不死身の吸血鬼〜死を選べぬ不幸な者よ〜

真冬

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第116話「レオ」

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 「モラド洋館の地下の書庫に眠る、大垣佐之助の日記について楓君にも教えておこうか」




 私の一族。大垣一族は皆、医者だった。
 私の先祖大垣佐之助もまた将軍様に使える有名な医者として巷では有名な名医だったと聞いている。

 時は戦国時代まで遡る。
「佐之助。今日も勝ってくる、戻ってきたら祝杯をあげよう」
 私、佐之助が使える将軍様も明るく気さくな性格でその将軍様に使える武士や将軍様が出身の村の農民たちからは英雄のような存在だった。

 しかし、その将軍様がある戦争に出て重傷を負って帰ってきた。
「将軍様、お怪我が」
「なに、こんな傷1日休めば元通りだ。それに、お前がいるんだ佐之助。わしは安心して怪我を負っても帰ってこれる」
 私はひどく出血をして熱を出している将軍様に横になるように伝えて治療にあたった。
「なあ、佐之助。わしはこの怪我を治したらお前と一杯やりたい」
「私もです。将軍様、絶対に治してみせます」

 しかし、将軍様の願いは叶わぬものとなった。私も最善を尽くして将軍様の命を救おうと治療にあたったが帰還された段階から怪我はひどく、将軍様の命を救うことはできなかった。
 将軍様を慕っていた武士や農民たちはその悲しみを全て私にぶつけるように将軍様の死は私のせいだと言った。治療の現場を見ていないのにもかかわらず皆私がわざと将軍様を殺したと噂を流し、その噂は噂を呼び、私のことを周りの者はヤブ医者と罵り、挙げ句の果てには人殺しと呼んだ。
 
 その時から、私の周りから味方は全て消え全員が敵になった。
 私は将軍様殺害の罪として将軍様の村の農民や武士たちに拘束されて、ある山に連れられそこで一生暮らすように命じられた。

 私はその山に追放されて、自らの力で下山しようと試みたが、置いて行かれたところは山の頂上であり、頂上から私がいた村や、他の村がないか見渡してみるが青く茂る木々と空を除けばその他には何も見えなかった。

 今日中に下山することは無理だろう。そう思い、まず水があるところを目指してひたすら歩いた。歩いているとついに小川を見つけ、その小川から古びた布のようなものが川上から流れてくる。
「誰か住んでいるのかもしれない」
 そう思って私は川上を目指してさらに歩いくと、ある集落のような民家がいくつか集まったようなところに出た。誰か住んでいないかその民家を覗いてみたが屋根も痛んでおり、誰かが住んでいる気配は全くしない。

 たまたま、入った民家の崩れかけている木製の机の上に一冊の書物が置いてあるのを見つけた。
「山神村…」
 その古びた書物の表紙にはその文字だけがくっきりと読むことができた。それ以外は時が立って劣化して読めない状態だった。
 私はこの村のことを風の噂程度だが聞いたことがあった。
 山神村とははるか昔にある山の中で栄えていたと言われている村で、その山が八代山と呼ばれている。ということは、この書物から今私がいるこの山は八代山であることがわかった。
 
 八代山での噂は遠く離れた場所に住んでいる私たちでも恐れていてほとんど近づかない所だ。というのも、八代山に行った者は絶対に帰ってこない。だから、八代山にはバケモノが住んでいるという噂が立っているからだ。
 八代山はここらへんでは最も大きな山で自力で下山するには一日二日ぐらいでは到底不可能だ。しかし、元々誰かが住んでいたところ。何か役に立つものがあるかもしれない。そう期待して、私は崩れかけている民家の中を探してみるが、これと言って役に立ちそうな物は見つからなかった。
 
 そして、家々が立ち並ぶ集落のさらに奥にある石段が続いて、急な勾配の階段が私の目に入った。
 長年誰も手入れしていないためその石段は苔で覆われており、石段の両端はそれを感じさせるほど、成長した木々が行手を阻んでいるため手でかき分けながらでないと進めない感じだった。
 普通に考えればわざわざその石段を登る必要はなかったのだろう。しかし、私は何か取り憑かれたように、覆茂った木々を手で退けながらゆっくりと一段ずつ登って行った。

 石段を登り切るとそこにはお寺のような建物が一つ立っていた。境内を見渡してみるとその他の建物はないように思える。時が立って苔が生えているが、しっかりと砂利の敷かれた立派な寺だった。

 私は恐る恐る、そのお寺に近づいて木製の格子状の窓から建物の中を覗いた。すると、薄暗い建物の中には棺のようなものが一つ置かれているだけだった。
 辺りは薄暗くなってきており、私は興味本位で建物の中に入り、その棺の近くまで歩を進めた。

 私はその棺に手をかけてゆっくりと蓋を開けた。すると、そこには1人の20歳くらいの白髪の青年が眠っていた。手を組んでまるで生きているみたいに綺麗な顔をしている。
 そして、驚いたことにその白髪の青年は瞼を少し動かした。驚いて私は手に持っていた蓋を落としてしまい、大きな音が立ってその青年は目を覚ました。すると、その青年は言葉をしゃべった。

「ここは…? 私はどれだけ眠っていたのか」
 青年は辺りを見回してから次に私に視線を向けた。
「今は西暦何年だ?」
「1666年」
 その青年は目を見開いて驚いた。そして、急いで再び辺りを見回した。
「そうか。だから、こんな草木が伸びているのか。もう200年が経ったのか」
「200年!? あ、あの君は何者なんだ?」
 空は薄暗くなる。太陽が地上から姿を消し始めたことを意味していた。遠くで光を放つ太陽の光が僅かに届いて、私は目の前にいる青年の変化を目の当たりにした。
「私は人間でもあり、ヴァンパイアでもある。両方の生を司る混血。名はレオだ」
 レオと名乗った青年は緋色の瞳と牙を持つヴァンパイアの姿に変化した。その姿に私は当然驚いた。ヴァンパイアなんてまだこの世に存在するなんて思わなかたからだ。
 1543 年の鉄砲の伝来に伴って、人間の武器は発達し、ヴァンパイアはこの世界から姿を消したはずだったからだ。

 もし、本当のヴァンパイアだったら人間の血を吸うのだろうか。そしたら、私はここで死ぬ。もはや、自分の命なんて無くなっても構わないと思っていた。もはや誰からも必要とされないこの命、この世界に嫌気がさしていた。
 しかし、このヴァンパイアは私を襲うどころか、久しぶりに会った人間として友好的に接してきた。

 その時にレオは私に混血が存在する理由について教えてくれた。
 レオの話はこうだ。
  
 昔、争いの絶えぬ世界で人間を創造した神とヴァンパイアを創造した神は禁断の恋に落ちた。そこで生まれ落ちたのが混血の存在であり、レオの先祖でもあると語った。混血が誕生した理由は絶えぬ人間とヴァンパイアの争いに終止符を打つこと、それが生まれてきた理由だと語った。そのせいか、無限に与えられた生命のエネルギーを宿し、不死身の存在になったという。 
 初めは信じられない話だと思ったがレオの話を聞いていると確かに200年前の時代に起こったことやレオが眠っていた200年間に起こった出来事について聞いてみたが彼の発言からは200年分の内容がごっそり抜け落ちていた。

 それでもまだ、レオのいうことを信じるのは医者として信じがたかった。本当に混血という存在は不死身の力を持っているのだろうか? 半信半疑でレオの話を怪訝に思い聞いていると、それを察したのかレオは地面に落ちている太く尖った木の枝を手に取った。そして、私の目の前でその木の枝を自分の胸に刺した。
 驚くべきことにレオは血が噴き出したものの、何事もなかったかのようにその木の枝を胸から引き抜いて、私に不死身であることを証明して見せたのだ。

「私たちヴァンパイアはまだ生きている」
「生きてる? どこで?」
 レオは地面を指差した。
「地下?」
「そうだ。私たちは人間との戦いに敗れて以来、地上に出ることはほとんどなくなった。人間の目撃情報がでないように、この八代山に訪れた人々を襲って血を吸って生きながらえているものもいるが」

 レオは遠くを見つめた。視線の先には数人の人影が見えた。徐々に近づいて来てそれらが全員ヴァンパイアであることを私は受け入れざるを得なかった。
 日も暮れた闇の中に、緋色に光瞳をいくつも見たからだ。

 そして、その中の1人が言う。
「地下の光が強くなったと思ったら、ようやくお目覚めになったのですね、レオ様」
「この人間が私を眠りから覚ましてくれた。だから、この人間は襲わないでやってくれるか、私の恩人でもあるんだ」
 レオがそう言うと、現れた数人のヴァンパイアたちはなんの疑いもなく頷いた。

 レオは混血のヴァンパイアとして、ヴァンパイアたちが住むと言う地下世界を治めているらしい。
 それほど、混血という存在の力は大きいということなのだろう。
 それ以来、私はレオと友好関係を築いた。いや、この孤立した空間の中で話せる者はレオぐらいしかいなかったからだろう。
 
 ただ、レオが心を許せばそのほかのヴァンパイアも私に気を許してくれるものも多かった。初めは人間とヴァンパイアという距離感ではあったが、その距離もレオのおかげで徐々に縮まっていた。
 混血とは、人間と吸血鬼をつなぐ希望であると、この時、目の前で私は理解した。

 
 
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