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第32話【斡旋ギルドからの治療依頼①】
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無料の診療が功を奏したのか、少しずつ診療所の認知度が上がっていったようで、コンスタントに患者は訪れていた。
当初は批判も多かった胸を触る治療ーー正確には心臓の位置に手を添える……であるが、それもリリスのしっかりとした事前説明と治療結果の完璧さで次第に受け入れられてきていた。
そんなある日の事。
「すみません、リリスさん。
ナオキ様はいらっしゃいますでしょうか?」
診療所を開ける準備をしていたリリスに後ろから声がかかった。
彼女が振り向くとそこには見覚えのあるサナール斡旋ギルド受付嬢の姿があった。
「えっと、ユリナさん……でしたっけ?」
「名前を覚えていてくれたのですね。
ギルドに研修生として来てくれてた時に挨拶したのと一度だけ一緒に受付業務をしただけだったのに……」
「まあ、記憶力はある方ですので……。
ところでナオキ治癒士にどんな用事がおありでしょうか?
もうすぐ今日の診療時間になりますのであなたの診療であれば受付をしますが他の依頼等ならば急ぎでなければお昼の休憩時間か診療時間後にお願いしたいのですが……」
「あっそうですよね。
斡旋ギルドを通しての治療依頼ですので受けて頂けるかの確認に来たのですが詳細を説明する時間が無さそうですので診療時間終了後に再度伺うようにします。
では、夕の鐘が鳴る頃に面談の予定をお願いしますね」
ユリナはそう伝えるとギルドの方へと歩いて行った。
* * *
「斡旋ギルドを通しての治療依頼だって?」
リリスはユリナが話していた内容をナオキに伝えて今日の診療後に打ち合わせをしたいと言っていた事を告げた。
「どんな内容なんだろうな?
わざわざギルドを通してとなるとそれなりに身分のある人からの依頼なんだろうな」
「うわっ 面倒そうね。
無理そうだったら断るのもアリだと思うわよ。
特にナオキの治療方法はアレだから治療する相手が貴族の愛娘とかだったら父親が激怒してもおかしくないでしょうしね」
リリスがイタズラっぽく笑みを浮かべながら僕を怖がらせる。
「おいおい、怖い事言うなよ。
その辺は事前説明をしっかりとしておけば回避出来るんじゃないか?」
「分からないわよ。貴族様の考える事って……。
一度は了承していても目の前で気に食わない事があったらその場で覆す事なんて良く聞く話よ。
特に相手が平民ならばね」
「その話が本当ならば断るか、どうしてもやらざるを得ないならば伯爵様の関係者を立会人として貸して貰わないといけないかもしれないな」
僕はリリスの話を聞けば聞くほどフラグが立ちまくっているんじゃないかと不安になる。
「まあ、憶測でものを言っても始まらないから、結局は詳細を聞くしかないのよね」
リリスはそう締めて「そろそろ診療所を開けるわよ」と言い僕を置いて待合室の方へと向かっていった。
* * *
「怪我は完治してますのでもう大丈夫ですよ。
それではお大事に気をつけてお帰りくださいね」
その日は打ち合わせの予定が入ったので少しばかり早めに診療を終えた僕達は一息ついて紅茶を飲みながらユリナが来るのを待っていた。
「そろそろ来るかな?」
僕が外に目線を向けると同時に夕の鐘が聞こえてきた。
ーーーからんからんからん。
その音と共に診療所のドアをノックする音が聞こえ、続けて僕を呼ぶ声が聞こえた。
「はーい!いま開けますね」
飲みかけの紅茶をテーブルへ置いてリリスが玄関のドアへと向かう。
「サナール斡旋ギルドのユリナです。
朝の件の詳細を伝えに参りました」
ユリナはそう言うと肩がけの鞄から数枚の書類を取り出した。
「まあ、そんな所で立ち話も何ですからこちらでゆっくりとお話を聞くことにしましょう。
リリス、すまないが彼女の紅茶を追加してくれないか?」
「ええ、いいわよ。少し待ってね」
リリスはそう言うと台所へと紅茶の準備に向かう。
「話は彼女も一緒に伺いたいと思いますので少しお待ちくださいね」
「はい。ありがとうございます」
数分後、ユリナの紅茶を持ったリリスが部屋に戻り、彼女の前にそっと置いた。
「どうぞ。熱いので気をつけてくださいね」
リリスはそう言うと、自分は僕の隣へと移動してソファに座った。
「ーーーそれで、依頼と言うのはどういった内容なんでしょうか?」
僕が単刀直入に尋ねる。
「はい。まずはこちらの依頼書を見て頂けると助かります」
ユリナが詳細の書かれた書類を提示するのを見て、リリスがそれを静止する。
「ちょっと待って。
まだ、引き受けるかどうかの返事をしていないのに詳細の書かれた書類を読む訳にはいかないわ。
その前に依頼者と患者の情報を概略でいいから教えて貰えるかしら」
その行動にユリナが小さく「ちっ」と舌打ちをした。
状況の理解出来ない僕が小さくリリスに説明を求める。
「ギルドの依頼ってね。
依頼者に対する守秘義務があるのよ。
だからまず依頼の大まかな概要を斡旋する者に説明して了承を得て、仮契約をしてから詳細の開示をするの。
今回のようにいきなり詳細を見せると言うのは強制的に引き受けざるを得ない状況を作り上げる裏のやり方なのよ」
リリスはユリナの方を『キッ』と睨みながら僕に説明をしてくれた。
「やっぱり通じませんでしたか。
リリスさんは場所は違えど元ギルドの受付嬢をされていたので気がつく可能性はあるとは思ってましたがあっさり止められてしまいましたね。
騙すような手段をとった事申し訳ありませんでした」
ユリナはそう言うとあっさり事実と認め、素直に謝罪した。
「どうしてそんな手段を?」
僕がユリナに問うと彼女は事の発端から話をしてくれた。
当初は批判も多かった胸を触る治療ーー正確には心臓の位置に手を添える……であるが、それもリリスのしっかりとした事前説明と治療結果の完璧さで次第に受け入れられてきていた。
そんなある日の事。
「すみません、リリスさん。
ナオキ様はいらっしゃいますでしょうか?」
診療所を開ける準備をしていたリリスに後ろから声がかかった。
彼女が振り向くとそこには見覚えのあるサナール斡旋ギルド受付嬢の姿があった。
「えっと、ユリナさん……でしたっけ?」
「名前を覚えていてくれたのですね。
ギルドに研修生として来てくれてた時に挨拶したのと一度だけ一緒に受付業務をしただけだったのに……」
「まあ、記憶力はある方ですので……。
ところでナオキ治癒士にどんな用事がおありでしょうか?
もうすぐ今日の診療時間になりますのであなたの診療であれば受付をしますが他の依頼等ならば急ぎでなければお昼の休憩時間か診療時間後にお願いしたいのですが……」
「あっそうですよね。
斡旋ギルドを通しての治療依頼ですので受けて頂けるかの確認に来たのですが詳細を説明する時間が無さそうですので診療時間終了後に再度伺うようにします。
では、夕の鐘が鳴る頃に面談の予定をお願いしますね」
ユリナはそう伝えるとギルドの方へと歩いて行った。
* * *
「斡旋ギルドを通しての治療依頼だって?」
リリスはユリナが話していた内容をナオキに伝えて今日の診療後に打ち合わせをしたいと言っていた事を告げた。
「どんな内容なんだろうな?
わざわざギルドを通してとなるとそれなりに身分のある人からの依頼なんだろうな」
「うわっ 面倒そうね。
無理そうだったら断るのもアリだと思うわよ。
特にナオキの治療方法はアレだから治療する相手が貴族の愛娘とかだったら父親が激怒してもおかしくないでしょうしね」
リリスがイタズラっぽく笑みを浮かべながら僕を怖がらせる。
「おいおい、怖い事言うなよ。
その辺は事前説明をしっかりとしておけば回避出来るんじゃないか?」
「分からないわよ。貴族様の考える事って……。
一度は了承していても目の前で気に食わない事があったらその場で覆す事なんて良く聞く話よ。
特に相手が平民ならばね」
「その話が本当ならば断るか、どうしてもやらざるを得ないならば伯爵様の関係者を立会人として貸して貰わないといけないかもしれないな」
僕はリリスの話を聞けば聞くほどフラグが立ちまくっているんじゃないかと不安になる。
「まあ、憶測でものを言っても始まらないから、結局は詳細を聞くしかないのよね」
リリスはそう締めて「そろそろ診療所を開けるわよ」と言い僕を置いて待合室の方へと向かっていった。
* * *
「怪我は完治してますのでもう大丈夫ですよ。
それではお大事に気をつけてお帰りくださいね」
その日は打ち合わせの予定が入ったので少しばかり早めに診療を終えた僕達は一息ついて紅茶を飲みながらユリナが来るのを待っていた。
「そろそろ来るかな?」
僕が外に目線を向けると同時に夕の鐘が聞こえてきた。
ーーーからんからんからん。
その音と共に診療所のドアをノックする音が聞こえ、続けて僕を呼ぶ声が聞こえた。
「はーい!いま開けますね」
飲みかけの紅茶をテーブルへ置いてリリスが玄関のドアへと向かう。
「サナール斡旋ギルドのユリナです。
朝の件の詳細を伝えに参りました」
ユリナはそう言うと肩がけの鞄から数枚の書類を取り出した。
「まあ、そんな所で立ち話も何ですからこちらでゆっくりとお話を聞くことにしましょう。
リリス、すまないが彼女の紅茶を追加してくれないか?」
「ええ、いいわよ。少し待ってね」
リリスはそう言うと台所へと紅茶の準備に向かう。
「話は彼女も一緒に伺いたいと思いますので少しお待ちくださいね」
「はい。ありがとうございます」
数分後、ユリナの紅茶を持ったリリスが部屋に戻り、彼女の前にそっと置いた。
「どうぞ。熱いので気をつけてくださいね」
リリスはそう言うと、自分は僕の隣へと移動してソファに座った。
「ーーーそれで、依頼と言うのはどういった内容なんでしょうか?」
僕が単刀直入に尋ねる。
「はい。まずはこちらの依頼書を見て頂けると助かります」
ユリナが詳細の書かれた書類を提示するのを見て、リリスがそれを静止する。
「ちょっと待って。
まだ、引き受けるかどうかの返事をしていないのに詳細の書かれた書類を読む訳にはいかないわ。
その前に依頼者と患者の情報を概略でいいから教えて貰えるかしら」
その行動にユリナが小さく「ちっ」と舌打ちをした。
状況の理解出来ない僕が小さくリリスに説明を求める。
「ギルドの依頼ってね。
依頼者に対する守秘義務があるのよ。
だからまず依頼の大まかな概要を斡旋する者に説明して了承を得て、仮契約をしてから詳細の開示をするの。
今回のようにいきなり詳細を見せると言うのは強制的に引き受けざるを得ない状況を作り上げる裏のやり方なのよ」
リリスはユリナの方を『キッ』と睨みながら僕に説明をしてくれた。
「やっぱり通じませんでしたか。
リリスさんは場所は違えど元ギルドの受付嬢をされていたので気がつく可能性はあるとは思ってましたがあっさり止められてしまいましたね。
騙すような手段をとった事申し訳ありませんでした」
ユリナはそう言うとあっさり事実と認め、素直に謝罪した。
「どうしてそんな手段を?」
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