107 / 126
第107話「京骸、美波VSA、キース『同じ』」
しおりを挟む場所は地上。ルーカスと若松たちが戦いを終えたところにルーカスの腹部を貫く一本の刃をジャンセンは唖然として見つめる。
「ルーカスさん?」
ジャンセンの視界ではルーカスの後ろのべったりと竹岡が張り付いていることを認識したジャンセンは。
「竹岡! 貴様なんのつもりだ」
「…」
竹岡から返事がなかった。竹岡がふざけているのかとジャンセンは竹岡の襟首をさすって応答を要求したが、竹岡はジャンセンに体重を全て預けて力なくもたれかかる。
竹岡の顔は真っ白だった。当然ながらジャンセンの問いかけには答えない。
ジャンセンは疑っていた竹岡から視線を上げてようやく、その刃物を持っているヴァンパイアの正体を突き止めた。
あまりの細さに、後ろに隠れていることがわからなかったヴァンパイア。
「お前は…」
ジャンセンは驚きを隠すことができなかった。なぜなら、その大きな刃物を持っている正体がALPHANo.2のパッチだと思わなかったからだ。
パッチはルーカスと竹岡を貫いた大鎌を引き抜いた。
「ルーカスさん!」
「すまない。ジャンセン、私はここまでのようだ、私としたことが油断したのがいけなかった」
「そんな! まだ助かります。すぐに、医務室に行きましょう」
「いや、いい。それよりもコイツを早く倒せ。私の命よりも優先だ」
現在、モラドと人間の一時的な連合軍とALPHAは最も人間が多く、ゼロの本部がある新宿区を中心に戦っている。
その新宿の喧騒の中、1人のヴァンパイアは今後の自分を左右するであろう選択に迫らられていた。
「た、頼む命だけは、命だけは助けてくれないか」
そのヴァンパイアは刀に映る自分の顔を見てから命乞いをする目の前の人間に視線を落とした。
「やらなきゃ。やらなきゃルイに…いやルイ様に認めてもらえない」
戦争中の東京にさまざまな感情が入り混じるこの空間に、その人間の男の断末魔がその中の一つとして響いた。
刃物が軟弱な人間の肉を貫く感覚を実感したヴァンパイアは人間の男性から引き抜いた刀の見て思わずこぼした。
「俺がヒトを殺したのか」
怯えるそのヴァンパイアの肩を宥めるように掴んだ銀髪のヴァンパイアは言う。
「そうだよ。竜太、君は今ヒトを殺した。僕らの食糧であるヒトを、ね」
人間の血のついた刀を呆然と見つめる竜太にルイは耳元でそっと言葉を放つ。
「君の覚悟はよくわかった。君は僕の大切な仲間だ」
場所は地下通路。京骸と美波は壁を破って最短距離で直進し、楓とケニーの援護に向かっていたが到着した頃にはすでに決着だついた後だった。
「アイツの匂いがまだ残ってるな」
「ねぇ、これ」
美波が京骸に言って地面を指差すとそこには血溜まりと引っ掻き傷のような跡があった。
「これはAの鉄扇で間違いねぇな。モラドの裏切り者を粛清するいい機会だ。てか、おい、美波どうした?」
美波はその引っ掻き傷の近くで隠れるように眠っている少女を見つけた。
「そうだったのね」
「そいつは…」
「最後まで頑張ったわね」
ユキが息をしていないことを確認して、美波はユキの頭を膝の上に乗せて、もう二度と笑うことのない顔にそっと手を乗せる。そして、そっと開いた瞳を閉じた。
「京骸、あの子の匂いがまだ残ってるわ、追いかけましょう」
「ああわかってる。でも、どっちだ、両方から混血の匂いがする」
京骸と美波は目に前に空いた二つの穴はお互いが逆方向に向かって伸びており、その両方からする血の匂いを嗅いでみるが、どちらからも同じ匂いがする。
「きっと、混血の子もケニーとAを相手にしてたなら暴走してたとしても手負いのはずよ」
「すると、こっちの方が臭いが濃いな。いくぞ!」
京骸と美波はしばらく混血の匂いがする方へ走って行った。進行方向には所々引っ掻き傷で壁が破壊された後や、力で強引に道を開通させた大穴など京骸と美波が向かっている先には何者かが存在していることを予期させた。
そして、その先に待っていたのは、
「う~ん、待ちくたびれたよ」
ワイングラスを優雅に揺らしながら赤い液体を口に注ぐキースの姿だった。
「匂いの正体はこれってことね」
キースはそのグラスを得意げに揺らして中の赤い液体を波立てている。
「お前はあの時、殺ったはずだが?」
キースは悠然と口元のよく揃えられた髭を指の腹でそっと撫でてから言った。
「我々の技術は君たちが仲良しごっこをしている間に日々進歩していてね。見ての通りその恩恵にあずかったというわけさ」
キースは両手を広げ自分が健康な姿になっていることを余計なほどにアピールする。
「この死にぞこないが。混血はどこへやった」
「さあ? どこだろうね。今頃、我々のために尽くしてくれていることだろうけどねぇ。追いかけるというなら、私たちを倒してからということになるけどねぇ」
「あなたたちはあの坊やをどうするつもり?」
京骸と美波の先にはキース1人だったが、「あなたたち」という言葉に反応してキースの裏にある破壊され、洞窟のような状態になっているところの影から目元を布で覆ったヴァンパイアは、鉄扇を手の平で叩きながら存在がバレたことをさもおかしなように出てきた。そして、言う。
「混血はこれからルイ様のために死ぬ」
京骸と美波はようやく出てきたかというような表情で暗闇から出てきたそのヴァンパイアに視線を送る。
「よお、A久しぶりじゃねぇの。交流会以来だっけか? 何年前だかもう忘れたけどよ」
面識のありそうな口調の京骸だったが話しかけられたAは表情一つ変えることなく昔の記憶を辿るようにして続けた。
「そうか。そうだったな。お前たちに会うのは久しい。しかし、せっかくの再会を楽しみたいところだが、今日でお前たちと会うのは最後になるだろうから昔のよしみとしてお前たちの質問に答えてやるよ」
「ほお、それはありがたいね」
Aは持っていた鉄扇を開いて、扇の形に広げた。
「混血の血を飲んでも不死身にはなれない。それは、我々が捕えたもう一体の混血から明らかになったことだ。でもな、俺たちALPHAにはこの混血の血を使って普通のヴァンパイアでも不死身になれる装置を開発した。ルイ様はそれを使って永遠の命を手に入れるおつもりだ」
「全く悪趣味ね。その生命力ももっと違う使い方ができたらいいのに」
「美波、お前たちは混血をこれが混血の存在意義なんだよ。今まで劣勢を強いられてきた我々ヴァンパイアがようやく優位に立つチャンスであり、死の恐怖を克服したヴァンパイアは地上でも昼夜構わず活動できる。地下でこっそり生きていくことなく地上も支配することができる。悪いことはいわねぇ、お前たちもこっちへ来いモラドなんかで叶うはずもねぇ仲良しごっこしてるよりよっぽど現実的だろ」
美波はAの発言に呆れたようにため息を漏らした。
「地上を見て言ってるのかしら? あなたの言う叶うはずのないことが今、実現しそうな状況なのよ」
「あんなのは人間どもが自分達の身を守るために一時的に協力してるだけにすぎない。人間とはそういう自分勝手な生き物だからだ。っつてもな、せっかくお前らにチャンスを与えたんだがな。そっちがその気ならしょうがない」
Aは扇に広げた鉄扇を顔の前で広げ、隣に立つキースは腰に携えていた針のように先の尖った細い剣を抜く。そして、Aの鉄扇とキースの剣は青緑に光る。
「俺はAをやる。お前はキースだ」
美波は頷き、青緑に輝く短剣と小型のピストルでキースと応戦する。そして、京骸はAが鉄扇から放つヴェードの衝撃波を刀一本で受け流していく。そして、あっという間にAとの間にあった距離を縮め直接鉄扇と青く輝く刀で交わる。
「やっぱりお前の方がヴェードも力も強いな」
「そうかよ。今、負けを認めれば腕2本で許してやる」
京骸がAの鉄扇を振り払って腕を切断しようとした時だった、横の壁にヒビが入りやがて破壊された。京骸はAの腕を切り落とすことができずに飛んでくる壁の破片を回避するしかなかった。
そこから現れた人物にその場にいた全員の視線が集まった。
「なるほどね」
Aは笑い、キースは眉を上下して余裕の表情を見せつける。
顔が左右非対称で溶けたように歪んだ鼻や目、そして自分の体と同じくらいの大きさの大きな鎌。そのヴァンパイアの体は◯の下に「大」を描くような棒人形のような体をしている。
「パッチさんやったんですね?」
Aはパッチに問いかけるとパッチは頷く。そして、そのパッチと刀を交えているが圧倒的に劣勢に立たされているジャンセンは京骸と美波を見つけるとすぐに叫ぶように言った。
「大変です。ルーカスさんと連堂さんがパッチにやられました」
やや時間があってから京骸が答える。
「それは本当なのか?」
ジャンセンは頷く。
「連堂もルーカスもやられただと? モラドのNo.2とNo.5だぞ」
Aは京骸の方に視線を送った後、わざとらしくパッチに言った。
「パッチさんさすがです。私たちはパッチさんならやってくれると信じていました」
「…」
何も喋らない。
ヴェードはジャンセンが緑、パッチが紫。2ランクも違いがあるのに未だジャンセンが無事でいられるのは連堂がパッチにつけた傷が深く、まだ治癒していないためだった。そのため、パッチの動きも連堂と戦っていた時より足を引きずりながら戦っているためかキレが落ちている。
「連堂、ルーカス。お前たちの戦いは無駄じゃなかったって証明してやらないとな。天国に言ったあいつらが報われねぇ」
京骸はもう片方の腰に携えていた刀を抜いて脱力したように腕をぶら下げ、刃を地面につけた。そして、引きずりながらパッチの元へと歩いて近づいてゆく。
パッチは弱ったジャンセンを蹴り飛ばし、京骸の方へ構えた。京骸との戦闘に備えた。
パッチは言葉として意味をなさない音を叫びながら京骸に向かっていった。
しかし、結果はあっという間についた。そして、結論から言えばパッチは京骸に3枚におろされた。
京骸の早すぎる剣技に誰も目が追いつかず、気がついた時にはパッチの体が3分割されていた。
パッチの質量がほとんどない体は枝葉が地面に落ちるが如く、音もなく崩れていった。No.2のなんともあっけない最期。あまりの早期決着に唖然とするジャンセン。
「あーあ、パッチさん。深手を負いすぎですね。ここまで追い詰めた連堂もさすがと言ったところ」
「A、次はお前だ」
「そうだな。でも、今の俺はお前と対等、いやそれ以上に戦える力を持ってる」
Aは首を左右に曲げて音を鳴らして、準備万端といったような様子だった。
それから、Aの額からは2本のツノが生えてから唸り声を上げて身体中の血液が沸騰しているかのように皮膚が上下に波打っているとその泡は背中に集まって、Aの皮膚を突き破った。
Aの背中からは羽の骨組みのようなものが背中の皮膚を突き破って出てくる。その鉄の骨組みは、しなるように振るうとAの体が宙に浮いていた。
「京骸、どこからでもかかってこい。元モラドのヴァンパイアとして語り合おうじゃないか」
0
あなたにおすすめの小説
少年神官系勇者―異世界から帰還する―
mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる?
別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨
この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行)
この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。
この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。
この作品は「pixiv」にも掲載しています。
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する
namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。
転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。
しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。
凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。
詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。
それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。
「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」
前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。
痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。
そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。
これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。
ふとした事でスキルが発動。
使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。
⭐︎注意⭐︎
女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる