僕の魂は君と出会うためだけに存在していたんだ

志波 連

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7 黒い影

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 僕はサーフェスの横に座って、観測台から見える夕暮れの海を眺めた。
 長い沈黙の後、サーフェスがポツリと言った。

「この景色が好きなんだ」

「うん、僕も好きだよ。あの沈む瞬間が特にね」

「刹那的だよね。傲慢な大魔王にも必ず死は訪れると知らしめているような感じだ」

 僕は少し驚いてサーフェスの顔を見た。

「そう?刹那的というのは同意するけど、僕には穏やかな終焉に見えるよ」

「それはきっと君が…もがき苦しんでも生き続け、そして死を受け入れたからじゃないかな。きっと最後の一瞬に何か希望を持ったんだろう。もしかしたら、あの世に行けば会えるって思ったのかもしれないね」

「サーフェス?」

 慌てて口を開いた僕の疑問など置き去りにして、サーフェスはじっと入口の方を凝視した。

「…しっ!こっちだ」

 急にサーフェスが僕の手を引いて観測台の後ろに隠れた。

「絶対に喋ってはダメだ。いい?」

 途轍もない緊張感の中、僕は無言で頷いた。
 なんなんだ?胸がドキドキして息がうまくできない。
 そんな僕の動揺などお構いなしに、サーフェスは入口の気配を伺っている。

「あれ?かくれんぼかい?…いるんだろ?姿を見せろよ」

 聞いたことの無い声だった。
 サーフェスの知り合いか?

「おい、お前がいるのは分かっているんだ。それとも俺が怖いか?」

 僕の肩を掴んでいるサーフェスの手がぴくっと動いた。
 そして僕の顔を見て口の前で人差し指を立てて、静かにしていろと目で指示してから徐に立ち上がった。
 僕も立とうとすると、動くなとばかりにぐっと肩を抑えられた。

「怖いって?怖がって逃げているのはお前の方だろう?」

 扉の前に立っている人物は真っ黒な塊にしか見えない。
 それでも声だけは僕の心に直接話しかけられているかのように鮮明だった。

「ああ、やっぱりいたんだ。そうだよ?逃げていた。でももうそれも必要ない。やっとみつけたからね。これで俺は元に戻れる。後はお前だけだ」

「見つけただと?バカを言うな。見つけたならなぜまだそんなみっともない姿をしているんだ?笑わせないでくれ」

「ふんっ!いつまで強がっていられるかな?そういうお前こそ手がかりも掴んでいないくせに。クサナギさえ戻ればお前なんかすぐにでも消せる」

「そうかい?だったらなぜわざわざ僕の前に姿を現した?完全体でないお前が僕を取り込めるわけ無いだろ?お前が持っているオオクニヌシは抜け殻だもんな。ただの飾りを命がけで奪って滑稽ったら無いよ」

「ああ、何とでも言ってくれ、抜け殻なのはすぐにわかったよ。あれを粉々に砕いたのに、お前の気配は消えなかったからな。別の形代を用意していたとは用意周到なこった。でもそれも目星がついた。まあ首を洗って待っていろ。すぐに俺に逆らった事を後悔させてやるさ」

 会話の意味はさっぱりわからなかったが、あの影の男こそサーフェスの探しているものなのだということは、本能で理解した。

「良いだろう。ここで決着をつけよう。魂が半分のお前なんかに負ける気はしない」

「お前…バカか?オオクニヌシが無いと俺を消せるわけないだろ?その剣も今やただの破片になって、どこぞの処分場のごみの下だ。どうやって倒そうってんだ?」

「お前の方こそクサナギも無いのに僕を倒せるとでも?」

「倒せるさ。今のお前は唯のガキだ。その形代を壊せばいいだけだ」

「…やれるものならやってみろよ」

 一触即発の空気を予想外の声がぶち壊した。

「誰だ!ここは立ち入り禁止だ!どこの不良どうもだ?」

 少し年かさの声は、懐中電灯を手に中に入ってきた。
 ふっとあの黒い気配が消え、懐中電灯に照らされたサーフェスの影が壁に大きく浮き上がる。

「何をやっている!どうやって入ったんだ」

「すみません。ちょっと探検するつもりで…」

「君…その制服は…夏休み前で浮かれるのもわかるがここは入ってはいけないよ。崩れかけているからね。危険なんだよ。まあ君の年齢ならちょっとした冒険気分だったのだろうけれど。学校には言わないからさっさと出なさい」

「すみませんでした。おい、八幡君、行こう」

 僕たちは頭を何度も下げながら天文台を出た。
 外にも数人の大人たちがいて、会話の内容から町内会の役員の方達のようだった。
 チラチラと明りが漏れているし、ケンカしているような声が聞こえたために、様子を見に来たそうだ。
 僕たちの着ている制服を見て学校が分かったようで、あの学校の生徒ならそんなに問題行動は起こさないだろうと考えてくれた様子だった。

「親御さんも心配してるだろう。早く帰りなさい。もうここに入ってはいけないよ」

「はい。ご心配いただきありがとうございました」

 僕とサーフェスは、悪戯気分で封鎖された天文台に入っていた高校生を装ってその場を離れた。
 僕はサーフェスに聞きたいことが山ほどあったけれど、何も言えずに並んで歩く。

「あいつ…何を掴んだんだ?クサナギの行方か?でもアレは魂だけで形代は見つかってないはずだ…なんだ?あの自身は…」

 サーフェスは親指の爪を嚙みながら、ぶつぶつと独り言を呟き坂を下った。
 僕はそんな彼に並んで歩を進めつつも、何か言わなくちゃと焦っていた。

「君たちの会話は正直何もわからないけれど、あいつは何か慌てているような感じに見えたよ。もしかしたら手詰まりなんじゃないかな。君に揺さぶりをかけて情報を得ようとしたとかじゃない?」

 サーフェスは驚いたような顔で僕を見た。

「なるほど。僕も少々慌てていたみたいだ、そうだよね。あいつはオオクニヌシを壊したという情報を僕に与えてしまった。明らかに奴の失態だ。そのお陰で僕はオオクニヌシを探すという作業を放棄できるからね」

「オオクニヌシ?」

「うん…ねえ、八幡君。僕はこのまま行かなくてはいけないところが出来てしまった。学校も休むから君から先生に伝えてもらえないか?夏休みが始まったら連絡をするから、山上教授にはそれから会いに行こう」

「ちょっと待ってよ!どこに行くって言うんだ」

「さっきの奴を追わないと…でもあいつも僕を追っているからなぁ。逃げながら追うって難しいねぇ。なんだか変な日本語だよね」

「逃げながら追うって、物凄く矛盾しているような気がするけど。君はどこに行こうとしているの?」

「とりあえず新しい形代を作らないとあいつと戦えないからね。それと保管されているクサナギが確かに抜け殻なのかを確かめる必要があるな…ねえ、君の知っている熱田神宮のクサナギは誰でも見ることができるの?」

「できるわけがないよ!受け継いでいる天皇家さえ見ることはできないし、保管している熱田神宮の神職達でさえ見ることも叶わないほど。一般公開なんて有り得ない」

「じゃあ本当にあるかどうかは誰にも分かってないんだね?」

「そういわれると頷くしかないけど…確認のしようがないからね」

「なるほど…まずは君のお祖父様に会う必要がありそうだけれど。ねえ八幡君、お祖父様に語句を紹介する手紙を書いてくれない?」

 さっきまでの緊張感など無かったように、ニコニコ笑いながら僕を見るサーフェスに驚いてしまった。
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