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ひと月の間に① 【 ? 】
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かなりの頻度で往復していたディアファンとはるかの交換日記も、ここで少し休憩のようです。
今までのディアファンは夕方から行動を開始して、朝にはヴィレッジに戻って眠るというサイクルでしたが、はるかに出会ってからは昼型に変わりました。
はるかは交換日記を始める前と変わらない生活を続けていますが、変わったことといえば、自分の部屋にいる時間が増えたことでしょうか。
男と女の間に友情は成立するのか?……なんてよく聞くセリフですが、果たして「透明人間」と「不透明人間」の間にも友情は成立するのでしょうか。
まだまだ目が離せない二人ではありますが、日記を交換していない間に何があったのかを、かいつまんで、こっそりバラしちゃいますね。
はるかは出勤当番日をやりくりして、8月前半に一週間ほど休暇をとりました。
母親も祖母もノリノリで旅行の準備を始め、父親だけが留守番となったわけです。
はるかが住んでいる出雲からなら、飛行機を使えば東京まで1時間30分。
作り置きのタッパーを冷蔵庫に詰め込んで、いざ出発と相成りました。
千葉へ行くにも銀座に行くにも便利ということで、東京駅近くのホテルを予約した三人。
初日はゆっくりと皇居周辺を散策し、2日目には千葉へ向かったはるかでしたが、幼馴染の奈穂美との話は、思いがけない方向に進んでしまいました。
「登校拒否?」
「うん、どうやら相当嫌な思いをしたみたいなのよ。聞いても教えてくれなくて、とにかくもう行きたくないの一点張りでね」
「親はなんて言っているの?」
「本人の意思に任せるって言うのよ。まあ彼らにとっては義務教育っていっても義務じゃないもんね。県のお偉いさんからはやいやい言われるし、家庭訪問は拒否されるし」
「大変ねぇ……」
「透明人間の知り合いでもいれば相談できるんだけどね」
そう言って悲しそうに笑う奈穂美に、はるかの心は揺れました。
「あのね、出雲にも同じ動きがあるのは知ってる? 小学校で透明な子を受け入れるって話なんだけど」
はるかの問いに奈穂美は頷きました。
「知ってるよ。あと北海道にもできるって聞いてる。出雲はどこの小学校になったの?」
「それはまだ知らされてないのよ。でね、わたし……もしかしたら相談できる人を知っているかもしれない」
「えっ! どういうこと?」
そしてはるかは遂にディアファンの存在を明かしてしまったのです。
「紹介して! 私本当に悩んでるの。お願い! はるか」
自分で言ったものの、紹介となると迷ってしまうはるかです。
「帰ったら聞いてみるって返事しかできないんだけど、それでも良い?」
「もちろんだよ! ああ……はるかのお陰で光明が見えてきた気分だわ。もうなんていうか、本当にどうすれば良いのか毎日悩んでさぁ、ほら見てよ」
奈穂美が肩にかかる髪をすっとあげて見せました。
「あら……まあ」
「病院に通ってんだよ」
どうやら奈穂美は円形脱毛症を発症するほど悩みぬいていたようです。
透明な子たちの担任ができる奈穂美を羨ましく思っていたはるかは、少なからずショックを受けました。
「それほど? そんなに大変なんだ……ごめん、想像できないわ」
「そりゃそうだよ。やってみなきゃわかんないと思う。非協力的ってわけじゃないんだよ? 騒いだり悪戯したりするわけでもないし、親も怒鳴り込んでくるわけじゃないの。要はこっちの問題」
そういって奈穂美は自分の胸をとんとんと叩きました。
「ねえ、想像してみて? 何も見えない空間に向かって自分一人で話し続けるの。聞いているのか聞いていないのか以前に、そこにいるのかどうかさえ確証がない状態で授業を続けるのよ。よほど強い心を持っていないと折れるよ。気が狂いそうになる。じゃあいない者として今まで通りにって思うでしょ? それはできない。だってその子たちも私のクラスの子なんだもん」
「そんな感じなんだ……」
「うん、そんな毎日だった。私は一人だったからね。もしはるかが担任ならそうでもないかもよ? だってディアファンさんっていう相談相手がいるもん」
「それはどうかな。でも二学期からは透明人間サイドでも学校へ人材を派遣するって話になっているって聞いたよ? そういう存在がいれば相談とかしやすいんじゃない?」
「うん、それは聞いてるけど、どうなんだろうね。うちの場合は、まず登校拒否をなんとかしなきゃ」
「大変だね……頑張れとしかい言いようがなくて申し訳ない」
その日、はるかは奈穂美の部屋に泊まることになりました。
実際に透明な子たちと触れ合った経験をどうしても聞いてみたかったからです。
母親と祖母は予定通り、上野に行って浅草に行って、スカイツリーに昇って楽しく東京を満喫したようです。
さて、その頃ディアファンは……
今までのディアファンは夕方から行動を開始して、朝にはヴィレッジに戻って眠るというサイクルでしたが、はるかに出会ってからは昼型に変わりました。
はるかは交換日記を始める前と変わらない生活を続けていますが、変わったことといえば、自分の部屋にいる時間が増えたことでしょうか。
男と女の間に友情は成立するのか?……なんてよく聞くセリフですが、果たして「透明人間」と「不透明人間」の間にも友情は成立するのでしょうか。
まだまだ目が離せない二人ではありますが、日記を交換していない間に何があったのかを、かいつまんで、こっそりバラしちゃいますね。
はるかは出勤当番日をやりくりして、8月前半に一週間ほど休暇をとりました。
母親も祖母もノリノリで旅行の準備を始め、父親だけが留守番となったわけです。
はるかが住んでいる出雲からなら、飛行機を使えば東京まで1時間30分。
作り置きのタッパーを冷蔵庫に詰め込んで、いざ出発と相成りました。
千葉へ行くにも銀座に行くにも便利ということで、東京駅近くのホテルを予約した三人。
初日はゆっくりと皇居周辺を散策し、2日目には千葉へ向かったはるかでしたが、幼馴染の奈穂美との話は、思いがけない方向に進んでしまいました。
「登校拒否?」
「うん、どうやら相当嫌な思いをしたみたいなのよ。聞いても教えてくれなくて、とにかくもう行きたくないの一点張りでね」
「親はなんて言っているの?」
「本人の意思に任せるって言うのよ。まあ彼らにとっては義務教育っていっても義務じゃないもんね。県のお偉いさんからはやいやい言われるし、家庭訪問は拒否されるし」
「大変ねぇ……」
「透明人間の知り合いでもいれば相談できるんだけどね」
そう言って悲しそうに笑う奈穂美に、はるかの心は揺れました。
「あのね、出雲にも同じ動きがあるのは知ってる? 小学校で透明な子を受け入れるって話なんだけど」
はるかの問いに奈穂美は頷きました。
「知ってるよ。あと北海道にもできるって聞いてる。出雲はどこの小学校になったの?」
「それはまだ知らされてないのよ。でね、わたし……もしかしたら相談できる人を知っているかもしれない」
「えっ! どういうこと?」
そしてはるかは遂にディアファンの存在を明かしてしまったのです。
「紹介して! 私本当に悩んでるの。お願い! はるか」
自分で言ったものの、紹介となると迷ってしまうはるかです。
「帰ったら聞いてみるって返事しかできないんだけど、それでも良い?」
「もちろんだよ! ああ……はるかのお陰で光明が見えてきた気分だわ。もうなんていうか、本当にどうすれば良いのか毎日悩んでさぁ、ほら見てよ」
奈穂美が肩にかかる髪をすっとあげて見せました。
「あら……まあ」
「病院に通ってんだよ」
どうやら奈穂美は円形脱毛症を発症するほど悩みぬいていたようです。
透明な子たちの担任ができる奈穂美を羨ましく思っていたはるかは、少なからずショックを受けました。
「それほど? そんなに大変なんだ……ごめん、想像できないわ」
「そりゃそうだよ。やってみなきゃわかんないと思う。非協力的ってわけじゃないんだよ? 騒いだり悪戯したりするわけでもないし、親も怒鳴り込んでくるわけじゃないの。要はこっちの問題」
そういって奈穂美は自分の胸をとんとんと叩きました。
「ねえ、想像してみて? 何も見えない空間に向かって自分一人で話し続けるの。聞いているのか聞いていないのか以前に、そこにいるのかどうかさえ確証がない状態で授業を続けるのよ。よほど強い心を持っていないと折れるよ。気が狂いそうになる。じゃあいない者として今まで通りにって思うでしょ? それはできない。だってその子たちも私のクラスの子なんだもん」
「そんな感じなんだ……」
「うん、そんな毎日だった。私は一人だったからね。もしはるかが担任ならそうでもないかもよ? だってディアファンさんっていう相談相手がいるもん」
「それはどうかな。でも二学期からは透明人間サイドでも学校へ人材を派遣するって話になっているって聞いたよ? そういう存在がいれば相談とかしやすいんじゃない?」
「うん、それは聞いてるけど、どうなんだろうね。うちの場合は、まず登校拒否をなんとかしなきゃ」
「大変だね……頑張れとしかい言いようがなくて申し訳ない」
その日、はるかは奈穂美の部屋に泊まることになりました。
実際に透明な子たちと触れ合った経験をどうしても聞いてみたかったからです。
母親と祖母は予定通り、上野に行って浅草に行って、スカイツリーに昇って楽しく東京を満喫したようです。
さて、その頃ディアファンは……
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