僕の魂は君と出会うためだけに存在していたんだ

志波 連

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53 サーフェスの傷 

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 ヤマトタケルは飛び続け、僕たちは追い続けた。
 無数にあるように見える出口の一つに、奴が飛び込むのを確認したアヤナミは、僕の腕を引っ張った。
  
「あそこだ」

「うん」

 僕は今度こそ着陸に失敗しないと心に決めた。

「ここまで来たら、逆に見事だ。トオル」

 頭から池に突っ込んで溺れそうになっている僕を見ながら、アヤナミはゆっくりと池のふちにしゃがんだ。

「ぼ、お、ない……た……けて」

 竜神であるアヤナミは泳げないという概念が無いのだろう。
 僕が遊んでいると思って和んでみている。
 もうだめかと思った時、クサナギさんが胸の石から抜け出して助けてくれた。
 ゲホゲホと水を吐き出す僕をアヤナミは不思議そうに見ている。
 さすがの僕もちょっとむっとしたが、黙っていた。

「腹が減った」

 アヤナミの言葉で、僕は鞄に入れた弁当を思い出した。
 もう食べられないかもしれない。
 慌てて鞄を開くと、一つずつ丁寧にラップされた上に、密封型の保存袋に入れられていたおにぎりは無事だった。
 どうやら餓死は免れた……ありがとう明美さん! 美佐子さん!

「旨いな」

 大きなおにぎりは山菜おこわだった。
 僕の大好物!
 しかし、ヤマトタケルを追っている状況でこの緊張感の無さ!良いのか?
 お! 中には甘辛く煮つけた山椒の佃煮が入っている! 完璧だ。
 匂いにつられてサーフェスも出てきた。
 状況を知らない人が見たら、ただの遠足だ。
 神々と池の畔でピクニック! あまりうれしくない。

「兄上、大丈夫か?」

「うん、と言いたいところだが二つ持ちだと回復が遅い。戦闘を優先する方が良いかなって思ってるけど。そうなると苦戦は免れないな」

 アヤナミが二つ目のおにぎりを持って言った。

「いずれは決着をつけるんだ。やるなら今だろ」

「私もそう思いますよ、兄上」

 兄弟は沈痛な表情になった。

「それでも私はお前を失いたくは無いんだ」

「兄上……私は消えませんよ」

「そうか。決意は固いか」

「はい。ありがとう、兄上」

 会話から推測するに、サーフェスの傷を癒すためにはオオクニヌシの魂を出して、今クサナギさんが入っていたもともとサーフェスの石だった中に入るってことだな?
 そうなると出たクサナギさんはクサナギ剣に入るのか。
 オオクニヌシはオオクニヌシ剣に入るのだから……ヤマトタケルの思う壺じゃないか!

「それって大丈夫なの?」

「私がクサナギ剣に戻った瞬間に、奴は自分が持っている剣が偽物だと気づくだろうね。そうなると全力でクサナギ剣を奪いに来る。そこを迎え撃つ」

「ただもう少し時間が必要だ。サーフェスの回復を待たないと」

 アヤナミが真剣な顔で言った。

「オオクニヌシとクサナギはそれぞれの形代に入ってもらおう。サーフェスはオオクニヌシの魂が抜ければどのくらいで回復できる?」

「二日かな」

「オオクニヌシ剣を持つトオルとクサナギ剣を持つ俺は、二日間逃げ回る」

「大丈夫か?」

「二日くらい何とかなるだろう。最終手段は池に潜むってのもあるし」

 僕は自分に鰓がないことを悔やんだ。

「すぐに気づかれるかな」

「近くに居ればすぐだな。まあ同じ時空にいるのだし、覚悟はした方がいい」

 僕は荷物を片づけながらアヤナミに聞いた。

「どこに逃げるの?」

 アヤナミは少し考え込んだが、チラッとサーフェスを見て言った。

「なあ、いっそお前のとこに誘いこんで一気に片を付けるのはどうだ?」

「なるほど。でもあそこは今邪気が満ちているからヤマトタケルの力が増幅する恐れがあるぞ?」

「ああ、承知の上だ。でもそれに対抗している勢力もいるのだろう?」

「神たちはみんな抵抗しているさ。黒い粒子に覆われている世界に飛び込むことになるぞ」

「俺たちにはトオルのスプレーがあるさ。まあちょっと改善の余地はあるけどな」

 僕はサーフェスに言った。

「ねえ、取りに行ける?まだお祖父様のところに大量に残っているんだけど」

「それは簡単だよ。すぐに持ってこさせる」

「それならさ、雨合羽も大量に持ってきてもらってよ。コンビニで売ってる安いのが良い」

「雨合羽?ああ……なるほど。了解だ」

 サーフェスは自分の髪の毛を抜いて口の前でぶつぶつと何かを言うと、それを空に放り投げた。

「そうだな、そうしよう。一気に終わらせるぞ! トオルの夏休みも半分は残してやらないと宿題がある」

 僕はそっと目を閉じた。

「それにアツタノミコにミヤズヒメを会わせてやれるしな」

 クサナギさんも同意した。
 僕の胸がなぜか熱くなり泣きたい気分が押し寄せる。
 これはきっと僕のDNAに刻まれているアツタノミコの仕業だ。
 サーフェスが回復する前に戦いに突入するのは悪手だという結論に至った僕たちは、とにかく逃げ回ることで一致した。
 いたずらに他の時空を乱すのは良くないということで、この時空に留まって二日間逃げ切るんだ!
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