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第55話「秘密の部屋」
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2人はグローブとボールを持って部屋を出て外へ向かうため廊下を歩いていた。
すると、前方から牛乳瓶のような分厚いレンズのメガネをかけ、雑草のように不規則な長さに伸ばした髭を蓄えた青年が2人を物珍しそうに見ていた。
「おやや! タケル君ではないか」
「おー。文五郎兄ちゃん」
「会うのは久方ぶりだね。元気だったかい?」
タケルはもちろん!と胸を張って答えると文五郎と呼ばれた青年は満足気にうなずいてから楓の方に視線を移した。
「えっと、そちらの方は?」
「おじいちゃんだよ。さっき友達になったの」
「おじいちゃん?」
文五郎は思わず聞き返した。そして、文五郎は楓のことを舐めるような視線でまじまじと見つめて「白髪…」と顎髭をさすりながらつぶやいた。
「これは失礼」
文五郎は楓から少し距離をとって眼鏡のレンズとレンズを繋ぐブリッジを人差し指で持ち上げてから言った。
「タケルくん。よく訊いてくれ君はとんでもない大物とお友達になったようだ」
「大物?」とタケルが聞き返すと文五郎は楓を指差して鼻息荒くして言った。
「彼は人間とヴァンパイアのハーフなんだ。つまり、噂になっているあの不死身の吸血鬼だ。そして、彼が敵組織の手に渡ればこの世界の吸血鬼と人間の均衡はひっくり返ると言われているこの世界の最重要人物の伊純楓くんだよ」
タケルは「不死身…」「敵組織…」とつぶやいて目を輝かせる。
「すっげぇ! おじいちゃんそんな有名人だったの!」
「え? いや、それは…」
楓が複雑な心境を滲ませているとそんなことはお構いなしと文五郎は着ているよれよれのTシャツで両手を念入りに拭いてから楓に握手を求めた。
「初めまして楓君。僕は佐野文五郎だ。大学院生として歴史の研究をしている。会えて光栄だよ」
楓は求められて握手に応じたると文五郎は細くて骨ばったもう片方の手を添えて両手で握手した。
「ところで2人は何しに行くのかな?」と文五郎が訊くとタケルはボールとグローブを持ち上げて目的を示した。
すると、文五郎はまた眼鏡のブリッジを指で押し上げて不格好なドヤ顔をしてみせた。
「こう見えても僕は元高校球児でね。この右肩で地元を散々沸かせたものだよ」
「嘘だよ。文五郎万年補欠だったって聞いたことあるもん」
「タケルくん…。ま、まあいいさ、せっかくこんなに良い天気なんだ。外遊びを楽しもうじゃないか」
3人はモラド洋館の入り口とは反対側にある裏庭に来ていた。
そこには背の高い木や低い木、様々な樹木が小さな森のように不規則に立ち並び、日の当たる少し開けたところで人間の状態の楓は全身で陽の光を浴びてから、キャッチボールを始めた。
「時に楓君。アガルタというヴァンパイアの地下世界にはいったことがあるかい?」
「あるよ。どうして?」
文五郎は楓にボールを投げる。楓はぎこちない手付きでなんとかキャッチする。
「僕は大学でヴァンパイアの歴史も少し研究していてね、モラド内の文献からも情報を得ているんだ。しかし、今まで様々な文献を読み漁ってきたんだけどあの地下世界がどうやって作られたか記されていなくてね。はるか地下に存在する世界だから普通に考えたら圧力の問題で人間は立ち入れない場所のはずなんだが不思議なことに木材や血液などの物資は当然のように搬入できるということも不思議だ。僕ら人間はアガルタには行けないから、実際に行ってみて何か知ったことはあるかと思ったんだ。…ほら、僕は普段研究で忙しいからあまりヴァンパイアの友人を作る機会がなくてね。君ぐらいしか聞ける相手がいなかったんだよ」
タケルは「ぼっちー」とからかって図星だった文五郎は少し顔を赤らめた。
楓はタケルにボールを投げる。投じられたボールは空中に弧を描いてタケルのグローブに収まった。
「いや、僕もあの世界の成り立ちはよくわからないな。自分がヴァンパイアになるまで存在すら知らなかったし、教えてくれた友達も成り立ちまでは言ってなかったな」
文五郎はタケルから投げられたボールをキャッチしてボールをこねながら言った。
「流石にヴァンパイアたちがシャベルを持って地道に穴を掘って作られたわけではないのはわかっていると思うけど、一説にはヴァンパイアの神による創造だと言われている。まあ、考えてみれば僕らにとってあの非現実的な空間やゲートなどの仕組みを鑑みるに人工的に構築したというのは無理があるし、神という存在を持ち出してもおかしくないと思ったんだけどそんなおとぎ話みたいなことが本当に起こりうるのか信じがたいけどね」
「神…」
楓はその言葉を訊いて頭痛を起こして顔をしかめた。すると、あの時の嫌な記憶を思い出した。それは、フォンツでディアス・アーノルドが楓に言った言葉だった。
「ヴァンパイアの神は人間にこうやって磔にされて実験されたらしいよ。それでバラバラにして殺したとかなんとか言ってたな。昔はヴァンパイアの方が人間より力関係は上だったから生け捕りにでもして鬱憤を晴らしてたのかな? 人間の考えることはよくわかんないや。ま、そんなことはどうでもいいけどね」
(ヴァンパイアの神なんてって本当に存在するのかな?)
楓はその話題について知らないふりをして首を傾げた。
文五郎が楓にボールを投げたが、考えごとをしていた楓の額に当たって楓はよろけた。
「イテッ」
「あ、ごめん」
楓は頭をのけぞらせながら2歩、3歩と後退しているとタケルと文五郎の視界から急に楓の姿が消えた。その代わりに砂煙がだれもいない空間にむなしく漂っている。
「楓くん?」「おじいちゃん?」
ほぼ同時に2人が言ってから楓の元へ駆け寄った。
楓が消えた位置に来てみるとそこにはポッカリと地面に穴が空いていた。それはちょうど人一人分くらいなら容易に入れそうなほどの幅をしている。楓が落ちた穴の中に目を向けてみると楓は落ちた地面の空洞でダンボールがクッション代わりになって、ダンボールの山にうずくまっていた。
「ふう、無事で良かったよ。しかし、楓君はヴァンパイアなのに少しどんくさいね」
文五郎が穴から楓に手を差し伸べる。
穴の深さは楓が地下の空洞に立ち上がっても天井に頭が届かないほどで、穴から手を差し伸べた文五郎の手をギリギリでつかめるほどの深さをしていた。
タケルは文五郎が楓に差し伸べる腕と同じくして穴に頭を突っ込んで地下の空洞を見回した。
「わっ! ここ本がいっぱいあるよ。なんか秘密基地みたいで面白そう」と穴から差し込む陽の光で照らされる部分を見てタケルは興奮気味に言った。
文五郎の手を取りかけた楓はタケルの言ったことを確認すべくダンボールの山を少しずつどけて視界を開き、空洞の中を観察した。
「本当だ本棚と机もあるよ。ちょっと古そうな雰囲気だけど今も誰か使ってるのかな?」
タケルは文五郎に下に降りる許可を得ようとしたがそれより先に文五郎の行動のほうが早かった。
「びっくりした!」と楓の隣に文五郎が降ってきて膝を曲げて衝撃を吸収した。顔に似合わず機敏に動く文五郎に楓はあっけにとられた。
「タケルくんおいで」と地上から降りてくるタケルをキャッチして3人は地下の空洞で集結した。
3人が降りたその空間には電気が通っているらしく明かりを付けて部屋の中を確認した。
部屋の中にあったのは年季が入った木製の焦げ茶色のデスクがあり、光を反射して艷やかに輝き、高級感漂う皮の椅子が一脚ある。そして、それを取り囲むように四角い部屋の四方に天井まで高さのある本棚が3人を見下ろすように鎮座していた。
3人は本棚に丁寧に並べられた本たちを観察している。どうやら本の題名から察するにヴァンパイアに関する文献が並べられているようだった。本棚にある本はどれも分厚い本ばかりでそれらを収納する本棚はやたら重厚感を感じる。
楓とタケルはその分厚い本を数冊本を開いて読んでみるが2,3行読んだところで苦い顔をして本棚に戻した。しかし、文五郎は図鑑のような分厚い本を抱え込むようにして一行一行に視線を這わせるようにして読んでいる。
「これらは僕も読んだことがある内容だな…。もしやするとここはモラドの文献を管理してるところなのかも知れないね」
「そっか、どうりでどれも難しそうで読めないな」
楓は大きなあくびを滲ませて、それはタケルにも伝承する。
「今はこの部屋を使ってる感じはしないね。そもそも本棚に囲まれていてどこが入り口なのかもよくわからないし」と文五郎は3人を見下ろすように取り囲む本棚を見回してから言った。
楓は本棚から離れるようにしておもむろに部屋の中央にぽつねんと鎮座するデスクに近づいた。そしてテーブルの上を指でなぞった。
「いや、今でも誰か使ってるんじゃないかな。テーブルに埃一つ無いよ」
楓にくっついてデスクに近づいていたタケルはそのデスクに備え付けられている一番上の段の引き出しを開けた。
すると、2人が唯一読めそうな薄さの本を見つけた。その本はだいぶ前に書かれた手記なのか表紙が茶色に変色し、紙もだいぶ傷んでシワだらけになっている。
その手記の表紙にはいつの時代に書かれたのかは識別できず、達筆すぎて何と書いてあるか分かりづらいが「日記」という文字は誰が読んでも識別できるほど明確に認識できた。
「誰かの日記だ!」
タケルは分厚い文献を見つけたときとは打って変わって日記を見つけると曇っていた表情から一気に晴れ上がった表情に変わった。
タケルはその日記をテーブルの上に置いた。2人の様子を見た文五郎も熟読していた文献を本棚に戻し、デスクに向かった。
タケルはその日記を勢いよく開いて見開き2ページに書かれている文章を凝視した…。
しかし、所狭しと書かれたその文章は草書体(現代の漢字を崩したようにふにゃふにゃした書き方)になっていており現代の文字しか使ったことがない楓とタケルには数文字程度しか書いてあることを判別することしかできなかった。
「文字がグニャグニャで何書いてあるかさっぱりわからなーい」
「昔の人の字って読みにくいよね」
また、顔をしかめる2人をよそに文五郎は書いてある文字を指でなぞってブツブツとつぶやきながら音読していた。
「文五郎読めんの?」
「うん、なんとなくだけど書いてあることはわかる」
「何が書いてあるの?」と楓は訊ねる。
文五郎はその日記から顔を上げて2人を見た。
「恐らくこれは誰かの日記で間違いないだろうね。それと書かれた日付を見る限りこれは約500年前に書かれたものだ」
すると、前方から牛乳瓶のような分厚いレンズのメガネをかけ、雑草のように不規則な長さに伸ばした髭を蓄えた青年が2人を物珍しそうに見ていた。
「おやや! タケル君ではないか」
「おー。文五郎兄ちゃん」
「会うのは久方ぶりだね。元気だったかい?」
タケルはもちろん!と胸を張って答えると文五郎と呼ばれた青年は満足気にうなずいてから楓の方に視線を移した。
「えっと、そちらの方は?」
「おじいちゃんだよ。さっき友達になったの」
「おじいちゃん?」
文五郎は思わず聞き返した。そして、文五郎は楓のことを舐めるような視線でまじまじと見つめて「白髪…」と顎髭をさすりながらつぶやいた。
「これは失礼」
文五郎は楓から少し距離をとって眼鏡のレンズとレンズを繋ぐブリッジを人差し指で持ち上げてから言った。
「タケルくん。よく訊いてくれ君はとんでもない大物とお友達になったようだ」
「大物?」とタケルが聞き返すと文五郎は楓を指差して鼻息荒くして言った。
「彼は人間とヴァンパイアのハーフなんだ。つまり、噂になっているあの不死身の吸血鬼だ。そして、彼が敵組織の手に渡ればこの世界の吸血鬼と人間の均衡はひっくり返ると言われているこの世界の最重要人物の伊純楓くんだよ」
タケルは「不死身…」「敵組織…」とつぶやいて目を輝かせる。
「すっげぇ! おじいちゃんそんな有名人だったの!」
「え? いや、それは…」
楓が複雑な心境を滲ませているとそんなことはお構いなしと文五郎は着ているよれよれのTシャツで両手を念入りに拭いてから楓に握手を求めた。
「初めまして楓君。僕は佐野文五郎だ。大学院生として歴史の研究をしている。会えて光栄だよ」
楓は求められて握手に応じたると文五郎は細くて骨ばったもう片方の手を添えて両手で握手した。
「ところで2人は何しに行くのかな?」と文五郎が訊くとタケルはボールとグローブを持ち上げて目的を示した。
すると、文五郎はまた眼鏡のブリッジを指で押し上げて不格好なドヤ顔をしてみせた。
「こう見えても僕は元高校球児でね。この右肩で地元を散々沸かせたものだよ」
「嘘だよ。文五郎万年補欠だったって聞いたことあるもん」
「タケルくん…。ま、まあいいさ、せっかくこんなに良い天気なんだ。外遊びを楽しもうじゃないか」
3人はモラド洋館の入り口とは反対側にある裏庭に来ていた。
そこには背の高い木や低い木、様々な樹木が小さな森のように不規則に立ち並び、日の当たる少し開けたところで人間の状態の楓は全身で陽の光を浴びてから、キャッチボールを始めた。
「時に楓君。アガルタというヴァンパイアの地下世界にはいったことがあるかい?」
「あるよ。どうして?」
文五郎は楓にボールを投げる。楓はぎこちない手付きでなんとかキャッチする。
「僕は大学でヴァンパイアの歴史も少し研究していてね、モラド内の文献からも情報を得ているんだ。しかし、今まで様々な文献を読み漁ってきたんだけどあの地下世界がどうやって作られたか記されていなくてね。はるか地下に存在する世界だから普通に考えたら圧力の問題で人間は立ち入れない場所のはずなんだが不思議なことに木材や血液などの物資は当然のように搬入できるということも不思議だ。僕ら人間はアガルタには行けないから、実際に行ってみて何か知ったことはあるかと思ったんだ。…ほら、僕は普段研究で忙しいからあまりヴァンパイアの友人を作る機会がなくてね。君ぐらいしか聞ける相手がいなかったんだよ」
タケルは「ぼっちー」とからかって図星だった文五郎は少し顔を赤らめた。
楓はタケルにボールを投げる。投じられたボールは空中に弧を描いてタケルのグローブに収まった。
「いや、僕もあの世界の成り立ちはよくわからないな。自分がヴァンパイアになるまで存在すら知らなかったし、教えてくれた友達も成り立ちまでは言ってなかったな」
文五郎はタケルから投げられたボールをキャッチしてボールをこねながら言った。
「流石にヴァンパイアたちがシャベルを持って地道に穴を掘って作られたわけではないのはわかっていると思うけど、一説にはヴァンパイアの神による創造だと言われている。まあ、考えてみれば僕らにとってあの非現実的な空間やゲートなどの仕組みを鑑みるに人工的に構築したというのは無理があるし、神という存在を持ち出してもおかしくないと思ったんだけどそんなおとぎ話みたいなことが本当に起こりうるのか信じがたいけどね」
「神…」
楓はその言葉を訊いて頭痛を起こして顔をしかめた。すると、あの時の嫌な記憶を思い出した。それは、フォンツでディアス・アーノルドが楓に言った言葉だった。
「ヴァンパイアの神は人間にこうやって磔にされて実験されたらしいよ。それでバラバラにして殺したとかなんとか言ってたな。昔はヴァンパイアの方が人間より力関係は上だったから生け捕りにでもして鬱憤を晴らしてたのかな? 人間の考えることはよくわかんないや。ま、そんなことはどうでもいいけどね」
(ヴァンパイアの神なんてって本当に存在するのかな?)
楓はその話題について知らないふりをして首を傾げた。
文五郎が楓にボールを投げたが、考えごとをしていた楓の額に当たって楓はよろけた。
「イテッ」
「あ、ごめん」
楓は頭をのけぞらせながら2歩、3歩と後退しているとタケルと文五郎の視界から急に楓の姿が消えた。その代わりに砂煙がだれもいない空間にむなしく漂っている。
「楓くん?」「おじいちゃん?」
ほぼ同時に2人が言ってから楓の元へ駆け寄った。
楓が消えた位置に来てみるとそこにはポッカリと地面に穴が空いていた。それはちょうど人一人分くらいなら容易に入れそうなほどの幅をしている。楓が落ちた穴の中に目を向けてみると楓は落ちた地面の空洞でダンボールがクッション代わりになって、ダンボールの山にうずくまっていた。
「ふう、無事で良かったよ。しかし、楓君はヴァンパイアなのに少しどんくさいね」
文五郎が穴から楓に手を差し伸べる。
穴の深さは楓が地下の空洞に立ち上がっても天井に頭が届かないほどで、穴から手を差し伸べた文五郎の手をギリギリでつかめるほどの深さをしていた。
タケルは文五郎が楓に差し伸べる腕と同じくして穴に頭を突っ込んで地下の空洞を見回した。
「わっ! ここ本がいっぱいあるよ。なんか秘密基地みたいで面白そう」と穴から差し込む陽の光で照らされる部分を見てタケルは興奮気味に言った。
文五郎の手を取りかけた楓はタケルの言ったことを確認すべくダンボールの山を少しずつどけて視界を開き、空洞の中を観察した。
「本当だ本棚と机もあるよ。ちょっと古そうな雰囲気だけど今も誰か使ってるのかな?」
タケルは文五郎に下に降りる許可を得ようとしたがそれより先に文五郎の行動のほうが早かった。
「びっくりした!」と楓の隣に文五郎が降ってきて膝を曲げて衝撃を吸収した。顔に似合わず機敏に動く文五郎に楓はあっけにとられた。
「タケルくんおいで」と地上から降りてくるタケルをキャッチして3人は地下の空洞で集結した。
3人が降りたその空間には電気が通っているらしく明かりを付けて部屋の中を確認した。
部屋の中にあったのは年季が入った木製の焦げ茶色のデスクがあり、光を反射して艷やかに輝き、高級感漂う皮の椅子が一脚ある。そして、それを取り囲むように四角い部屋の四方に天井まで高さのある本棚が3人を見下ろすように鎮座していた。
3人は本棚に丁寧に並べられた本たちを観察している。どうやら本の題名から察するにヴァンパイアに関する文献が並べられているようだった。本棚にある本はどれも分厚い本ばかりでそれらを収納する本棚はやたら重厚感を感じる。
楓とタケルはその分厚い本を数冊本を開いて読んでみるが2,3行読んだところで苦い顔をして本棚に戻した。しかし、文五郎は図鑑のような分厚い本を抱え込むようにして一行一行に視線を這わせるようにして読んでいる。
「これらは僕も読んだことがある内容だな…。もしやするとここはモラドの文献を管理してるところなのかも知れないね」
「そっか、どうりでどれも難しそうで読めないな」
楓は大きなあくびを滲ませて、それはタケルにも伝承する。
「今はこの部屋を使ってる感じはしないね。そもそも本棚に囲まれていてどこが入り口なのかもよくわからないし」と文五郎は3人を見下ろすように取り囲む本棚を見回してから言った。
楓は本棚から離れるようにしておもむろに部屋の中央にぽつねんと鎮座するデスクに近づいた。そしてテーブルの上を指でなぞった。
「いや、今でも誰か使ってるんじゃないかな。テーブルに埃一つ無いよ」
楓にくっついてデスクに近づいていたタケルはそのデスクに備え付けられている一番上の段の引き出しを開けた。
すると、2人が唯一読めそうな薄さの本を見つけた。その本はだいぶ前に書かれた手記なのか表紙が茶色に変色し、紙もだいぶ傷んでシワだらけになっている。
その手記の表紙にはいつの時代に書かれたのかは識別できず、達筆すぎて何と書いてあるか分かりづらいが「日記」という文字は誰が読んでも識別できるほど明確に認識できた。
「誰かの日記だ!」
タケルは分厚い文献を見つけたときとは打って変わって日記を見つけると曇っていた表情から一気に晴れ上がった表情に変わった。
タケルはその日記をテーブルの上に置いた。2人の様子を見た文五郎も熟読していた文献を本棚に戻し、デスクに向かった。
タケルはその日記を勢いよく開いて見開き2ページに書かれている文章を凝視した…。
しかし、所狭しと書かれたその文章は草書体(現代の漢字を崩したようにふにゃふにゃした書き方)になっていており現代の文字しか使ったことがない楓とタケルには数文字程度しか書いてあることを判別することしかできなかった。
「文字がグニャグニャで何書いてあるかさっぱりわからなーい」
「昔の人の字って読みにくいよね」
また、顔をしかめる2人をよそに文五郎は書いてある文字を指でなぞってブツブツとつぶやきながら音読していた。
「文五郎読めんの?」
「うん、なんとなくだけど書いてあることはわかる」
「何が書いてあるの?」と楓は訊ねる。
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