔の囁き……?

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『華雪が連れ去られた。おそらく夜盗の仕業と思われる。場所はーー』

 石板に浮かび上がった文字をスッとなぞる白く美しい指先。それだけで文字は跡形もなく消えていった。

 すっかり暗くなった部屋の中を月明かりが照らしている。

「ーーーー」

 文字を消した人物がうっすらと微笑む。スルリと石板をひと撫でし、元の位置に戻そうとしたその瞬間、スパンっと襖が開いた。

「誰だ!!!! ……ん? 勘違いか」

 開けたのは天皇の直属の護衛。しかし、部屋には誰もおらずただ、石板が畳の上にポツンと置かれているだけであった。

「⁇ おい、今日って天皇様はこちらにいらっしゃったか?」

「いや? それがどうした」

「石板が」

 指差した護衛に、もう1人の護衛が笑って返す。

「ははは、じゃあ俺たちが知らないうちに天皇様がこちらに参られたのだろう。収め忘れるなんて珍しいな」
 
「そっか、そうだな」

 ちょうど夜の護衛と交代する時だった彼らは、笑いながら襖を閉めそこから去っていったのだった。

 その直後、消えたはずの人物が現れる。今度こそ石板を元の位置へと戻し終えるとその人物はまたもや最初からいなかったかのように消えたのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇

 放心状態にあった私は気づけば、格子付きの座敷牢のような場所に閉じ込められていた。まよ様は無事なのか。ただそれだけが私の頭の中を占めていた。

『まよ様は無事だ』

 すおう様がそう告げてくれてどんなにホッとしたか。一旦、頭が落ち着いた私がその後に考えるのは自分の辿るであろう未来についてである。
 今現在、私の頭の中では天使と悪魔が戦っていた。

 天使:「殿下は帝国の時期王! 一国の王を危険に晒すのはよくない! それに、もし何かあれば伯爵家は潰れるんだよ!?」

 悪魔:「いや、逃げよ? 殿下は勝手に追いかけてきただけじゃん? あんな淫魔野郎は滅びた方がいいよ。殿下、死ななそうだけどな」

 ……うん、殿下なら殺しても死ななそうだ。なんなら気づいて返り討ちにしてそうな気もしてきた。あれ? これ別に私が殿下のために将来を棒に振る必要ない気がしてきたぞ?

 うーし! 逃げよ!!!!

 そうと決まれば、行動は早いうちに。内ポケットから神石を取り出して神力を注ぐ。

 ……注ぐ。

 …………そそぐ。

 ……………そ・そ・ぐっ!!!!


「あ、あれ?」

 いくら注いでも神石は光を発する事なく、ついでに私も転移できなかった。

「な、え? うそ? なんでだ!?」

 もう一度、いや、十度ほど神力を注いでみても神石はピクリともしない。おかしい。どういう事だ。もしかして、自分の足で逃げろって事なのか?

 ぐるりと改めて周りを見回すと、木で作られた格子が目につく。

「そりゃ逃げだしたら不味いもんね」

 どこかに逃げる隙間はないのか? と思ったが、見た限り小さな炎が照らす空間にはそんなものはありそうにもなかった。ご丁寧に窓も付いていない場所を選んでくれたようで、飛び降りることもできない。

「これが未来の嫁に対する仕打ちか」

 思わずボソッと文句が漏れた。

「逃げたいか?」

「え? そりゃまぁ……あ!?!?」

 懐かしい帝国の言葉に思わず返して、ハッとする。待てよ? この声は誰だ? 知ってるぞ? 淫魔野郎と酷似している。つまり、淫魔野郎……

「殿下!?!?」

「元気そうで何よりだ」

 楽しそうな殿下の声。不気味だ。

「で、殿下はどうしてここへ」

「散歩をしていたらここに来た」

 いや、絶対違うだろ。おかしいよ。座敷牢は普通に散歩してて「あ、座敷牢!」みたいな感じで簡単に見つかる場所にはないよ。もし仮にあるんだとしたら、設計士さんの頭がおかしい。

「それで? 逃げたいなら手を貸すが?」

 何故ここに殿下が? と頭が混乱していた私に再度問いかけられた甘い言葉。逃げようとしていた私としては願ってもない言葉なのに、本能が全力で警鐘を鳴らしていた。

 だけど、私はまよ様の元へ行きたかった。

「逃げたい」

「そうか、ならば行き先を教えろ」

「…………まよ様のところ」

 素直に答えた私を、不思議そうに眺めた後殿下はニヤリと笑って格子の鍵を開けた。どうやって鍵を入手したのか、それは聞かない事にした。どうせ殿下の事だ。私には考え付かない碌でもない方法で手に入れたのだろう。

「ありがとうございます」

「あぁ」

 礼を言って私はその場を離れようとした。だけど、そうはさせてくれないのが殿下という生き物である。手を引かれ、ギュッと抱きしめられた後、

「すまなかった」

 殿下はそう言った。

「は?」

 なんで今言うのか。何故、この前まであんなにも強気だった殿下が謝ってくるのか。きっと何か魂胆があるはずだ。そう思って殿下の顔を見上げてみても、殿下の瞳には私が予想した感情の色がどれもなかった。ただただ、真っ直ぐな視線が向けられていた。

 騙されるな。殿下は副芸が非常に得意だ。

「……失礼します」

 しゃがみ込んでスルリと殿下の腕の中から抜け出し、私は走った。
 あんな殿下は知らない。でも、アレは多分私を油断させるための演技だ。そうだ。そうのはず。助けてくれたのだって、私の警戒心を解くためだ。

 ……認めたくない。けど、殿下に抱きしめられて少しホッとした自分がいた。

「うわ、ムカつく!」

 思わず声が出ていた。
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