お覚悟のほどはよろしくて?

志波 連

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26 意外なつながり

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「ああ、あそこのばあさんとは友人だった。君のお祖母さんだよ。気のいいご婦人でね、シフォンのことも普通に受け入れてくれた。その領の森にあるんだよ『テポロン』はね」

「祖母とはお知り合いでしたの? それで私を『選ばれし者』に?」

「彼女の孫であるあんたがカギを握っていたというのは偶然だ。これは何度か繰り返すうちに分かったことだからな。だが、これはあんたのばあさんの導きではないかと俺は思っている。俺の寿命はもうすぐ尽きるが、あんたが産む子供が次の『選びし者』になるだろう」

「え……でも……私は……」

「ああ、分かっている。将来の話だ。おいおい、そんなに睨むなよ。何も父親はロビンだとは言っていないだろ? お前かもしれんぞ? レオ」

 レオがギュッと唇を引き結んで俯いた。

「まあそう焦るな。まだ時間はあるのだ。そのために俺もシフォンも必死になって探しているのだから」

 何を探しているのだろう。
 先ほど聞いた材料だけでもとんでもないのに、まだあるというのだろうか。

「目星はついている。今の状況なら承諾も得られるだろう。しかし問題も多い。だからといって焦って死に急ぐなよ? どうせ俺はもう終わりだから、俺が代わってやれたら良いのだが、如何せん俺に流れる血は王家の血が薄まっちまってるからなぁ。濃ければ濃い程成功率は上がる。それに俺はキーマンでは無いからなぁ……」

 そう言ってチラッとソフィアに目を向けるプロント。

「いえ、その役目は私が成し遂げねばならないことです」

「まあ、せっかく来たのだ。商店街でも見ていくと良い。レモンは三日ほど休ませてくれ。シフォンに限ってダミーづくりの失敗は無いが、万が一ということもあるし、何より俺がレモンと一緒にいたいからなぁ」

「承知しました」

「おいワンダ。三日後に迎えに来い。それまでにはソフィアの体とあいつらが好みそうな別嬪でスタイル抜群のエロ女の体を用意しておくさ」

 ソフィアが小首をかしげると、シフォンが説明してくれた。

「そこの初恋拗らせ王子が、これ以上お前さんの体を好き勝手されるのを嫌がるからね、うちの娘の羽を使ってダミーを作るんだ。悪いがお前さんの魂も少し貰うよ? でないとただの人形になっちまうからねぇ。後の二つは売れっ子の商売女でいいだろうさ。まあ今回は『選ばれし者』を作っておいて正解だったね。ダミーで確認ができるから成功率は段違いさ」

 店の窓が風で揺れて、シフォンの顔が歪んだ。

「まずいね。あんた、出発は一週間ほどずらしなさいよ。今は行っても無駄さ」

「そうか? 今のはなんだ?」

「ルキフグスさ。またどこぞのあくどい貴族が金のために召喚でもしたのだろう。バカな奴だね。確かにルキフグスを使えば金は手に入るが、その代価を知ってやっているのかねぇ」

 ワンダが聞く。

「ルキフグスに支払う代価って何ですか?」

「そいつを含めた三代先までの金運だよ。そいつの子も孫もまったく金に縁がなくなるんだ。なんせルキフグスは魔界の金庫番だからねぇ。悪魔の金を借りたのだから、百倍返しは当たり前さね。まあ命まではとらない。生きて苦しんでもらわないと合う話じゃないからね」

 知らないとはいえ悪魔と契約してまで金を欲しがる人間の業の深さと、王家直系の血が流れているというだけで、他者のために死を受け入れる人間がいるという現実に、ソフィアの心は千々に乱れた。

「なぜレオでないといけないの? レオ……私は……」

 レオが泣きそうな顔のソフィアを強く抱きしめた。

「為さねばならぬことを為す。聞き分けてくれソフィア。私の心は常に君とともにある。それは覚えておいてほしい。私は君を心から愛しているのだから。そして必ず天寿を全うして欲しい」

「レオ……」

 二人の様子をニマニマしながら見ているシフォンとプロント。
 その肩でレモンがどの羽を抜こうか真剣に吟味していた。
 シフォンがパンパンと手を打った。

「さあさあ、そろそろ帰りな。久しぶりの親子水入らずを邪魔しないでおくれ。さあレモン、こちらにおいで。今日はお前の大好物にしよねぇ」

 可憐な黄色い小鳥が羽をバタつかせた。

「本当? ヤモリの目玉焼きね? 蟻の乾煎りもたっぷりまぶしてね」

「ああ、勿論だ。今夜は野鼠の丸焼きも作ろうかねぇ」

「やったぁぁぁぁ」

 聞かなければよかったとソフィアは思ったが、後の祭りというものだ。
 昼食を抜いた空っぽの胃に酸っぱいものがこみ上げてきた。

「戻りましょうか、レオ」

 ソフィアと同じように口を窄めていたレオが頷いた。

「では三日後に」

 ワンダが挨拶をして店のドアを開けた。

「何か一緒に食べようと思っていたのだが……」

「ええ、でも今はちょっと」

「そうだな。ソフィアはどこか行きたいところがあるか?」

「私は……文具店に寄りたいわ」

「ああ、ではそうしよう」

 民たちがレオを見て何やら囁き合っているが、当の本人は気にすることなくソフィアに手を差し出した。

「義妹なのだ。エスコートしても問題はない」

 クスッと笑ったソフィアがその手に手を乗せた。

「ええ、義兄様。よろしくお導き下さいませ」

 ソフィアの冗談に、一瞬だけ拗ねたような顔をしたレオだったが、何も言わず歩き出した。
 後ろに従うワンダは、気を利かせたのか少しだけ距離を置いていた。
 正面を向いたままレオが声を出した。

「君はどうやら川沿いのカフェのフルーツサンドが好みだったらしい。今もそうか?」

「川沿いの? 過去の私はいろいろと出掛けていたのですか? 今は……そのお店さえ存じませんわ」

「では行ってみるか。過去と今では食の好みが違うかもしれないが」

「ええ、ぜひ」

「文具屋が先?」

「そうねぇ……後にしましょう。やっと胃が落ち着いてきたらお腹が空いてきたわ」

「ああ、私もだ。しかし当分は目玉焼きに黒コショウは遠慮したいな」

 ソフィアは小さな声を出して笑った。
 笑わなければ泣いてしまいそうだったからだ。
 この手を優しく支えてくれているレオが、数年のうちに死んでしまうという現実をどうしても受け入れることができない。
 たとえ一緒になれなくても、レオが生きて側にいてくれるだけで良いとソフィアは思った。
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