同窓会

新田小太郎

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同窓会

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 五十歳を超えて、仕事を首になってしまった。これで、何度目の転職だろうか。そもそも働くのが好きではないので、仕事も長続きをしない。働かなければ生活費を稼ぐことが出来ないので、仕方なく、働いているだけである。
 そのような時に、同窓会の案内状が届いた。中学三年の時、D組の同窓会である。真一は、それに出席をしたものかどうか迷った。他の同級生たちは、それなりに、社会的地位もあり、家庭も持っていることだろう。そのような場所に自分が行って、惨めにならないだろうか。かつての同級生たちに会い、何を話せば良いのか。
 しばらく、そのまま、考えていると、かつての同級生、小林から久しぶりに電話があった。話をするのは二十年ぶりくらいだろうか。
「同窓会には、来ないのか」
 と、小林は言った。
「考えているところだ。今、失業中だし、同級生に会って、何を話せば良いのか」
「それほど、深く考えることも無いだろう。気晴らしにすれば良いと思う」
 それは、それで、良いのかも知れないと思う。かつての旧友たちに会うのは、気晴らしにもなるかも知れない。
 同窓会の当日、小林が、車で迎えに来てくれた。真一は、小林の車に乗り込む。
「久しぶりだな。二十年ぶりくらいか」
 小林は言った。
「そうだな。それくらいかな。年を取ったな、お互いに」
「まあ、それは、仕方が無い」
 小林は、高校を卒業した後に就職をした会社に今も勤め、それなりの地位につき、結婚もしていて、子供も居る。普通の生活とは、こういうものだろうかと真一は思った。
 同窓会の会場に着き、小林と真一は、会場のホテルの部屋に入った。すでに、いくらかの同級生たちが集まっていた。懐かしく、言葉を交わす。
 しばらくすると、同窓会が始まった。食事をしながら、それぞれに、久しぶりに会った同級生たちと話をする。
 かつての男子も女子も、今では、すっかり、おじさん、おばさんとなり、それなりの人生を重ねている。そういう同級生たちを見ると、やはり、真一にとっては、気晴らしではなく、惨めになる気持ちの方が大きかった。
 真一は、その中で、一人の女性を探していた。それは、里中美幸という同級生で、真一の初恋の人でもあった。真一が、里中美幸に恋愛感情を持っていたことは、誰にも話していない。
 里中美幸以外にも、この同窓会にきていない人は、何人も居るようだった。出席者は同級生の半分より少し多いといったところだろうか。出席をしていない人には、それぞれに事情があるのだろう。来たくても、来られない人。また、そもそも、来たくない人。里中美幸は、どちらだろうかと思う。
 色々と、姿の見えない里中美幸のことを考えていた時、真一に、藤原悦子という同級生が話しかけて来た。中学生だった当時には、一度も、話をしたことが無かったのだが、大人になった今では、そのような関係のこだわりは、大きなものではないようである。
 真一は、この藤原悦子が、当時、クラスの中で、里中美幸と、よく話をしていたことを思い出した。二人は、仲が良かったのだろうと思う。
「そういえば、藤原さんは、里中さんと仲が良かったよな。今日は、里中さんは、来ていないみたいだけど」
 真一は、悦子に、そう聞いてみた。すると、悦子は、ふと、悲しい表情をした。
「大原くんは、知らなかったのね。美幸は、三年前に、亡くなったのよ」
 真一は、驚いた。里中美幸が、亡くなった。なぜ。
「交通事故だったのよ。横断歩道を渡っている時に、信号を無視して来て車に跳ねられて亡くなったの」
「それは、どこで」
「中学校の近くの国道の交差点で、買い物の帰りに、横断歩道を渡っていたところ、車に跳ねられたということなのよ。私も、すぐに、話を聞いて、現場に行ったんだけど、もう病院に運ばれた後だった。そして、そのまま、亡くなったの」
 真一は、高校を卒業してから、里中美幸が、どういう人生を送ったのか、話を聞いた。就職をし、結婚をして、娘、一人をもうけて、仕事を退職。娘が成長をしてからは、パートで働いていたということ。そして、日曜日の昼、一人で、近くのスーパーに買い物に出かけ、その帰り道で、車に跳ねられ、亡くなった。
 真一は、呆然とした。そこから、同窓会で話したことも、あまり覚えていない。
 同窓会が終わり、真一は、小林に家まで送ってもらったのだが、その足で、里中美幸が亡くなったという交通事故の現場に向かった。そこは、中学生の頃、よく歩いた道でもある。美幸が最後に買い物をしたというスーパーマーケットにも、その頃、よく通った。
 真一は、里中美幸が亡くなったという交差点の横断歩道の前に立った。田舎町で、車の通りは、それほど、多い訳ではない。真一は、その場で、横断歩道を見つめて、自然と涙を流した。もし、過去に戻れたら、自分は、美幸に、何かしてあげることが出来るのか。
 誰が置いたのか、交差点の近くにある電柱の傍らに、花が置かれていた。その花は、ここで亡くなった美幸に手向けたものだろう。
 真一は、それを見て、思った。自分もまた、あの世に行けば、彼女に会うことが出来るのだろかと。

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