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第32話 セシリアの決意
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「グラン先生なら彼を助けられるのですよね?」
セシリアはこぼれ落ちた涙を拭うこともせずに俺に問いかける。
「出来る……が、俺の考えではこの領内で起こった事に対しては極力この地の住民で解決して欲しいとの考えがある。便利な俺が居るとついつい頼ってしまうだろう」
「――その言葉。そっくり先生にお返し致します」
「どういうことだ?」
「グラン先生はこの依頼が終わればこの地に居を構えるつもりだと父から聞きました。であれば、グラン先生にとってこの地は新たな住処となります。つまり、この地の住民を救うのにグラン先生が手を貸すのは何の問題もないということですよね?」
セシリアは俺にそう叫ぶと顔を俺の胸に押し付けて懇願した。
「力を貸してください! もっと勉強しますから! 私にはこの地に住む領民の命を守る義務があるのです。お願いします……」
最後は身体を震わせながら呟くように声を絞り出す。
「――負けたよ。セシリア嬢の言うことが正しい」
俺は彼女の頭を軽く叩くと肩を押して横に躱す。その足で倒れている男の傍に片膝を着くと傷口に手をかざしてから魔法を唱えた。
「――治癒回復」
魔法が発動すると俺の手が緑色の光を帯びて患者の身体がほのかに光の膜に覆われる。癒しの光だ。
「ううっ」
時間にして数十秒ほどで男は意識を戻した。見ると身体中に見えた傷は殆ど塞がり流れていた血も止まったようだ。
「俺は助かったのか?」
意識が戻った男は身体に異常がないことに驚き、俺の顔を見て問いかけた。
「あんたが助けてくれたのか?」
俺はその言葉に首を振り、セシリアに視線を向けて男に告げた。
「彼女がそれを望んだから結果としてそうなっただけだ」
「ああ。ありがとうございました。お嬢様」
男はセシリアの前で頭を下げて深くお辞儀をしたままそう言うと涙を流して感謝の言葉を何度も繰り返したのだった。
「――さて、コイツの処理をしておかないとな」
治療を終えた俺は巨大な氷の槍が突き刺さった状態の魔角猪の傍に歩み寄るともう一つの魔法を発動させる。
「電撃」
バチッ
電撃が音を立てて弾けると共に氷を通して魔獣の身体内に電撃を運んでいく。その衝撃は魔角猪の心臓を硬直させ、その生命活動を止める。
「せっかくの獲物だ。こいつも加工用の肉になってもらおうか」
俺はそう言うと巨大な魔角猪を魔法鞄に取り込んだのだった。
「――有言実行だぞ。今日から治癒回復魔法について教えるからな」
「はい。わたくしが本当に習得出来るかはわかりませんが一生懸命に勉強します」
「グラン殿。なにもかも任せっきりになって申し訳ないが、娘を宜しく頼みますぞ」
騒ぎの片づけが終わり、村長のジンから感謝の言葉をもらった俺とセシリアは男爵家の屋敷に戻って来ていた。男爵に事の顛末を報告し、領内に優秀な治癒士が不在との指摘をしてセシリアに教え込むと宣言したのだ。
「それで、何からすれば良いのでしょうか?」
セシリアはやる気を前面に出して俺の指示を待つ。やる気なのは良いがそれほど気合を入れる必要はないのだが……。
「くう。ねる。つかう」
「え?」
「だから、食う、寝る、使う。だ」
「食べて、寝て、使うのですか? それが治癒回復魔法の極意!?」
「――冗談だと思うだろうが、本当のことだ。先ずはこれを食ってくれ」
俺は魔法鞄から瓶に入った液体を取り出すとセシリアに手渡す。
「何ですか、この液体は?」
「聖属性の適性があるかどうかを見る魔法液だ。心配しなくても毒性のあるものじゃない」
「本当ですね? 信用しますからね」
その液体の存在さえ知らないものをいきなり飲めと言われたのだ。セシリアが戸惑うのも無理はないだろう。
――ごくごくごく
セシリアは覚悟を決めてその液体を飲み干す。無味無臭なので問題なく飲めるはずだ。
「飲みました。次は寝るのですかぁ……すぴぃ」
魔法薬を飲み干したセシリアは急に意識を失いテーブルに伏せて寝息をたてながら眠る。
「セ、セシリア!?」
魔法薬を飲んだ娘が突然、魔法で眠らせられているかのようになったのだ。ドンスタン男爵が驚くのも無理はない。
「男爵。心配せずとも大丈夫ですよ。ほら、見てください。彼女の身体を緑の光膜が覆って行くのが見えますよね? これは聖属性魔法に適性がある証拠になります」
「おおっ! セシリアには聖属性の適性もあったのか」
娘の才能に涙する男爵の姿に俺は息を吐きながら頷くと寝ている彼女に魔力を流し込んで行く。その度にセシリアを覆っていた光膜は輝きを増していき、身体中に行き届いたタイミングで俺は彼女を起こしたのだった。
「おはよう。よく眠れたか?」
「ふへっ!? わ、わたくし眠っていましたか?」
声をかけられ現実の世界に意識を戻したセシリアは俺にそう問いかける。
「喜べ。セシリアには聖属性の適性があることがわかったぞ」
「え? 本当ですか?」
「ああ、父親である男爵も一緒に確認しているから間違いない」
俺がそう教えるとセシリアは父親に視線を向けて頷くのを確認すると、涙を浮かべて喜んだ。
「感動しているところ悪いが、最後の仕上げが残っているぞ」
「え? 最後の仕上げって?」
「食って、寝たから使ってみるのが残っているだろうが」
「えっと、魔法を発動させるのですよね?」
「そうだ。魔法を使う素質は十分にある。後はイメージを固めるだけだ」
俺はそう言って萎れた花をセシリアの前に置く。
「いきなり生き物の治療はハードルが高いだろうから、練習は植物で試すのが一番だろう」
「植物にも効果はあるのですね」
「それはそうだろう。治癒回復魔法の治癒は主に傷や病気を治すもの。回復はその生き物自身の自然回復力を速めて自己治癒をさせるものだ。それを魔法で同時に癒すことで治療が出来るんだ。それは当然ながら植物にも当てはまるぞ。見てろ」
俺はそう言うともう一本取り出した萎れた花に魔法をかける。その直後、花は萎れていた花びらや葉をぴんと張って綺麗な姿を見せてくれた。
「次はセシリアがやる番だ。とりあえず、植物で合格出来たら次のステップに進んでやるから頑張るんだな」
「はい。頑張ってみます」
セシリアは気合とともに挑戦したがなかなか上手くいかず、結果的に成功するのに二週間を要したのだった。
セシリアはこぼれ落ちた涙を拭うこともせずに俺に問いかける。
「出来る……が、俺の考えではこの領内で起こった事に対しては極力この地の住民で解決して欲しいとの考えがある。便利な俺が居るとついつい頼ってしまうだろう」
「――その言葉。そっくり先生にお返し致します」
「どういうことだ?」
「グラン先生はこの依頼が終わればこの地に居を構えるつもりだと父から聞きました。であれば、グラン先生にとってこの地は新たな住処となります。つまり、この地の住民を救うのにグラン先生が手を貸すのは何の問題もないということですよね?」
セシリアは俺にそう叫ぶと顔を俺の胸に押し付けて懇願した。
「力を貸してください! もっと勉強しますから! 私にはこの地に住む領民の命を守る義務があるのです。お願いします……」
最後は身体を震わせながら呟くように声を絞り出す。
「――負けたよ。セシリア嬢の言うことが正しい」
俺は彼女の頭を軽く叩くと肩を押して横に躱す。その足で倒れている男の傍に片膝を着くと傷口に手をかざしてから魔法を唱えた。
「――治癒回復」
魔法が発動すると俺の手が緑色の光を帯びて患者の身体がほのかに光の膜に覆われる。癒しの光だ。
「ううっ」
時間にして数十秒ほどで男は意識を戻した。見ると身体中に見えた傷は殆ど塞がり流れていた血も止まったようだ。
「俺は助かったのか?」
意識が戻った男は身体に異常がないことに驚き、俺の顔を見て問いかけた。
「あんたが助けてくれたのか?」
俺はその言葉に首を振り、セシリアに視線を向けて男に告げた。
「彼女がそれを望んだから結果としてそうなっただけだ」
「ああ。ありがとうございました。お嬢様」
男はセシリアの前で頭を下げて深くお辞儀をしたままそう言うと涙を流して感謝の言葉を何度も繰り返したのだった。
「――さて、コイツの処理をしておかないとな」
治療を終えた俺は巨大な氷の槍が突き刺さった状態の魔角猪の傍に歩み寄るともう一つの魔法を発動させる。
「電撃」
バチッ
電撃が音を立てて弾けると共に氷を通して魔獣の身体内に電撃を運んでいく。その衝撃は魔角猪の心臓を硬直させ、その生命活動を止める。
「せっかくの獲物だ。こいつも加工用の肉になってもらおうか」
俺はそう言うと巨大な魔角猪を魔法鞄に取り込んだのだった。
「――有言実行だぞ。今日から治癒回復魔法について教えるからな」
「はい。わたくしが本当に習得出来るかはわかりませんが一生懸命に勉強します」
「グラン殿。なにもかも任せっきりになって申し訳ないが、娘を宜しく頼みますぞ」
騒ぎの片づけが終わり、村長のジンから感謝の言葉をもらった俺とセシリアは男爵家の屋敷に戻って来ていた。男爵に事の顛末を報告し、領内に優秀な治癒士が不在との指摘をしてセシリアに教え込むと宣言したのだ。
「それで、何からすれば良いのでしょうか?」
セシリアはやる気を前面に出して俺の指示を待つ。やる気なのは良いがそれほど気合を入れる必要はないのだが……。
「くう。ねる。つかう」
「え?」
「だから、食う、寝る、使う。だ」
「食べて、寝て、使うのですか? それが治癒回復魔法の極意!?」
「――冗談だと思うだろうが、本当のことだ。先ずはこれを食ってくれ」
俺は魔法鞄から瓶に入った液体を取り出すとセシリアに手渡す。
「何ですか、この液体は?」
「聖属性の適性があるかどうかを見る魔法液だ。心配しなくても毒性のあるものじゃない」
「本当ですね? 信用しますからね」
その液体の存在さえ知らないものをいきなり飲めと言われたのだ。セシリアが戸惑うのも無理はないだろう。
――ごくごくごく
セシリアは覚悟を決めてその液体を飲み干す。無味無臭なので問題なく飲めるはずだ。
「飲みました。次は寝るのですかぁ……すぴぃ」
魔法薬を飲み干したセシリアは急に意識を失いテーブルに伏せて寝息をたてながら眠る。
「セ、セシリア!?」
魔法薬を飲んだ娘が突然、魔法で眠らせられているかのようになったのだ。ドンスタン男爵が驚くのも無理はない。
「男爵。心配せずとも大丈夫ですよ。ほら、見てください。彼女の身体を緑の光膜が覆って行くのが見えますよね? これは聖属性魔法に適性がある証拠になります」
「おおっ! セシリアには聖属性の適性もあったのか」
娘の才能に涙する男爵の姿に俺は息を吐きながら頷くと寝ている彼女に魔力を流し込んで行く。その度にセシリアを覆っていた光膜は輝きを増していき、身体中に行き届いたタイミングで俺は彼女を起こしたのだった。
「おはよう。よく眠れたか?」
「ふへっ!? わ、わたくし眠っていましたか?」
声をかけられ現実の世界に意識を戻したセシリアは俺にそう問いかける。
「喜べ。セシリアには聖属性の適性があることがわかったぞ」
「え? 本当ですか?」
「ああ、父親である男爵も一緒に確認しているから間違いない」
俺がそう教えるとセシリアは父親に視線を向けて頷くのを確認すると、涙を浮かべて喜んだ。
「感動しているところ悪いが、最後の仕上げが残っているぞ」
「え? 最後の仕上げって?」
「食って、寝たから使ってみるのが残っているだろうが」
「えっと、魔法を発動させるのですよね?」
「そうだ。魔法を使う素質は十分にある。後はイメージを固めるだけだ」
俺はそう言って萎れた花をセシリアの前に置く。
「いきなり生き物の治療はハードルが高いだろうから、練習は植物で試すのが一番だろう」
「植物にも効果はあるのですね」
「それはそうだろう。治癒回復魔法の治癒は主に傷や病気を治すもの。回復はその生き物自身の自然回復力を速めて自己治癒をさせるものだ。それを魔法で同時に癒すことで治療が出来るんだ。それは当然ながら植物にも当てはまるぞ。見てろ」
俺はそう言うともう一本取り出した萎れた花に魔法をかける。その直後、花は萎れていた花びらや葉をぴんと張って綺麗な姿を見せてくれた。
「次はセシリアがやる番だ。とりあえず、植物で合格出来たら次のステップに進んでやるから頑張るんだな」
「はい。頑張ってみます」
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