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日本旅行を満喫したビオラはリンの家族にお礼を告げてこの世界に戻ってきた。
「不思議ね。彼方の世界を体験するとどうにも此方の世界は簡素に思えて仕方がないわ」
「そうかな? こっちの世界も素晴らしいよ。ほら、荷物がいっぱいあるから急ごう」
そう言うリンの両肩には大きな買い物袋が提げられ、背中にも歪な何かを背負っている。それらは全てリンの両親がお土産にと持たせてくれたものだった。
「リン、大丈夫なの?」
「そう言うビオラこそ、大丈夫?」
心配そうにリンを見るビオラもまた、リンほどではないにしても大きな袋を持っていた。2人とも神力を激しく消費したせいかふらふらと頼りない足取りである。
「私は大丈夫よ。家まで後少しだもの」
「あぁ」
リン達がいるのは家の裏手に広がる森の中だ。万が一にも村人に、目撃されるのを防ぐためであった。
「それにしたって詰め込みすぎだ」
ブツブツ文句をいうリンに、「いいじゃない」とビオラは返した。
「これでもっと住みやすくなるわ」
荷物の中には、簡易的な布団やら調理器具やらが入っている。
実は、ビオラが国外追放された時持つことを許されたのは、申し訳程度のお金だけだったのだ。自力で家を見つけねばならず、やっと見つけたのはボロボロの空き家だった。
精霊たちがなんとか住めるようにしてくれてはいたものの、ほとんど納屋と変わりなかったのだ。一応、リンも家の修復に貢献してくれたが、台所やら家具やらは専門職でもない限り難しい。
簡易的な竈門をなんとか作り上げて料理をしていた。
加えて、ついこの前まで寝床は床という有様。リンが彼方の世界から寝袋を持ってくるまで、ビオラは藁を申し訳程度に敷いた床に寝っ転がっていたのだ。
『手を貸してあげたいのだけれど……ごめんなさいね』
当時のビオラの生活様式には、女神もなんとかしてやりたかったらしい。しかし、神の世界は神の世界で面倒な制約があるらしく残念そうに謝っていた。
「そういえば最近女神様見ないわね」
「確かに。しょっちゅう来てたのに来なくなったね」
よっこいしょ、と家先に荷物を置いてひと段落つくリン。ビオラはせっせと家の中に持ってきた荷物を運び入れていた。
ビオラの悪評はなぜかこの国までも広まっており、何度も近くの村人達から冷やかしが来るのだ。
いつその冷やかしが来るか分からないため、ビオラとしては早く家の中に持って行きたかったらしい。
「ビオラ、そんなに急がなくてもいいよ」
「いいえ、こんなに大荷物なのがバレたら周囲から何されるか分かりませんもの」
「そうかな?」
「ええ」
(ビオラの今の容姿じゃ誰も分からないと思うけどなぁ。不本意だけど、もっと綺麗になったから……)
多分、新しい夫婦が引っ越してきたと思われているんじゃないかなぁ、とリンは美しくなりすぎたビオラをそっと目を細めて眺めた。
リンとしては正直面白くないのだ。日本でも散々な目にあった。この世界でも多分同じ反応、いや、それ以上になる可能性があるとどこか確信している。
そして、悲しいことにそれは的中した。
「お、おい! あんた誰だ!?」
ちょうどリンが最後の荷物を家に運び込んだ直後だった。ビオラがひょこっともう荷物ないかな? と顔を出した時、冷やかしに来たらしい村人と目が合ってしまったのだ。
「……⁇」
「スミレ、中に入って」
「ええ」
事前に考えておいた偽名でビオラを呼ぶ。困惑した様子のビオラは言われた通り、中に引っ込んだ。
「何の用ですか?」
入れ替わるようにしてリンが村人の元へ向かう。
はくはくと魂が抜けたようにビオラが入った家のドアを指差す村人。
「あ、あの、あの女は」
(女だと? 随分偉そうだな)
クッとリンの眉間に皺が寄った。
「藪から棒になんですか」
「あんた、あの女はあんたの何だ? 家族か? もしよければ紹介してくれないか?」
「なんだって? あの人は俺の妻だ」
「そうなのか……」
リンの発言を気にした風もなく、村人は恋焦がれるようにビオラのいる家へと視線を向けている。
「すみませんが、そういうのはやめてください」
「いや、分かった。なら、少しだけでいいからさっきの女に会わせてくれないか? 近所だし、あいさつしておきたいと思ってな」
一向に引く気のない村人に、リンの頬が引き攣った。
「冗談よしてくれ。あいさつなら俺が伝えておきますんで。それじゃ」
(最悪だ)
これは何を言っても諦めないだろう、リンはそう断じて村人を無視して家へ戻る。つい先程カーテンを取り付けたばかりの窓からそっと覗けば、村人はまだこちらを見ていた。
「リン、あの方は?」
家に戻れば、ビオラが不思議そうに訪ねてきた。それもそのはず、いつも冷やかしに来ていた村人が今回は何も言わずに立っているのだから。
(あぁ、最悪だ。ビオラの容姿が広まればこぞって人が来るに違いない)
「面倒なことになった」
「リン?」
己の容姿を知っているはずなのに、未だに無頓着なビオラ。
(貴女の魅力を知っているのは俺だけでよかったんだ)
『いきなりどうしたの⁇ 恥ずかしいわ』
心の声を聞いてポンッと真っ赤に染まったビオラをリンはギュッと抱きしめるのだった。
「不思議ね。彼方の世界を体験するとどうにも此方の世界は簡素に思えて仕方がないわ」
「そうかな? こっちの世界も素晴らしいよ。ほら、荷物がいっぱいあるから急ごう」
そう言うリンの両肩には大きな買い物袋が提げられ、背中にも歪な何かを背負っている。それらは全てリンの両親がお土産にと持たせてくれたものだった。
「リン、大丈夫なの?」
「そう言うビオラこそ、大丈夫?」
心配そうにリンを見るビオラもまた、リンほどではないにしても大きな袋を持っていた。2人とも神力を激しく消費したせいかふらふらと頼りない足取りである。
「私は大丈夫よ。家まで後少しだもの」
「あぁ」
リン達がいるのは家の裏手に広がる森の中だ。万が一にも村人に、目撃されるのを防ぐためであった。
「それにしたって詰め込みすぎだ」
ブツブツ文句をいうリンに、「いいじゃない」とビオラは返した。
「これでもっと住みやすくなるわ」
荷物の中には、簡易的な布団やら調理器具やらが入っている。
実は、ビオラが国外追放された時持つことを許されたのは、申し訳程度のお金だけだったのだ。自力で家を見つけねばならず、やっと見つけたのはボロボロの空き家だった。
精霊たちがなんとか住めるようにしてくれてはいたものの、ほとんど納屋と変わりなかったのだ。一応、リンも家の修復に貢献してくれたが、台所やら家具やらは専門職でもない限り難しい。
簡易的な竈門をなんとか作り上げて料理をしていた。
加えて、ついこの前まで寝床は床という有様。リンが彼方の世界から寝袋を持ってくるまで、ビオラは藁を申し訳程度に敷いた床に寝っ転がっていたのだ。
『手を貸してあげたいのだけれど……ごめんなさいね』
当時のビオラの生活様式には、女神もなんとかしてやりたかったらしい。しかし、神の世界は神の世界で面倒な制約があるらしく残念そうに謝っていた。
「そういえば最近女神様見ないわね」
「確かに。しょっちゅう来てたのに来なくなったね」
よっこいしょ、と家先に荷物を置いてひと段落つくリン。ビオラはせっせと家の中に持ってきた荷物を運び入れていた。
ビオラの悪評はなぜかこの国までも広まっており、何度も近くの村人達から冷やかしが来るのだ。
いつその冷やかしが来るか分からないため、ビオラとしては早く家の中に持って行きたかったらしい。
「ビオラ、そんなに急がなくてもいいよ」
「いいえ、こんなに大荷物なのがバレたら周囲から何されるか分かりませんもの」
「そうかな?」
「ええ」
(ビオラの今の容姿じゃ誰も分からないと思うけどなぁ。不本意だけど、もっと綺麗になったから……)
多分、新しい夫婦が引っ越してきたと思われているんじゃないかなぁ、とリンは美しくなりすぎたビオラをそっと目を細めて眺めた。
リンとしては正直面白くないのだ。日本でも散々な目にあった。この世界でも多分同じ反応、いや、それ以上になる可能性があるとどこか確信している。
そして、悲しいことにそれは的中した。
「お、おい! あんた誰だ!?」
ちょうどリンが最後の荷物を家に運び込んだ直後だった。ビオラがひょこっともう荷物ないかな? と顔を出した時、冷やかしに来たらしい村人と目が合ってしまったのだ。
「……⁇」
「スミレ、中に入って」
「ええ」
事前に考えておいた偽名でビオラを呼ぶ。困惑した様子のビオラは言われた通り、中に引っ込んだ。
「何の用ですか?」
入れ替わるようにしてリンが村人の元へ向かう。
はくはくと魂が抜けたようにビオラが入った家のドアを指差す村人。
「あ、あの、あの女は」
(女だと? 随分偉そうだな)
クッとリンの眉間に皺が寄った。
「藪から棒になんですか」
「あんた、あの女はあんたの何だ? 家族か? もしよければ紹介してくれないか?」
「なんだって? あの人は俺の妻だ」
「そうなのか……」
リンの発言を気にした風もなく、村人は恋焦がれるようにビオラのいる家へと視線を向けている。
「すみませんが、そういうのはやめてください」
「いや、分かった。なら、少しだけでいいからさっきの女に会わせてくれないか? 近所だし、あいさつしておきたいと思ってな」
一向に引く気のない村人に、リンの頬が引き攣った。
「冗談よしてくれ。あいさつなら俺が伝えておきますんで。それじゃ」
(最悪だ)
これは何を言っても諦めないだろう、リンはそう断じて村人を無視して家へ戻る。つい先程カーテンを取り付けたばかりの窓からそっと覗けば、村人はまだこちらを見ていた。
「リン、あの方は?」
家に戻れば、ビオラが不思議そうに訪ねてきた。それもそのはず、いつも冷やかしに来ていた村人が今回は何も言わずに立っているのだから。
(あぁ、最悪だ。ビオラの容姿が広まればこぞって人が来るに違いない)
「面倒なことになった」
「リン?」
己の容姿を知っているはずなのに、未だに無頓着なビオラ。
(貴女の魅力を知っているのは俺だけでよかったんだ)
『いきなりどうしたの⁇ 恥ずかしいわ』
心の声を聞いてポンッと真っ赤に染まったビオラをリンはギュッと抱きしめるのだった。
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