神様候補の青年は人の幸せについて学ぶ

夢幻の翼

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第1話 神様候補、試験に望む

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 これはとある神様の世界でのお話。

 数多の世界を統べる神の候補としてその世界に生み出され、自らの信念のもとに学業を修了するべく最後の試験に臨むことになる。

「お呼びでしょうか?」

 青年が上級神の待つ部屋に入ると優しい笑みを浮かべた女性が待っていた。

「――これから貴方の修了試験をおこないます。試験項目は『幸せの定義』についてひとつの答えを出してください」

「幸せの定義ですか?」

「そうです。と言っても良く分からないかもしれませんからひとつヒントを差し上げますね。今から向かう世界においてひとりで良いので幸せにしてあげてください。そうすれば自ずと答えは見つかるはずですから」

 上級神の女性はそう言うと青年の魂を異世界へと誘った。

 ◇◇◇

「ここが試験の世界か。思ったよりも発展を遂げているようだな」

 神の世界より降り立ったひとりの神候補の青年はそう呟くと近くのベンチに座り考え込む。

「幸せの定義か……。ひとりを幸せにしてくるように指示をされたが人の幸せとはいったい何を意味するんだろうか?」

 数多の世界を見て育った彼だが実際に人間と話したことはなく、座ったベンチから辺りを見ながらそう呟いた。

 後で知ったのだが、今はこの世界では師走と言われた時期にあたるらしく大勢の人がせわしなく行き来しており自分のことなどには目もくれずにどこかへ歩いて行く。

 青年は意を決して行き交う人に声をかける。

「あの……すみません、少し話を聞いて……」

「あー、いま忙しいから無理だわ」

「なに? 宗教の勧誘はお断りよ」

「仕事に遅刻しちゃうから待たね」

 これだけの人がいるというのに誰一人として青年の声に耳を傾ける人は現れない。

「まいったな。これじゃあ試験を始められもしない」

 青年が途方に暮れていると後ろから服をくいと引っ張る感触がしてふりかえると髪を後ろに大きくみつあみをした地味めな女性が立っていた。

「えっと、なにかご用ですかお嬢さん」

 青年は突然のことに自分が何をしていたか忘れてそう話しかけていた。

「あの……先ほどから見ていて多くの人に話しかけられていたので何か聞きたいことがあるのかと思って……。私なんかで良ければですけどお聞きしますよ」

 女性は顔を赤らめながらそう僕に告げる。

(きっとこの女性は僕が困っているのを見て恥ずかしいのを我慢して話しかけてくれたんだな)

「本当ですか、ありがとうございます。ですが、こんな寒いところで話を聞くのも悪いですし、そこのお店でお茶でもどうでしょうか?」

 僕は今の気温が人間には寒いということを知識で知っていたために思わず彼女にそう告げていた。

「え? それはお茶のお誘いであなたはただナンパ目的で声をかけていたのですか? それでしたら間に合ってますのでお断りさせて頂きますけど」

「あ、いえ、そんなつもりではありません。僕はただ本心から話を聞くのに寒空のなかでは悪いと思って……。すみません、初対面の女性に対して軽はずみな言動でした」

 僕は慌てて彼女に頭をさげて誤った。

「信用して良いのですね?」

「神に誓って」

 僕が神に祈る仕草をしながらそう言うとくすくすと優しく笑いながら彼女は「わかりました」と了承してくれた。

「では、私の行きつけの喫茶店が近くにあるんです。シンプルな内装でお話をするには向いているのでそこで聞かせてもらってもいいですか?」

「もちろんです。僕はこのせか……いえ、このあたりの事をよく知りませんので教えてもらえたら助かります」

「地元の方ではないんですね。まあ、私ももともと地方から仕事でこっちに来てるだけですからこの大都会にはなかなか慣れないんですけどね」

 彼女はそう言いながら僕を近くにあった喫茶店へと案内をしてくれた。
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