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15話 朝の稽古
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翌朝、ディモとヘレーナは裏庭で対峙していた。ディモの手にはショートソードが握られており、ヘレーナは細身の枝を構えていた。ディモの息は上がっており、何度も転ばされたのか身体のアチコチには葉っぱや泥が付いていた。
「やあぁぁぁぁ!」
「甘い。そして大振り過ぎだよ」
一生懸命走りながら大振りで上段からの一撃を軽くいなしながら細身の枝をディモの喉元に突きつける。枝にの先から伝わってくる殺気に、その場から一歩も動けなくなったディモをヘレーナは軽く抱きしめる。
「ふっふっふ。これでお姉ちゃんの五〇連勝!」
「うー。全く当たりもしない。それに一歩も動いてないよね? なんで、そんな細い枝で僕のショートソードを受け止めたりできるの?」
「当然。お姉ちゃんは剣聖だよ。剣を握って数日のディモに攻撃を当てられたら、剣士を廃業しないとダメだろうね。でも、筋はいいよ。昔の仲間を思い出すね……」
昔の仲間と言った瞬間にヘレーナの顔が微妙に歪む。抱きしめられた状態だが、小さな変化に気付いたディモがなにか言いたそうにするのをヘレーナは口に手を当てて止めた。
「気にしなくていいよ。一〇〇〇年前の話だからね。それに仲間と言っても魔王を討伐する時のパーティーだからね。それほど仲が良いわけではなかったよ。それに今はディモがいてくれてるから、お姉ちゃんは寂しくないよ。平気だから気にしないで」
「むーむーむー」
口を押さえられていたディモは、ヘレーナの手を叩いて喋れるようになるとユックリとした口調で話しだす。
「お姉ちゃんが仲間の事を話したくなったら言ってね。一〇〇〇年前の仲間の人達とどんな感じだったか聞きたい! それに、もし寂しくなっても僕が居るから大丈夫だよね?」
「天使? ここに天使がいたよ! どうしよう。お姉ちゃんは鼻血が止まらないよ。このまま天国まで行けるのだろうかね?」
「わあぁぁぁ! ちょっと! お姉ちゃん! だ、大丈夫! ハンカチ! 血を止めないと」
微笑みを浮かべつつ手を握りながら自分を見上げてきたディモに、勢いよく鼻血を出しながらヘレーナは蕩けるような笑みを浮かべた。そして名残惜しそうにディモから身体を離すと、次の練習を始める事を告げた。
「よし、朝の練習はここまで。今日の素振りについては毎日一〇分はするように」
「は、はい! あ、ありがとうございました」
模擬戦でディモの実力と抱きしめた時の柔らかさを十分に把握及び満喫したヘレーナは、素振りに切り替えて指導をしていた。ユックリとした素振りだが、間違っている個所を指摘、訂正させながらのため終わったときにはディモは汗だくになっていた。
「汗だくのディモも捨てがたい。息を荒くしながら充実感で爽やかな笑みを浮かべているディモが天使すぎる……。それに、もう復習を始めているよ? 『えい! やあ!』とか言ってるよ。本気で可愛すぎる。どうしようかね? この瞬間を残す魔道具はないのかね?」
「お姉ちゃん? どうしたの?」
「なんでもないよ。朝ご飯の用意は出来るかい? 疲れ切っているなら干し肉でも囓るだけでも……」
「駄目だよ! 朝ご飯はしっかりと食べないと! 力が出ないよ。お酒は用意しないけど、スープはいっぱい作るよ」
「いいねぇ。ディモの作ったスープは天使が作ったように極上の味がするからね!」
「大げさだよ」
ヘレーナの言葉にディモは笑いながら服を脱いで、井戸から汲み上げた冷水で身体を拭くと朝食の準備をするために家に入った。ディモが身体を拭いている様子を一部始終見ていたヘレーナは、再び鼻血が出そうになるのをなんとか我慢していた。
◇□◇□◇□
「相変わらずディモの料理は美味しいね」
「ありがとう。お姉ちゃんに喜んでもらえると、頑張って作ったかいがあるよ」
肉を中心とした朝食に大量のパン。スープも用意されている朝食は豪華だった。ヘレーナは相変わらずの健啖家ぶりを発揮して、用意された物を全て食べ干していた。食後のコーヒーを飲みながらディモに話し掛ける。
「準備はいいかい? 今日の夕方には出発するよ。挨拶したい人が居たら早めにね。それから今日は夕方までは別行動で。集合する時には出発の時だよ」
「分かった。商店街の人達やマイクさん、神父様に挨拶したい。しばらくは帰って来れないもんね。あと、家の事も誰かにお願いしないと」
「そうだね。じゃあ、お姉ちゃんは先に行くよ」
「ね、ねえ! 急に剣になった時はどうするの?」
淡々と今日の予定を話しているヘレーナにディモが確認をする。この数日でヘレーナは何度か急に剣になっており、その状態では身動きが出来なくると思ったからである。そんなディモの心配そうな顔を見ながらヘレーナは笑顔で答える。
「大丈夫だよ。魔法を大量に使ったり、戦闘をすると剣に戻るみたいだ。前に夜になったから剣になったと思ったけど、昨日は戻る事がなかったからね。もし、剣になりそうな時はディモを探し出して運んでもらう事にするよ」
「僕がどこにいるかも分からないのに?」
「お姉ちゃんなら、どこにいてもディモの事を探し出せるから問題ないね!」
不思議そうな顔をしているディモにヘレーナは自信満々の表情で言い切るのだった。
「やあぁぁぁぁ!」
「甘い。そして大振り過ぎだよ」
一生懸命走りながら大振りで上段からの一撃を軽くいなしながら細身の枝をディモの喉元に突きつける。枝にの先から伝わってくる殺気に、その場から一歩も動けなくなったディモをヘレーナは軽く抱きしめる。
「ふっふっふ。これでお姉ちゃんの五〇連勝!」
「うー。全く当たりもしない。それに一歩も動いてないよね? なんで、そんな細い枝で僕のショートソードを受け止めたりできるの?」
「当然。お姉ちゃんは剣聖だよ。剣を握って数日のディモに攻撃を当てられたら、剣士を廃業しないとダメだろうね。でも、筋はいいよ。昔の仲間を思い出すね……」
昔の仲間と言った瞬間にヘレーナの顔が微妙に歪む。抱きしめられた状態だが、小さな変化に気付いたディモがなにか言いたそうにするのをヘレーナは口に手を当てて止めた。
「気にしなくていいよ。一〇〇〇年前の話だからね。それに仲間と言っても魔王を討伐する時のパーティーだからね。それほど仲が良いわけではなかったよ。それに今はディモがいてくれてるから、お姉ちゃんは寂しくないよ。平気だから気にしないで」
「むーむーむー」
口を押さえられていたディモは、ヘレーナの手を叩いて喋れるようになるとユックリとした口調で話しだす。
「お姉ちゃんが仲間の事を話したくなったら言ってね。一〇〇〇年前の仲間の人達とどんな感じだったか聞きたい! それに、もし寂しくなっても僕が居るから大丈夫だよね?」
「天使? ここに天使がいたよ! どうしよう。お姉ちゃんは鼻血が止まらないよ。このまま天国まで行けるのだろうかね?」
「わあぁぁぁ! ちょっと! お姉ちゃん! だ、大丈夫! ハンカチ! 血を止めないと」
微笑みを浮かべつつ手を握りながら自分を見上げてきたディモに、勢いよく鼻血を出しながらヘレーナは蕩けるような笑みを浮かべた。そして名残惜しそうにディモから身体を離すと、次の練習を始める事を告げた。
「よし、朝の練習はここまで。今日の素振りについては毎日一〇分はするように」
「は、はい! あ、ありがとうございました」
模擬戦でディモの実力と抱きしめた時の柔らかさを十分に把握及び満喫したヘレーナは、素振りに切り替えて指導をしていた。ユックリとした素振りだが、間違っている個所を指摘、訂正させながらのため終わったときにはディモは汗だくになっていた。
「汗だくのディモも捨てがたい。息を荒くしながら充実感で爽やかな笑みを浮かべているディモが天使すぎる……。それに、もう復習を始めているよ? 『えい! やあ!』とか言ってるよ。本気で可愛すぎる。どうしようかね? この瞬間を残す魔道具はないのかね?」
「お姉ちゃん? どうしたの?」
「なんでもないよ。朝ご飯の用意は出来るかい? 疲れ切っているなら干し肉でも囓るだけでも……」
「駄目だよ! 朝ご飯はしっかりと食べないと! 力が出ないよ。お酒は用意しないけど、スープはいっぱい作るよ」
「いいねぇ。ディモの作ったスープは天使が作ったように極上の味がするからね!」
「大げさだよ」
ヘレーナの言葉にディモは笑いながら服を脱いで、井戸から汲み上げた冷水で身体を拭くと朝食の準備をするために家に入った。ディモが身体を拭いている様子を一部始終見ていたヘレーナは、再び鼻血が出そうになるのをなんとか我慢していた。
◇□◇□◇□
「相変わらずディモの料理は美味しいね」
「ありがとう。お姉ちゃんに喜んでもらえると、頑張って作ったかいがあるよ」
肉を中心とした朝食に大量のパン。スープも用意されている朝食は豪華だった。ヘレーナは相変わらずの健啖家ぶりを発揮して、用意された物を全て食べ干していた。食後のコーヒーを飲みながらディモに話し掛ける。
「準備はいいかい? 今日の夕方には出発するよ。挨拶したい人が居たら早めにね。それから今日は夕方までは別行動で。集合する時には出発の時だよ」
「分かった。商店街の人達やマイクさん、神父様に挨拶したい。しばらくは帰って来れないもんね。あと、家の事も誰かにお願いしないと」
「そうだね。じゃあ、お姉ちゃんは先に行くよ」
「ね、ねえ! 急に剣になった時はどうするの?」
淡々と今日の予定を話しているヘレーナにディモが確認をする。この数日でヘレーナは何度か急に剣になっており、その状態では身動きが出来なくると思ったからである。そんなディモの心配そうな顔を見ながらヘレーナは笑顔で答える。
「大丈夫だよ。魔法を大量に使ったり、戦闘をすると剣に戻るみたいだ。前に夜になったから剣になったと思ったけど、昨日は戻る事がなかったからね。もし、剣になりそうな時はディモを探し出して運んでもらう事にするよ」
「僕がどこにいるかも分からないのに?」
「お姉ちゃんなら、どこにいてもディモの事を探し出せるから問題ないね!」
不思議そうな顔をしているディモにヘレーナは自信満々の表情で言い切るのだった。
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