不死身の吸血鬼〜死を選べぬ不幸な者よ〜

真冬

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第85話「予感」

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 モラドの地上にある洋館ではALPHAの急な宣戦布告という事実を時間と主に今起きていることの重大さを周りも認識し始めて、不安の様子を隠せないでいる。
 その中、鬼竜は少しの戸惑いと期待を込めて楓に言った。
「で、楓はどうすんの? これは楓の戦争だよ」
 楓はこれから向かう場所を自分の意志で決めていた。だから、回答に迷うことはなかった。

「ゼロ本部に向かいます。このままでは人間が全滅してしまう」 
 鬼竜はその答えが返ってくることをまるで予期していたようだった。そして、確かめるように楓に訊いた。
「今行くのはまずいんじゃないの? まだ、ゼロから完全な信頼を得たわけじゃないよ」
 楓は当然そう言われることをわかっていた。それでも、自分の決断を変えるつもりはなかった。
「でも、今はそんなこと言ってる場合じゃないです。ゼロだけの力じゃALPHAには絶対に勝てない。今こそ、力を合わせなくちゃいけないんです」
 楓が言った時、後方にいたユキは二歩ほど踏み出して楓の隣に立った。そして、やや前のめりになって言う。
「私も楓と一緒に行きます!」
「ユキちゃん…。でも、もしゼロが協力しないと言ったらユキちゃんは…」
「でも、楓一人にすべてを押し付けるなんて出来ません。それに人間の私からもちゃんと話し合えばきっとわかってくれるはずです」
 鬼竜はこの一連のやり取りの後、納得したように白い歯を見せて笑みを浮かべた。

「君たちならそういうと思ってたよ。おバカな二人だもんね」
 すると、鬼竜との会話を見ていたルーカスも二人の元へ寄ってきた。そして、コートの内ポケットに手を入れて楓に両手を差し出すように言った。
「持っていけ。俺が今まで愛用していたリボルバーだ。刀一本だけでは心もとない、護身用にな」
 楓の両手にはずっしりとした重厚感のある鉄の塊を両手で大事そうに包み込んで、改めてその重みを感じ取り、スーツの内ポケットにしまった。

 鬼竜とルーカスの後押しがあって、これから出陣といいたいところだったが、全員がその意見に同意するわけではなかった。
「それ本気で言ってるの?」
 洋館の玄関の広場、柱の陰から姿を表したのは美波だった。
六花りつかちゃん」
「鬼竜もルーカスも。二人にちょっと甘いんじゃないの? 私は断固反対よ。この非常事態でそんな一か八かのかけに出る必要はないわ。場合によってはその坊やが脱走したことでゼロを敵に回す可能性だってありえる。たとえ鬼化していても一体ずつ私達の手で倒せば問題ないはずよ。賭けに出るより、まずは目の前の危機を退けるべきだわ」
「でも、あの時の戦いで鬼化したヴァンパイアはゼロのS級よりも力を手に入れているのは確かでした」
 隣で話す楓をユキは見守るように見上げた。ユキを一瞥した美波は再び楓に視線を向ける。
「今まで話し合って解決なんて出来なかったことよ。モラド以外の人間はヴァンパイアってだけで全員敵と考えるんだから」
 美波は腕を組んで、
「それとも何? あなた達が今まで誰もうまくいかなかった『話し合い』とやらでこの世界をまとめられるっての?」



 
「こちらS級多島隊、俺以外の隊員は全員やられた至急応え…」
「多島隊長! こちらコントロール室応答願います。 こちらコントロール室応答願います。こちら…」
「ダメです。通信が切れました。GPSから生体反応を探知していますが、電話の発信源に反応はありません。付近のA級隊員も生体反応が消えました」
「クソ! ゼロの上級隊員が次々とあの化け物共にやられていく。ゼロのトップ鳥田さんでも互角だったのにこのままじゃ勝てるわけがない! おい! こっちではもう持たない、室長に現状を報告してこい!」
「はい!」


「報告します! 東京都南部は殆ど壊滅状態。コントロール室での対応ではこれ以上判断しかねます。大変申し上げにくいのですがもうこれ以上は…」
 近藤はよくセットされたオールバックの頭を掻きむしって少し髪が乱れる。
「ええい、わかっている。ちゃんと手は打つ、さっさと下がれ」
 報告に来た隊員は戸惑いもあったが、それでも一礼をしてから部屋を去った。

 近藤は大きくため息を吐いて、机を挟んで正面に立ち、姿勢正しく敬礼する隊員に視線を向けた。
「で、山本君。君は正気なのか?」
「はい、これが僕らの覚悟です」
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