26 / 126
第26話「旅路」
しおりを挟む
モラドの拠点である洋館がある地下世界アガルタの国の一つキエスで武闘会に出場するためにスーツ以外の服を購入していた道中、チンピラのようなヴァンパイアに絡まれて護衛の2人のおかげで難を逃れた楓と竜太は護衛の2人とともにキエスの最南端に位置している馬車乗り場に近づいていき、遠目からは事前に予約しておいた通り馬車が待機しているのが見えていた。
竜太と楓は馬車を丘の上からまじまじと見つめて竜太が口を開いた。
「おい、空太あの生き物なんだよ」
竜太が指差したその生き物はこれから楓たちが乗るであろう荷台のそばでくつろいでいる様子だった。
そして、その生き物は小さな肉食の恐竜のような見た目をした生物だった。
「あれ? お二人は見たこと無いんですか?」
そう言って立華はくりくりとした瞳で2人を交互に見た。
「あれはケーロスという動物ですよ。かわいいでしょ? アガルタにだけ生息してる動物なんですよ。元々人間だった皆さんからしたら馬のような動物だと思ってもらっていいですよ」
そして、立華は注意をうながすように目を細めた。
「あ、ちなみに珍しい動物だからって地上に連れて行かないでくださいね。ケーロス死んじゃいますから」
「え? 死んじゃうの?」竜太が目を丸くして言った。
「当然です。地上でも深海魚を引き上げたら死んじゃうでしょ? ケーロスはヴァンパイアのような生命力や体の強さを持ってないんです」
アガルタの動物についてちょっとした衝撃を受けた2人はもう一度荷台のそばでくつろいでいる二匹のケーロスを観察していると立華が「そろそろいいですか?」と言って丘を下り乗車場所まで歩を進めた。
馬車は烏丸が舵取り役としてケーロス二体の手綱を掴むことになり、他の3人は荷台に乗った。
ケーロスの甲高い鳴き声とともに荷台は振動し始めてゴトゴトと音を立てて前進した。
「なあ、訊き忘れてたんだけどそのルーロ? って国までどのくらい掛かんの?」
「うーん、ざっと3日くらいでしょうかね」
「は? そんなかかんの?」
立華はリュックから地図を取り出して2人の前に広げた。
「ここがキエス。そして、これから向かうのがシゼナという国を通って、フォンツ、ルーロの順で行きます。国を跨ぐんで結構遠いんですよ。もちろん飛行機なんてないですからね」
「マジか! 今日中に着くと思ってたわ。食料もなんも持ってきてねぇよ」
「大丈夫ですよ。お金はもらってるんで」
立華はお金の入った袋を顔の前に差し出してジャラジャラと金属が擦れる音を立てた。
「ていうかここスマホ使えないんだね。よく考えてみたら地図も紙だったし」と楓が言う。
「そうですね。ここは地上の電波が届かないんですよ。だから端末はあってもここじゃあ使えません」
「じゃあ俺らは到着するまでここでぼーっと座ってるだけかよ」
立華はニタニタとしながら首を縦に振った。
「たまにはこういうのもいいじゃない竜太」と楓が竜太をなだめた。
それから何もない荒野を砂埃を上げながら馬車は走り、車窓からは同じような景色が続いていたが、しばらく時間が経って馬車の荷台から見える景色は次第に暗くなってきた。
「なあまだ着かないのかよ」
荷台に大の字に伸びる竜太は天井に向かってそう言った。
「まだ出発してから5時間しか経ってませんよ」と立華はクスクスと笑う。
「ねえ、立華君あとどのくらいで着くの?」
「あと1時間もすれば着くと思いますよ。ていうか、僕のこと立華じゃなくて空太って呼んでくださいよ。これから一緒に旅する仲なんですから。烏丸ちゃんのことも京香って呼んでいいですよ」
立華の声が聞こえたのか操縦席の方からは舌打ちする音が聞こえて、楓と立華は目を合わせた。
「ねえ立華君。隣の国に6時間で着くのにルーロまで3日もかかるの?」
立華は何度か頷いて真っ直ぐに伸びた直毛の赤毛を揺らした。
「この旅は君たちの修行も兼ねてるんですよ。キエスからルーロに直行して武闘会に出てハイ終わり。じゃあ、意味ないでしょう? だから、ルーロに着くまでは3日ですけど、その道中に僕らが稽古しますし、ルーロについてからも僕らが君たちの修行に付き合ってあげるんですよ。なので、ゆっくり目に行こうかと思ってます」
楓は立華の言っていることに納得できたようで竜太も一緒に立華に頭を下げた。
「「よろしくお願いします」」
立華は一瞬ニヤリと愉快そうな表情を浮かべたがその表情を振り払った。
「頭を上げてくださいよ。これも僕らの任務の一つなんですから」
それから立華の言う通り1時間ほど馬車に揺られていると暗闇の中に点々とした光が見え始めて前方には建物がいくつかあるのが分かる。
「ほら、着きました」
竜太も体を起こし荷台の前方から顔を出して前方に広がる街並を眺めた。
「うおーやっとたどり着いたか。烏丸ちゃん長時間の運転マジでお疲れ」
烏丸は特に返事を返すこともなく竜太は苦笑いした。
これから入国するシゼナには国の入り口に門がありそこには番兵のヴァンパイアが2名立っていた。
烏丸と番兵は入国の目的やどこから来たかなど入国時に訊かれやすい質問を受けた後、もう1人の番兵が荷台の扉を叩いて荷台にいる3人は荷台から降りる。そして、番兵は荷台に置いている荷物に不審なものはないかチェックした。
そして、番兵は立華のリュックを物色してスーツを手にとった。
「君たちはモラドのヴァンパイアなの?」
番兵はそう言って、すっかり日が落ちてヴァンパイアの姿になっていた楓も含めて3人のヴァンパイアを見つめた。
「ええ、今は休暇中でして同期と旅行してるんです」
立華が作った笑顔を顔に貼り付けて、いけしゃあしゃあと嘘をついた。
「そうか。こっちでもなにかあったらよろしく頼むよ」
番兵はそう言うとスーツをもとにたたみ直してからリュックに戻して操縦席の方へ歩いていった。
「なんかモラドは俺らで言う警察官みたいなもんなんだな」と竜太は納得したような表情を見せた。
一通りの入国審査が行われて楓たちは問題無く入国が許可されて烏丸は両手に持っている手綱を振って馬車はシゼナの敷地内に入っていった。
しばらく馬車を走らせると車窓から見える景色はキエス寄りは背の低い建物が多いように思えた。おそらく、キエス寄りはあまり発達していない国なのだろう。
シゼナの街なかをスピードを抑えながら馬車を走らせている烏丸は3階建ての建物の前で馬車を停めた。
荷台に乗っていた3人は降りてからその建物を見上げた。
「みなさん、ここが今日の宿です」
立華は両手を広げて目の前の建物を示した。
その建物は3階建てのコンクリート作りのような建物で中も灰色のコンクリートがそのまま敷かれていて、フロントやエントランスにあるテーブルや椅子はすべて木を切って加工して作ったもののようで少々粗末さは感じられる雰囲気だった。そのため、地上でいうビジネスホテル寄りは清潔感に劣るものの贅沢を言わずに泊まるだけであれば十分な設備のように思える。
「泊まれればどこでもいいわ。早く入ろうぜ」
興味なさそうな竜太は首をボキボキと鳴らしながら宿屋に入っていった。
「リアクションが薄いですねー。もう少しテンション上げてくれても良かったんですよ」と立華は竜太に向けて苦笑いを浮かべる。
「長時間移動して疲れてんだよ。なあ楓」
「まあ、そうだね。でも、楽しかったよ」
「たく、楓はお人好しだな」
3人が先に宿屋の入り続いて烏丸も宿屋に入った。
立華は宿屋のフロントへ向かい立華が諸々の手続きを行い予約したという二部屋のカギをもらった。こういった手続きは地上のホテルを予約する時とどうやら変わらないようでフロントではテーブル越しで受け付けのヴァンパイアと立華が話してから紙に情報を記入していた。
そして、立華はなれた手付きで麻袋に入ったお金を取り出して宿泊代を払って会計を済ませた。
「では、お部屋は男女で別々ということで」
そう言って立華は烏丸にカギを手渡した。
「野郎3人かよ、むさ苦しいな」
「部屋別にするなら竜太君は実費でお願いしますよ」
「冗談だよ、冗談。そもそも、ここの通貨持ってねぇし。野郎共で仲良くしようぜ」
竜太は立華の肩に手を置く。
4人はエレベータに乗り込み3階で降りた。
男3人は304号室、烏丸は305号室に入っていった。
「いやぁ、しかし長かったわぁー」
竜太がベッドで大の字になってまた天井に向かってそう言い放った。
「まだ、もう一つ国を超える必要がありますからね耐えてくださいよ」
「まあ、そうはいっても弾丸旅行みたいで楽しかったかもな。俺、結構テンション上がってきたかも」
「僕らアガルタのことあんまり知らなかったから知る良い機会になったよね」
楓の発言に竜太はベッドの上で頷く。
「てか、烏丸ちゃん1人で大丈夫かよ。部屋に遊びに行ってあげようぜ。あ、でも余計なことすんなって殴られるのかな?」
「殴られはしないんじゃないの」と楓が小さく笑みを浮かべて答える。
「烏丸ちゃんなら大丈夫ですよ。強いですからご心配なさらず」
「チンピラの骨バキバキに折ってたもんな」と竜太はケタケタと笑っていた。
しばらくの沈黙があってから楓はなにか考え込んでからその沈黙を破った。
「ユキは今頃なにしてるんだろうね」
立華は首を傾げて楓を見た。
「そのユキってのは誰ですか?」
「僕と竜太の幼馴染だよ。僕らがヴァンパイアになってから会ってないんだ。地上では僕らは死んだことになってるから多分もう会えないかもしれないけどね」
立華は「ほー」と言って話を聞いていた。
「では、お聞きしたいのですが、お二人はその人に会うために人間に戻りたいですか?」
立華が純粋に疑問を訊く少年のように首を傾げて言った。2人は視線を合わせてからしばらく考え込んで、竜太は一つ息を吐いてから天井に視線を向けたまま言った。
「そりゃ、人間のまま会えたら嬉しいけどよ、もうなっちまったもんはしょうがねぇよな」
「竜太君は受け入れるのが早いですね。ヴァンパイアになってそんなに日が経ってないからてっきりヴァンパイアを全否定するかと思ってましたよ」
椅子の背もたれに肘をかけて前後に揺らしながら立華はベッドに横になっている竜太を見た。どうやら、さすがの立華も切り替えの早い竜太に少々驚いたようだった。
「そりゃな俺にとってヴァンパイアは憎い存在だったけど、なってみればいいところもあるもんだって思うようにしたんだ。どんな姿になっても俺は弟の分まで生きるって決めたし、生きていればこの姿でも楽しいことはあるだろうしな」
「楽観的ですねー。で、楓君はどうなんです?」
また、立華は椅子を前後に倒しながら楓の方を向いた。
楓はまだ何か考え込んでいるようで一点を見つめて立華の問いかけに気づき視線を立華の方へ移した。
「僕は…このままで良いかな」
「ほー。楓君も意外な回答ですね。それはなんでですか?」
「うーん。なんでかって言うと…人間は人間の良いところがあるし、柊くんみたいな良いヴァンパイアもいるし、ヴァンパイアにはヴァンパイアの良いところがある。その逆もあるけど、ヴァンパイアが全員悪いやつじゃないって思えたんだ。だから、ここでの生活も含めてこうやって両方の世界を見ることができて僕は良かったと思うかな」
立華は楓が話している最中から前後に動かしていた椅子を停止して、鼻を啜って演技のような本当のようなわからない涙を流すことに彼の動作が集中していた。
「楓君は本当に良いお方ですね。尊敬します」
「いや、そんな泣くほどのことじゃ…」
「いえいえ、立派な考えですよ。お二人が納得する形でお友達に会えると良いですね」
「でも、今はまだ会わないほうがいいだろ。ビビってぶっ倒れたら洒落にならないし」と言って竜太は寝返りを打って楓と立華に背を向けた。
「今日は疲れたな。寝ようぜ」と竜太が言った。
「空太、明日ってどういう予定になってるの?」と楓が立華に訊く。
「そうですね。大会までまだスケジュールは余裕があるので明日は僕らと特訓しますか。お二人共まだまだ弱いですしね。特に楓君は」
「随分正直に言うんだね」と楓は苦笑いを浮かべる。
「でも、事実ですから」と立華はまるで楓のことを察する事もなく何も感じていなかったようにクリクリとした赤い瞳で楓を見つめた。
「じゃあ、僕も寝ますからね」
そう言って部屋の明かりは真っ暗になった。
竜太と楓は馬車を丘の上からまじまじと見つめて竜太が口を開いた。
「おい、空太あの生き物なんだよ」
竜太が指差したその生き物はこれから楓たちが乗るであろう荷台のそばでくつろいでいる様子だった。
そして、その生き物は小さな肉食の恐竜のような見た目をした生物だった。
「あれ? お二人は見たこと無いんですか?」
そう言って立華はくりくりとした瞳で2人を交互に見た。
「あれはケーロスという動物ですよ。かわいいでしょ? アガルタにだけ生息してる動物なんですよ。元々人間だった皆さんからしたら馬のような動物だと思ってもらっていいですよ」
そして、立華は注意をうながすように目を細めた。
「あ、ちなみに珍しい動物だからって地上に連れて行かないでくださいね。ケーロス死んじゃいますから」
「え? 死んじゃうの?」竜太が目を丸くして言った。
「当然です。地上でも深海魚を引き上げたら死んじゃうでしょ? ケーロスはヴァンパイアのような生命力や体の強さを持ってないんです」
アガルタの動物についてちょっとした衝撃を受けた2人はもう一度荷台のそばでくつろいでいる二匹のケーロスを観察していると立華が「そろそろいいですか?」と言って丘を下り乗車場所まで歩を進めた。
馬車は烏丸が舵取り役としてケーロス二体の手綱を掴むことになり、他の3人は荷台に乗った。
ケーロスの甲高い鳴き声とともに荷台は振動し始めてゴトゴトと音を立てて前進した。
「なあ、訊き忘れてたんだけどそのルーロ? って国までどのくらい掛かんの?」
「うーん、ざっと3日くらいでしょうかね」
「は? そんなかかんの?」
立華はリュックから地図を取り出して2人の前に広げた。
「ここがキエス。そして、これから向かうのがシゼナという国を通って、フォンツ、ルーロの順で行きます。国を跨ぐんで結構遠いんですよ。もちろん飛行機なんてないですからね」
「マジか! 今日中に着くと思ってたわ。食料もなんも持ってきてねぇよ」
「大丈夫ですよ。お金はもらってるんで」
立華はお金の入った袋を顔の前に差し出してジャラジャラと金属が擦れる音を立てた。
「ていうかここスマホ使えないんだね。よく考えてみたら地図も紙だったし」と楓が言う。
「そうですね。ここは地上の電波が届かないんですよ。だから端末はあってもここじゃあ使えません」
「じゃあ俺らは到着するまでここでぼーっと座ってるだけかよ」
立華はニタニタとしながら首を縦に振った。
「たまにはこういうのもいいじゃない竜太」と楓が竜太をなだめた。
それから何もない荒野を砂埃を上げながら馬車は走り、車窓からは同じような景色が続いていたが、しばらく時間が経って馬車の荷台から見える景色は次第に暗くなってきた。
「なあまだ着かないのかよ」
荷台に大の字に伸びる竜太は天井に向かってそう言った。
「まだ出発してから5時間しか経ってませんよ」と立華はクスクスと笑う。
「ねえ、立華君あとどのくらいで着くの?」
「あと1時間もすれば着くと思いますよ。ていうか、僕のこと立華じゃなくて空太って呼んでくださいよ。これから一緒に旅する仲なんですから。烏丸ちゃんのことも京香って呼んでいいですよ」
立華の声が聞こえたのか操縦席の方からは舌打ちする音が聞こえて、楓と立華は目を合わせた。
「ねえ立華君。隣の国に6時間で着くのにルーロまで3日もかかるの?」
立華は何度か頷いて真っ直ぐに伸びた直毛の赤毛を揺らした。
「この旅は君たちの修行も兼ねてるんですよ。キエスからルーロに直行して武闘会に出てハイ終わり。じゃあ、意味ないでしょう? だから、ルーロに着くまでは3日ですけど、その道中に僕らが稽古しますし、ルーロについてからも僕らが君たちの修行に付き合ってあげるんですよ。なので、ゆっくり目に行こうかと思ってます」
楓は立華の言っていることに納得できたようで竜太も一緒に立華に頭を下げた。
「「よろしくお願いします」」
立華は一瞬ニヤリと愉快そうな表情を浮かべたがその表情を振り払った。
「頭を上げてくださいよ。これも僕らの任務の一つなんですから」
それから立華の言う通り1時間ほど馬車に揺られていると暗闇の中に点々とした光が見え始めて前方には建物がいくつかあるのが分かる。
「ほら、着きました」
竜太も体を起こし荷台の前方から顔を出して前方に広がる街並を眺めた。
「うおーやっとたどり着いたか。烏丸ちゃん長時間の運転マジでお疲れ」
烏丸は特に返事を返すこともなく竜太は苦笑いした。
これから入国するシゼナには国の入り口に門がありそこには番兵のヴァンパイアが2名立っていた。
烏丸と番兵は入国の目的やどこから来たかなど入国時に訊かれやすい質問を受けた後、もう1人の番兵が荷台の扉を叩いて荷台にいる3人は荷台から降りる。そして、番兵は荷台に置いている荷物に不審なものはないかチェックした。
そして、番兵は立華のリュックを物色してスーツを手にとった。
「君たちはモラドのヴァンパイアなの?」
番兵はそう言って、すっかり日が落ちてヴァンパイアの姿になっていた楓も含めて3人のヴァンパイアを見つめた。
「ええ、今は休暇中でして同期と旅行してるんです」
立華が作った笑顔を顔に貼り付けて、いけしゃあしゃあと嘘をついた。
「そうか。こっちでもなにかあったらよろしく頼むよ」
番兵はそう言うとスーツをもとにたたみ直してからリュックに戻して操縦席の方へ歩いていった。
「なんかモラドは俺らで言う警察官みたいなもんなんだな」と竜太は納得したような表情を見せた。
一通りの入国審査が行われて楓たちは問題無く入国が許可されて烏丸は両手に持っている手綱を振って馬車はシゼナの敷地内に入っていった。
しばらく馬車を走らせると車窓から見える景色はキエス寄りは背の低い建物が多いように思えた。おそらく、キエス寄りはあまり発達していない国なのだろう。
シゼナの街なかをスピードを抑えながら馬車を走らせている烏丸は3階建ての建物の前で馬車を停めた。
荷台に乗っていた3人は降りてからその建物を見上げた。
「みなさん、ここが今日の宿です」
立華は両手を広げて目の前の建物を示した。
その建物は3階建てのコンクリート作りのような建物で中も灰色のコンクリートがそのまま敷かれていて、フロントやエントランスにあるテーブルや椅子はすべて木を切って加工して作ったもののようで少々粗末さは感じられる雰囲気だった。そのため、地上でいうビジネスホテル寄りは清潔感に劣るものの贅沢を言わずに泊まるだけであれば十分な設備のように思える。
「泊まれればどこでもいいわ。早く入ろうぜ」
興味なさそうな竜太は首をボキボキと鳴らしながら宿屋に入っていった。
「リアクションが薄いですねー。もう少しテンション上げてくれても良かったんですよ」と立華は竜太に向けて苦笑いを浮かべる。
「長時間移動して疲れてんだよ。なあ楓」
「まあ、そうだね。でも、楽しかったよ」
「たく、楓はお人好しだな」
3人が先に宿屋の入り続いて烏丸も宿屋に入った。
立華は宿屋のフロントへ向かい立華が諸々の手続きを行い予約したという二部屋のカギをもらった。こういった手続きは地上のホテルを予約する時とどうやら変わらないようでフロントではテーブル越しで受け付けのヴァンパイアと立華が話してから紙に情報を記入していた。
そして、立華はなれた手付きで麻袋に入ったお金を取り出して宿泊代を払って会計を済ませた。
「では、お部屋は男女で別々ということで」
そう言って立華は烏丸にカギを手渡した。
「野郎3人かよ、むさ苦しいな」
「部屋別にするなら竜太君は実費でお願いしますよ」
「冗談だよ、冗談。そもそも、ここの通貨持ってねぇし。野郎共で仲良くしようぜ」
竜太は立華の肩に手を置く。
4人はエレベータに乗り込み3階で降りた。
男3人は304号室、烏丸は305号室に入っていった。
「いやぁ、しかし長かったわぁー」
竜太がベッドで大の字になってまた天井に向かってそう言い放った。
「まだ、もう一つ国を超える必要がありますからね耐えてくださいよ」
「まあ、そうはいっても弾丸旅行みたいで楽しかったかもな。俺、結構テンション上がってきたかも」
「僕らアガルタのことあんまり知らなかったから知る良い機会になったよね」
楓の発言に竜太はベッドの上で頷く。
「てか、烏丸ちゃん1人で大丈夫かよ。部屋に遊びに行ってあげようぜ。あ、でも余計なことすんなって殴られるのかな?」
「殴られはしないんじゃないの」と楓が小さく笑みを浮かべて答える。
「烏丸ちゃんなら大丈夫ですよ。強いですからご心配なさらず」
「チンピラの骨バキバキに折ってたもんな」と竜太はケタケタと笑っていた。
しばらくの沈黙があってから楓はなにか考え込んでからその沈黙を破った。
「ユキは今頃なにしてるんだろうね」
立華は首を傾げて楓を見た。
「そのユキってのは誰ですか?」
「僕と竜太の幼馴染だよ。僕らがヴァンパイアになってから会ってないんだ。地上では僕らは死んだことになってるから多分もう会えないかもしれないけどね」
立華は「ほー」と言って話を聞いていた。
「では、お聞きしたいのですが、お二人はその人に会うために人間に戻りたいですか?」
立華が純粋に疑問を訊く少年のように首を傾げて言った。2人は視線を合わせてからしばらく考え込んで、竜太は一つ息を吐いてから天井に視線を向けたまま言った。
「そりゃ、人間のまま会えたら嬉しいけどよ、もうなっちまったもんはしょうがねぇよな」
「竜太君は受け入れるのが早いですね。ヴァンパイアになってそんなに日が経ってないからてっきりヴァンパイアを全否定するかと思ってましたよ」
椅子の背もたれに肘をかけて前後に揺らしながら立華はベッドに横になっている竜太を見た。どうやら、さすがの立華も切り替えの早い竜太に少々驚いたようだった。
「そりゃな俺にとってヴァンパイアは憎い存在だったけど、なってみればいいところもあるもんだって思うようにしたんだ。どんな姿になっても俺は弟の分まで生きるって決めたし、生きていればこの姿でも楽しいことはあるだろうしな」
「楽観的ですねー。で、楓君はどうなんです?」
また、立華は椅子を前後に倒しながら楓の方を向いた。
楓はまだ何か考え込んでいるようで一点を見つめて立華の問いかけに気づき視線を立華の方へ移した。
「僕は…このままで良いかな」
「ほー。楓君も意外な回答ですね。それはなんでですか?」
「うーん。なんでかって言うと…人間は人間の良いところがあるし、柊くんみたいな良いヴァンパイアもいるし、ヴァンパイアにはヴァンパイアの良いところがある。その逆もあるけど、ヴァンパイアが全員悪いやつじゃないって思えたんだ。だから、ここでの生活も含めてこうやって両方の世界を見ることができて僕は良かったと思うかな」
立華は楓が話している最中から前後に動かしていた椅子を停止して、鼻を啜って演技のような本当のようなわからない涙を流すことに彼の動作が集中していた。
「楓君は本当に良いお方ですね。尊敬します」
「いや、そんな泣くほどのことじゃ…」
「いえいえ、立派な考えですよ。お二人が納得する形でお友達に会えると良いですね」
「でも、今はまだ会わないほうがいいだろ。ビビってぶっ倒れたら洒落にならないし」と言って竜太は寝返りを打って楓と立華に背を向けた。
「今日は疲れたな。寝ようぜ」と竜太が言った。
「空太、明日ってどういう予定になってるの?」と楓が立華に訊く。
「そうですね。大会までまだスケジュールは余裕があるので明日は僕らと特訓しますか。お二人共まだまだ弱いですしね。特に楓君は」
「随分正直に言うんだね」と楓は苦笑いを浮かべる。
「でも、事実ですから」と立華はまるで楓のことを察する事もなく何も感じていなかったようにクリクリとした赤い瞳で楓を見つめた。
「じゃあ、僕も寝ますからね」
そう言って部屋の明かりは真っ暗になった。
0
あなたにおすすめの小説
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
【完結】平凡な魔法使いですが、国一番の騎士に溺愛されています
空月
ファンタジー
この世界には『善い魔法使い』と『悪い魔法使い』がいる。
『悪い魔法使い』の根絶を掲げるシュターメイア王国の魔法使いフィオラ・クローチェは、ある日魔法の暴発で幼少時の姿になってしまう。こんな姿では仕事もできない――というわけで有給休暇を得たフィオラだったが、一番の友人を自称するルカ=セト騎士団長に、何故かなにくれとなく世話をされることに。
「……おまえがこんなに子ども好きだとは思わなかった」
「いや、俺は子どもが好きなんじゃないよ。君が好きだから、子どもの君もかわいく思うし好きなだけだ」
そんなことを大真面目に言う国一番の騎士に溺愛される、平々凡々な魔法使いのフィオラが、元の姿に戻るまでと、それから。
◆三部完結しました。お付き合いありがとうございました。(2024/4/4)
企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する
namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。
転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。
しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。
凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。
詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。
それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。
「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」
前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。
痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。
そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。
これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。
わたしにしか懐かない龍神の子供(?)を拾いました~可愛いんで育てたいと思います
あきた
ファンタジー
明治大正風味のファンタジー恋愛もの。
化物みたいな能力を持ったせいでいじめられていたキイロは、強引に知らない家へ嫁入りすることに。
所が嫁入り先は火事だし、なんか子供を拾ってしまうしで、友人宅へ一旦避難。
親もいなさそうだし子供は私が育てようかな、どうせすぐに離縁されるだろうし。
そう呑気に考えていたキイロ、ところが嫁ぎ先の夫はキイロが行方不明で発狂寸前。
実は夫になる『薄氷の君』と呼ばれる銀髪の軍人、やんごとなき御家柄のしかも軍でも出世頭。
おまけに超美形。その彼はキイロに夢中。どうやら過去になにかあったようなのだが。
そしてその彼は、怒ったらとんでもない存在になってしまって。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
少年神官系勇者―異世界から帰還する―
mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる?
別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨
この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行)
この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。
この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。
この作品は「pixiv」にも掲載しています。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる