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トラック野郎
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「おまえ、トラックに乗るんやて?」
次の週には、もう江洲田の耳にも入っていた。
「あぁ、外回りは、前からやってみたかった仕事やからな」とオレは答えたが、まだ少し未練が残っていた。
敏感な江洲田は、すぐに何かを察したのか、
「そやけど、あまり気乗りしていないみたいやけど」と言った。
オレは今のバイトのことを江洲田に話した。
八木さんへの思いを人に話したのは、初めてだった。
「でも、その人、彼氏いるんやろ? だったら惚れても仕方ないんとちゃうかな?」
確かにそうなのだ。
こんなこと、いくらうじうじ考えていても、何も答えは出ない。
しかし、答えが出ないからこそ、引きずってしまうのだ。
好きになった人には、恋人がいた。
こんな経験をしたことのある人は、きっと今のオレの気持ちを理解してくれるだろう。
「こんな時、おまえならどうする?」と江洲田に聞いてみた。
「オレには分からんわ。そんなシチュエーションになったことがないからな」
そりゃそうやろ。
毎日、家族とべったりじゃ、誰とも出会うわけないよな。
お前に相談しても仕方ないよな。
オレはふぅーっと、タバコの煙を吐き出した。
二週間後、オレはトラックに乗っていた。
荷物の積み降ろしは大変だったけど、ひとりで車を運転するのは楽しかった。
自分の車を持っていないオレにとって、ひとりで走るのは、とても新鮮だったのだ。
そして、新しい仕事を覚えることにエネルギーを使っていたので、仄かな恋心はいつの間にか霧消していった。
新しい職場は、おじさんばかりだった。
その中でも、四十歳の森さんは、親切にいろいろ教えてくれた。
「おい中村、オレのやることをちゃんと見て覚えろよ。でないと怪我するからな」
森さんは、痘痕顔で、もじゃもじゃのパーマをあてていた。
一見、怖そうだけど、話して見ると、とても親しみやすい先輩だった。
「ええか、重い荷物を持ち上げる時は、膝を曲げるんやぞ。でないと腰を痛めるからな」
「はあ、なるほど。はい、気をつけます」
しかし、それにしてもこの職場は、女気がない。
ひとりだけ鈴木さんという、事務員の女性がいたけど、ひとまわり以上、年上だったので、あまりオレの心はときめかなかった。
でも、鈴木さんも、オレにいろいろと世話を焼いてくれた。
「中村くんはひとり暮らしなん? ちゃんと食事してるの? 栄養を考えて、しっかり食べんとあかんよ」
鈴木さんは、三十代半ばだったけど、髪を綺麗にセットして、化粧もきっちりしていて、いつも女の色気をぷんぷんさせていた。
けっこう艶っぽく、後にオレにも色目を使ってくるのだけど、その頃のオレからすれば、普通のおばさんでしかなかった。
会社内に、若い女性がいないのなら、あとは、配送先の女の子と仲良くなれるのを期待するしかなかった。
この会社は確かに女気はなかったけど、配送の仕事は自分に合う、とオレは思った。
ある程度、車を飛ばして、それなりに急がなければならないけど、自分のペースでやれることが嬉しかった。
「金を貯めて、車でも買うか」
ひとりの車内で、オレはそんなことを言ってみた。
「中村、新しい仕事にはもう慣れたか?」
休日、オレは王崎の家にいた。
壁も床もピカピカだった。
たぶん定期的に張り変えるのだろう。
オレの住んでるアパート、(染みのついた壁、ギシギシ音のする床)とは、大違いだった。
「あぁ、だいぶ慣れたと思うわ。自分でペースを計る余裕も出てきたし」
と、オレは笑顔で答えた。
「そうか、そりゃ良かったな」
王崎もほっとして、笑った。
今日は、王崎の彼女、ユキが来る予定だった。
もうそろそろ帰ろうかと思っていたら、
「おまえ、彼女できたか? まだなら、誰か聞いといたろか?」と王崎が言った。
「ええっ、まじか? あぁ、誰か紹介してくれたら、ほんま嬉しいわ」
オレは心の底から喜んだ。
「ほんなら、今日ユキに聞いとくわ」
オレは少し希望が湧いてきた。
覚えたての仕事は、それなりに楽しかったし、これで彼女なんかできたら、もう最高だろうと思った。
ユキは小柄だけど、そこそこの美女である。
そのユキの知り合いなら、たぶん・・・。
これはほんとに、車を買うことになるかもしれない。
タクトでの帰り、オレはずっとにやけていた。
次の週には、もう江洲田の耳にも入っていた。
「あぁ、外回りは、前からやってみたかった仕事やからな」とオレは答えたが、まだ少し未練が残っていた。
敏感な江洲田は、すぐに何かを察したのか、
「そやけど、あまり気乗りしていないみたいやけど」と言った。
オレは今のバイトのことを江洲田に話した。
八木さんへの思いを人に話したのは、初めてだった。
「でも、その人、彼氏いるんやろ? だったら惚れても仕方ないんとちゃうかな?」
確かにそうなのだ。
こんなこと、いくらうじうじ考えていても、何も答えは出ない。
しかし、答えが出ないからこそ、引きずってしまうのだ。
好きになった人には、恋人がいた。
こんな経験をしたことのある人は、きっと今のオレの気持ちを理解してくれるだろう。
「こんな時、おまえならどうする?」と江洲田に聞いてみた。
「オレには分からんわ。そんなシチュエーションになったことがないからな」
そりゃそうやろ。
毎日、家族とべったりじゃ、誰とも出会うわけないよな。
お前に相談しても仕方ないよな。
オレはふぅーっと、タバコの煙を吐き出した。
二週間後、オレはトラックに乗っていた。
荷物の積み降ろしは大変だったけど、ひとりで車を運転するのは楽しかった。
自分の車を持っていないオレにとって、ひとりで走るのは、とても新鮮だったのだ。
そして、新しい仕事を覚えることにエネルギーを使っていたので、仄かな恋心はいつの間にか霧消していった。
新しい職場は、おじさんばかりだった。
その中でも、四十歳の森さんは、親切にいろいろ教えてくれた。
「おい中村、オレのやることをちゃんと見て覚えろよ。でないと怪我するからな」
森さんは、痘痕顔で、もじゃもじゃのパーマをあてていた。
一見、怖そうだけど、話して見ると、とても親しみやすい先輩だった。
「ええか、重い荷物を持ち上げる時は、膝を曲げるんやぞ。でないと腰を痛めるからな」
「はあ、なるほど。はい、気をつけます」
しかし、それにしてもこの職場は、女気がない。
ひとりだけ鈴木さんという、事務員の女性がいたけど、ひとまわり以上、年上だったので、あまりオレの心はときめかなかった。
でも、鈴木さんも、オレにいろいろと世話を焼いてくれた。
「中村くんはひとり暮らしなん? ちゃんと食事してるの? 栄養を考えて、しっかり食べんとあかんよ」
鈴木さんは、三十代半ばだったけど、髪を綺麗にセットして、化粧もきっちりしていて、いつも女の色気をぷんぷんさせていた。
けっこう艶っぽく、後にオレにも色目を使ってくるのだけど、その頃のオレからすれば、普通のおばさんでしかなかった。
会社内に、若い女性がいないのなら、あとは、配送先の女の子と仲良くなれるのを期待するしかなかった。
この会社は確かに女気はなかったけど、配送の仕事は自分に合う、とオレは思った。
ある程度、車を飛ばして、それなりに急がなければならないけど、自分のペースでやれることが嬉しかった。
「金を貯めて、車でも買うか」
ひとりの車内で、オレはそんなことを言ってみた。
「中村、新しい仕事にはもう慣れたか?」
休日、オレは王崎の家にいた。
壁も床もピカピカだった。
たぶん定期的に張り変えるのだろう。
オレの住んでるアパート、(染みのついた壁、ギシギシ音のする床)とは、大違いだった。
「あぁ、だいぶ慣れたと思うわ。自分でペースを計る余裕も出てきたし」
と、オレは笑顔で答えた。
「そうか、そりゃ良かったな」
王崎もほっとして、笑った。
今日は、王崎の彼女、ユキが来る予定だった。
もうそろそろ帰ろうかと思っていたら、
「おまえ、彼女できたか? まだなら、誰か聞いといたろか?」と王崎が言った。
「ええっ、まじか? あぁ、誰か紹介してくれたら、ほんま嬉しいわ」
オレは心の底から喜んだ。
「ほんなら、今日ユキに聞いとくわ」
オレは少し希望が湧いてきた。
覚えたての仕事は、それなりに楽しかったし、これで彼女なんかできたら、もう最高だろうと思った。
ユキは小柄だけど、そこそこの美女である。
そのユキの知り合いなら、たぶん・・・。
これはほんとに、車を買うことになるかもしれない。
タクトでの帰り、オレはずっとにやけていた。
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