裏切りの代償

志波 連

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 オーエンを先頭に総勢8人の大所帯だ。
 裏庭で遊んでいた子供たちが、何事かと木の陰から覗いてみている。
 
「あっ! オーエン父さん!」

 一人の子供が駆け寄ってきた。
 すると他の子供たちも一斉に駆け出し、あっという間にオーエンを取り囲んだ。
 みんな口々にオーエン父さんと呼んでいる。

「待て待て! 挨拶をしなさいといつも言っているだろう? 今日はクッキーを持ってきたから、みんなで食べなさい。私はお客様を案内するから邪魔をしてはいけないよ」

「はぁ~い」

 一番年長の男の子が籠を受け取り、小さい子たちの手を引いて裏庭へ向かう。
 オーエンはホッと息を吐いた。

「おい、ちょっと待て」

 レガート侯爵の声がかかる。
 子供たちはビクッとして立ち止まった。

「子供たちを並ばせろ」

 オーエンが頷いて見せると、子供たちがバラバラと横並びになる。
 馬を降りた侯爵が、一人ずつ子供の顔を確認し始めた。

「何事ですか?」

 スミス牧師が教会から出てくる。

「ああ、牧師様。お客様です。何かお探し物があるそうで」

 オーエンが口を開くと、スミス牧師が頷いた。

「お客様ですか。こんな田舎に探し物とは珍しい」

 その間にも傭兵たちは教会の庭をうろつきまわる。
 背丈の高い草の中まで探る念の入れようだった。

「お前、名前と歳は?」

 レガート侯爵が端の子供に質問した。

「おいらはサムです。11歳です」

「お前は?」

 どうやら全員に聞くつもりのようだ。
 子供たちはおろおろしながらも、きちんと答えている。
 そして侯爵の足がホープスの前に止まった。

「お前は?」

「僕は……スミスです。5歳です」

「ん? お前……おい! 領主!」

「はい! 何でしょう」

 オーエンが慌てて駆け寄る。
 
「こいつ怪我をしている。見てやれ」

「あれ? 本当だ。どこにぶつけたんだ? ほっぺたが切れてるぞ」

「さっきね、鬼ごっこしてて木にぶつかっちゃったの」

「そうか、水で洗って薬を塗ろう。こっちにおいで」

 オーエンがエスポの手を引いて、教会の方に歩いて行った。
 スミスが後を追う。

「領主様、私がやりますので。領主様はお客様を」

「ああ、そうですね。お願いします」

 オーエンはエスポをスミスに渡し、レガート侯爵の元に戻った。
 最後の子供まで全て確認し終えた侯爵が振り返る。

「どいつもこいつも田舎臭い顔をしている。子供はこれだけか?」

「まだいますが、後の子たちはみんな親の手伝いで畑に出ています。歩けないほど幼い子は母親がおぶっているか、籠に入れられているかですが」

「もういい。教会の中を見せろ」

 庭の探索を終えた傭兵たちも集まってくる。
 レガートはオーエンを先頭に立たせて、教会の扉をくぐった。
 小さな礼拝堂には、今にも壊れそうな木の椅子が十数個、無造作に並んでいる。
 説教台の横でのろのろと箒を動かしているのは教会の下男だ。

「爺さん、いつもご苦労だね」

 下男が顔を上げる。

「ああ、領主様かね。今日も差し入れかね? ありがたいねぇ」

 下男は酷い猫背で、左足を庇うようにして腰を伸ばした。
 傭兵の一人が下男に声を掛ける。

「おい、じじい。厠はどこだ」

「ご不浄なら外に出て左に回った小屋でさぁ。今は婆さんが掃除をしているんじゃなかったかな?」

 よほど我慢していたのか、その傭兵は侯爵の許可も取らずに駆け出した。
 他の傭兵たちはへらへら笑いながら見送っている。

「腹でも壊したか? 腐ってるもんでも食ったんじゃねえか?」

「それなら同じもんを食った俺たちも下してるだろ? 腹出してねたんだろうぜ」

 それを聞きながら侯爵がチッと舌打ちをした。

「牧師さん、ここはあんただけかね?」

「いいえ、私ともう一人神に仕える者がおります。後は雑用をしてくれる老夫婦です」

「さっきの子供らは?」

「親が働いている時間はここで預かっています」

「孤児は?」

「何人かはおりますが……」

 スミスが不安そうにオーエンの顔を見た。
 オーエンが話を引き取る。

「流行り病で両親とも失くした子供がいますよ。先ほどの中で大きい子たちはほとんどそうです。あと何年かしたらどこかの商会にでも奉公に出す予定です」

「もう一人の神のしもべとやらはどこにいる?」

 スミスが口を開こうとしたとき、厠へ行っていた傭兵が戻ってきた。
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