不死身の吸血鬼〜死を選べぬ不幸な者よ〜

真冬

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第83話「宣戦布告」

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「誰でしょ?」と立華は首を傾げ、部屋を出て来客に対応しようとした時、洋館の使用人が前を通った。
「私が対応しますので」
 そう言い残して使用人は小走りで洋館の玄関に向かっていった。
 何人か他の使用人も同じように玄関に向かっておりその中で立華に挨拶をした者が「私が出ます」と数人の使用人を代表して先に出た。

 使用人は玄関に到着し、「はーい」と言いながらドアを開ける。すると、そこには黒いスーツを着たモラドのヴァンパイアがいた。
 使用人はそれを見て「お疲れさまです」と使用人がいつもするように挨拶をしたが返事が返ってこない。それどころが何か違和感がある。顔の大きさの割にスーツがやけに大きくアンバランスだ。
 彼は顔には汗が滲んでおり、指先はしっかりと伸ばしてピタリと太ももに沿わせて姿勢正しく立ち尽くしており、まるで軍隊が返事をするときみたいに視線をやや上方へ向けて声を遠くに飛ばすように大声で言った。

「ルイ様から愚かなモラド諸君に告ぐ! 我々ALPHAはアガルタモラド派のヴァンパイア及び人間の殲滅を開始した。我々の要求は1つ。バスティニアにある城に混血一人で来ること。この要求をのめない限り全滅させるまで血の雨が降り続けるだろう」
 彼がそう言い終わると胸を上下させ、よりいっそう息が荒くなっていると突然、体全身から光を発した。体が風船のように膨れ上がったと思ったら大きな音を立てて破裂する。
 玄関が吹き飛びその正面にいた使用人は上半身と下半身が別れた姿で洋館の中へ戻された。
 近くにいた他の使用人たちの足元に変わり果てた姿の使用人が転がる。使用人全員が全員の悲鳴が広い洋館内に響き渡った。
 爆発四散した、モラドのヴァンパイアの生暖かい血液が近くにいた使用にの顔にべっとりと付着した。

 洋館にいた者が爆発のあったところへ集まった。ヴァンパイアたちは大垣を匿いながら現場に近づく。大垣は助手の工藤にすぐに怪我をしたヴァンパイアや近くにいた使用人に対して治療をするように命じた。工藤は頷き、工藤以外に白衣を着た者たちが怪我をした使用人を連れて医務室へと向かっていった。皆、自分たちの役割を果たそうと動くものの気持ちの整理もつかぬまま慌ただしくしていた。

 その中で鬼竜が言った。
「ルイ、ALPHAのボスか。つまり、これって宣戦布告ってことだよね」
 楓は肩を震わせて拳を握りしめる。
「ひどい…ひどすぎる。ヴァンパイアの命を何だと思ってるんだ。ルイ…許せない」
 宣戦布告、この言葉を訊いてその場にいた者たちはざわつき始めた。その中で、充満した煙を振り払うように京骸は口を開いた。
「騒いでたってしょうがねぇだろ。いずれやんなきゃいけねぇことだったんだ。むしろ、相手からその気になってくれたんだ、好都合じゃねぇの」
 
 大垣は周りが焦る中でも冷静さを保とうとしていた。そして、1つ息をゆっくりと吐いてから言う。
「西園寺の鬼化。あの力を手に入れてALPHAもかなり強気に出ているようだね。 だから、我々に勝てると踏んだのだろう。この宣戦布告もそれを意味している。あくまで推測だがあの力の源は伊純君の父親を確保して得た可能性が高い」
「そんな…」
 楓は血の気が引いていくように顔が青ざめていく。それを見て大垣も楓の気持ちを察して同情するようにゆっくりとうなずいた。
「ヴァンパイアが大きな力を手に入れる時は負の感情のコントロールすることとヴァンパイアの中でも不死身という最も強いエネルギーを手に入れることの2つだ。前者ではあの鬼化をするのに負の感情だけでは限界があると私は考えている。つまり、残る後者の可能性が高いということだよ」
「待ってください。混血をすでに手に入れているなら何故楓を取りに来るんです?」
「鬼竜君がそう疑問に思うのも無理はないね。恐らく、混血一人では不死身の力を手に入れるのに不十分だったか、あるいは違う目的で利用するつもりなのか…。目的はまだ不明だがいずれにせよ、今回の1件で鬼化の次にALPHAが何らかの計画を実行しようとしているのは確かだ」

 そう言ったときだった、爆発で大きく空いた玄関の向こうから慌ただしく洋館の門を開いてこちらへ向かってくるスーツを着たヴァンパイアが見えた。
 連堂は念の為こちらと十分に距離をとった状態で止まるように言った。そのヴァンパイアは爆発で吹き飛んだ玄関を見て驚いた様子だった、それでも急いでいてそんなことは気にしている余裕さえなかった。息を切らしながらなんとか整えて言う。
「大変だ! イゼーリの国王がALPHAに殺された」
 イゼーリとはモラド派の国でALPHAがあるバスティニアの最も近くに位置している。そのイゼーリがALPHAに襲撃にあったとそのヴァンパイアは言った。

 しかし、そういった報告は彼だけではなかった。彼を筆頭にその他にも地下世界アガルタのモラド派の国の被害を報告に来るヴァンパイアたちが大勢洋館に訪れた。その中には烏丸の出身フルーラも含まれていた。そして、大垣のもとにもCATsCEOの西郷からも連絡が届いた。
 内容は全員同じで地下同様に地上でも多くのALPHAのヴァンパイアたちが地上を襲っているという。
 彼らの情報の中にはALPHA上位のヴァンパイアの特徴が報告されており彼らが部隊を率いてモラド派の各国を攻めているという情報だった。
 報告に来るアガルタの各国のヴァンパイアを押しのけてそのヴァンパイアが先頭に立った。慌ただしく息を切らしている。
「ALPHAの各部隊を率いている者が判明しました。地上ではALPHAの忍びことNo.6の桐ヶ谷。暴君のNo.3西園寺。そして、地下では大鎌使いのNo.2パッチ、No.4二重人格のケニー、No.5のA。いずれもルイを覗いたALPHAの上位クラスが率いている様子です。そして、その中には朱色の瞳を持ったヴァンパイア。恐らくは…」

 朱色の瞳、その特徴を備えているヴァンパイアを楓は一人しか知らなかった。
「まさか…」
「あの野郎、裏切りだけじゃなく殺しをやるまでに堕ちたか」
「京骸、どこへ行く」
 連堂は言うと京骸はいつもより更に血走った目で連堂を睨みつけた。今にも目玉が飛び出しそうなほど目を見開いている。
「決まってんだろ、新地を殺す。あいつはモラドとしてゼロの前にも姿を見せている。ゼロにあいつの存在がバレる前にこの手で殺して存在を消す」
 連堂が京骸を止めようと口を開きかけたときだった。
「待ってください!」
「ああ?」
 京骸は進みかけたところを止められてイラついて声のする方を挑むように振り向いた。
「竜太を殺さないでください。お願いします。大切な友達なんです」
 ユキは京骸に頭を下げて懇願した。
「ユキ…」
 楓はユキの懸命な姿に思わず声を漏らした。
 
「京骸さん、勝手なことを言ってるのはわかってます。でも、僕もお願いします。竜太だけは殺さないでください」
 首だけ向けていた京骸は楓とユキの方へ体を向け、挑戦的な視線を楓に向けた。
「わかった。殺さないでやるよ。その変わり…」
 京骸は腰に携えたさやに収まった刀を取り出して楓の鼻先に向けた。触れるか触れないかギリギリのところで切っ先が止まる。
「お前が殺れ」
「…僕が」
「これはお前たちが始めた問題だ。お前が目の前でヤツの裏切りを許した。その友情ごっこに自分で肩をつけろ。それを約束できるなら俺は新地を見つけても見逃す」
 楓はしばらく考え込んだ。その様子をユキは心配そうに見つめている。そして、楓は顔を上げ、京骸の目を見た。
「わかりました。僕が竜太を止めます。たとえ刺し違えても竜太には絶対に罪を償わせます」

 二人の納得したと考えた鬼竜は楓ならそう言いそうだとでも言わんばかりに、何度かうなずいて連堂に言った。
「で、連堂さんこれからどうする?」
 連堂は腕を組んで京骸と楓のやり取りを見ていたが、予め考えていたように鬼竜の問に即答した。
「ひとまず、被害が出ているところを食い止める。相手からこちらに向かってきているんだ、もう準備なんてしてる時間はないALPHAをこの戦いで全滅させる」
「楓は? ALPHAの要求通り一人で敵地に向かわせるの?」
 連堂は首を横に振った。
「伊純はやらない。ルーカスが送っていたスパイの情報では地上に実験施設があると言っていた。まだ、場所はつかめていないがそのスパイとコンタクトを取って場所を暴き次第、実験施設から落とす。そうすれば伊純が仮に奴らの手に渡っても不死身を作り出すことは出来ないはずだ」
「さすが連堂さん頭が切れるね。で、楓はどうしたいの?」
「僕、行きます。ALPHAの城に」
「まあ、そう言うだろうね。竜太も近くにいる可能性が高いし、ちゃんとケジメ付けてこいよ」






 アガルタのモラド派の国シゼリエでは…。
「お前ら! ALPHAのゴミクズ共に屈するな! 何のために今まで鍛えきたのだぁ! 今こそ、我々の筋肉を見せてやれ!」
 複数人の兵士たちが「イエッサー!」と力強く返事を返す中、一人の兵士が全速力で騎士長に向かって走ってくる。
「騎士長! 大変です! すぐそこまでALPHAの上位クラス、ケニーが着ています」
「上等! このシゼリエ騎士長が直々相手…ぽひゅっ」
「騎士長! おぽ…」
 二人の首は針のような細い刀にムチのようにしなる独特な形をした刀でまるで絡め取るように2つの首を落とした。
「首2つぅ、ベロベロバァ~」
 また顔の入れ墨が増えたケニーは地面に落ちた2つの首を鷲掴みしてその首の表情を真似して白目を向いた。マスクの舌では肩を揺らしてケラケラと笑っているようだった。なお、目の焦点はどこか遠くを向いている。
 するとケニーは急に真顔になる。
「ケニー、私達の力で国を取ったんだぞもっと紳士的に喜んだらどうなんだ? 死体の生首のマネなんかしてはしたない」
「ジャックのリアクションつまらないから僕が変わりに喜ぶの」
 子供が拗ねるようにようにケニーは頬を頬を膨らませた。




 アガルタのモラド派の国ビエスタでは…。
「お、おい何だあいつの体」
 ビエスタの兵士の前に経つ者は身長2m以上はありその身長を超えるほどの大きな二枚刃の鎌を持っている。ボサボサの長い髪に細い手足に胴体。まるで体全体も鎌のようだった。その鎌は青く輝いている。
「青だ。俺たち大勢でかかればお手柄だぞ。ビエスタNo1騎士長の私がかかればお前なんて造作もない」
 10人の先頭に立つその騎士長は後方の兵士たちを鼓舞して、全員力を声に込めて割れんばかり音が響く。士気が高まって皆、戦いを待ち望んでいる。
「せめても名前だけは死ぬ前に訊いといてやる。お前、名はなんという?」
「…」
「答えないか。まあいい、我々に出会ったことは不運だったな、お前いい死に方はしないと思え」
「…」
「しゃべれないのか? まあいい、いくぞ、お前ら! あの無口なでくのぼうに無理やり喋らせてやる!」
 10人の兵士は鎌を持つヴァンパイアに向かっていったが、あっけなくその鎌に10個の首が雑草でも刈るように刈り取られた。ビエスタの騎士長含め10人がそれもたった一振りで。
 鎌を持ったヴァンパイアは地面に落ちる10個の首を呆然と眺めた。
「…」




 アガルタのモラド派の国イゼーリでは…。
「国王ぶっ殺したったわ、後はそこらで湧いてる兵士共やで。お? なんか戦えそうなやつおるやん。よっしゃ! あいつに決めよ」
 西園寺が駆け出そうとしたときだった。
「西園寺さん! 西園寺さん!」
「なんやうっさいな、こっちは今集中しとんねん。つまんない用やったら絞め殺すでぇ」
 ALPHAの兵士は走ってきたようゼェゼェと息を切らしている。
「報告します! シゼリエ、ビエスタはケニーさん、パッチさんが制圧した模様です。依然、我々ALPHAが圧倒的に優勢です」
 西園寺は白い歯を見せた。
「あの問題児のケニー、そして気味悪いパッチさんも良うやるやん。さすが、No.4とNo.2やわ俺も負けちゃいられんわ。ますます、気合入るわぁ。これからいっちょかましたるわぁ!」
 西園寺が再び走りだろそうとしたときだった。
「西園寺さん!」
「だから、なんやねんもう。そんな呼び止めてお前、俺に告白でもするんか?」
 兵士は当たり前のように首を横に振って否定した。
「冗談やん。真に受けんなや。真面目か! お前」
「それより、モラドが動き出したようです」
 西園寺はその一報を受けてむしろ嬉しそうに、白い歯を見せて喜んだ。
「そうか。そりゃこれから楽しくなるわなぁ」
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