勇者の保護者を辞めた賢者のセカンドライフは没落貴族の再建教師 〜引退賢者は100歳年下の貴族令嬢と共に内政復興を楽しむ〜

夢幻の翼

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第30話 条件魔法

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 魔獣肉の保存食構想は思いのほか、順調に話は進んだ。実験結果を受けてセシリアが父である男爵に報告したことによりギルドとの交渉がスムーズに進んだ為である。当初は確保することが困難だった魔獣の討伐隊費用も俺がゼオン侯爵に直談判するという脅しをかけて確保し、ギルドに所属する傭兵を雇う算段までついていたのだ。

「――本当にありがとうございました。まだ、始まったばかりですが、少しずつ改善の兆しが見えてきたように思います」

 ドンスタン男爵は今回の件を受けて俺を食事に呼び、その場で深い感謝の意を伝えてきた。もちろん本当にまだスタートラインに立ったばかりなのだが、全く先が見えずに没落していくだけだった男爵家に希望が見えたのだ。彼の喜びようは並々ではなかったようだ。

「グラン先生。今日は何を教えてくださるのですか?」

 セシリアも魔獣退治の一件から魔法習得に一層時間を割いて精力的に教えを乞うようになった。今回の件で作った魔力回復の料理に加えて俺からの魔力移譲によってセシリアの魔力量は当初の三倍を超えるほどに成長していた。

「そうだな。魔力量も順調に増えていることだし、そろそろ次の段階に進んでも良いかもしれん」

「次の段階とは何でしょうか?」

「以前、教えたのは『魔法の融合』だ。これは二つの違う属性魔法を融合することで全く別の魔法に組み替えることが出来るものだ。今回は『条件魔法』と言って一つの魔法を繰り返し発動させたり、二つ以上の魔法を続けて発動させるといったものだ。言っている事は分かるか?」

「えっと、同じ魔法を何度も発動させるという意味は理解出来ますが、別の魔法を連続発動させるって言葉の意味はともかくそんなことが可能なんですか?」

 セシリアは頭の中で理解しようと指を宙でくるくると回しながら考えているようだ。

「簡単だとは言わないが出来るぞ。この魔法は凄く便利で一人で旅をしていた時に思いついて開発した魔法なんだ」

「え? グラン先生が新たに作った魔法なのですか?」

「少し違うが、まあそうとも言えるな。俺が開発したのは魔法と魔法を繋ぐ魔法を作っただけだ。なんだか早口言葉のようだが、そういうことだ」

「魔法と魔法を繋ぐ魔法……。出来れば見せて頂けませんか?」

 気になることがあればすぐに接したくなるのが魔導士の性だ。もともと魔法に才能のあったセシリアは何でも吸収しようと顔を俺の目の前に持って来て懇願する。

「いいぞ。まずは繰り返しの魔法だ」

 俺は魔法鞄から食材を取り出してまな板の上に置く。本来ならば包丁で切っていく作業をするのだが、その作業を魔法で代用することにしたのだ。

「基本は風魔法だ。もちろん威力を相当抑えないと素材肉だけじゃなくまな板も真二つだぞ」

 俺はそう説明をして風魔法を準備する。そして魔法を保持している間に別の魔法の準備をしたのだ。

「これが、魔法を繋げる魔法だ。こいつをホールドさせた風魔法に合成させる。すると……見てな」

 ――スパン。スパン。スパン。

 それほど速い連続性ではないが、素材肉を一枚ずつ薄切りに刻んでいく魔法が確かに起動した。

「これが連続する魔法だ。一応言っておくが、切る素材が無くなった時点で魔法は解消されるといった指示も含まれている。自動料理魔法の一部として使えば非常に便利なものだぞ。あ、切っている魔法を触ろうとするなよ。下手したら手も刻まれる可能性があるからな」

「え? それは早く言ってくださいよ。危なく近くで観察しようとしたじゃないですか!」

 近くで魔法を観察しようとしていたセシリアが非難の声を上げながら後ろに飛び退いた。やがて魔法は素材肉を切り終わるとその効力が消えてなくなるとそこには綺麗に薄切りにされた肉が並べられていた。

「どうだ? 魔法とは面白いものだろ?」

「そうですね。こんな使い方は聞いた事もありませんでした」

 感心しながら感想を言うセシリアに俺は魔法の楽しさを説いてやる。

「魔法は大きく分けて戦闘に使う『戦闘魔法』と日常生活を便利にする『生活魔法』があることは知っているよな?」

「はい。魔法学院でも習いましたし、世間一般にもそう認識されていると思います」

「だが、どちらが重要視されているかと言えばどう答える?」

「それは、戦闘魔法ですね。今回のように畑を荒らす魔獣を退治したり、旅の途中で出没する盗賊なんかに対抗するのもやっぱり戦闘魔法ですよね?」

「そうだ。確かに自分の命や大切な人や物を守る為には戦闘魔法を身に付けていると心強い。だが、生活魔法も扱えるようになると凄く便利で一度経験するとやみつきになるのは間違いないぞ」

 俺はそう言いながら切り分けたスライス肉を水魔法で作り出したサッカーボール大の水球に押し込んでいく。

「先生。それは何をしているのですか?」

「生活魔法の応用を見せてやろうと思ってな」

 俺は肉を押し込んだ水球に手を翳し火魔法を展開する。やがて水球の中で泡がぼこぼこと上がり、水が沸騰する様子が見えてきた。

「ああ。こいつも入れておくんだった」

 俺は思い出したように魔法鞄から鳥の卵を数個取り出して追加で水球に押し込んだのだった。
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