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プロローグでエピローグ
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突然、取り囲まれれば困惑する。
また恐怖を抱くであろう。
事実、目の前の男性も自分達を見て怖れ慄いている。
「本当に、これしか方法がなかったの。本当にごめんなさい」
目の前の男性を召喚した聖女ユカは、小さな声で謝罪する。
そして、疲労困憊で意識が飛びそうなのを耐えつつ、目の前で震えている男性へ説明を始めた。
「勇者様を召喚したユカと申します。急なお話で驚かれたと思いますが……との理由で貴方を召喚しました。私達の世界を包み込む闇からどうぞお救いください」
「えーと。話は概ね理解しました。ところでお聞きしたい事が……」
「報酬のお話しでしょうか? でしたら我がシーガ王家が責任を持って支払います。父のレット王からは全権を委任をされておりますので財貨でも、……お望みならハーレムの用意も可能です。聖女であり王女である私はもちろん、あちらにいる大魔法使いモーチコも勇者様のハーレムに入る覚悟は出来ております」
「いえ、ハーレムなんてどうでもよくてですね」
絶世の美女と称され、国民や他国からも羨望の眼差しで見られているユカやモーチコには一瞥くれる事もなく、どうでもいいと言い切り首を振った男性に、プライドを傷つけられつつも、ユカは笑顔を保ちながら話を続ける。
「では財貨でしょうか?」
「いや、ある程度のお金があればいいですよ。そんな事よりラーメン屋さんはどこにあります? 今さっきまで並んでて、次呼ばれる番だったのを召喚されたんだよ」
「『らーめんやさん』とはいかがなる物でしょう? もちろん、我が国の総力を挙げて調査し……あ、あの……。モーチコ、勇者様は何を言われているのでしょうか?」
「いえ、私もらーめんなるものは存じ上げておらず……」
首を傾げているユカがモーチコに確認するが、大魔道士であり、賢者でもあるモーチコの知識を持ってしても分からないようであった。そんな二人をよそに、男性は周囲を見渡すと、1人1人にラーメンの存在を確認し始める。そして誰も知らないと知った男性が絶望した表情を浮かべた。
「ありえねえー。ラーメンどころか麺類がないなんて……」
「あ、あの?」
ブツブツと言いながら魔法陣に戻る男性には全員の注目が集まっていた。
「勇者様。らーめんは我々が総力を上げて調べてご用意いたさいますので、落ち着いていただけますでしょうか」
「いや、チェンジで」
目の前の男性が『チェンジ』と発言した意味が分からないユカとモーチコが顔を見合わせる。
「え? なんで魔法陣が光だすの?」
「1回、使ったら1年は使えないはずなのに!?」
突然。光りだした魔法陣にユカとモーチコ焦り出す。一度、起動すれば1年は使用出来ない魔法陣が突然光り輝いているのだ。驚く2人をよそに男性が軽く首を振った。
「ラーメンがない世界なんてないわー。還るんでよろしく」
「え? ちょっと!?待ってくだ……」
やれやれとの表情を浮かべた男性が軽く魔法陣を足で蹴る。カツンと軽やかな音が響き渡り魔法陣の輝きが無くなった時には男性の姿はなかった。
◇□◇□◇□
1年後
神殿の奥深くにある召喚の間で、聖女ユカの詠唱が響いている。魔法陣は鈍く光り輝いており、四方はローブを羽織った魔法使いが全身に汗を流し魔力を供給し続けていた。そして、一段高い場所では大魔道士モーチコが厳しい顔をしていた。
「モーチコ様。魔法陣への魔力供給が80を超えまますが、魔法使い達の魔力が枯渇しそうです」
「北と西の魔法使いは即時後退。残りの者は南と東をサポート。北と西は私が魔力供給します」
「!? それではモーチコ様の負担が大きすぎます! お命にも影響が……」
「そんな事を言っている場合ではないわ。もう、代わりがいないのよ。今度こそ勇者召喚を成功させないと」
モーチコの言葉に抗議しようとした腹心の魔法使いだったが、彼女の決意した顔を見ると小さく頷いた。
「召喚の儀が間も無く完遂する! 何が起こっても対応できるようにしろ」
「「「 はっ! 」」」
モーチコと話していた腹心の魔法使いが檄を飛ばす。
それに呼応した魔法使い達が杖を構え、残っている魔力を振り絞るように注入する者や、何が起こっても対処できるように魔力を練り上げる者もいた。
張り付く汗を感じながら、モーチコは笑みを浮かべていた。要となる2箇所への魔力供給は大魔法使いと呼ばれる彼女であっても至難の業であり、魔力どころか生命力も削られている。
だが、部下達の動きは見えており、その動きを満足そうに見つめていた。もう、自分に何があっても問題ない。そう思いながら、モーチコは全ての魔力を魔法陣へ注ぎ込む。
『勇者召喚!』
ひときわ大きな声でユカが詠唱を終え崩れ落ちる。
身体から一気に魔力が搾り取られ、意識が落ちそうなのを歯を食いしばって耐えたモーチコが魔法陣を眺める。
同じくユカも魔力枯した状態で顔面蒼白になりながらも魔法陣を見つめていた。
一同が固唾を呑みながら見守る中、呑気な声が召喚の間に響き渡る。
「え? 俺のラーメンは? まだ一口しか食べてないのに下げないでくれよ」
眩い光の中から男性の姿が見えた。
勇者召喚が成功したと大歓声があがるが、ユカとモーチコは聞き覚えのある声を前に、鋭く声を放つ。
「「 また貴方なの!? 」」
「また、お前達かよ」
これはラーメンに命を掛け、ラーメンが食べられないなら自力で元の世界に還る勇者と、世界を救ってもらうためにラーメンの材料を探し、調理法を研究し、最高の出汁や麺のコシを追求する聖女ユカと大魔道士モーチコのファンタージ物語である。
ちなみに世界征服を目指す魔王の名前はクローネ。焼肉と蟹が大好であった。
また恐怖を抱くであろう。
事実、目の前の男性も自分達を見て怖れ慄いている。
「本当に、これしか方法がなかったの。本当にごめんなさい」
目の前の男性を召喚した聖女ユカは、小さな声で謝罪する。
そして、疲労困憊で意識が飛びそうなのを耐えつつ、目の前で震えている男性へ説明を始めた。
「勇者様を召喚したユカと申します。急なお話で驚かれたと思いますが……との理由で貴方を召喚しました。私達の世界を包み込む闇からどうぞお救いください」
「えーと。話は概ね理解しました。ところでお聞きしたい事が……」
「報酬のお話しでしょうか? でしたら我がシーガ王家が責任を持って支払います。父のレット王からは全権を委任をされておりますので財貨でも、……お望みならハーレムの用意も可能です。聖女であり王女である私はもちろん、あちらにいる大魔法使いモーチコも勇者様のハーレムに入る覚悟は出来ております」
「いえ、ハーレムなんてどうでもよくてですね」
絶世の美女と称され、国民や他国からも羨望の眼差しで見られているユカやモーチコには一瞥くれる事もなく、どうでもいいと言い切り首を振った男性に、プライドを傷つけられつつも、ユカは笑顔を保ちながら話を続ける。
「では財貨でしょうか?」
「いや、ある程度のお金があればいいですよ。そんな事よりラーメン屋さんはどこにあります? 今さっきまで並んでて、次呼ばれる番だったのを召喚されたんだよ」
「『らーめんやさん』とはいかがなる物でしょう? もちろん、我が国の総力を挙げて調査し……あ、あの……。モーチコ、勇者様は何を言われているのでしょうか?」
「いえ、私もらーめんなるものは存じ上げておらず……」
首を傾げているユカがモーチコに確認するが、大魔道士であり、賢者でもあるモーチコの知識を持ってしても分からないようであった。そんな二人をよそに、男性は周囲を見渡すと、1人1人にラーメンの存在を確認し始める。そして誰も知らないと知った男性が絶望した表情を浮かべた。
「ありえねえー。ラーメンどころか麺類がないなんて……」
「あ、あの?」
ブツブツと言いながら魔法陣に戻る男性には全員の注目が集まっていた。
「勇者様。らーめんは我々が総力を上げて調べてご用意いたさいますので、落ち着いていただけますでしょうか」
「いや、チェンジで」
目の前の男性が『チェンジ』と発言した意味が分からないユカとモーチコが顔を見合わせる。
「え? なんで魔法陣が光だすの?」
「1回、使ったら1年は使えないはずなのに!?」
突然。光りだした魔法陣にユカとモーチコ焦り出す。一度、起動すれば1年は使用出来ない魔法陣が突然光り輝いているのだ。驚く2人をよそに男性が軽く首を振った。
「ラーメンがない世界なんてないわー。還るんでよろしく」
「え? ちょっと!?待ってくだ……」
やれやれとの表情を浮かべた男性が軽く魔法陣を足で蹴る。カツンと軽やかな音が響き渡り魔法陣の輝きが無くなった時には男性の姿はなかった。
◇□◇□◇□
1年後
神殿の奥深くにある召喚の間で、聖女ユカの詠唱が響いている。魔法陣は鈍く光り輝いており、四方はローブを羽織った魔法使いが全身に汗を流し魔力を供給し続けていた。そして、一段高い場所では大魔道士モーチコが厳しい顔をしていた。
「モーチコ様。魔法陣への魔力供給が80を超えまますが、魔法使い達の魔力が枯渇しそうです」
「北と西の魔法使いは即時後退。残りの者は南と東をサポート。北と西は私が魔力供給します」
「!? それではモーチコ様の負担が大きすぎます! お命にも影響が……」
「そんな事を言っている場合ではないわ。もう、代わりがいないのよ。今度こそ勇者召喚を成功させないと」
モーチコの言葉に抗議しようとした腹心の魔法使いだったが、彼女の決意した顔を見ると小さく頷いた。
「召喚の儀が間も無く完遂する! 何が起こっても対応できるようにしろ」
「「「 はっ! 」」」
モーチコと話していた腹心の魔法使いが檄を飛ばす。
それに呼応した魔法使い達が杖を構え、残っている魔力を振り絞るように注入する者や、何が起こっても対処できるように魔力を練り上げる者もいた。
張り付く汗を感じながら、モーチコは笑みを浮かべていた。要となる2箇所への魔力供給は大魔法使いと呼ばれる彼女であっても至難の業であり、魔力どころか生命力も削られている。
だが、部下達の動きは見えており、その動きを満足そうに見つめていた。もう、自分に何があっても問題ない。そう思いながら、モーチコは全ての魔力を魔法陣へ注ぎ込む。
『勇者召喚!』
ひときわ大きな声でユカが詠唱を終え崩れ落ちる。
身体から一気に魔力が搾り取られ、意識が落ちそうなのを歯を食いしばって耐えたモーチコが魔法陣を眺める。
同じくユカも魔力枯した状態で顔面蒼白になりながらも魔法陣を見つめていた。
一同が固唾を呑みながら見守る中、呑気な声が召喚の間に響き渡る。
「え? 俺のラーメンは? まだ一口しか食べてないのに下げないでくれよ」
眩い光の中から男性の姿が見えた。
勇者召喚が成功したと大歓声があがるが、ユカとモーチコは聞き覚えのある声を前に、鋭く声を放つ。
「「 また貴方なの!? 」」
「また、お前達かよ」
これはラーメンに命を掛け、ラーメンが食べられないなら自力で元の世界に還る勇者と、世界を救ってもらうためにラーメンの材料を探し、調理法を研究し、最高の出汁や麺のコシを追求する聖女ユカと大魔道士モーチコのファンタージ物語である。
ちなみに世界征服を目指す魔王の名前はクローネ。焼肉と蟹が大好であった。
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