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プロローグ
プロローグ 夢の続き
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ここは夏草草原の惑星 モラブット
北半球から南半球に跨またがり、経度はざっと100度を超えるだろうか。巨大な大陸がその惑星の中心には一つあった。
その大陸の東端には夏草の大草原と呼ばれる草原があった。気候に富み、大地からは限りない営力を感じるこの雄大な草原に住む、雲の末裔と名乗る民がいた。ベルテルーパ族である。
彼らは夏草色の髪を身に包み、肌は透すき通った白色で、蒼眼或いは緑眼を有し、高い建築能力と技術力を持っている。既にこの惑星の外にいくつもの植民惑星を有し宇宙戦艦を多数有している、いわゆる超高度な知的生命体である。
しかし、そんな彼らは今から数万年前よりずっと恐れているものがある。それがヒョウタン族とモーウィー族である。
彼らはウリ諸族と呼ばれ、ウリの民を名乗っている知的生命体なのだが、このウリの民は幾万年に渡り南北ベルテルーパの民を緑樹人と形容し、虐げて奴隷として扱っているのである。
しかし、このベルテルーパには幾度となくこのウリの民から守る現人神と呼ばれる存在が居た。それが「台風族」である。彼らが生まれてくるのは非常に稀であるのだが、このベルテルーパの地には、度々たびたびこの台風族が現れては、ウリの民の邪悪な魔の手から死力を尽くして守っているのである。
----
???「この夏草の平原をいつまでも眺めていたいな。」
夏草色の髪の毛を頭部の高い位置で束たばねた髪をユラユラと風になびかせて、夏草色に輝く草原を眺めて少女はそう呟つぶやいた。
???「気持ちの良い空だ。こうやっていつまでもいられたらいいのに。」
白く透き通り、少し眩しいと思えるくらいに綺麗な顔に、青空にも負けない美しさを持つ奥おくゆかしい蒼眼からは、若葉のように満ち溢れるエネルギーを感じると共に、どこか散りゆく木の葉のような儚さを感じる。
???「ユフリン様。そろそろお時間ですよ。」
モラヴェ「そう。もうそんな時間なのか。嫌いじゃなかったよ。この時間。」
???「どうされたんですかユフリン様」
モラヴェ「いやね。こうしてこの綺麗な草原を見ていると、これから始まる戦いが苦しいなって思ってね。」
モラヴェ「でもこれが、偽りの平和によって作られた景色なんだって思うと少し複雑な気分になってさ。このまま戦いを始めないで、今の人たちが平和に暮らせるならそれでいいのかなって。」
少女の瞳は揺ゆらいでいた、それは彼女の心情の内側を明確に示していた。
???「迷っておられるのですか?」
少女は驚いた表情で緑柱石色の髪の女を見る。
モラヴェ「なんでそう思ったの?キャシー。」
キャシー「かつてあなた様の父も戦いを始めるときに同じ言葉を口にしていたものですから。」
少女は少し安堵あんどした表情を浮かべた。
モラヴェ「そっか。父さんも同じ想いでこの戦いに挑んだんだね。よかった。」
キャシー「よかった?」
モラヴェ「ううん。なんでもない。それじゃあ行こうか。」
少女の瞳は夏草の草原の地平線の果てに見える巨大な都市の屹立している様をハッキリと見つめていた。それはまるで一つの決意を胸に秘めて明日へ歩いているような光景であった。
----
時は今から8年ほど前に戻るが、この時ユフリンは2回目の誕生日を迎えたばかりの4歳の少女であった。
彼女の父は銀河四英傑と呼ばれるこの宇宙に居る4人の英雄の一人、ボラヴェン・オルクヴァンであった。彼の使命はベルテルーパ族を消し去ろうと試みるヒョウタン族をこの地から追い払うことであった。しかし、その使命に立ちはばかるのは瓢将十六傑である。
瓢将十六傑は、大瓢帝国の頂である黒津帝王が直々に選んだ十六人からなる最凶の精鋭である。どれもベルテルーパ族を苦しめるために特化しており、倒すのは至難の技であった。
しかし、ボラヴェンはこの瓢将十六傑を容易たやすく打ち負かし、台風の如く敵兵をなぎ倒していく。銃弾が飛び交かう戦場であっても果敢に出ていっては、相手を撃ち滅ぼしていく。彼はベルテルーパに生まれた台風族であった。
そして彼はいつしかこの宇宙の英傑と呼ばれるようになり、彼の部隊は無敵艦隊と呼称された。しかし、彼が引き起こした嵐はそう長くは続かなかった。瓢将十六傑の一人、陰ノ三の上常カノンという女が彼をものの数分で始末したのであった。
この報は、瞬く間にベルテルーパ人の間で広がり、人々は恐怖とパニックで溢れ、街は静まり返った。しかし、ヒョウタン人はこれ以上の反撃を恐れ現状維持を望み、これ以上の戦いは難しくなっていた。この状況がきっかけで戦いがほとんど起こらない平和な時代が訪れたのであった。しかしベルテルーパはヒョウタン人が支配する南ベルテルーパとベルテルーパ人が支配する北に分断された。ある人々はこの状況に安堵していたが、ある人々はこの状況を憂いた。憂いた人々はみな家族が未だヒョウタン人に支配された土地で奴隷や家畜として飼われていることを知っている者たちであった。
とはいえ、この憂いている人たちも新たに戦いを始めるだけの力や名声もない。このまま偽の平和で時が流れていくとこの時は誰もが考えていた。
しかしかつての英雄、ボラヴェンには娘が居た。それがモラヴェ・ユフリンである。
ユフリンは、父と同じ「台風族」であった。憂いていた人々はまだ幼いユフリンを担ぎ上げ、いつしかヒョウタン人をこの地から追い払うことを胸に誓ったのであった。
時は元に戻り2018年。内地には銀河四英傑の一人、山羊 光が激しい内戦を制するために戦いへ走っている時である。その頃、ベルテルーパには四英傑の娘のモラヴェ・ユフリンが、この夏草の銀河、ベルテルーパを取り戻すために、戦いへ赴こうとしている。
これは、父が遺したベルテルーパの統一という尊大な夢の続き。
娘のモラヴェ・ユフリンによる新たな時代のお話である。
北半球から南半球に跨またがり、経度はざっと100度を超えるだろうか。巨大な大陸がその惑星の中心には一つあった。
その大陸の東端には夏草の大草原と呼ばれる草原があった。気候に富み、大地からは限りない営力を感じるこの雄大な草原に住む、雲の末裔と名乗る民がいた。ベルテルーパ族である。
彼らは夏草色の髪を身に包み、肌は透すき通った白色で、蒼眼或いは緑眼を有し、高い建築能力と技術力を持っている。既にこの惑星の外にいくつもの植民惑星を有し宇宙戦艦を多数有している、いわゆる超高度な知的生命体である。
しかし、そんな彼らは今から数万年前よりずっと恐れているものがある。それがヒョウタン族とモーウィー族である。
彼らはウリ諸族と呼ばれ、ウリの民を名乗っている知的生命体なのだが、このウリの民は幾万年に渡り南北ベルテルーパの民を緑樹人と形容し、虐げて奴隷として扱っているのである。
しかし、このベルテルーパには幾度となくこのウリの民から守る現人神と呼ばれる存在が居た。それが「台風族」である。彼らが生まれてくるのは非常に稀であるのだが、このベルテルーパの地には、度々たびたびこの台風族が現れては、ウリの民の邪悪な魔の手から死力を尽くして守っているのである。
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???「この夏草の平原をいつまでも眺めていたいな。」
夏草色の髪の毛を頭部の高い位置で束たばねた髪をユラユラと風になびかせて、夏草色に輝く草原を眺めて少女はそう呟つぶやいた。
???「気持ちの良い空だ。こうやっていつまでもいられたらいいのに。」
白く透き通り、少し眩しいと思えるくらいに綺麗な顔に、青空にも負けない美しさを持つ奥おくゆかしい蒼眼からは、若葉のように満ち溢れるエネルギーを感じると共に、どこか散りゆく木の葉のような儚さを感じる。
???「ユフリン様。そろそろお時間ですよ。」
モラヴェ「そう。もうそんな時間なのか。嫌いじゃなかったよ。この時間。」
???「どうされたんですかユフリン様」
モラヴェ「いやね。こうしてこの綺麗な草原を見ていると、これから始まる戦いが苦しいなって思ってね。」
モラヴェ「でもこれが、偽りの平和によって作られた景色なんだって思うと少し複雑な気分になってさ。このまま戦いを始めないで、今の人たちが平和に暮らせるならそれでいいのかなって。」
少女の瞳は揺ゆらいでいた、それは彼女の心情の内側を明確に示していた。
???「迷っておられるのですか?」
少女は驚いた表情で緑柱石色の髪の女を見る。
モラヴェ「なんでそう思ったの?キャシー。」
キャシー「かつてあなた様の父も戦いを始めるときに同じ言葉を口にしていたものですから。」
少女は少し安堵あんどした表情を浮かべた。
モラヴェ「そっか。父さんも同じ想いでこの戦いに挑んだんだね。よかった。」
キャシー「よかった?」
モラヴェ「ううん。なんでもない。それじゃあ行こうか。」
少女の瞳は夏草の草原の地平線の果てに見える巨大な都市の屹立している様をハッキリと見つめていた。それはまるで一つの決意を胸に秘めて明日へ歩いているような光景であった。
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時は今から8年ほど前に戻るが、この時ユフリンは2回目の誕生日を迎えたばかりの4歳の少女であった。
彼女の父は銀河四英傑と呼ばれるこの宇宙に居る4人の英雄の一人、ボラヴェン・オルクヴァンであった。彼の使命はベルテルーパ族を消し去ろうと試みるヒョウタン族をこの地から追い払うことであった。しかし、その使命に立ちはばかるのは瓢将十六傑である。
瓢将十六傑は、大瓢帝国の頂である黒津帝王が直々に選んだ十六人からなる最凶の精鋭である。どれもベルテルーパ族を苦しめるために特化しており、倒すのは至難の技であった。
しかし、ボラヴェンはこの瓢将十六傑を容易たやすく打ち負かし、台風の如く敵兵をなぎ倒していく。銃弾が飛び交かう戦場であっても果敢に出ていっては、相手を撃ち滅ぼしていく。彼はベルテルーパに生まれた台風族であった。
そして彼はいつしかこの宇宙の英傑と呼ばれるようになり、彼の部隊は無敵艦隊と呼称された。しかし、彼が引き起こした嵐はそう長くは続かなかった。瓢将十六傑の一人、陰ノ三の上常カノンという女が彼をものの数分で始末したのであった。
この報は、瞬く間にベルテルーパ人の間で広がり、人々は恐怖とパニックで溢れ、街は静まり返った。しかし、ヒョウタン人はこれ以上の反撃を恐れ現状維持を望み、これ以上の戦いは難しくなっていた。この状況がきっかけで戦いがほとんど起こらない平和な時代が訪れたのであった。しかしベルテルーパはヒョウタン人が支配する南ベルテルーパとベルテルーパ人が支配する北に分断された。ある人々はこの状況に安堵していたが、ある人々はこの状況を憂いた。憂いた人々はみな家族が未だヒョウタン人に支配された土地で奴隷や家畜として飼われていることを知っている者たちであった。
とはいえ、この憂いている人たちも新たに戦いを始めるだけの力や名声もない。このまま偽の平和で時が流れていくとこの時は誰もが考えていた。
しかしかつての英雄、ボラヴェンには娘が居た。それがモラヴェ・ユフリンである。
ユフリンは、父と同じ「台風族」であった。憂いていた人々はまだ幼いユフリンを担ぎ上げ、いつしかヒョウタン人をこの地から追い払うことを胸に誓ったのであった。
時は元に戻り2018年。内地には銀河四英傑の一人、山羊 光が激しい内戦を制するために戦いへ走っている時である。その頃、ベルテルーパには四英傑の娘のモラヴェ・ユフリンが、この夏草の銀河、ベルテルーパを取り戻すために、戦いへ赴こうとしている。
これは、父が遺したベルテルーパの統一という尊大な夢の続き。
娘のモラヴェ・ユフリンによる新たな時代のお話である。
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クロヴァンの探偵日記と繋がりがありそうな話ですね。こちらの作品の方が文章に深みがあって好きかも。
はい。明確に繋がりがあります。
今後も楽しんでもらえると嬉しいです。