飛べない羽はただのゴミ

真冬

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トラブル

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 結果、圧勝した。
 なんなら大樹の森まで大差をつけて司会が言ってたちょっと怖い動物や昆虫とやらに戯れる時間すらあった。
 大樹の森を抜けた巨大都市アルティルスのビル群もなんなく通過して簡単に初戦突破。
 
 その後、順調に予選は行われ結局、準決勝まで残った選手は体育の授業の選考会で行われたタイム通りの結果となった。つまり、決勝で俺とロベルトが当たることになったってことだ。

 俺たちの名前が司会からコールされた時に会場はさらにボルテージが上がる。地響きのような歓声が俺たちの周囲の音をかき消して、その歓声を俺は体全体で感じてゾワっと鳥肌がったった。「自分が立ちたかった舞台はここなんだ!」と改めて感じる。握る拳の力が徐々に強くなっていく。
 初めは誰がうちの高校で速いとか、翔颯会についてもあまり興味があったわけじゃなかった。大空を翔ける瞬間が1秒でも長く続けられるところ。それがこの高校だった。だけど、今は少し違う。もっと速く、全力で飛んで速そうなやつをどんどん抜いていきたい!

 俺とロベルトは校庭の選手が立つスタートラインの近くに二人並んだ。
 ロベルトの名前は実績十分だから名前はよく聞いていたけど初めてロベルトを横で見る。改めて見ると整った顔立ちをしていて俺より少し背が高くて翼も少し大きい。この予選で今まで対戦してきた選手の中で最も雰囲気のある奴だ。

 しばらくロベルトを見ていると自分のことを見ている俺に気がついたのか目が合った。
 そして、目つきが変わり俺を見下ろした。
「よおぉ、速峰コウ君」
 手を差し出してないのにロベルトは俺の右手を無理やり掴んで自分の元へと引き寄せた。引っ張られて俺は前のめりになる。そして、顔を近づけて耳元でつぶやいた。
「俺より速いんだって? よ・ろ・し・く・な」

 なんだ? こいつ。見た目と実際に話してみて感じるオーラというか雰囲気がまるで違う。
 見た目は爽やかなイケメンなのに話してみて感じるのは何かジットリとした
俺の中身に何かこびりついてくるようなベトっとした感じ。喉の奥がピリッとした。

 そうこうしているうちに司会が俺らをスタート位置に着くように指示をするので、指示された位置に俺たちはスタンバイする。
 そして、スタートを告げる司会の号令。

 二人が立っていた位置には大きな砂埃だけを残してお互いの選手がスタートする。
 学校を飛び立ってから初めは直線コース。校庭で俺たちを囲んでいた生徒の塊がみるみるうちに遠ざかって小さな粒みたいになっていく。
 しばらく進んでも俺とロベルトはほぼ肩を並べてい飛んでいる。正面には起きな雲の塊があり俺はたちはその雲の中に突っ込んでいく。隣にいたロベルトの姿は雲で見えないが今のところ順調だ。

 雲を抜けたのは…
 俺の方が先だった。
 ロベルトは俺の体一つ分くらい遅れて雲から出てきた。
「チッ! 調子乗りやがって!」
 後ろでロベルトが叫んでいる声が飛んできた。俺は後ろで飛んでるやつに哀れみの意味を込めて一瞥をくれてやるとさらに加速して突き放す。
 ロベルトも大したことない!

 もっと、もっと速く!

 学校を出てから大樹の森付近まではロベルトに大差をつけていた。そして、しばらくすると校庭のモニターで見た柵で覆われた森。「大樹の森」を見つけた。
 大樹の森入口では人一人ぐらいが入れるぐらいのスペースが空いていて「大樹の森 入口」と書いてある。予選で通ってきたコース。俺はそのまま速度を後さずに大樹の森に入る。
 大樹の森では不規則に木々が生えているので最短距離で森を抜けるには幅が極端に狭かったり広かったりするところを柔軟に体を動かしながら掻い潜っていかなければいけない。おまけにそこ生息する動物たちがいるのでそいつらも避けなければならない。

 順調に来ている。
 が、森の中間くらいに来たところだった。
 なぜか視界がぼやけていた。
 なんだ? 疲れ? そんなわけない。

 意識が朦朧とする、すると急に視界が真っ暗になって何も見えなくなった。
 視界が絶たれた途端、体が急に後ろに引っ張られる。最初は何のことかよく分からなかった。しかし、じわりじわりと背中に鈍い痛みが広がっていく。何が起きたのかわからないけど、背中に受けた衝撃が遅れて広がる。
 まるで背中全体の皮膚が引き剥がされるようなとんでもない激痛で背中に翼がついているのかどうかもわからないほどだった。

 落ちていく。落ちていく。
 翼の感覚がない。ただ、自分が落下していることだけはわかる。
 翼を動かさないと。
 しかし、自分の意思に反して翼が動かない。
 このままじゃやばい! 
 顔に何かわさわさとしたものが当たった。ボツボツとしたものが背中に刺さる。かしゃかしゃかと音を立てて俺は落下していた。背中で砂の感触を感じる。きっと、今地面に倒れているのだろう。
 自分が落下したことに気づいてからようやく視界がぼんやりと見えるようになった。
 俺の視界の先には大樹の森の天井まで届くのではないかと思うほど背の高い木が2本横に並んでいた。2本の大木の間は人一人通れるかどうかの狭さだった。その狭さでは当然俺の翼を広げた状態で、体制を変えることなく真っ直ぐ通過できる隙間ではない。
 俺の背中で激痛が走った時、両翼が何かに引っかかったような気がした。おそらく、俺の視線の先で聳え立つ大木二つの間に翼が当たったのだろう。
 仰向けに倒れている俺の視線から少し右にやるとまるでこの大木の子供みたいに、小さな木が一本生えている。
 状況と肌で感じた感覚から察するにこの小さな木がクッションになっていたのだろう。
 
 額が少し冷たい、拭ってみると流血していた。翼も動かそうと思っても全く力が入らない。こんな高さから落下して命が助かっただけでも奇跡みたいなもんだ。

 どうする? どうしたらいい? 翼は全く動かない。
 でも、ロベルトには絶対に負けたくない。
 俺は体を返してうつ伏せになり、両手を地面について起き上がろうと体に力を入れる。右腕は全く力が入らない。骨が折れてるんだ。力の入らない右腕を体のバランスを取るためだけに地面に添えるだけにして、左腕だけでなんとか起き上がる。
 立ち上がると右足も思うように動かない。やっぱり片足の骨も折れてる。
 俺はなんとか足を引きづりながら一歩一歩少しずつ大樹の森の出口に近づいていく。
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