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第48話【帰り際の報告と依頼】
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無事に当初予定していた案件を片付けた僕達はそろそろサナールの診療所の事が気になりだして領都に戻る事にした。
馬車の手配を済ませて護衛の依頼を斡旋して貰うためにギルドを訪れた僕達を待っていたのは笑顔のラーズギルドマスターだった。
「少し時間を貰えるかな?」
有無を言わさない威圧で僕達は第一応接室へと案内された。
(いったい何の話だろうか?
まともな話ならばいいのだか)
「先日はどうも。
明日サナールへ戻るんだって?」
「はい。こちらでの用事が済みましたし、そろそろ診療所の方も心配になってきましたので向こうに戻ろうと思ってます」
「そうか、こちらの用件は2つあるんだが、まず先日リリス君に絡んだ奴らの事だ。
昨日、町の警備から連絡があったんだがギルドの受付嬢がチンピラに絡まれて連れ去られそうになっていたのをナオキ君と警備隊が助けたとあった。
公式ではリリス君は結婚退職をしたとなっているが、警備隊にはその事を知らない者も多くおり、ギルド本部に喧嘩を売った奴らとして厳しく調べたらしい」
「それで奴らはどうなったのですか?」
あの時、トドメをさせなかった僕は男達が警備に連れて行かれた後の事は知らず、少しばかり気にはなっていた。
「警備によると余罪が多数出てきたらしく鉱山の強制労働送りになったそうだ」
「そうですか。
まあ、リリスに暴力をふるった奴らの処遇としては甘いかもしれないが、今度僕達の前に現れたら問答無用で消えて貰おうと思います」
僕のセリフに苦笑いするラーズだった。
「それと、こっちが本命の依頼なんだが……」
ラーズはそう言いかけておいて口ごもった。
「何か言いにくい事なんですか?」
「いや、まあ、そうだな。
実はナオキ君に治療して欲しい人が居るんだが……うーん」
治療依頼にしてはラーズの歯切れが悪く、内容もなかなか的を得た話に向かなかった。
「もしかして、治療して欲しい人って奥様か娘様ですか?」
ラーズの態度にリリスがピンときて横から話に入ってきた。
「な、何故それを!?」
あからさまに動揺するラーズ。
「だって、ラーズギルマスは受付嬢の間でも愛妻家として有名ですし、お嬢さんも溺愛していると聞いてますから、たとえ怪我や病気でも死ぬようなものじゃなければナオキの治療方法は認めたくないと思いますからね」
リリスの言葉に僕も苦笑いをする。
「僕も自分の好みでこの治療方法をしている訳じゃないよ。
女神様の深い考えで与えてくれた魔法なんだから僕は誇りを持って治療をさせて貰ってるだけだよ」
「もちろん私は理解してるわよ。
でなければただの変態治癒士として軽蔑しててもおかしくないわ」
リリスはさらりと僕をディスりながらラーズに聞いた。
「で、どちらなんですか?」
「………妻だ。
実は今日の夜にカルカルの有力者が集まって会合と晩餐会があるのだが、当然ながら同伴者の出席も必須で私と妻も出席の予定だった。
だが、よりにも寄って昨日の夜に階段を踏みはずして腰をやってしまってな。
ベッドから起き上がる事も出来んのだよ。
今回の晩餐会は知り合いも多数出席する事もあって妻は大層楽しみにしていたんだ」
「分かりました。
僕が治しますので奥様に合わせて頂けますか?」
僕がそう言うとラーズは「いやまて」と席を立とうとする僕を静止する。
「君の治癒魔法が優秀なのは良く知っているが治すためにはアレだろ?
妻の胸を揉まないと治せないんだろ?」
「揉んでません!触れているだけですから!」
もはや定番となったツッコミをしながら僕はラーズに言った。
「大変申し訳無いのですが、その治療方法が認められないのであれば他所をあたってください」
「本当に!本当に他の方法は無いのか?
例えば背中からだとか、患部の腰に手をあてるとか……」
妻の胸を触られたくないラーズは必死に代替え案を出していく。
「女神様との契約ですから難しいと思いますけどそこまで言われるならば試してみましょう」
「すまないが頼む」
ラーズは僕に頭を下げて頼んできた。
* * *
「初めまして、治癒士のナオキと申します。
本来ですと正面から心臓の位置に触れらせて頂き治療をするのですが、御主人の至っての要望により患部および背中から同様の治療を試してみる事になりました事、ご了承ください」
僕が説明すると婦人は軽く頷いて僕に背を向けた。
「では、まず患部である腰に触れさせて頂きます。
完全治癒」
僕の手が少しだけ光ったように見えたがいつもとは違う感覚に上手くいかなかったのだろうと考えた。
「腰の痛みはいかがですか?」
僕の問に婦人は腰に手を宛てて確認するも「多少痛みは軽減しているみたいですが動かすとまだ痛みます」と答えた。
「やはり腰では魔力溜まりのある心臓から遠いので難しいのでしょうね。
では次に背中から試してみましょう。
心臓の裏側からでも上手くいくと良いのですが……」
僕はそう言うと背中に手を宛てて魔法を唱えた。
「完全治癒」
先程より光が強く光ったように思えたが、いつものように魔力の注入する感覚が始まらなかった。
「うーん。魔法は発動してるとは思うのですが状態を回復させるために送り込む魔力注入が始まらないんです。
やはり、女神様との契約ですから何かしらの制約があるのだと思います」
僕の結論にラーズはガックリと頭を垂れて大きくため息をついた。
「やはり駄目なのか……。
もしかしたらと思ったのだが女神様との契約はそれほどに厳密なものなのだな。
分かった、妻には説明してあるから治してやってくれ。
私は隣の部屋で待ってるからな」
ラーズはそう言うと部屋から出て行こうとする。
「あなた、お待ちになって。
私のそばで手を握っていてくださいませんか?」
婦人は優しく微笑むとラーズの手をとった。
* * *
「ーーー妻の治療をしてくれてありがとう。
今回痛めた腰だけでなく、目尻のシワが目立たなくなったと喜んでいたよ。
まさか、君の治癒魔法は女性を若返らせる効果があるんじゃないだろうね?」
「ははは、まさか。
そんな事が出来たら国中の女性が殺到して大変な事になるじゃないですか。
へんな噂は流さないでくださいね」
僕は顔を引きつらせながらラーズに念を押してラーズ邸宅を後にした。
馬車の手配を済ませて護衛の依頼を斡旋して貰うためにギルドを訪れた僕達を待っていたのは笑顔のラーズギルドマスターだった。
「少し時間を貰えるかな?」
有無を言わさない威圧で僕達は第一応接室へと案内された。
(いったい何の話だろうか?
まともな話ならばいいのだか)
「先日はどうも。
明日サナールへ戻るんだって?」
「はい。こちらでの用事が済みましたし、そろそろ診療所の方も心配になってきましたので向こうに戻ろうと思ってます」
「そうか、こちらの用件は2つあるんだが、まず先日リリス君に絡んだ奴らの事だ。
昨日、町の警備から連絡があったんだがギルドの受付嬢がチンピラに絡まれて連れ去られそうになっていたのをナオキ君と警備隊が助けたとあった。
公式ではリリス君は結婚退職をしたとなっているが、警備隊にはその事を知らない者も多くおり、ギルド本部に喧嘩を売った奴らとして厳しく調べたらしい」
「それで奴らはどうなったのですか?」
あの時、トドメをさせなかった僕は男達が警備に連れて行かれた後の事は知らず、少しばかり気にはなっていた。
「警備によると余罪が多数出てきたらしく鉱山の強制労働送りになったそうだ」
「そうですか。
まあ、リリスに暴力をふるった奴らの処遇としては甘いかもしれないが、今度僕達の前に現れたら問答無用で消えて貰おうと思います」
僕のセリフに苦笑いするラーズだった。
「それと、こっちが本命の依頼なんだが……」
ラーズはそう言いかけておいて口ごもった。
「何か言いにくい事なんですか?」
「いや、まあ、そうだな。
実はナオキ君に治療して欲しい人が居るんだが……うーん」
治療依頼にしてはラーズの歯切れが悪く、内容もなかなか的を得た話に向かなかった。
「もしかして、治療して欲しい人って奥様か娘様ですか?」
ラーズの態度にリリスがピンときて横から話に入ってきた。
「な、何故それを!?」
あからさまに動揺するラーズ。
「だって、ラーズギルマスは受付嬢の間でも愛妻家として有名ですし、お嬢さんも溺愛していると聞いてますから、たとえ怪我や病気でも死ぬようなものじゃなければナオキの治療方法は認めたくないと思いますからね」
リリスの言葉に僕も苦笑いをする。
「僕も自分の好みでこの治療方法をしている訳じゃないよ。
女神様の深い考えで与えてくれた魔法なんだから僕は誇りを持って治療をさせて貰ってるだけだよ」
「もちろん私は理解してるわよ。
でなければただの変態治癒士として軽蔑しててもおかしくないわ」
リリスはさらりと僕をディスりながらラーズに聞いた。
「で、どちらなんですか?」
「………妻だ。
実は今日の夜にカルカルの有力者が集まって会合と晩餐会があるのだが、当然ながら同伴者の出席も必須で私と妻も出席の予定だった。
だが、よりにも寄って昨日の夜に階段を踏みはずして腰をやってしまってな。
ベッドから起き上がる事も出来んのだよ。
今回の晩餐会は知り合いも多数出席する事もあって妻は大層楽しみにしていたんだ」
「分かりました。
僕が治しますので奥様に合わせて頂けますか?」
僕がそう言うとラーズは「いやまて」と席を立とうとする僕を静止する。
「君の治癒魔法が優秀なのは良く知っているが治すためにはアレだろ?
妻の胸を揉まないと治せないんだろ?」
「揉んでません!触れているだけですから!」
もはや定番となったツッコミをしながら僕はラーズに言った。
「大変申し訳無いのですが、その治療方法が認められないのであれば他所をあたってください」
「本当に!本当に他の方法は無いのか?
例えば背中からだとか、患部の腰に手をあてるとか……」
妻の胸を触られたくないラーズは必死に代替え案を出していく。
「女神様との契約ですから難しいと思いますけどそこまで言われるならば試してみましょう」
「すまないが頼む」
ラーズは僕に頭を下げて頼んできた。
* * *
「初めまして、治癒士のナオキと申します。
本来ですと正面から心臓の位置に触れらせて頂き治療をするのですが、御主人の至っての要望により患部および背中から同様の治療を試してみる事になりました事、ご了承ください」
僕が説明すると婦人は軽く頷いて僕に背を向けた。
「では、まず患部である腰に触れさせて頂きます。
完全治癒」
僕の手が少しだけ光ったように見えたがいつもとは違う感覚に上手くいかなかったのだろうと考えた。
「腰の痛みはいかがですか?」
僕の問に婦人は腰に手を宛てて確認するも「多少痛みは軽減しているみたいですが動かすとまだ痛みます」と答えた。
「やはり腰では魔力溜まりのある心臓から遠いので難しいのでしょうね。
では次に背中から試してみましょう。
心臓の裏側からでも上手くいくと良いのですが……」
僕はそう言うと背中に手を宛てて魔法を唱えた。
「完全治癒」
先程より光が強く光ったように思えたが、いつものように魔力の注入する感覚が始まらなかった。
「うーん。魔法は発動してるとは思うのですが状態を回復させるために送り込む魔力注入が始まらないんです。
やはり、女神様との契約ですから何かしらの制約があるのだと思います」
僕の結論にラーズはガックリと頭を垂れて大きくため息をついた。
「やはり駄目なのか……。
もしかしたらと思ったのだが女神様との契約はそれほどに厳密なものなのだな。
分かった、妻には説明してあるから治してやってくれ。
私は隣の部屋で待ってるからな」
ラーズはそう言うと部屋から出て行こうとする。
「あなた、お待ちになって。
私のそばで手を握っていてくださいませんか?」
婦人は優しく微笑むとラーズの手をとった。
* * *
「ーーー妻の治療をしてくれてありがとう。
今回痛めた腰だけでなく、目尻のシワが目立たなくなったと喜んでいたよ。
まさか、君の治癒魔法は女性を若返らせる効果があるんじゃないだろうね?」
「ははは、まさか。
そんな事が出来たら国中の女性が殺到して大変な事になるじゃないですか。
へんな噂は流さないでくださいね」
僕は顔を引きつらせながらラーズに念を押してラーズ邸宅を後にした。
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