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ディグラード編
叔父上ビビる!
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汚らわしいエルフ共の襲撃によって、我がディグラードが誇る無限の魔力を汲み出す【魔力井戸】が破壊されてしまいました。
そのショックでしょうか? 気が付けば私は自室のベッドで眠っていたのです。
自室に戻ってくるまでの出来事が思い出せない。
それほどまでに魔力井戸の破壊は私に衝撃をもたらしたのか??
それとも姪であるリドラの死がそれほどまでに悲しかった? 否、それはありません。
それよりも思い出せないというのが不味い。私は騎士団の副団長として正しい判断を行えたのか?
必要な指示を部下に出せていたのか?
すでに夜も更けて居ますが、遅番の騎士達は指令室に要る筈。
まずはあの後、私がどのような指示を出したのかを確認しなければ。
魔力井戸の破壊、これは非常に危険な状況です。
確かに我らの騎士団はエルフ共の井戸を破壊しました。ですが私達の井戸も破壊された以上、条件は同じ。
いえ、寧ろ我々の方が不利です。我々はより優れたマジックアイテムを作り続けた代償として、その肉体は非常に衰えてしまいました。
便利すぎるが故の弊害と言えるでしょう。
ですがエルフ共は井戸が無いとはいえ、それなりに優れた魔法がつかえ、肉体も無駄に鍛えています。
文明を否定して木で暮らす野蛮人が忌々しい。
今はまだ魔力結晶のストックがあろうとも、鎧を使い続ければ新たな魔力結晶を生成する前に在庫が切れるのは火を見るよりも明らか。
そうなればすべての鎧は使えなくなり、己の魔力と自然の中の魔力にのみ頼らなくてはならなくなるのです。
手段は二つ、エルフ達に対して全戦力を投入した戦争を仕掛けて一気に敵を押しつぶすか、何とかして休戦協定を結ぶか。
国を捨てる選択肢は存在しません。この地下都市内には持ち出しの出来ない高性能な機材が山の様にあるからです。
それ故選択は二択のみ。
戦って相手を全滅させる、まず間違いなくそれが採用されるでしょう。何しろドワーフとエルフは反目しあっている、いえ憎みあっている。
ですができればそれも避けたい。なにしろただでさえ数の少ないドワーフがこれ以上減っては種の存亡に関わります。
◆
「ボワング副団長!? 先程お休みになられたのでは!?」
兵達が私の姿を見て驚く。どうやら彼らは私が思い出せない間の事を知っているようです。
詳細を聞きたい所ですが、それでは私が眠る前の事を覚えていないと暴露して居るようなもの。そのような不用意な真似はできません。うかつな事を言えば政敵達に恰好の話題を提供してしまう事に繋がってしまいますからね。
「やり残した仕事がありましてね。なに、直ぐに終わりますよ」
「そうなのですか? あまり無理をなさらないで下さいね」
「ええ、ありがとう」
心配してくれる部下達に礼を言うと、私は自分の席に座って自分の下した指示書を確認する。
この指令室には、地下都市のあらゆる情報が集う場所。
イカヅチよりも高性能な魔導頭脳が私達の作業内容を記録している。
そこから私が意識を失うまでの作業内容を確認するのです。
そして魔導映像板に私の作業内容が映し出される。
「な、なんですって!?」
それは驚愕するべき内容でした。
まずエルフの死体を集め、地下都市に潜入したエルフ達と特徴が一致するかを確認する事。
これは初期に確認した侵入者と実際に捕まった侵入者の容姿が違うなら、いまだ活動中の侵入者が居るからだ。
これは私でも同じことをする。警戒装置が確認した侵入者の姿は、指令室の魔導頭脳が自動的に記録するからです。
後は魔導頭脳が映しだした侵入者の姿が実際の死体と一致するかを確認するだけ。それも魔導頭脳がしてくれます。
なにしろ私達ドワーフにエルフの顔の見分けなど付きませんから。
そこまでは良いのです。
ですがその後が問題でした。
なんとその指示書には、確認の終わった死体を何本もの武器で串刺しにしてエルフ共の集落のど真ん中に転移魔法で送りつけると書かれているではないですか。
確かに同胞達を殺された我々としてもその位の報復はしたい。
ですがその様な事をすれば、間違いなくエルフとの全面戦争になります。
そうなれば我々は、逆上したエルフ達を相手に碌な準備も出来ないままに正面衝突する以外なくなります。
文字通りの相打ちとなるでしょう。
人の上に立つ者として絶対にやってはならない事です。
それに魔力井戸の修理、いえ再開発を最優先で行う様に指示されていました。
これもやってはいけない事です。
魔力井戸は複雑な装置であるというだけでなく、それを行う為にふさわしい場所、時期を割り出し、その条件に合った波長の転移ゲートを発生させ続ける為の設計を新たに行わなければいけません。
一見最優先で行わないといけない様に見えますが、それを行う時期は慎重に慎重を重ねなければいけないのです。
井戸の発動は本当に繊細で、運が悪ければ莫大な資産と時間を無駄にする恐れすらあります。
魔力井戸に2号機がないのがその何よりの証拠です。
たった0.1%であろうとも、成功確率が上がるのならばそちらを選ぶのが井戸の開発の面倒なところなのです。
それを理解できない上司達の横槍によって、何度も装置の計画がやり直しになった事は一度や二度ではありません。結果、貴重な予算と時間を失った事で起動を強行させた者達は例外なく失脚していきました。ええ、とても良い攻撃材料でしたから。
現在の戦況で井戸の再開発を指示すれば、上層部はエルフに襲われる恐怖から迅速な再開発計画を行う事でしょう。
それでは間違いなく新たな井戸の開発は失敗する。
私はあわててそれらの指示を撤回し、エルフとの全面戦争を避ける様に指示を出し直した。
「これに変更されるのですか?」
私が出しなおした指示に部下達が納得できないと言いたげな表情を浮かべる。
「今は確実な勝利を手にするべき時です。それゆえ全面戦争は何としても避けなくては」
なおも逸る部下達を黙らせた私は、ようやく自分の部屋へと戻るのでした。
◆
「あー、よく寝た!」
今日は心地よく目を覚ます事が出来たぞ。
さーて今何時かな?
俺は時計を見て今の時間をチェックする。
「あれ? まだこんな時間?」
俺が起きた時間は、先程眠ってから一時間くらいしか経過していなかった。
「まじか、けどもう眠くないしなぁ。……魔力井戸について調べるとしようか。
そうして、俺は本日『2度目』の指令室への出勤をするのだった。
そのショックでしょうか? 気が付けば私は自室のベッドで眠っていたのです。
自室に戻ってくるまでの出来事が思い出せない。
それほどまでに魔力井戸の破壊は私に衝撃をもたらしたのか??
それとも姪であるリドラの死がそれほどまでに悲しかった? 否、それはありません。
それよりも思い出せないというのが不味い。私は騎士団の副団長として正しい判断を行えたのか?
必要な指示を部下に出せていたのか?
すでに夜も更けて居ますが、遅番の騎士達は指令室に要る筈。
まずはあの後、私がどのような指示を出したのかを確認しなければ。
魔力井戸の破壊、これは非常に危険な状況です。
確かに我らの騎士団はエルフ共の井戸を破壊しました。ですが私達の井戸も破壊された以上、条件は同じ。
いえ、寧ろ我々の方が不利です。我々はより優れたマジックアイテムを作り続けた代償として、その肉体は非常に衰えてしまいました。
便利すぎるが故の弊害と言えるでしょう。
ですがエルフ共は井戸が無いとはいえ、それなりに優れた魔法がつかえ、肉体も無駄に鍛えています。
文明を否定して木で暮らす野蛮人が忌々しい。
今はまだ魔力結晶のストックがあろうとも、鎧を使い続ければ新たな魔力結晶を生成する前に在庫が切れるのは火を見るよりも明らか。
そうなればすべての鎧は使えなくなり、己の魔力と自然の中の魔力にのみ頼らなくてはならなくなるのです。
手段は二つ、エルフ達に対して全戦力を投入した戦争を仕掛けて一気に敵を押しつぶすか、何とかして休戦協定を結ぶか。
国を捨てる選択肢は存在しません。この地下都市内には持ち出しの出来ない高性能な機材が山の様にあるからです。
それ故選択は二択のみ。
戦って相手を全滅させる、まず間違いなくそれが採用されるでしょう。何しろドワーフとエルフは反目しあっている、いえ憎みあっている。
ですができればそれも避けたい。なにしろただでさえ数の少ないドワーフがこれ以上減っては種の存亡に関わります。
◆
「ボワング副団長!? 先程お休みになられたのでは!?」
兵達が私の姿を見て驚く。どうやら彼らは私が思い出せない間の事を知っているようです。
詳細を聞きたい所ですが、それでは私が眠る前の事を覚えていないと暴露して居るようなもの。そのような不用意な真似はできません。うかつな事を言えば政敵達に恰好の話題を提供してしまう事に繋がってしまいますからね。
「やり残した仕事がありましてね。なに、直ぐに終わりますよ」
「そうなのですか? あまり無理をなさらないで下さいね」
「ええ、ありがとう」
心配してくれる部下達に礼を言うと、私は自分の席に座って自分の下した指示書を確認する。
この指令室には、地下都市のあらゆる情報が集う場所。
イカヅチよりも高性能な魔導頭脳が私達の作業内容を記録している。
そこから私が意識を失うまでの作業内容を確認するのです。
そして魔導映像板に私の作業内容が映し出される。
「な、なんですって!?」
それは驚愕するべき内容でした。
まずエルフの死体を集め、地下都市に潜入したエルフ達と特徴が一致するかを確認する事。
これは初期に確認した侵入者と実際に捕まった侵入者の容姿が違うなら、いまだ活動中の侵入者が居るからだ。
これは私でも同じことをする。警戒装置が確認した侵入者の姿は、指令室の魔導頭脳が自動的に記録するからです。
後は魔導頭脳が映しだした侵入者の姿が実際の死体と一致するかを確認するだけ。それも魔導頭脳がしてくれます。
なにしろ私達ドワーフにエルフの顔の見分けなど付きませんから。
そこまでは良いのです。
ですがその後が問題でした。
なんとその指示書には、確認の終わった死体を何本もの武器で串刺しにしてエルフ共の集落のど真ん中に転移魔法で送りつけると書かれているではないですか。
確かに同胞達を殺された我々としてもその位の報復はしたい。
ですがその様な事をすれば、間違いなくエルフとの全面戦争になります。
そうなれば我々は、逆上したエルフ達を相手に碌な準備も出来ないままに正面衝突する以外なくなります。
文字通りの相打ちとなるでしょう。
人の上に立つ者として絶対にやってはならない事です。
それに魔力井戸の修理、いえ再開発を最優先で行う様に指示されていました。
これもやってはいけない事です。
魔力井戸は複雑な装置であるというだけでなく、それを行う為にふさわしい場所、時期を割り出し、その条件に合った波長の転移ゲートを発生させ続ける為の設計を新たに行わなければいけません。
一見最優先で行わないといけない様に見えますが、それを行う時期は慎重に慎重を重ねなければいけないのです。
井戸の発動は本当に繊細で、運が悪ければ莫大な資産と時間を無駄にする恐れすらあります。
魔力井戸に2号機がないのがその何よりの証拠です。
たった0.1%であろうとも、成功確率が上がるのならばそちらを選ぶのが井戸の開発の面倒なところなのです。
それを理解できない上司達の横槍によって、何度も装置の計画がやり直しになった事は一度や二度ではありません。結果、貴重な予算と時間を失った事で起動を強行させた者達は例外なく失脚していきました。ええ、とても良い攻撃材料でしたから。
現在の戦況で井戸の再開発を指示すれば、上層部はエルフに襲われる恐怖から迅速な再開発計画を行う事でしょう。
それでは間違いなく新たな井戸の開発は失敗する。
私はあわててそれらの指示を撤回し、エルフとの全面戦争を避ける様に指示を出し直した。
「これに変更されるのですか?」
私が出しなおした指示に部下達が納得できないと言いたげな表情を浮かべる。
「今は確実な勝利を手にするべき時です。それゆえ全面戦争は何としても避けなくては」
なおも逸る部下達を黙らせた私は、ようやく自分の部屋へと戻るのでした。
◆
「あー、よく寝た!」
今日は心地よく目を覚ます事が出来たぞ。
さーて今何時かな?
俺は時計を見て今の時間をチェックする。
「あれ? まだこんな時間?」
俺が起きた時間は、先程眠ってから一時間くらいしか経過していなかった。
「まじか、けどもう眠くないしなぁ。……魔力井戸について調べるとしようか。
そうして、俺は本日『2度目』の指令室への出勤をするのだった。
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