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キディの寝顔をじっと見つめながら、オーエンが声に出す。
「キディ、あんな優男がいいの? 頼りなさそうじゃん。俺の方が強いと思うよ? 契約履行中は無理だけど、終わったら告ろうって思ってたのになぁ~」
オーエンの呟きは眠るキディの耳には届かなかった。
そして夕方、目を覚ましたキディに、暖かいミルクでふやかしたライ麦パンを食べさせながら、エマが言う。
「スミス牧師様ったらめちゃめちゃ焦ってお医者様を呼びに走られたんです。笑えました」
「笑えたって……そんなに焦っておられたの? ただの風邪なのに」
「ええ、兄さんも真っ青になっちゃって。男って傷の痛みには鈍いくせに、病気には弱いですよね~」
「そういうものかしら。私の周りにいた男の人って『俺は貴族だぜ』っていう感じの人ばかりだったから、そもそも自分で医者を呼ぶことも無いし、怪我だってすることも無いわ」
「なるほど、そういうものかもしれませんね。そう言えばキディ様のクズ旦那ってどんな人だったのですか?」
「あのクズ野郎は自分で考えて行動するということができない程度の男ね。親が決めた婚約だったし、私は何とか歩み寄ろうと努力もしたけれど、時間の無駄だったわ。右を向けと言われたら、何の疑問も無くとりあえず右を向くような男よ」
「見た目は?」
「見た目は中の上ってところかな? 黙って立っていれば見栄えは良かったわ」
「金持ちだったのでしょう?」
「そうね、お金に苦労は無かったわね。お義父様がしっかりなさっていたし、経営する商会もそこそこ大きかったから」
「考えなしの金持ちのボンボンってことですね。でも女性には一途って感じでしょうか」
「一途っていうのかしら。ちょっと違うような? 敢えて褒めるなら自分の不器用さは理解していたわ」
「あ~なるほど。一兎しか追ってないのに、その一兎にもバカにされるだけっていうタイプですね? 可哀想な人……」
「そこまで言ってないわよ。まだ頭がボーッとしてるんだから、あまり笑わせないで」
「ははは! 兄さんにも今日はもう休んでもらったと伝えますから、ゆっくり眠ってください。風邪は食べて寝ていれば治りますから」
「ありがとう、心配かけたわね。みんなにもお礼を吐当ててちょうだい」
食べ終わった食器を抱えてエマが寝室から出た。
キディはカーテンの隙間から見える夜空を眺めながら呟いた。
「スミス様、ありがとうございました。オーエンも駆け付けてくれてありがとうね」
キディが静かな寝息を立て始めたころ、階下では戻ってきたリアから報告を受けていた。
「あの不審者はニック・レガートだったのか?」
「ええ、顔を確認しましたから間違いありません。何気に通行人を装って話しかけたら、まあ間抜けなほどぺらぺらと喋りました」
「バカなの? ああ、バカなのね……」
エマが溜息を吐いた。
「領主夫人の名前や年齢、そして庭先で見かけたワンピ-ス姿の上品な女性が領主夫人か?と、なんとも直接的な質問ばかりでしたね」
「生きてたんだな。てっきり父親に始末されたかと思っていたが」
「恋人が人質に取られているから、どうしてもキャンディを連れ帰らないといけないんだと泣いていました。よくもまあ見ず知らずの女にそこまで喋りますよね」
オーエンが言う。
「見ず知らずって、リアはニック・レガートの屋敷で働いていたんだろ? それなのにわからないのか?」
「使用人の顔をいちいち覚えているほど優秀ではありませんよ。ホープス様が生まれてからは毒婦に絡めとられてましたし、ホープスとその世話人というセット認識程度でしょうね。特に変装をしていたわけでは無いのに」
エマが噴き出す。
「リア姐さんったら、試したの?」
「うん、ちょっとバカ度を計ろうかなって。バレたら締めれば良いしね」
オーエンとエマが失笑を漏らす。
「あのバカどうします? 旅費も無いって言ってましたから、放っておけば野垂れ死に確定ですが」
「無一文なの? じゃあ今夜は……あっ! 教会か」
「ああ、きっとそうですね。スミス牧師が危ないかしら」
リアの心配にエマが答えた。
「大丈夫だと思うよ。スミス牧師は相当な手練れだと思う。馬術も凄いし、私の予想では元騎士かその系統の家の出身だわ」
「やはりそうか。身のこなしが俺たちに近いと感じることもあったからな。もしかしたら帝国人か? だとしたら消さなくてはいけないが……」
「言葉のアクセントだけだと違うと思う。隠しても細かいところの癖はあるからね」
「万が一だが……いや、億に一か。ニックが愚か者を装って侵入し、スミスと連絡を取っているかも?」
エマとリアが同時に吹き出した。
「いや、ないないないないない! 兆に一も無いよ」
全否定だったが、オーエンはほんの少し引っかかるものがあった。
「まあそうだとは思うけど。俺ちょっと見てくるよ」
二人は呆れていたが、オーエンはすくっと立ち上がった。
「キディを頼む。すぐに戻るよ」
そのままオーエンは闇に消えていった。
リアがエマに聞く。
「どうなってんの? うちのボスは」
「どうも被保護対象に特別な感情をもっちゃったみたいよ?」
「マジで? 面倒くさいなぁ」
「ほっとけば? いずれ玉砕する」だけよ
「まああの年だし? キディさんは美人だし頭も良いし性格も良いしね。わからんことは無いけど……」
「そうよね。理想的な良妻賢母タイプよね。なぜ苦労が多いのかしら」
「親じゃない? 絵に描いたような毒親じゃん」
「確かに……」
二人は何杯目かのお茶に手を伸ばした。
「キディ、あんな優男がいいの? 頼りなさそうじゃん。俺の方が強いと思うよ? 契約履行中は無理だけど、終わったら告ろうって思ってたのになぁ~」
オーエンの呟きは眠るキディの耳には届かなかった。
そして夕方、目を覚ましたキディに、暖かいミルクでふやかしたライ麦パンを食べさせながら、エマが言う。
「スミス牧師様ったらめちゃめちゃ焦ってお医者様を呼びに走られたんです。笑えました」
「笑えたって……そんなに焦っておられたの? ただの風邪なのに」
「ええ、兄さんも真っ青になっちゃって。男って傷の痛みには鈍いくせに、病気には弱いですよね~」
「そういうものかしら。私の周りにいた男の人って『俺は貴族だぜ』っていう感じの人ばかりだったから、そもそも自分で医者を呼ぶことも無いし、怪我だってすることも無いわ」
「なるほど、そういうものかもしれませんね。そう言えばキディ様のクズ旦那ってどんな人だったのですか?」
「あのクズ野郎は自分で考えて行動するということができない程度の男ね。親が決めた婚約だったし、私は何とか歩み寄ろうと努力もしたけれど、時間の無駄だったわ。右を向けと言われたら、何の疑問も無くとりあえず右を向くような男よ」
「見た目は?」
「見た目は中の上ってところかな? 黙って立っていれば見栄えは良かったわ」
「金持ちだったのでしょう?」
「そうね、お金に苦労は無かったわね。お義父様がしっかりなさっていたし、経営する商会もそこそこ大きかったから」
「考えなしの金持ちのボンボンってことですね。でも女性には一途って感じでしょうか」
「一途っていうのかしら。ちょっと違うような? 敢えて褒めるなら自分の不器用さは理解していたわ」
「あ~なるほど。一兎しか追ってないのに、その一兎にもバカにされるだけっていうタイプですね? 可哀想な人……」
「そこまで言ってないわよ。まだ頭がボーッとしてるんだから、あまり笑わせないで」
「ははは! 兄さんにも今日はもう休んでもらったと伝えますから、ゆっくり眠ってください。風邪は食べて寝ていれば治りますから」
「ありがとう、心配かけたわね。みんなにもお礼を吐当ててちょうだい」
食べ終わった食器を抱えてエマが寝室から出た。
キディはカーテンの隙間から見える夜空を眺めながら呟いた。
「スミス様、ありがとうございました。オーエンも駆け付けてくれてありがとうね」
キディが静かな寝息を立て始めたころ、階下では戻ってきたリアから報告を受けていた。
「あの不審者はニック・レガートだったのか?」
「ええ、顔を確認しましたから間違いありません。何気に通行人を装って話しかけたら、まあ間抜けなほどぺらぺらと喋りました」
「バカなの? ああ、バカなのね……」
エマが溜息を吐いた。
「領主夫人の名前や年齢、そして庭先で見かけたワンピ-ス姿の上品な女性が領主夫人か?と、なんとも直接的な質問ばかりでしたね」
「生きてたんだな。てっきり父親に始末されたかと思っていたが」
「恋人が人質に取られているから、どうしてもキャンディを連れ帰らないといけないんだと泣いていました。よくもまあ見ず知らずの女にそこまで喋りますよね」
オーエンが言う。
「見ず知らずって、リアはニック・レガートの屋敷で働いていたんだろ? それなのにわからないのか?」
「使用人の顔をいちいち覚えているほど優秀ではありませんよ。ホープス様が生まれてからは毒婦に絡めとられてましたし、ホープスとその世話人というセット認識程度でしょうね。特に変装をしていたわけでは無いのに」
エマが噴き出す。
「リア姐さんったら、試したの?」
「うん、ちょっとバカ度を計ろうかなって。バレたら締めれば良いしね」
オーエンとエマが失笑を漏らす。
「あのバカどうします? 旅費も無いって言ってましたから、放っておけば野垂れ死に確定ですが」
「無一文なの? じゃあ今夜は……あっ! 教会か」
「ああ、きっとそうですね。スミス牧師が危ないかしら」
リアの心配にエマが答えた。
「大丈夫だと思うよ。スミス牧師は相当な手練れだと思う。馬術も凄いし、私の予想では元騎士かその系統の家の出身だわ」
「やはりそうか。身のこなしが俺たちに近いと感じることもあったからな。もしかしたら帝国人か? だとしたら消さなくてはいけないが……」
「言葉のアクセントだけだと違うと思う。隠しても細かいところの癖はあるからね」
「万が一だが……いや、億に一か。ニックが愚か者を装って侵入し、スミスと連絡を取っているかも?」
エマとリアが同時に吹き出した。
「いや、ないないないないない! 兆に一も無いよ」
全否定だったが、オーエンはほんの少し引っかかるものがあった。
「まあそうだとは思うけど。俺ちょっと見てくるよ」
二人は呆れていたが、オーエンはすくっと立ち上がった。
「キディを頼む。すぐに戻るよ」
そのままオーエンは闇に消えていった。
リアがエマに聞く。
「どうなってんの? うちのボスは」
「どうも被保護対象に特別な感情をもっちゃったみたいよ?」
「マジで? 面倒くさいなぁ」
「ほっとけば? いずれ玉砕する」だけよ
「まああの年だし? キディさんは美人だし頭も良いし性格も良いしね。わからんことは無いけど……」
「そうよね。理想的な良妻賢母タイプよね。なぜ苦労が多いのかしら」
「親じゃない? 絵に描いたような毒親じゃん」
「確かに……」
二人は何杯目かのお茶に手を伸ばした。
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