エスとオー

ケイ・ナック

文字の大きさ
6 / 21

トラック野郎

しおりを挟む
「おまえ、トラックに乗るんやて?」
次の週には、もう江洲田の耳にも入っていた。

「あぁ、外回りは、前からやってみたかった仕事やからな」とオレは答えたが、まだ少し未練みれんが残っていた。

敏感びんかんな江洲田は、すぐに何かをさっしたのか、
「そやけど、あまり気乗りしていないみたいやけど」と言った。

オレは今のバイトのことを江洲田に話した。

八木さんへの思いを人に話したのは、初めてだった。

「でも、その人、彼氏いるんやろ? だったら惚れても仕方ないんとちゃうかな?」

確かにそうなのだ。
こんなこと、いくらうじうじ考えていても、何も答えは出ない。

しかし、答えが出ないからこそ、引きずってしまうのだ。

好きになった人には、恋人がいた。
こんな経験をしたことのある人は、きっと今のオレの気持ちを理解してくれるだろう。

「こんな時、おまえならどうする?」と江洲田に聞いてみた。

「オレには分からんわ。そんなシチュエーションになったことがないからな」

そりゃそうやろ。
毎日、家族とべったりじゃ、誰とも出会うわけないよな。
お前に相談しても仕方ないよな。

オレはふぅーっと、タバコの煙を吐き出した。




二週間後、オレはトラックに乗っていた。

荷物の積み降ろしは大変だったけど、ひとりで車を運転するのは楽しかった。

自分の車を持っていないオレにとって、ひとりで走るのは、とても新鮮だったのだ。

そして、新しい仕事を覚えることにエネルギーを使っていたので、ほのかな恋心はいつの間にか霧消むしょうしていった。


新しい職場は、おじさんばかりだった。

その中でも、四十歳の森さんは、親切にいろいろ教えてくれた。

「おい中村、オレのやることをちゃんと見て覚えろよ。でないと怪我けがするからな」

森さんは、痘痕あばた顔で、もじゃもじゃのパーマをあてていた。

一見、怖そうだけど、話して見ると、とても親しみやすい先輩だった。

「ええか、重い荷物を持ち上げる時は、ひざを曲げるんやぞ。でないと腰を痛めるからな」

「はあ、なるほど。はい、気をつけます」



しかし、それにしてもこの職場は、女気がない。

ひとりだけ鈴木さんという、事務員の女性がいたけど、ひとまわり以上、年上だったので、あまりオレの心はときめかなかった。

でも、鈴木さんも、オレにいろいろと世話を焼いてくれた。

「中村くんはひとり暮らしなん? ちゃんと食事してるの? 栄養を考えて、しっかり食べんとあかんよ」

鈴木さんは、三十代半ばだったけど、髪を綺麗にセットして、化粧もきっちりしていて、いつも女の色気をぷんぷんさせていた。

けっこうつやっぽく、のちにオレにも色目を使ってくるのだけど、その頃のオレからすれば、普通のおばさんでしかなかった。


会社内に、若い女性がいないのなら、あとは、配送先の女の子と仲良くなれるのを期待するしかなかった。

この会社は確かに女気はなかったけど、配送の仕事は自分に合う、とオレは思った。

ある程度、車を飛ばして、それなりに急がなければならないけど、自分のペースでやれることが嬉しかった。

「金をめて、車でも買うか」
ひとりの車内で、オレはそんなことを言ってみた。




「中村、新しい仕事にはもう慣れたか?」
休日、オレは王崎の家にいた。

壁も床もピカピカだった。
たぶん定期的に張り変えるのだろう。

オレの住んでるアパート、(みのついた壁、ギシギシ音のする床)とは、大違いだった。

「あぁ、だいぶ慣れたと思うわ。自分でペースをはかる余裕も出てきたし」
と、オレは笑顔で答えた。

「そうか、そりゃ良かったな」
王崎もほっとして、笑った。

今日は、王崎の彼女、ユキが来る予定だった。

もうそろそろ帰ろうかと思っていたら、
「おまえ、彼女できたか? まだなら、誰か聞いといたろか?」と王崎が言った。

「ええっ、まじか? あぁ、誰か紹介してくれたら、ほんま嬉しいわ」
オレは心の底から喜んだ。

「ほんなら、今日ユキに聞いとくわ」

オレは少し希望がいてきた。

覚えたての仕事は、それなりに楽しかったし、これで彼女なんかできたら、もう最高だろうと思った。

ユキは小柄だけど、そこそこの美女である。
そのユキの知り合いなら、たぶん・・・。

これはほんとに、車を買うことになるかもしれない。

タクトでの帰り、オレはずっとにやけていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

処理中です...