28 / 126
第28話「王者」
しおりを挟む
ルーロに向かう4人は道中で宿泊したホテルでフォンツで貴族のボディガードをしているという大胡鋼星と名乗る男と出会う。その男もルーロの武闘会にでるというのでホテルをチェックアウトした一行はホテルから少し歩いたところにある空き地で武闘会に備えて大胡に特訓してもらえることになった。
砂地が広がる空き地でジャリジャリと砂利を踏みしめながら指を鳴らして楓と竜太のことを指差した。
「よし! いつでもかかってこい!」と鋼星は重心を落として両手を顔の前に構え戦闘態勢に入った。
少し間を置いてから竜太は歩を進めた。
「俺からお手合わせ願おうかな」
「よーし! えっと、名前は何だっけ?」と鋼星は聞き返すと竜太は呆れたように言葉を吐き捨てた。
「竜太だよ。いい加減覚えろや」
鋼星は「わりぃわりぃ」と頭を掻いた。
立華が両手をこすり合わせながらそそくさと二人の間に入って試合を取り仕切ることになった。
「え~では。竜太くんと鋼星くんの1対1武器無しでの戦いを初めます。あ、それと武闘会はヴェードの使用は許可されてないので今回もそのルールに則って行いますね」
淡々と立華はそう言うと竜太はキョトンとして立華の方を振り向いた。
「空太、それ初耳なんだけど」と言うと立華は少年のように晴れやかな笑みを見せて「てへへ」とごまかした。恐らく、純粋に伝え忘れていたのだろう。
立華は表情を戻してから仕切り直した。
「では…」
と立華は溜めてから、
「始め!」
その声を聞いた瞬間、竜太の前方にいる鋼星は地面が抉れるくらいに蹴り上げてまるで大きな弾丸のように竜太に飛んできた。
竜太は間一髪のところで前転して交わす。
鋼星が走った後はまるで突風でも吹いたかのように砂埃が舞い上がり、竜太を疾風のごとく通り過ぎた鋼星は地面に足をこすりながら自分の体にブレーキをかけた。
「これを交わしてくれるか。良い目してんじゃん」と初撃を外した鋼星はトラのように四つん這いになってから竜太を振り向いた。
「じゃあこれはどうかな?」
鋼星はまた地面を強く蹴り上げ竜太の首元めがけて拳を振るい上げたが竜太は自身の高い身体能力もあってなんとか交わすことができた。そして、鋼星が振った腕の風圧で竜太の髪がなびいた。
鋼星の竜太を捉えるはずだった拳は勢いそのままに地面を殴りつけた。
拳と地面が接触した瞬間、地面は一度大きく盛り上がり、砂煙が舞い鋼星の姿が隠れる。砂埃が晴れるとクレーターのような大穴があらわになった。
衝撃的な破壊力に近くで見ていた立華はその大穴を目を丸くして見ていた。ここまでの力は普通の人間では到底不可能だがそこらのヴァンパイアでも地面にここまでの大穴を開けるほどのパワーを持ったヴァンパイアはいないだろう。
「おいおい冗談だろ。あんなの食らったらひとたまりも無いぞ」
竜太は白い歯を見せて余裕の表情はすでに消えており額に一筋の汗を流していた。
その後も二人の戦闘は鋼星が圧倒的に優勢の戦いを強いられており竜太は後手後手に回っていた。
攻撃を交わすことに手一杯の竜太は時間とともにスタミナを消耗して肩で息をしている。流す汗の量は試合前に比べて明らかに多くなっていた。
「お前めっちゃ強いんだな。正直予想以上だぜ」
褒められた鋼星は「へへ」と照れるように鼻の下を掻いた。
「そりゃ、俺は前回大会で優勝してんだから当然だろ」と鋼星は当たり前のように言ったがその場にいた鋼星以外の4人は目を見開いて驚いた様子だった。
「おい、それ先言えや」と竜太が声をぶつけるように言った。
「あれ? 言ってなかったっけ?」と鋼星は首をかしげてとぼけているように思えたが本当に言ったかどうか本人も記憶になさそうだった。
「それは初耳ですねぇ。道理で力の差があるわけですか」と立華は口角を上げた。
「そうか、そうか。よし、わかった」
鋼星は大きく頷いてから自分の中で何か納得したようだった。
「王者としてハンデをやる! お前ら4人全員で俺にかかってこい! 相手してやるぞ!」
鋼星は右手の人差指をクイクイと曲げて4対1の構図もいとわない様子だったが立華が大きく首を横に降って鋼星の発言を否定して、隣に立っている烏丸の方を見たが烏丸はそもそもやる気はないようで胸の前で腕をクロスさせて意思表示した。
「武闘会に出るのは2人なので僕らは遠慮させていただきます。なので2対1でどうぞ」と隣にいる楓の背を押した。
隣に腕を組んで並ぶ烏丸も何度か小さく頷いて立華の意見に賛成していた。
「やろうぜ楓。この感じ幹人とやった時以来じゃんか」と言って竜太は顔の前で構える拳に力を込めた。
「そこの色白もやし君も参戦か。上等上等。殺す気で行くからお前らもそうしろよ。じゃなきゃ勝負になんねぇからな」
鋼星はその場で数回ジャンプしてから気合を入れ直し、巻き上げた砂埃を大きく散らし、風を切って楓たちの方へ再び弾丸のように走り込んだ。
竜太と楓は左右に別れて飛び込み鋼星の突進を交わす。そして、すぐに竜太は起き上がり鋼星の突進の反動で出来た数秒のスキを突くために拳を上げて勢いそのままに鋼星に飛びかかるが鋼星は屈んですぐに交わし、竜太の腕を掴んで竜太の進行方向へ向かう勢いを利用して放り投げた。
鋼星の力が強すぎるのか竜太の肩でゴキッと肩が外れる音が聞こえ、竜太はバウンドするように転がっていった。
竜太が飛ばされている間に楓が向かうものの鋼星はキレの良い上半身の動きを見せてターンし、飛びかかって来る楓の首もとに腕を絡めてラリアットをする。
え? 何が起きたんだ…。
あまりの早業に状況を理解するのに数秒要した楓は鋼星の丸太のような腕を振りほどこうとしたが、まるでその抵抗が効いていないようで勢いそのままに頭から地面に叩きつけられ後転するように一回転し、地面に頭をうずくめたまま首から下が力なく横たわる。
この間、楓の頭は強い衝撃で地面に叩きつけられ、頭蓋骨は粉々に砕け散り、頭に空いた穴からは脳の一部が飛び出していた。あまりに刹那的出来事だったため楓は痛みの声を上げることすらできずに攻撃を受けていた。
頭の中が冷たい…気持ち悪い…吐き気がする…。
何が起こったのか状況がわからぬまま、そのまま楓は意識を失った。
「まずはひとーり!」
「楓君大丈夫ですか? あれ、頭やっちゃってません?」
立華は隣りにいる烏丸にだけ聞こえるくらいの声量でつぶやいた。
「大丈夫なんじゃない。死なないんでしょ?」
「…そうですけど」
鋼星は準備運動がこれで終わったかのように首を鳴らしながら竜太の方へ一歩ずつ近づいて行く。その歩は王者の余裕の表れかゆっくりとした動作だった。
そこからの戦闘は竜太が必死に健闘しているように見えたが、ただ鋼星が遊んでいるだけだったようで、鋼星が遊び終わってから決着が着くまでの時間は短かった。
しばらく経って意識を失っていた楓がムクリと起き上がり地面に埋もれていた頭を持ち上げる。後頭部を触ってから自分の怪我の状態を確認してから、しばらく何か考え込んだ後、特訓が終わり立華と談笑している鋼星のもとへ向かった。
僕に何があったんだ? 強い衝撃の後、とてつもない吐き気が襲ってきてから全く記憶がない。まさか、一回死んだのか?
鋼星が言ってた殺す気で行くって本当だったのか。いや、ただの練習で本当にそんな事するわけないと思うけど。
鋼星は僕らのことを鍛えてくれようとしてるけど、鋼星の考えてることはよくわからないのは確かだな。
「あれ、君生きてたの? 手加減してたつもりだったんだけどあの攻撃まともにくらってたから死んじゃったかと思ってたよ」
「まあ、なんとか…」
あれで手加減してたのか。てことは、本当に殺すつもりはなかったってことかな。それでもあの強さだし、竜太は大丈夫だったのかな。
「ちょっと待ってください鋼星君? 『死んじゃったかと思ってたよ』って本当に殺すつもりだったんですか?」と立華はぎょっとして鋼星を見た。
「心配すんなよ手加減はしてやったから。でも、それで死んじまったらしょうがないってだけだろ」
立華は引きつったような笑みを作ってから鋼星を上目遣いして言った。
「まさか、竜太君のことも殺す気だったんですか?」と立華は鋼星に問いかける。
「うん。彼はそれでも大丈夫だと思ったからね。それに、よく粘ってたよ。いいセンスしてる。だから、ちょっと遊んじゃった」
白目を剥いて気絶していた竜太はヴァンパイアの強い生命力で傷が徐々に自然治癒し、意識を取り戻し跳ね上がるように起き上がった。
「うお! 生きてる! し、死んだかと思った」
竜太は自分の両手が交互に眺めながら自分の体が動いていることを確認する。
「君、なかなかいいセンスしてんじゃん」
鋼星は竜太のもとへ行って手を差し伸べたが竜太はその手を掴むことなく、自力で立ち上がる。
「そりゃどーも。お前のせいでそのセンスを活かすことなくヴァンパイア生命が終わるとこだったけどな」と竜太は口を尖らせてそういった。
「よーし、なんかテンション上がってきちゃったからそこの君も一緒に俺が戦いの基礎を教えてあげるよ」
鋼星は楓の方を見ながらそう言った。
頭を抑えてよろよろと歩く楓は苦笑いを浮かべて「ありがとうございます」とつぶやいた。
それから楓と竜太は戦い方の基礎になる間合いのとり方や力が伝わりやすい打撃方法などを教えてもらった。ルーロの武闘会で前回優勝しているだけに鋼星は本能的に戦っているようで説明は論理的に解説していて彼の強さがただの筋肉だけの力押しだけじゃない事が分かった。
「どうやら僕らはお邪魔のようですかね。3人が終わるまであそこで休憩してましょうか」
立華がそう言って烏丸は頷き、2人は楓たちとは反対側に踵を返して立華が指差したカフェへのような雰囲気のお店に向かった。
ジャズのような曲調の音楽が流れる店内に入り、二人がけの席で向き合って腰掛けるとすぐに店員がやってきて注文を聞いてきて2人はメニューを見ると長く悩むこと無くすぐに注文した。
「鋼星君はちょっとやりすぎな気がしますけど、僕らの仕事が減ってよかったですね」
「私はもともと立華に全部任せるつもりだったけど」
烏丸は無愛想に呟いてから窓の外を眺めて頬杖をついた。
烏丸が見つめる視線の向こうでは鋼星と竜太、楓が2対1で特訓していた。初めに戦った頃に比べると蹴りのフォームや立ち回りなど様になっていて2人の成長が感じられた。
「竜太君はもともとセンスがあるって聞いてましたし、楓君は不死身ですからねどんな事があっても耐えられるでしょう」
烏丸は窓から遥か遠くを見つめるような目をして言った。
「不死身でも弱かったらさっきみたいに何回でも死にかけるんだろうね。死にたくても死ねない可愛そうなヴァンパイア」と烏丸はつぶやいた。
「ちょっとちょっと、そんな事言わないでくださいよ。不死身なだけで楓くんだっていい人なんですから、途中で見捨てたりしないでくださいよ」
「はいはい」とため息混じりで返事をした烏丸は「それより」と窓の外を再び眺めた。
「あ、終わったようですね」
砂地が広がる空き地でジャリジャリと砂利を踏みしめながら指を鳴らして楓と竜太のことを指差した。
「よし! いつでもかかってこい!」と鋼星は重心を落として両手を顔の前に構え戦闘態勢に入った。
少し間を置いてから竜太は歩を進めた。
「俺からお手合わせ願おうかな」
「よーし! えっと、名前は何だっけ?」と鋼星は聞き返すと竜太は呆れたように言葉を吐き捨てた。
「竜太だよ。いい加減覚えろや」
鋼星は「わりぃわりぃ」と頭を掻いた。
立華が両手をこすり合わせながらそそくさと二人の間に入って試合を取り仕切ることになった。
「え~では。竜太くんと鋼星くんの1対1武器無しでの戦いを初めます。あ、それと武闘会はヴェードの使用は許可されてないので今回もそのルールに則って行いますね」
淡々と立華はそう言うと竜太はキョトンとして立華の方を振り向いた。
「空太、それ初耳なんだけど」と言うと立華は少年のように晴れやかな笑みを見せて「てへへ」とごまかした。恐らく、純粋に伝え忘れていたのだろう。
立華は表情を戻してから仕切り直した。
「では…」
と立華は溜めてから、
「始め!」
その声を聞いた瞬間、竜太の前方にいる鋼星は地面が抉れるくらいに蹴り上げてまるで大きな弾丸のように竜太に飛んできた。
竜太は間一髪のところで前転して交わす。
鋼星が走った後はまるで突風でも吹いたかのように砂埃が舞い上がり、竜太を疾風のごとく通り過ぎた鋼星は地面に足をこすりながら自分の体にブレーキをかけた。
「これを交わしてくれるか。良い目してんじゃん」と初撃を外した鋼星はトラのように四つん這いになってから竜太を振り向いた。
「じゃあこれはどうかな?」
鋼星はまた地面を強く蹴り上げ竜太の首元めがけて拳を振るい上げたが竜太は自身の高い身体能力もあってなんとか交わすことができた。そして、鋼星が振った腕の風圧で竜太の髪がなびいた。
鋼星の竜太を捉えるはずだった拳は勢いそのままに地面を殴りつけた。
拳と地面が接触した瞬間、地面は一度大きく盛り上がり、砂煙が舞い鋼星の姿が隠れる。砂埃が晴れるとクレーターのような大穴があらわになった。
衝撃的な破壊力に近くで見ていた立華はその大穴を目を丸くして見ていた。ここまでの力は普通の人間では到底不可能だがそこらのヴァンパイアでも地面にここまでの大穴を開けるほどのパワーを持ったヴァンパイアはいないだろう。
「おいおい冗談だろ。あんなの食らったらひとたまりも無いぞ」
竜太は白い歯を見せて余裕の表情はすでに消えており額に一筋の汗を流していた。
その後も二人の戦闘は鋼星が圧倒的に優勢の戦いを強いられており竜太は後手後手に回っていた。
攻撃を交わすことに手一杯の竜太は時間とともにスタミナを消耗して肩で息をしている。流す汗の量は試合前に比べて明らかに多くなっていた。
「お前めっちゃ強いんだな。正直予想以上だぜ」
褒められた鋼星は「へへ」と照れるように鼻の下を掻いた。
「そりゃ、俺は前回大会で優勝してんだから当然だろ」と鋼星は当たり前のように言ったがその場にいた鋼星以外の4人は目を見開いて驚いた様子だった。
「おい、それ先言えや」と竜太が声をぶつけるように言った。
「あれ? 言ってなかったっけ?」と鋼星は首をかしげてとぼけているように思えたが本当に言ったかどうか本人も記憶になさそうだった。
「それは初耳ですねぇ。道理で力の差があるわけですか」と立華は口角を上げた。
「そうか、そうか。よし、わかった」
鋼星は大きく頷いてから自分の中で何か納得したようだった。
「王者としてハンデをやる! お前ら4人全員で俺にかかってこい! 相手してやるぞ!」
鋼星は右手の人差指をクイクイと曲げて4対1の構図もいとわない様子だったが立華が大きく首を横に降って鋼星の発言を否定して、隣に立っている烏丸の方を見たが烏丸はそもそもやる気はないようで胸の前で腕をクロスさせて意思表示した。
「武闘会に出るのは2人なので僕らは遠慮させていただきます。なので2対1でどうぞ」と隣にいる楓の背を押した。
隣に腕を組んで並ぶ烏丸も何度か小さく頷いて立華の意見に賛成していた。
「やろうぜ楓。この感じ幹人とやった時以来じゃんか」と言って竜太は顔の前で構える拳に力を込めた。
「そこの色白もやし君も参戦か。上等上等。殺す気で行くからお前らもそうしろよ。じゃなきゃ勝負になんねぇからな」
鋼星はその場で数回ジャンプしてから気合を入れ直し、巻き上げた砂埃を大きく散らし、風を切って楓たちの方へ再び弾丸のように走り込んだ。
竜太と楓は左右に別れて飛び込み鋼星の突進を交わす。そして、すぐに竜太は起き上がり鋼星の突進の反動で出来た数秒のスキを突くために拳を上げて勢いそのままに鋼星に飛びかかるが鋼星は屈んですぐに交わし、竜太の腕を掴んで竜太の進行方向へ向かう勢いを利用して放り投げた。
鋼星の力が強すぎるのか竜太の肩でゴキッと肩が外れる音が聞こえ、竜太はバウンドするように転がっていった。
竜太が飛ばされている間に楓が向かうものの鋼星はキレの良い上半身の動きを見せてターンし、飛びかかって来る楓の首もとに腕を絡めてラリアットをする。
え? 何が起きたんだ…。
あまりの早業に状況を理解するのに数秒要した楓は鋼星の丸太のような腕を振りほどこうとしたが、まるでその抵抗が効いていないようで勢いそのままに頭から地面に叩きつけられ後転するように一回転し、地面に頭をうずくめたまま首から下が力なく横たわる。
この間、楓の頭は強い衝撃で地面に叩きつけられ、頭蓋骨は粉々に砕け散り、頭に空いた穴からは脳の一部が飛び出していた。あまりに刹那的出来事だったため楓は痛みの声を上げることすらできずに攻撃を受けていた。
頭の中が冷たい…気持ち悪い…吐き気がする…。
何が起こったのか状況がわからぬまま、そのまま楓は意識を失った。
「まずはひとーり!」
「楓君大丈夫ですか? あれ、頭やっちゃってません?」
立華は隣りにいる烏丸にだけ聞こえるくらいの声量でつぶやいた。
「大丈夫なんじゃない。死なないんでしょ?」
「…そうですけど」
鋼星は準備運動がこれで終わったかのように首を鳴らしながら竜太の方へ一歩ずつ近づいて行く。その歩は王者の余裕の表れかゆっくりとした動作だった。
そこからの戦闘は竜太が必死に健闘しているように見えたが、ただ鋼星が遊んでいるだけだったようで、鋼星が遊び終わってから決着が着くまでの時間は短かった。
しばらく経って意識を失っていた楓がムクリと起き上がり地面に埋もれていた頭を持ち上げる。後頭部を触ってから自分の怪我の状態を確認してから、しばらく何か考え込んだ後、特訓が終わり立華と談笑している鋼星のもとへ向かった。
僕に何があったんだ? 強い衝撃の後、とてつもない吐き気が襲ってきてから全く記憶がない。まさか、一回死んだのか?
鋼星が言ってた殺す気で行くって本当だったのか。いや、ただの練習で本当にそんな事するわけないと思うけど。
鋼星は僕らのことを鍛えてくれようとしてるけど、鋼星の考えてることはよくわからないのは確かだな。
「あれ、君生きてたの? 手加減してたつもりだったんだけどあの攻撃まともにくらってたから死んじゃったかと思ってたよ」
「まあ、なんとか…」
あれで手加減してたのか。てことは、本当に殺すつもりはなかったってことかな。それでもあの強さだし、竜太は大丈夫だったのかな。
「ちょっと待ってください鋼星君? 『死んじゃったかと思ってたよ』って本当に殺すつもりだったんですか?」と立華はぎょっとして鋼星を見た。
「心配すんなよ手加減はしてやったから。でも、それで死んじまったらしょうがないってだけだろ」
立華は引きつったような笑みを作ってから鋼星を上目遣いして言った。
「まさか、竜太君のことも殺す気だったんですか?」と立華は鋼星に問いかける。
「うん。彼はそれでも大丈夫だと思ったからね。それに、よく粘ってたよ。いいセンスしてる。だから、ちょっと遊んじゃった」
白目を剥いて気絶していた竜太はヴァンパイアの強い生命力で傷が徐々に自然治癒し、意識を取り戻し跳ね上がるように起き上がった。
「うお! 生きてる! し、死んだかと思った」
竜太は自分の両手が交互に眺めながら自分の体が動いていることを確認する。
「君、なかなかいいセンスしてんじゃん」
鋼星は竜太のもとへ行って手を差し伸べたが竜太はその手を掴むことなく、自力で立ち上がる。
「そりゃどーも。お前のせいでそのセンスを活かすことなくヴァンパイア生命が終わるとこだったけどな」と竜太は口を尖らせてそういった。
「よーし、なんかテンション上がってきちゃったからそこの君も一緒に俺が戦いの基礎を教えてあげるよ」
鋼星は楓の方を見ながらそう言った。
頭を抑えてよろよろと歩く楓は苦笑いを浮かべて「ありがとうございます」とつぶやいた。
それから楓と竜太は戦い方の基礎になる間合いのとり方や力が伝わりやすい打撃方法などを教えてもらった。ルーロの武闘会で前回優勝しているだけに鋼星は本能的に戦っているようで説明は論理的に解説していて彼の強さがただの筋肉だけの力押しだけじゃない事が分かった。
「どうやら僕らはお邪魔のようですかね。3人が終わるまであそこで休憩してましょうか」
立華がそう言って烏丸は頷き、2人は楓たちとは反対側に踵を返して立華が指差したカフェへのような雰囲気のお店に向かった。
ジャズのような曲調の音楽が流れる店内に入り、二人がけの席で向き合って腰掛けるとすぐに店員がやってきて注文を聞いてきて2人はメニューを見ると長く悩むこと無くすぐに注文した。
「鋼星君はちょっとやりすぎな気がしますけど、僕らの仕事が減ってよかったですね」
「私はもともと立華に全部任せるつもりだったけど」
烏丸は無愛想に呟いてから窓の外を眺めて頬杖をついた。
烏丸が見つめる視線の向こうでは鋼星と竜太、楓が2対1で特訓していた。初めに戦った頃に比べると蹴りのフォームや立ち回りなど様になっていて2人の成長が感じられた。
「竜太君はもともとセンスがあるって聞いてましたし、楓君は不死身ですからねどんな事があっても耐えられるでしょう」
烏丸は窓から遥か遠くを見つめるような目をして言った。
「不死身でも弱かったらさっきみたいに何回でも死にかけるんだろうね。死にたくても死ねない可愛そうなヴァンパイア」と烏丸はつぶやいた。
「ちょっとちょっと、そんな事言わないでくださいよ。不死身なだけで楓くんだっていい人なんですから、途中で見捨てたりしないでくださいよ」
「はいはい」とため息混じりで返事をした烏丸は「それより」と窓の外を再び眺めた。
「あ、終わったようですね」
0
あなたにおすすめの小説
少年神官系勇者―異世界から帰還する―
mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる?
別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨
この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行)
この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。
この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。
この作品は「pixiv」にも掲載しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
【完結】平凡な魔法使いですが、国一番の騎士に溺愛されています
空月
ファンタジー
この世界には『善い魔法使い』と『悪い魔法使い』がいる。
『悪い魔法使い』の根絶を掲げるシュターメイア王国の魔法使いフィオラ・クローチェは、ある日魔法の暴発で幼少時の姿になってしまう。こんな姿では仕事もできない――というわけで有給休暇を得たフィオラだったが、一番の友人を自称するルカ=セト騎士団長に、何故かなにくれとなく世話をされることに。
「……おまえがこんなに子ども好きだとは思わなかった」
「いや、俺は子どもが好きなんじゃないよ。君が好きだから、子どもの君もかわいく思うし好きなだけだ」
そんなことを大真面目に言う国一番の騎士に溺愛される、平々凡々な魔法使いのフィオラが、元の姿に戻るまでと、それから。
◆三部完結しました。お付き合いありがとうございました。(2024/4/4)
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する
namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。
転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。
しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。
凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。
詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。
それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。
「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」
前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。
痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。
そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。
これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる