26 / 34
第26話 開店初日の悪夢
しおりを挟む
「いらっしゃいませ! リアのカード工房、本日開店です!」
なんだかバタバタ状態で準備した気もするけど、いよいよ開店の日を迎えたリアのカードショップはその物珍しさだろうか朝から大勢の人が訪れていた。
「この町で買える品物ばかりですが、持ち運びに便利なようになっております。少々説明がございますので購入された方は順番にお並びください」
なにせ、お店経営は初めてのことである。いくら理屈を知っていても直ぐにその通りに出来るものではない。
「――では、このカードに手を乗せてください。今からあなたにこのカードを復元するひも付をしますので」
一生懸命に説明と会計をこなす私だったが、どうあがいても間に合うはずもなく直ぐに会計の列はパンク状態となった。
「おい。いつまで待たせるつもりだ!? なぜこんなに会計に時間がかかる?」
私の店に並ぶ商品は全てカード化したものだ。だから、売るときに元に戻すかカードのまま持ち帰る人に対しては復元化のひも付をしなければならない。ただ、単に売ってお金を貰えばいい訳ではないのだ。
「すみません。初めての方にはきちんと説明をしなければいけませんのでお時間がかかっております」
「なら、もういい! 別にこの店で買わなくても売っている店に行けばいいだけなんだから。別にこの店でしか買えないわけじゃない」
初めは物珍しげに見てくれていたお客も遅々として進まない会計に一人、また一人と会計の列から離れて店から出て行く。
「申し訳ありません」
怒って出て行く客に対して引き留めることも出来ずにただ謝るしかなかった。
「はあっ 散々だったな……」
バタバタのまま時間だけが過ぎて行き気がつけば初日の閉店時間になっていた。少し時間を過ぎてしまったが、なんとか最後のお客を見送ってからドアに『閉店』の札をかけてから椅子に深々と座りこんで大きなため息を吐いた。
「良く考えれば分かっていたことばかりよね。新しいお店がオープンすれば多くの客が押し寄せるのは何処の世界でも同じことか。こんなことならギルドに依頼して人を派遣して貰えばよかったな」
椅子の背にもたれ掛りながら天井を見上げてそう呟く私。そんなふうに反省をしている時に限って「ぐう」とお腹が鳴ってしまう。
「そういえば忙しすぎてお昼ご飯も食べる暇が無かったんだ」
お腹を摩りながら私は何か食べるものを探すが目に当たるものは無い。強いていえば売り物にしているカード化したものだけだった。
「さすがに売り物を食べちゃあ駄目だよね」
自分の財布からお店の売り上げに入れるなら問題ないとは思うが、初日からそんなことではいつかはどんぶり勘定になってしまうことだろう。そんな未来が見えた私は食べたい気持ちをぐっと堪えて椅子から立ち上がるとふらふらとした足取りで隣の商業ギルドにある食堂へ向かったのだった。
「すみません。肉定食をお願いします」
食堂に辿り着いた私は店員に食事を注文すると明日からのことを考えていた。
「あら、リアさんじゃないの。そういえば、お店。今日開店でしたね。どうでしたか?」
私が食事を待っていると、どこからともなくカロリーナがやってきて目の前の椅子に座る。その顔は私の店がどんな状態だったか分かっていた表情だった。
「おかげさまで大盛況でしたよ」
盛況だったのは本当だ。ただ、人が多すぎて怒らせてしまった客が思いの外多かっただけだ。
「言ってくれれば応援を派遣したのに、どうして言ってくれなかったのですか?」
カロリーナは悪びれもせずにそう言って微笑む。悪魔かこの人。
「ちょっと開店初日のお客を舐めていただけですよ。まさか、あれほどの人が来てくれるとは思っていませんでしたから」
これも本当。元々、この町で買える品物しか置いていないのである。わざわざ町に住んでいる人が買いに来る必要はない。それでも、多くの人が来てくれたのは商業ギルドの後押しがあったからに他ならない。
「明日は人を借りても良いですか?」
「んー。どんな人が必要かしら?」
「そうですね。お客を整理してくれる人と会計をしてくれる人ですかね」
実際にやってみて分かった。私はカードの復元化とひも付だけすれば良い状態にしなければ客を捌くことは出来ないと。
「ならば、やり手の受付嬢を二人派遣しましょうか」
「良いのですか? 受付嬢が二人も抜けたらギルドが大変になるんじゃ?」
「まあ、お隣ですからね。問題が発生したらすぐに戻れますし、時間で交代させても良いですから心配しなくても大丈夫ですよ」
「あ、ありがとうございます。カロリーナさんがそこまで考えていてくれていたなんて嬉しいです」
人の派遣でもそのレベルによって効率が大きく変わる。仕事の出来る人間を寄こしてくれるとなるとそれだけで私の負担が大幅に減るのは確定だ。
「当然ね。リアさんには多額の借入金がありますからね。お店が失敗したら回収出来なくなるじゃあないですか」
「あ、ああ。ソウデスネ」
彼女の対応に感動した私が甘かった。やはり彼女はギルドのことしか頭にないのだと思い知らされたのだった。
「――お待たせしました。肉定食ですね」
カロリーナとの話が一段落ついた時、頼んでいた食事が運ばれてくる。
「あら、美味しそうね。私も何か頼もうかしら」
カロリーナはそう言って私の料理を運んで来てくれた店員にいくつか注文をすると席を立つことなく、相席のままで待っていた。
「先に食べさせてもらいますね。他に何かあるのですか?」
せっかくアツアツの料理を運んで来てくれたのだ。冷めてしまっては勿体ないと料理に手をつけようとした私にカロリーナは待ったをかけた。
「せっかく私も注文したのですから、一緒に食べませんか? 確か、リアさんのカード化は時間劣化がないのですよね? 今、ここでカード化しておけば熱いままの料理で待つことが出来るでしょう?」
いや、確かに出来ますよ。ですが、私はお腹が減ってたまらないから食堂に来たのです。それを一緒に食べたいからと後から注文した料理が来るまでお預けさせようなんて酷くない?
「出来ますけど、しません。私はお腹が減っているのです。今日は忙し過ぎてお昼ご飯を食べ損ねていますから、わざわざカロリーナさんの料理が来るのを待つ必要性がありません」
私はそう言い切ってから料理に手をつけたのだった。
なんだかバタバタ状態で準備した気もするけど、いよいよ開店の日を迎えたリアのカードショップはその物珍しさだろうか朝から大勢の人が訪れていた。
「この町で買える品物ばかりですが、持ち運びに便利なようになっております。少々説明がございますので購入された方は順番にお並びください」
なにせ、お店経営は初めてのことである。いくら理屈を知っていても直ぐにその通りに出来るものではない。
「――では、このカードに手を乗せてください。今からあなたにこのカードを復元するひも付をしますので」
一生懸命に説明と会計をこなす私だったが、どうあがいても間に合うはずもなく直ぐに会計の列はパンク状態となった。
「おい。いつまで待たせるつもりだ!? なぜこんなに会計に時間がかかる?」
私の店に並ぶ商品は全てカード化したものだ。だから、売るときに元に戻すかカードのまま持ち帰る人に対しては復元化のひも付をしなければならない。ただ、単に売ってお金を貰えばいい訳ではないのだ。
「すみません。初めての方にはきちんと説明をしなければいけませんのでお時間がかかっております」
「なら、もういい! 別にこの店で買わなくても売っている店に行けばいいだけなんだから。別にこの店でしか買えないわけじゃない」
初めは物珍しげに見てくれていたお客も遅々として進まない会計に一人、また一人と会計の列から離れて店から出て行く。
「申し訳ありません」
怒って出て行く客に対して引き留めることも出来ずにただ謝るしかなかった。
「はあっ 散々だったな……」
バタバタのまま時間だけが過ぎて行き気がつけば初日の閉店時間になっていた。少し時間を過ぎてしまったが、なんとか最後のお客を見送ってからドアに『閉店』の札をかけてから椅子に深々と座りこんで大きなため息を吐いた。
「良く考えれば分かっていたことばかりよね。新しいお店がオープンすれば多くの客が押し寄せるのは何処の世界でも同じことか。こんなことならギルドに依頼して人を派遣して貰えばよかったな」
椅子の背にもたれ掛りながら天井を見上げてそう呟く私。そんなふうに反省をしている時に限って「ぐう」とお腹が鳴ってしまう。
「そういえば忙しすぎてお昼ご飯も食べる暇が無かったんだ」
お腹を摩りながら私は何か食べるものを探すが目に当たるものは無い。強いていえば売り物にしているカード化したものだけだった。
「さすがに売り物を食べちゃあ駄目だよね」
自分の財布からお店の売り上げに入れるなら問題ないとは思うが、初日からそんなことではいつかはどんぶり勘定になってしまうことだろう。そんな未来が見えた私は食べたい気持ちをぐっと堪えて椅子から立ち上がるとふらふらとした足取りで隣の商業ギルドにある食堂へ向かったのだった。
「すみません。肉定食をお願いします」
食堂に辿り着いた私は店員に食事を注文すると明日からのことを考えていた。
「あら、リアさんじゃないの。そういえば、お店。今日開店でしたね。どうでしたか?」
私が食事を待っていると、どこからともなくカロリーナがやってきて目の前の椅子に座る。その顔は私の店がどんな状態だったか分かっていた表情だった。
「おかげさまで大盛況でしたよ」
盛況だったのは本当だ。ただ、人が多すぎて怒らせてしまった客が思いの外多かっただけだ。
「言ってくれれば応援を派遣したのに、どうして言ってくれなかったのですか?」
カロリーナは悪びれもせずにそう言って微笑む。悪魔かこの人。
「ちょっと開店初日のお客を舐めていただけですよ。まさか、あれほどの人が来てくれるとは思っていませんでしたから」
これも本当。元々、この町で買える品物しか置いていないのである。わざわざ町に住んでいる人が買いに来る必要はない。それでも、多くの人が来てくれたのは商業ギルドの後押しがあったからに他ならない。
「明日は人を借りても良いですか?」
「んー。どんな人が必要かしら?」
「そうですね。お客を整理してくれる人と会計をしてくれる人ですかね」
実際にやってみて分かった。私はカードの復元化とひも付だけすれば良い状態にしなければ客を捌くことは出来ないと。
「ならば、やり手の受付嬢を二人派遣しましょうか」
「良いのですか? 受付嬢が二人も抜けたらギルドが大変になるんじゃ?」
「まあ、お隣ですからね。問題が発生したらすぐに戻れますし、時間で交代させても良いですから心配しなくても大丈夫ですよ」
「あ、ありがとうございます。カロリーナさんがそこまで考えていてくれていたなんて嬉しいです」
人の派遣でもそのレベルによって効率が大きく変わる。仕事の出来る人間を寄こしてくれるとなるとそれだけで私の負担が大幅に減るのは確定だ。
「当然ね。リアさんには多額の借入金がありますからね。お店が失敗したら回収出来なくなるじゃあないですか」
「あ、ああ。ソウデスネ」
彼女の対応に感動した私が甘かった。やはり彼女はギルドのことしか頭にないのだと思い知らされたのだった。
「――お待たせしました。肉定食ですね」
カロリーナとの話が一段落ついた時、頼んでいた食事が運ばれてくる。
「あら、美味しそうね。私も何か頼もうかしら」
カロリーナはそう言って私の料理を運んで来てくれた店員にいくつか注文をすると席を立つことなく、相席のままで待っていた。
「先に食べさせてもらいますね。他に何かあるのですか?」
せっかくアツアツの料理を運んで来てくれたのだ。冷めてしまっては勿体ないと料理に手をつけようとした私にカロリーナは待ったをかけた。
「せっかく私も注文したのですから、一緒に食べませんか? 確か、リアさんのカード化は時間劣化がないのですよね? 今、ここでカード化しておけば熱いままの料理で待つことが出来るでしょう?」
いや、確かに出来ますよ。ですが、私はお腹が減ってたまらないから食堂に来たのです。それを一緒に食べたいからと後から注文した料理が来るまでお預けさせようなんて酷くない?
「出来ますけど、しません。私はお腹が減っているのです。今日は忙し過ぎてお昼ご飯を食べ損ねていますから、わざわざカロリーナさんの料理が来るのを待つ必要性がありません」
私はそう言い切ってから料理に手をつけたのだった。
53
あなたにおすすめの小説
規格外で転生した私の誤魔化しライフ 〜旅行マニアの異世界無双旅〜
ケイソウ
ファンタジー
チビで陰キャラでモブ子の桜井紅子は、楽しみにしていたバス旅行へ向かう途中、突然の事故で命を絶たれた。
死後の世界で女神に異世界へ転生されたが、女神の趣向で変装する羽目になり、渡されたアイテムと備わったスキルをもとに、異世界を満喫しようと冒険者の資格を取る。生活にも慣れて各地を巡る旅を計画するも、国の要請で冒険者が遠征に駆り出される事態に……。
子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました
もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!
最弱スキルも9999個集まれば最強だよね(完結)
排他的経済水域
ファンタジー
12歳の誕生日
冒険者になる事が憧れのケインは、教会にて
スキル適性値とオリジナルスキルが告げられる
強いスキルを望むケインであったが、
スキル適性値はG
オリジナルスキルも『スキル重複』というよくわからない物
友人からも家族からも馬鹿にされ、
尚最強の冒険者になる事をあきらめないケイン
そんなある日、
『スキル重複』の本来の効果を知る事となる。
その効果とは、
同じスキルを2つ以上持つ事ができ、
同系統の効果のスキルは効果が重複するという
恐ろしい物であった。
このスキルをもって、ケインの下剋上は今始まる。
HOTランキング 1位!(2023年2月21日)
ファンタジー24hポイントランキング 3位!(2023年2月21日)
没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~
土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。
しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。
そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。
両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。
女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。
ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者
哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。
何も成し遂げることなく35年……
ついに前世の年齢を超えた。
※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。
※この小説は他サイトにも投稿しています。
カタコト精霊は聞き方ひとつで最強になりました~過労死転生、もふもふ狐とのんびり暮らしたいだけなのに~
Lihito
ファンタジー
過労死の記憶だけを残して異世界に転生したミラの願いはひとつ。——穏やかに暮らすこと。
辺境の村で小さな畑を耕し、膝の上で眠るカタコトの狐を撫でる毎日。うちの子は最弱の第一段階。でも、場所を絞って一つずつ聞けば、誰よりも正確に答えてくれる。
のんびり暮らしたいだけなのに、気づけば畑は村一番の出来になり、周囲が病害で全滅しかけた年にはうちの村だけが無傷で残ってしまった。
——面倒なことになってきた。でもまあ、膝の上のもふもふが温かくて、幼馴染の朝ごはんがおいしいうちは、もう少しだけ。
政治家の娘が悪役令嬢転生 ~前パパの教えで異世界政治をぶっ壊させていただきますわ~
巫叶月良成
ファンタジー
政治家の娘として生まれ、父から様々なことを学んだ少女が異世界の悪徳政治をぶった切る!?
////////////////////////////////////////////////////
悪役令嬢に転生させられた琴音は政治家の娘。
しかしテンプレも何もわからないまま放り出された悪役令嬢の世界で、しかもすでに婚約破棄から令嬢が暗殺された後のお話。
琴音は前世の父親の教えをもとに、口先と策謀で相手を騙し、男を篭絡しながら自分を陥れた相手に復讐し、歪んだ王国の政治ゲームを支配しようという一大謀略劇!
※魔法とかゲーム的要素はありません。恋愛要素、バトル要素も薄め……?
※注意:作者が悪役令嬢知識ほぼゼロで書いてます。こんなの悪役令嬢ものじゃねぇという内容かもしれませんが、ご留意ください。
※あくまでこの物語はフィクションです。政治家が全部そういう思考回路とかいうわけではないのでこちらもご留意を。
隔日くらいに更新出来たらいいな、の更新です。のんびりお楽しみください。
勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~
楠ノ木雫
ファンタジー
IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき……
※他の投稿サイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる