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クリスの言葉に、ニックは黙って俯いた。
「まあ! ニックじゃない。何度か顔は合わせているけれど、こうして話すのは卒業以来じゃない? ねえ、キャンディ、あなたの旦那様がいらしているわ」
そういうなりソニアの顔を睨みつけるリリア。
キャンディは今気づいたように振り返った。
「まあ! ニック?」
「キャンディ……なぜ君が?」
慌てふためくニック。
「ニック? 出張では無かったの? 日程が変わったのかしら」
「あ……いや……その……」
ソニアが余裕の表情で一歩進み出た。
「久しぶりね、キャンディ。あなたの旦那様をお借りしているわ。私たちはオペラ観劇の帰りなの。あなたは? てっきり家に閉じこもっていると思ったのに」
キャンディはグッと奥歯を嚙みしめた。
「ソニア? 戻ってきていたの?」
「ええ、少し前にね。ニックに連絡をとったらすぐに会いに来てくれて、それからはまた昔のように過ごしているのよ? まあ、あの頃と違うこともあるけれどね」
「昔を懐かしむ気持ちは良く分かるわ」
キャンディはそう口にしてニックを見た。
慌てて言い訳をするニック。
「いや、違うんだ、キャンディ。彼女には、えっと……仕事上でいろいろと相談に乗ってもらっていてね。今日はそのお礼にドレスを仕立てることにしたんだよ。ああ、そうだ。君にもドレスを贈ろう。僕が選んであげるよ。久しぶりに僕の瞳の色なんてどうかな」
真っ赤な顔でぺらぺらと喋りたてるニック。
キャンディはますます冷静になっていった。
「あら、そうなの。それはお礼をしなくてはね。でも私のドレスは不要よ。それよりソニアのを選ぶんでしょう? どうぞこちらはお気遣いなく」
啞然として慌てふためくニックに、ソニアの顔色がさっと変わる。
「ふふふ、私たちは明日から旅行に行くの。あの夕日がきれいなハーベイへね。もちろん今夜も一緒に過ごす予定よ。ああそうだわ! あなたも一緒に来ない? ハーベイに2人で行くのは2回目なの。前回は2人だけだったけど、3人でも楽しいかもしれないわ。夜は素敵なダンスパーティーもあるのよ? ねえ、ニックそうしましょうよ」
リリアが今にも飛び掛かりそうな顔でソニアを睨みつけている。
クリスはリリアを止めるのに精一杯だ。
キャンディは、懸命に煽ってくるソニアを無視してニックに言った。
「3人で? 私は子供がいるから遠慮するわ。ああ、そうだわニック。あなたが出張に行っている間に少し実家に顔を出そうと思うの。弟の卒業祝いをするらしくて夕食に誘われたのよ。あなたもって言われたのだけれど、お仕事でしょう? だからホープスだけ連れて行こうと思って。それで祝いの品を選びに来たの。あなたもお仕事でいないのだし、少しゆっくりしてきたいわ」
リリアが何か言おうとするのをクリスが止め、代わりに口を開いた。
「ばったりそこで出会ってね。僕たちの買い物に付き合ってもらっていたんだ。この後夕食でもっていう話になっているんだよ。君は不在だと聞いたから、遠慮なく誘ったのだけれど拙かったかな」
ニックは震える声で返事をした。
「いえ、僕が出張というのは本当なので、キャンディを誘ってくださって有難いですよ。家で一人寂しい思いをさせなくて安心しました。よろしくお願いします」
クリスが真顔で言う。
「君は出張なんだね? 先ほどそこのご婦人が言った言葉はただの揶揄いなんだね?」
「ええ……そうですよ。キャンディ、実家に行ったらよろしく伝えてくれ」
ソニアが不満げな声を出す。
「ねえ、ニック、私気分を害したわ。他の店にしましょうよ。そして今夜は……ね?」
ニックの顔は真っ青だった。
「な! 何を言っているんだソニア。冗談ばかり言って君らしくないな。少し待っていてくれ……キャンディ、少し話せるかい?」
「良いわよ」
ニックはキャンディに手を伸ばすが、キャンディは気付かない振りをしてさっさと接客用ソファーに座った。
「お話ってなあに?」
「なあ、キャンディ。誤解しないで欲しい。ソニア……いや、王子妃は冗談を言ったんだ。君を揶揄おうって思ったのだろうね。まさかとは思うが、君が……その……あんな冗談を真に受けて……父上に相談なんてするはずはないよね?」
「お義父様に相談? だってお仕事の関係なのでしょう? 何を相談するの?」
「そっ、そうだよね。君は僕を信じてくれているんだものね。どうやら変な心配をしてしまったようだ。繰り返すけれど、彼女とはそんなのではないからね。安心して欲しい。僕が愛しているのは君だけだよ」
「おかしな人ねぇ。私は大丈夫よ」
キャンディは血を吐くような気分で最後のセリフを言った。
静かに立ち上がり、リリアの横へ移動する。
ソニアは平気な顔をしてドレスを眺めていた。
「ではソニア王子妃殿下、失礼しますわ。今後ともレガート商会をよろしくお願いします」
キャンディの言葉を完全に無視して、ソニアはニックの側に駆け寄り、体ごとぶつけるようにして抱きついてからキャンディの顔を見た。
ニコニコと手を振るキャンディ。
店を出る二人を睨みつけた後、責任者が近寄ってきてキャンディにソファーを勧めた。
「もう二度とあの方たちとは取引をしません」
責任者の言葉に肩の力が抜けてゆく。
「まあ! ニックじゃない。何度か顔は合わせているけれど、こうして話すのは卒業以来じゃない? ねえ、キャンディ、あなたの旦那様がいらしているわ」
そういうなりソニアの顔を睨みつけるリリア。
キャンディは今気づいたように振り返った。
「まあ! ニック?」
「キャンディ……なぜ君が?」
慌てふためくニック。
「ニック? 出張では無かったの? 日程が変わったのかしら」
「あ……いや……その……」
ソニアが余裕の表情で一歩進み出た。
「久しぶりね、キャンディ。あなたの旦那様をお借りしているわ。私たちはオペラ観劇の帰りなの。あなたは? てっきり家に閉じこもっていると思ったのに」
キャンディはグッと奥歯を嚙みしめた。
「ソニア? 戻ってきていたの?」
「ええ、少し前にね。ニックに連絡をとったらすぐに会いに来てくれて、それからはまた昔のように過ごしているのよ? まあ、あの頃と違うこともあるけれどね」
「昔を懐かしむ気持ちは良く分かるわ」
キャンディはそう口にしてニックを見た。
慌てて言い訳をするニック。
「いや、違うんだ、キャンディ。彼女には、えっと……仕事上でいろいろと相談に乗ってもらっていてね。今日はそのお礼にドレスを仕立てることにしたんだよ。ああ、そうだ。君にもドレスを贈ろう。僕が選んであげるよ。久しぶりに僕の瞳の色なんてどうかな」
真っ赤な顔でぺらぺらと喋りたてるニック。
キャンディはますます冷静になっていった。
「あら、そうなの。それはお礼をしなくてはね。でも私のドレスは不要よ。それよりソニアのを選ぶんでしょう? どうぞこちらはお気遣いなく」
啞然として慌てふためくニックに、ソニアの顔色がさっと変わる。
「ふふふ、私たちは明日から旅行に行くの。あの夕日がきれいなハーベイへね。もちろん今夜も一緒に過ごす予定よ。ああそうだわ! あなたも一緒に来ない? ハーベイに2人で行くのは2回目なの。前回は2人だけだったけど、3人でも楽しいかもしれないわ。夜は素敵なダンスパーティーもあるのよ? ねえ、ニックそうしましょうよ」
リリアが今にも飛び掛かりそうな顔でソニアを睨みつけている。
クリスはリリアを止めるのに精一杯だ。
キャンディは、懸命に煽ってくるソニアを無視してニックに言った。
「3人で? 私は子供がいるから遠慮するわ。ああ、そうだわニック。あなたが出張に行っている間に少し実家に顔を出そうと思うの。弟の卒業祝いをするらしくて夕食に誘われたのよ。あなたもって言われたのだけれど、お仕事でしょう? だからホープスだけ連れて行こうと思って。それで祝いの品を選びに来たの。あなたもお仕事でいないのだし、少しゆっくりしてきたいわ」
リリアが何か言おうとするのをクリスが止め、代わりに口を開いた。
「ばったりそこで出会ってね。僕たちの買い物に付き合ってもらっていたんだ。この後夕食でもっていう話になっているんだよ。君は不在だと聞いたから、遠慮なく誘ったのだけれど拙かったかな」
ニックは震える声で返事をした。
「いえ、僕が出張というのは本当なので、キャンディを誘ってくださって有難いですよ。家で一人寂しい思いをさせなくて安心しました。よろしくお願いします」
クリスが真顔で言う。
「君は出張なんだね? 先ほどそこのご婦人が言った言葉はただの揶揄いなんだね?」
「ええ……そうですよ。キャンディ、実家に行ったらよろしく伝えてくれ」
ソニアが不満げな声を出す。
「ねえ、ニック、私気分を害したわ。他の店にしましょうよ。そして今夜は……ね?」
ニックの顔は真っ青だった。
「な! 何を言っているんだソニア。冗談ばかり言って君らしくないな。少し待っていてくれ……キャンディ、少し話せるかい?」
「良いわよ」
ニックはキャンディに手を伸ばすが、キャンディは気付かない振りをしてさっさと接客用ソファーに座った。
「お話ってなあに?」
「なあ、キャンディ。誤解しないで欲しい。ソニア……いや、王子妃は冗談を言ったんだ。君を揶揄おうって思ったのだろうね。まさかとは思うが、君が……その……あんな冗談を真に受けて……父上に相談なんてするはずはないよね?」
「お義父様に相談? だってお仕事の関係なのでしょう? 何を相談するの?」
「そっ、そうだよね。君は僕を信じてくれているんだものね。どうやら変な心配をしてしまったようだ。繰り返すけれど、彼女とはそんなのではないからね。安心して欲しい。僕が愛しているのは君だけだよ」
「おかしな人ねぇ。私は大丈夫よ」
キャンディは血を吐くような気分で最後のセリフを言った。
静かに立ち上がり、リリアの横へ移動する。
ソニアは平気な顔をしてドレスを眺めていた。
「ではソニア王子妃殿下、失礼しますわ。今後ともレガート商会をよろしくお願いします」
キャンディの言葉を完全に無視して、ソニアはニックの側に駆け寄り、体ごとぶつけるようにして抱きついてからキャンディの顔を見た。
ニコニコと手を振るキャンディ。
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