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シルバー辺境伯
しおりを挟む神の力を体感したティナは倒れるほどの衝撃にも耐え、黙々とステーキを頬張っていた。
その様子をあっけにとられながら眺めている三人の前にはまだ手つかずの料理が並んでいた。
やっと食欲が満たされたのか、ティナがじっと自分を見つめている三人に向かって言った。
「えっと・・・食べないのですか?ステーキめちゃおいしかったですよ?」
その言葉に我に返ったハロッズ侯爵が口を開く。
「あ・・・あまりの見事な食べっぷりに感動さえしておりました・・・良ければこれも召し上がりますか?」
ティナは一瞬迷ったがゆっくりと首を横に振った。
「ありがたいお申し出ですが、さすがにもう入りません。皆様も召し上がった方が良いですよ?明日はとっても忙しいでしょう?」
三人はコクコクと無言で頷き、無言でカトラリーに手を伸ばした。
キアヌ殿下が思い出したように言う。
「神の力は・・・そんなに凄い衝撃なの?」
ティナが返事をする。
「なんというか・・・脳みそを全部を持っていかれそうな感覚?心臓だけ握りつぶされそうな感じ?全身を針で刺されているような?・・・う~ん、なかなか表現が難しいですね」
キアヌがそっとフォークを置きながら言った。
「いや、もういい・・・聞いた私が悪かった。さあ、ハロッズ侯爵もロバート伯爵も・・・ステーキをいただこう」
顔色を悪くした三人を不思議そうに見ながらティナはデザートに手を伸ばした。
ティナが二つ目のマカロンを手に取った時、食堂のドアがノックされ、ナサーリアが入ってきた。
「サーリ様!」
四人がほぼ同時に叫んだ。テーブルを囲んでいた護衛達が一斉に跪く。
「皆さま・・・ご心配をおかけしてしまい申し訳ございませんでした」
ハロッズ侯爵が駆け寄った。
「サリ!サーリ!私の大切な娘!体はどうだい?痛いところは?」
「お父様、ごめんなさい。私が行きたいと我儘を言ったばかりに・・・皆様にご迷惑をかけてしまいました」
「大丈夫だよ、誰もサーリを責めてはいない。お前は聖女としての役割を全うしようとしただけだ。そうですよね?殿下」
キアヌ殿下が慌てて立ち上がった。
「聖女サーリ様、ご無事で良かった・・・生きた心地がしませんでした。兄も後悔していましたよ、自分が同行していればと」
「そんな!ユリア殿下が後悔されるなどとんでもないことです。私が我儘だったのです」
ナサーリアはハロッズ侯爵の胸に顔をうずめて泣いてしまった。
ティナはそっとナサーリアに近づき声をかける。
「サーリ様・・・」
ナサーリアが顔を上げティナを見た。
「ティナ様・・・ご心配をおかけしてしまいました。駆けつけて下さって・・・お助けくださって・・・本当にありがとうございました」
「ご無事で何よりです。でも私より皆さんに言った方が良いですよ?私がサーリ様をお助けするのはサーリ様のことが好きだからです。きっと皆様も同じ気持ちだと思いますよ?」
サーリが振り返るとそこにいる全員の笑顔が広がっていた。
サーリは一度ティナを見て頷くと、全員に向かって可憐なカーテシーを披露した。
「皆さま・・・本当にありがとうございました。皆様のお陰でナサーリアは救われました。これでまたこの国の方々のために働くことができます。心より感謝いたします」
キアヌがナサーリアの前に跪く。
「聖女ナサーリア様。このように怖い思いをされたのに?まだ国のために働くと言ってくださるのですか?」
「もちろんですわ殿下。ご迷惑でないのなら私は続けとう存じます。お父様・・・良いですよね?」
ナサーリアがハロッズ侯爵に向かって不安そうな顔を向けた。
「ああ、もちろんだよナサーリア。お前を止めることはできないようだ。我が一族の名を賭けてお前を守ると誓おう」
「お父様!」
ナサーリアがハロッズ侯爵に駆け寄り抱きついた。
「さあ!今度こそ食事にしよう」
ガタガタと椅子が引かれる音がして和やかな雰囲気での食事が再開された。
ナサーリアはティナの横に座りオレンジチョコレートケーキを頬張る。
温かい紅茶にミルクをたっぷり入れてティナはナサーリアに渡した。
「サーリ様、落ち着いたら今回のことを皆さんにお話できますか?」
ナサーリアは少し肩をぴくっとさせたがしっかりと頷いた。
「あのねティナ様、私はすぐに目隠しをされてしまって・・・それにお父様の・・・」
ナサーリアが悲しい顔で俯いた。
ティナはナサーリアの肩を抱きしめて言った。
「私がずっと一緒にいます。頑張れますか?」
「はい」
「ではもう少し食べましょうね。食べれば元気が出ますし、プラス思考が生まれますから」
「プラス思考?」
「ええ、悪い方向にばかり考えても無駄です。腹が減っては戦はできぬ!人間万事塞翁が馬ですよ!」
その場にいる全員の頭の上にはてなマークが浮かんだ。
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