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5話 ヘレーナの実力
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「急に女が現れた? 誰だお前は? おい! そんな急に近付いてくるなよ。それに突然現れるとビックリするんですけどっ!」
魔族男は突然現れた女性に恐怖の表情を浮かべて後ずさる。なにも喋らず散歩するように近付いてくる女性に、魔族男は怯えたフリで後ずさりを続けながら突然間合いを詰めて横薙ぎの一撃を払う。
「はっ?」
魔族男の放った斬撃は剣筋がブレるほどの勢いであったが、女性が居た場所を剣が通り過ぎた後には誰もおらず空振りに終わり、間の抜けた声を出した後で慌てて魔族男が女性を探して周りを見渡す。女性は何気ない動作で倒れた魔物の剣を手に取っていた。
「ちょ、ちょっとはスピードがあるようだな。だが、俺の剣がこんなものだと思ったら大間違いだぞ」
「ふーん。まあ、どっちでもいいや。掛かっておいで。軽く相手してあげる。このヘレーナが」
「ヘレーナ? 剣神ヘレーナ? アイツは神剣になったんだろうが! それに『軽く相手をしてあげる』だと? なめんな! 誰だか知らないが、お前は絶対殺す!」
安い挑発に激高した魔族男が勢いよく飛びかかり、上段から勢いよく振り下ろす。その勢いのある攻撃を、ヘレーナは手首を返したすくい上げで弾く。軽い感じで弾いたように見えたが、魔族男の手から剣がこぼれ落ちた。
「なんだよ! その攻撃は! お前の本気はそんなものかよ! もっと気合い入れろよ! 本気出せよ!」
「ふざけんなよ……。魔族の攻撃を弾く人間がどこにいるんだよ! 人間らしく俺に殺されろよぉぉぉぉ!」
剣を拾った魔族は遮二無二に攻撃を開始する。ヘレーナは全ての攻撃を軽く躱し、優しく弾き、丁寧に打ち合っていた。その姿は肩慣らしをしているようで、魔族男もそれに気付いたのか怒気を含めた表情になりながら大きく飛びすさると青筋を立てながら叫んだ。
「てめえは絶対に許さねえ! 俺の事をコケにしやがって! 『我は全てを焼き尽くす炎を求める。全てを灰燼と化し塵のごとく滅する』 俺を怒らせた事を心の底から後悔して死ね!」
魔族男が詠唱を終えると、その前に巨大な炎が渦巻き始め剣に収束する。剣が透明度を増すかのように白く輝き始めた。その様子を見ていたヘレーナは感心したように拍手すると、魔族男が急激に魔力が減ったことで額に汗をかきながら口元を引き攣らせつつ話す。
「随分余裕だな。この魔法は第三階位の炎属性魔法だ。これで斬られた奴は誰だか分からないほど炭化する。後悔するがいい」
「へー。第三階位の炎属性を出したお前に敬意を表して私も本気を出してやろう。『全てを焼き尽くす炎に命じる。我に従い、我に跪き、我に服従せよ。炎は原初にして際限なきもの。灰燼すら生ぬるく、塵一つ残る事を許さぬ』」
ヘレーナの詠唱を聞いていた魔族男は顔面蒼白になりながら逃げ出しそうになる。だが、魔族としてのプライドが彼を押し止め、そして生涯を終わらせようとしていた。
「おいおい。それは第八階位の魔法だろ! 人間ごときが使いこなしていい魔法じゃねえぞ!」
「はっはっは。普段は使わないが、お前のゲスっぷりにテンションが上がってしまった。魔王にすらダメージを与えた魔法だ。安心してくらいな。そして死ね」
ヘレーナは叫んでいる魔族男に無造作に近付くと、軽い感じで剣を振るった。
◇□◇□◇□
「ん! 良い感じの準備体操になったね。後は外にいる魔物を減らしておくか」
ヘレーナはディモの背負い袋から外套や毛布を取り出し布団代わりにすると寝やすい体勢にした。気絶ではなく、疲労困憊で寝ているように見えるディモの姿を微笑ましそうに眺めていたが、軽く気合を入れると鼻歌を歌いながら部屋を出て封印石の外で待機している魔物の殲滅に向かった。
「……。んん。あれ? 僕は一体……。ひっ!」
眠りから覚めたディモが寝ぼけ眼で起き上がる。目をこすりながら伸びをした瞬間に積まれている魔物の山を見て、座っている状態で腰が抜けそうになった。
「な、な、なにが? なにが起こっているの?」
「目が覚めたかい? もう二時間は経つよ。寝る子は育つからねー。もう少し寝てても大丈夫だよ?」
「えっ! そ、そんなに! 二時間も寝てたの? え? お姉さん誰? じゃない! こんな危ないところにいたら駄目だよ! 魔物に襲われるよ! 魔族も居るんだよ! あれ? さっきまでいた魔族は? 魔物は?」
「魔族は私が倒したし、魔物も全部やっつけたから安心しな」
半分寝ぼけていたディモだったが、ヘレーナの声に返事をしつつ、今が危険なことを思い出す。必死に状況を伝えて逃げるように言ってくるディモを可笑しそうに眺めながら、ヘレーナは簡単に現状を説明する。
「お、お姉さんが全部倒した……? す、凄い。あっ! ありがとうございます。助かりました! よければ名前を教えてください」
「ヘレーナ。私の名前だよ。ディモはどうしてここに来たんだい?」
「え? なぜ僕の名前を知ってるの? え? ヘレーナさん? さっき夢に見た剣の名前もヘレーナだったような……?」
目の前の女性が名乗ったヘレーナとの名前に、ディモが首を傾げていると楽しそうな笑い声が広間に響いた。
「はっはっは。混乱するのは分かるよ。私も今の状況を理解してる訳じゃないからね。それと、夢じゃなくてディモが契約したのは私だよ」
「お姉さんが剣なの?」
ディモは改めてヘレーナの全身を眺める。自分より頭二つ分高い身長に細身だが均整のとれた身体。赤いセミロングのストレートな髪。端正な容姿に吸い込まれそうになる。なによりも自分を見つめる眼は強い光を放っているように輝いており、ディモは陶然とした表情でヘレーナを眺めていた。
「そんなに見つめられると恥ずかしいね」
「ご、ごめんなさい!」
苦笑しながらのヘレーナの言葉に、ディモは真っ赤になりながら謝罪するのだった。
魔族男は突然現れた女性に恐怖の表情を浮かべて後ずさる。なにも喋らず散歩するように近付いてくる女性に、魔族男は怯えたフリで後ずさりを続けながら突然間合いを詰めて横薙ぎの一撃を払う。
「はっ?」
魔族男の放った斬撃は剣筋がブレるほどの勢いであったが、女性が居た場所を剣が通り過ぎた後には誰もおらず空振りに終わり、間の抜けた声を出した後で慌てて魔族男が女性を探して周りを見渡す。女性は何気ない動作で倒れた魔物の剣を手に取っていた。
「ちょ、ちょっとはスピードがあるようだな。だが、俺の剣がこんなものだと思ったら大間違いだぞ」
「ふーん。まあ、どっちでもいいや。掛かっておいで。軽く相手してあげる。このヘレーナが」
「ヘレーナ? 剣神ヘレーナ? アイツは神剣になったんだろうが! それに『軽く相手をしてあげる』だと? なめんな! 誰だか知らないが、お前は絶対殺す!」
安い挑発に激高した魔族男が勢いよく飛びかかり、上段から勢いよく振り下ろす。その勢いのある攻撃を、ヘレーナは手首を返したすくい上げで弾く。軽い感じで弾いたように見えたが、魔族男の手から剣がこぼれ落ちた。
「なんだよ! その攻撃は! お前の本気はそんなものかよ! もっと気合い入れろよ! 本気出せよ!」
「ふざけんなよ……。魔族の攻撃を弾く人間がどこにいるんだよ! 人間らしく俺に殺されろよぉぉぉぉ!」
剣を拾った魔族は遮二無二に攻撃を開始する。ヘレーナは全ての攻撃を軽く躱し、優しく弾き、丁寧に打ち合っていた。その姿は肩慣らしをしているようで、魔族男もそれに気付いたのか怒気を含めた表情になりながら大きく飛びすさると青筋を立てながら叫んだ。
「てめえは絶対に許さねえ! 俺の事をコケにしやがって! 『我は全てを焼き尽くす炎を求める。全てを灰燼と化し塵のごとく滅する』 俺を怒らせた事を心の底から後悔して死ね!」
魔族男が詠唱を終えると、その前に巨大な炎が渦巻き始め剣に収束する。剣が透明度を増すかのように白く輝き始めた。その様子を見ていたヘレーナは感心したように拍手すると、魔族男が急激に魔力が減ったことで額に汗をかきながら口元を引き攣らせつつ話す。
「随分余裕だな。この魔法は第三階位の炎属性魔法だ。これで斬られた奴は誰だか分からないほど炭化する。後悔するがいい」
「へー。第三階位の炎属性を出したお前に敬意を表して私も本気を出してやろう。『全てを焼き尽くす炎に命じる。我に従い、我に跪き、我に服従せよ。炎は原初にして際限なきもの。灰燼すら生ぬるく、塵一つ残る事を許さぬ』」
ヘレーナの詠唱を聞いていた魔族男は顔面蒼白になりながら逃げ出しそうになる。だが、魔族としてのプライドが彼を押し止め、そして生涯を終わらせようとしていた。
「おいおい。それは第八階位の魔法だろ! 人間ごときが使いこなしていい魔法じゃねえぞ!」
「はっはっは。普段は使わないが、お前のゲスっぷりにテンションが上がってしまった。魔王にすらダメージを与えた魔法だ。安心してくらいな。そして死ね」
ヘレーナは叫んでいる魔族男に無造作に近付くと、軽い感じで剣を振るった。
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「ん! 良い感じの準備体操になったね。後は外にいる魔物を減らしておくか」
ヘレーナはディモの背負い袋から外套や毛布を取り出し布団代わりにすると寝やすい体勢にした。気絶ではなく、疲労困憊で寝ているように見えるディモの姿を微笑ましそうに眺めていたが、軽く気合を入れると鼻歌を歌いながら部屋を出て封印石の外で待機している魔物の殲滅に向かった。
「……。んん。あれ? 僕は一体……。ひっ!」
眠りから覚めたディモが寝ぼけ眼で起き上がる。目をこすりながら伸びをした瞬間に積まれている魔物の山を見て、座っている状態で腰が抜けそうになった。
「な、な、なにが? なにが起こっているの?」
「目が覚めたかい? もう二時間は経つよ。寝る子は育つからねー。もう少し寝てても大丈夫だよ?」
「えっ! そ、そんなに! 二時間も寝てたの? え? お姉さん誰? じゃない! こんな危ないところにいたら駄目だよ! 魔物に襲われるよ! 魔族も居るんだよ! あれ? さっきまでいた魔族は? 魔物は?」
「魔族は私が倒したし、魔物も全部やっつけたから安心しな」
半分寝ぼけていたディモだったが、ヘレーナの声に返事をしつつ、今が危険なことを思い出す。必死に状況を伝えて逃げるように言ってくるディモを可笑しそうに眺めながら、ヘレーナは簡単に現状を説明する。
「お、お姉さんが全部倒した……? す、凄い。あっ! ありがとうございます。助かりました! よければ名前を教えてください」
「ヘレーナ。私の名前だよ。ディモはどうしてここに来たんだい?」
「え? なぜ僕の名前を知ってるの? え? ヘレーナさん? さっき夢に見た剣の名前もヘレーナだったような……?」
目の前の女性が名乗ったヘレーナとの名前に、ディモが首を傾げていると楽しそうな笑い声が広間に響いた。
「はっはっは。混乱するのは分かるよ。私も今の状況を理解してる訳じゃないからね。それと、夢じゃなくてディモが契約したのは私だよ」
「お姉さんが剣なの?」
ディモは改めてヘレーナの全身を眺める。自分より頭二つ分高い身長に細身だが均整のとれた身体。赤いセミロングのストレートな髪。端正な容姿に吸い込まれそうになる。なによりも自分を見つめる眼は強い光を放っているように輝いており、ディモは陶然とした表情でヘレーナを眺めていた。
「そんなに見つめられると恥ずかしいね」
「ご、ごめんなさい!」
苦笑しながらのヘレーナの言葉に、ディモは真っ赤になりながら謝罪するのだった。
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