聡明な彼女と透明なボクの交換日記

志波 連

文字の大きさ
35 / 38

12月22日日曜日【はるかの続き】

しおりを挟む
 10月19日土曜日
 
 書いたのに手元にあると、ついまた書いちゃいます。
 今日は図書館に行きました。
 今更ですが、透明な人たちの暮らしというか、そういうことが知りたくて。

 でも医学的なものはもちろん、生物学的なものも歴史的なものも無いですね。
 秘匿されているわけでもないのでしょうけれど、あまりにも知らなさすぎることに、正直とても驚きました。

 でね、やっと「透明人間」という文字を発見したのは児童文学のコーナーだったのです。
 そのコーナーにある透明な人たちは、必ずといってよいほど全身包帯なんですよ。
 まあそうでもしないと存在自体が認識できないから、物語にはなりませんよね。

 そしてほとんどのストーリーで犯人扱いされていました。
 読んでいるうちに悲しくなってしまって、喫茶室で一息入れていると、井上先生にばったり会いました。

「何してるんですか?」

「うん、ちょっと勉強しなおそうかと思って」

「勉強しなおす?」

「児童心理をね。もともと僕は児童心理カウンセラーを目指して大学に進んだことを思い出したんだよ。あのまま勉強を続けていても、現場を知らなければ良いカウンセリングはできないって思って、教育課程もとったのに、いつの間にか日々の忙しさに流されるだけの人生になっていたことに気付いたんだ」

 そんな話を聞きながら、私も基本に立ちかえってみようって思いました。
 どうやらアランシオンくん効果は、子供達より大人たちに波及しているみたいです。

::::::::::

 10月26日土曜日

 なんだかバタバタとしていて、残業が続いています。
 何が原因かと言うと、国が推し進めた今回の施策を失敗した報告書を提出しないといけないからです。
 
 失敗の原因と反省点、そして次回への提言という項目があるのですが、正直に書くときっと突き返されちゃうでしょ?
 だからといって忖度し過ぎると、透明側も不透明側も迷惑にしかなりません。

 なので、原因と反省点は客観的に書き、次回への提言はがっつり正直に書こうということになりました。
 いやぁ、この結論が出るまでの長かったこと……

 原案はそれぞれの担任だった教諭が書き、それを教頭が添削して校長に渡すという流れなのですが、校長が全員で納得するべきだと言いだしまして。
 正しいですよ?
 それはもう仰る通りですし、むしろ巻き込んでくれてありがとうございます! なのですが、現場と管理側の意見の合わないことと言ったら!

 実際に関わった学年主任と担任は強硬な態度で、大幅な修正は拒否という姿勢ですし、それを教頭が頭ごなしに修正させようとするという攻防が繰り広げられています。
 それぞれの言い分が「今後のために」というもので、言葉は同じなのに内容が真反対という不思議な状況なのです。

 なのでまだ結論はでていません。
 正直言うと、明日は我が身かもしれないでしょう?
 ここで妥協案を飲むと、また同じようなことになるかもしれないのですから、教諭側も今回はかなり必死ですよ。

 全教諭vs教頭&事務長

 さてさて、この仁義なき戦い(笑)はどこへ着地するのでしょうね。


::::::::::


 11月2日土曜日【はるかの続き】

 ちょっと間が空いてしまいました。
 というのも、例の仁義なき戦いが激戦となり、遂に教育庁が出張ってきたからなんです。

 結論から言うと、公式文書は「教頭案」で、教育庁への内部文書として「教諭案」が採用されることになりました。
 これで、言い出しっぺの元凶には真実が届かず、実行側は情報を握るという歪な構造が完成したわけです。
 日本らしいといえばそうなのでしょうが、良い方向に進むとは思えませんよね。

 あれから私たちは何度もミーティングをしました。
 それはもう激論の連続で、帰って日記を開く気力も残っていなかったほどです。

 そして遂に私たちは結論を出しました。
 やれと言われたことをやるのは、社会人として当たり前ですが、行動する前に「なぜこれが必要なのか」を必ず意識を合わせるという決まりを作ったのです。
 もちろんこれは教諭たちの自主的な行動ですので、管理者側にどうこう言われるものではありません。

 しかしやはり温度差というのは存在していて、習慣化するまでには時間がかかりそうです。
 きっと個人能力重視のディアファンさん達の価値観では、私たちのように「とにかく足並みをそろえる」という概念は不思議なものでしょうね。

 こうして一方通行な日記を書いていると、無性に寂しさを感じます。
 あなたとお知り合いになるまではこんなことなど無かったのに、不思議ですね。
 どうぞご無事で。
 早くあなたの字が見たいです。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

~春の国~片足の不自由な王妃様

クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。 春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。 街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。 それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。 しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。 花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??

カモフラ婚~CEOは溺愛したくてたまらない!~

伊吹美香
恋愛
ウエディングプランナーとして働く菱崎由華 結婚式当日に花嫁に逃げられた建築会社CEOの月城蒼空 幼馴染の二人が偶然再会し、花嫁に逃げられた蒼空のメンツのために、カモフラージュ婚をしてしまう二人。 割り切った結婚かと思いきや、小さいころからずっと由華のことを想っていた蒼空が、このチャンスを逃すはずがない。 思いっきり溺愛する蒼空に、由華は翻弄されまくりでパニック。 二人の結婚生活は一体どうなる?

処理中です...