異世界転生したら王国崩壊寸前だった件。司書スキルで制度を全部立て直すことにした。

ハリネズミの肉球

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第4章 嵐の前と、封鎖の刻

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朝の空気がやけに張り詰めている。王立図書館の前で、俺は肌寒い風を肌に感じながら、荒れ果てた門を見上げる。
ここ最近、忙しさのあまりずっと意識していなかったが、秋も深まり、空気はだいぶ冷たくなってきたようだ。雲が厚く垂れこめて、まるで何か嫌なことが起こる前触れみたいに感じる。

「……嫌な胸騒ぎがするな」

図書館へ入ろうと扉を押すと、中ではクラウスが書棚を漁っている最中だった。彼が振り返る表情は普段と違い、少し固い。まるで緊急事態の連絡でもあったかのように、どことなく焦りを帯びている。

「レオンか。ちょうどよかった、ディランから急ぎの知らせがあったんだ」
「ディランから? まさか、もう何か動きが……」

クラウスが小さく頷き、埃っぽいテーブルに紙を広げる。そこにはざっと書き殴られた報告メモ。ディランの走り書きによると、王都の警備体制に不穏な変化があるらしい。宰相バルドが何やら“図書館関係の情報”を問題視していて、近々兵を動かすかもしれない、と。

「図書館……俺たちの活動がバレたんですか?」
「確信はないが、何かしら掴まれている可能性が高い。セリナ王女が動き回っているのも情報として上がっているだろうし、最近の市街地での動きに対して“扇動者”がいると睨んでいるのかもしれん」

扇動者。そう呼ばれても仕方ないくらい、俺たちはここ数日、拡散用のチラシをこっそり回していた。下級貴族や役所にも味方を探っていた。大々的に騒ぎを起こさないよう、慎重に進めてきたつもりだったが、さすが宰相バルドの情報網は甘くないのかもしれない。

「……でも、こうなるの早くない? まだ公開している文書は本当に一部だけ。大半は隠し持って、正式なタイミングを待っていたのに」
「何しろ奴は狡猾だからな。王女や貴族の動きをある程度フォローして、先手を打ってきたのだろう。ディランの推測によれば、〈図書館に危険思想の根源あり〉なんてでっち上げられる可能性があるらしい」

嫌な汗が背中を伝う。もしバルドや貴族会議が「図書館を拠点に反乱勢力が集まっている」と結論づければ、わずかな証拠でも図書館封鎖に踏み切るだろう。そこにいる“司書”である俺はもちろん、クラウスや、時々出入りしているレミィやディランまでも容赦なく捕らえられる。

「どうする……? 今まで集めてきた資料や文献が押収されるのはマズい。どこかに隠し場所を用意するか?」
「そのほうがいいかもしれん。だが、あまりに大きな荷物を動かすと目立つし、追手もかかる。……できれば、王女から何かしら動きがあればいいんだが」

クラウスが腕組みをして唸る。セリナ王女の“権威”を使えば、さすがの宰相バルドも強引に押し通すのは難しい――はずだが、近頃の王家の影響力低下を考えると、鵜呑みにもできない。むしろバルドが「王女も同罪」として政治的に追い詰める可能性だってある。

「いったんセリナ王女かディランと連絡を取って、状況をもう少し確かめよう。俺が街へ出てみるよ」
「そうだな。こちらは私が見張っていよう。あまり人目につかぬよう、気をつけろ」

こうしてクラウスを残し、俺は小走りで王都の通りへ向かう。まだ朝方だというのに、どこか殺気立った空気が漂っている。衛兵がやたらと多い。彼らが警戒を強めているのがひしひしと伝わる。

「まさか、もう戒厳令みたいなものを検討してるんじゃ……」

そうぼやきながら、できるだけ裏道を使ってディランがよく立ち寄る酒場へ向かう。彼が休憩の合間によく顔を出すらしい場所だ。入り口の扉は開いていて、店の中では朝から数人がパンとスープを啜っている。重い空気の中、ディランはカウンター席で頬杖をついていた。

「おっ、レオン……急に来たな」
「ディラン、少し話を。図書館封鎖の噂は本当なのか?」
俺が声を潜めて問うと、ディランは顔をしかめてうなずく。

「噂どころか、上の連中が“危険分子の巣窟を潰す”なんてことを平然と言い出してる。具体的な動きはまだだけど、早ければ数日のうちに“図書館立ち入り禁止令”が発令されるかもしれない」
「数日……意外と時間は少しあるんだな」
「いや、強硬策になると決まったら、彼らは一瞬で襲撃してくる可能性もある。とにかく慎重に構えてたほうがいい」

俺はうなじに手を当て、ぐっと歯を食いしばる。まだ主要な資料を公開する前だってのに、これじゃまるで袋小路だ。俺たちが準備した“改革チラシ”だって、せっかく拡散し始めたばかりなのに、拠点を奪われたら続行は難しくなる。

「セリナ王女は? 何か動きは?」
「それが……王女殿下は一昨日から王宮の会議に縛られているらしく、外へ出にくくなってるらしい。何者かが“あの姫様は妙な動きをしている”と密告した、なんて話もあってさ」
「バルドの手か、貴族の誰かか……!」

思わず拳を握る。セリナが王家内部で足止めを食らっているなら、我々だけで何とか対処せねばならない。急ぎチラシや主要文書を安全な場所に移しておき、封鎖に備えるしかないか。そう思い巡らせていると、ディランが苦しげに言葉を続ける。

「それだけじゃない。最近、街のギルドや商工会の上の方にも、宰相側の手が回っているみたいだ。おまえらの動きに協力したら商売停止だとか、税をさらに上乗せするぞ、なんて脅しをかけられてるって話だ。……まるで、全面戦争の準備みたいだろ?」
「徹底的に封じ込める気だな。そうなる前に、俺たちが先に何か切り札を打たないと。……でも、正直言って何ができる?」

焦りだけが募る。宰相バルドが本気を出すなら、軍事力や警察権をほぼ掌握している。俺たちは市民や一部の下級役人の協力を得ているとはいえ、武力を持って対抗できるわけではない。むしろ情報の開示しか手がないのに、その拠点である図書館が潰されれば終わりだ。

「わかった。とりあえず、図書館の資料を安全な場所へ移す準備をする。ディラン、そっちに一時保管できるスペースはない?」
「城下の外れに古い倉庫がある。上司には内緒で借りている場所だが、比較的安全だと思う。夜なら人目につかず移せるかもしれん」
「助かる。今夜、できるだけ多くの資料をそっちへ運ぼう。クラウスやレミィに声をかけて、何とか作業しよう」

ディランが「わかった」と頷いてから、やや躊躇するように口を開く。
「なあレオン、もしも……図書館が完全に封鎖されてしまったら、おまえどうする? スキルがあっても、本がないと何もできないんじゃないのか?」
「そりゃ、図書館の機能が潰されたら相当痛い。だけど、覚悟はできてる。手元に資料を残しておけば、まだ活動は続けられるはずだから」
「わかった。……俺も最後まで力になるよ。あんたの“知識を武器にする”ってやり方、意外と俺は好きなんだ」

ディランの言葉に少し心が軽くなる。彼も、衛兵としての職を捨てる覚悟があるんだろうか――そこまでは考えたくないが、あるいはそういう結末だってあり得るかもしれない。

「ありがとう。じゃあ、夜に図書館へ来てほしい。昼間は目立つからやめておいて」
「ああ、了解。夕方以降、こっそり行く。できるだけ兵士の巡回スケジュールに合わせてくるから、うまく隙を作ってくれ」

そう言って、ディランはカウンターの支払いを済ませると急ぎ足で外へ消えていく。残された俺もすぐ店を出て、次の行動へ移ろう。何とか貴重な書物を死守しなければ。思ったより早いタイミングでバルドが仕掛けてきたのは痛いけど、こうなったら腹を括るしかない。

◇◇◇

日が暮れかける頃、図書館へ戻るとレミィがすでに来ていた。魔導師としての装束を軽めにして、動きやすそうなパンツスタイルになっている。まるで荷物運びの準備ができているかのようだ。

「ディランから聞いたよ。とんでもなく面倒なことになってるわね」
「ごめん、巻き込んで。大丈夫?」
「ふん、どうせ隠れてても魔術師は魔術師で目をつけられるわよ。だったら正面からやり返すといきたいけど、いかんせん相手が権力だからね。だから私の魔法は“逃がす”ほうに使うわ。……荷物の魔力軽減を施すとか、そういう裏技で役に立てると思う」
「それなら頼もしい。図書館の書物や文献は重いものが多いし、夜中に大量運搬するのは大変だ」
「任せておきなさい。あと、念のため“防御結界”を簡易的に展開しておくから、侵入者に少しでも時間を稼げるかもしれない」

レミィの口調はいつもよりも落ち着いているが、まなざしは鋭い。これから起こりうる危機をしっかり見据えているんだろう。

クラウスは古書の山をまとめた大きな布袋を抱え込んでいる。見た目だけでも相当重そうだが、さすがにレミィが魔力のサポートをかけると、いくぶん持ち上げやすくなるようだ。

「さて、暗くなるまでに積み込めるだけ積もう。レオン、おまえさんは特に重要な書物を選別してくれ。全部は運びきれんからな」
「わかりました。そっちは“改竄前”と“改竄後”の条文比較が分かるやつが最優先。それと、セリナ王女が気にしてた《古い条約》関係も外せない」
「なら地下書庫の奥にある“封印資料箱”も運ぶか。そこにはまだ未解読の巻物がいくつかあったはずだ」

俺たちは手分けして、ガタガタの階段を下りる。そこはカビ臭さと埃にまみれた小さな空間だ。古ぼけた箱が散乱していて、いかにも“封印”という名にそぐわないほど雑然としている。でも、実質ここが図書館の命綱みたいなものだ。

「お……あったあった。これが“封印資料箱”か」
「鍵は壊れてるけど、一応封印札が貼ってあったから、下手に開けてこなかったんだよね。レミィ、封印札って解呪できる?」
「できるわ。そんな難易度は高くないはず。ただ、中身に仕掛けがないか注意して……よし、これでいい」

レミィが指先で札をなぞると、ぱりん、と小さな破裂音が響いて、それは消滅してしまう。箱の蓋をそっと開くと、中から分厚い巻物が何本か出てきた。字体や紙の質感がかなり古そうで、魔術的な反応も微弱ながら感じる。

「大半はまだ読めてないやつだ。中には隣国との関係に言及しているかもしれないし、セリナ王女が求めてる情報もあるかも……これは絶対持ち出そう」
「いいわね。うん、早くまとめて上に運びましょ。ここで時間を食うわけにはいかない」

俺とレミィは箱ごと布にくるみ、急ぎ足で階段を上る。上のフロアではクラウスが分別した文献を何袋か用意している。まだ日暮れ前だけど、外は徐々にオレンジ色に染まってきていた。ディランが来る時刻はもうすぐだ。

――ここで突然、図書館の外で馬蹄の音が響いた。ごとんごとん、と複数の馬が駆け寄る音。しかもかなりの人数っぽい。嫌な予感が背筋を冷やす。まさか、もう来たのか?

「クラウス、レミィ、いったん隠れて!」
反射的に叫ぶ。運び出しの真っ最中に乗り込まれたら逃げ場がない。ガランとしたメインホールから入口の様子を窺おうとすると、扉ががらん、と開いた。

「……やれやれ、こんな埃まみれの場所に長居はしたくないものだな」

冷たい声が響く。そこに立っているのは、宰相バルド――ではなく、彼の配下らしき男だ。重々しい衣服に身を包み、横には甲冑を着込んだ兵士が数名控えている。その背後にも、さらに馬を繋いだ兵士らしき影が続いているのが見える。少なくとも十数人規模だ。

「ここは王国宰相閣下の命令により、“危険思想の拠点”として調査する。住人がいるなら姿を見せろ」
「危険思想の……? あなたが何者かは存じないけど、ここは王立図書館ですよ。そんな急に踏み込んで来られても困りますが」

俺は精一杯冷静さを装う。だが、中身は震えるような緊張感があふれている。兵士の人数が多すぎる。正面から押し寄せられたら、俺たちに抵抗の術はない。

「我が名はフォルケン。このたび宰相閣下の代理として出向いてきた。貴様こそ何者だ? こんな場所で何をしている」
「俺はここの司書です。崩れた文献の整理をしているだけですが」

まるで睨みつけるように見下してくるフォルケンに対し、内心冷や汗をかきながらも応答する。すると、彼は鼻で笑うようにして言葉を続ける。

「聞くところによれば、“王家の秩序”を乱す違法文書がこの図書館で大量に保管されているらしいな。古い法令を勝手に偽造し、民を扇動しているとか」
「それは誤解です。改竄されていた法令を復元しているだけで――」
「黙れ。ここはすでに“閉鎖”が決定している。以後、許可なき者が立ち入ることは許さん。貴様も今すぐ退出しろ。そして、あらゆる文献を引き渡せ」

唇が震える。やはり来たか、“図書館封鎖”。こんなにも一方的で、しかも唐突に言い渡されるなんて。兵士たちが図書館の中へわらわらと入り込み、あちこちを探ろうとする。

「待ってください……! 私たちが復元した文献には貴重な歴史的価値がある。取り上げられたら、王国の過去が闇に消えるかもしれないんですよ?」
「王国の過去? そんなもの、宰相閣下が是とすれば是、非とすれば非だ。余計な口を利くな。そもそも、おまえは反逆者の疑いがある。従わないなら、ただちに拘束するまでだ」

どす黒い怒りが込み上げてくる。何が「宰相閣下が是とすれば是」だよ。そんなもの、ただの独裁じゃないか。俺は口を開きかけるが、下手に逆らって捕らえられたら、せっかく集めた資料もすべて没収される。

「わかった……退去します。だけど、書物を全部渡すなんて、そんな……」
「黙れ。兵士たち、今すぐ全フロアを調べろ。怪しい文献はすべて押収しろ。ここの管理人や協力者がいれば捕まえろ」

兵士が動き出す。背筋に冷たいものが走る。どうする――今、抵抗しても負けるだけ。だが、クラウスやレミィが裏に隠れている。もし見つかったらどうなる? 一人でも兵士を殴り倒せるとは思えないし、レミィが魔法で暴れたらそれこそ大事になるだろう。

絶望感に胸が詰まりそうなとき、奥の書棚の方で突然バチバチッと火花のような光が弾ける音がした。レミィが結界を張っているのか? 何が起きたか分からない兵士たちが「なんだ?」と一斉に声を上げる。すると、奥の廊下の壁際がまるで揺らぐように歪み、次の瞬間にはまた何事もなかったかのように静寂が戻った。

「くっ……何か仕掛けがあるのか? そっちを調べろ!」

兵士が数名そちらへ駆けていく。明らかにレミィが囮として“簡易防御結界”を作動させたのだろう。そのすきに俺が資料をいくらか抱えて逃げることを期待しているのかもしれない。でも、たった今あいつらが宣言した通り、ここは“封鎖”される。大荷物を抱えてこの兵士の群れを抜けるなんて不可能だ。

「……とにかく、図書館は閉鎖だ。貴様も今すぐ出ろ」

フォルケンが命じる。俺はギリギリと歯を食いしばり、資料が山積みされた机を名残惜しそうに見やる。そこには作りかけのチラシ、貴重な文献、いずれも国の未来を変え得る宝のような紙たちが並んでいる。バルド宰相の命令下で没収されれば、二度と世に出せないかもしれない。

「……わかりました。外に出ます。でも一つだけ。俺は反逆者じゃない。民を救うために歴史を知りたいだけです」
「くだらない戯言を。さっさと消え失せろ」

吐き捨てるような言葉に背中を押され、俺は悔しさを飲み込みながら外へ足を向ける。正面扉から出た瞬間、見慣れた王立図書館の外観がまるで別の建物のように見える。もうあそこは“俺たちの場所”ではないのかと思うと、胸がぎゅっと締め付けられる。

扉がバタンと閉まり、兵士たちが中から鍵をかけるような音が響く。建物の周囲にも衛兵が配置される。これで俺たちの拠点は、文字通り封鎖されてしまった。

――こんなにもあっけなく、すべてを失うなんて。

膝が震えそうになるのを必死でこらえる。いったん退くしかない。こんな所で喚いても、敵は「やはり扇動者か」と言いがかりをつけてくるだろう。俺は眉をかすかにひそめながら、そっと背を向ける。兵士が「立ち止まるな!」と怒鳴る声が聞こえ、やむなく通りの先へ歩いていく。

日が沈む空は、憂鬱な灰色の雲に覆われている。図書館の裏口を回ってクラウスやレミィを探す余裕もない。今動けば捕まる可能性が高い。でも――あの二人はどうなった? もしうまく結界で攪乱して逃げおおせたなら、夜にディランと合流するはず。そこに最後の望みをつなぐしかない。

「くそ……なんてこった。俺たちが苦労して集めた資料はどうなる……」

込み上げる怒りと無力感に喉が渇く。宰相バルドの狡猾さを甘く見ていたのか。それとも、俺たちの動きが早くも大きな脅威と判断されたのか。どっちにしても状況は最悪だ。司書スキルがあっても、文献を奪われれば読み解くものすらない。

まるで背後で図書館が泣いているかのような錯覚を覚えながら、夕闇に包まれる王都の路地を歩く。兵士たちがまばらに巡回しており、時折こっちを警戒する目で見てくるのが分かる。急いで宿に戻って身を潜めるか、それとも合流地点としてディランの隠し倉庫へ行くか。

「……まだ終わらせたくない」

小さく呟く。いや、終わらせるわけにはいかない。図書館を封鎖されても、クラウスやレミィが無事なら資料の一部は何とか確保できているかもしれない。セリナ王女が城で動けずとも、俺たちが先に仕掛けを用意すれば、いつか逆転の一手を打てるはず。

兵士の目を避けつつ路地裏を進む。その先で、誰かの気配を感じて足を止める。暗がりからぬっと顔を出したのは――ディランだ。彼も警戒した様子でこちらを見ている。

「レオン! 大丈夫か? 兵士たちが……」
「俺は何とか逃げた。でももう図書館は封鎖されたよ。最悪だ……」
「やっぱり、そうなったか……。くそ、俺がもう少し早く来れれば……いや、どうしようもなかったか」

ディランが唇を噛みしめる。悔やんでも仕方ないことだが、気持ちは痛いほどわかる。俺たちはしばし路地裏で肩を落とし、暗い沈黙に包まれる。

「クラウスさんやレミィは?」
「分からない。彼らは裏で結界を展開してたみたいだから、どこかへ逃げたと思う。そうじゃなきゃ捕縛されてるかも……」
「……今夜、倉庫に来るかどうか、それにかけよう。そこに集まらなかったら捜索するしかないな」

ディランが低く息をつく。こんな状況でも、俺たちは動くしかない。もう図書館という拠点はなくなったが、革命の火が消えたわけじゃない。俺の頭の中にはまだ“本の内容”が大量に記憶として残っている。資料の一部がもし守られていれば、再び動き出すことはできるはず。

「わかった。じゃあ夜に倉庫で合流だ。こんなところでウロウロしてたら、兵士に目をつけられるしな」
「おう、準備ができたら来てくれ。闇に紛れるようにしよう」

俺とディランは声を殺して別れる。背後で、夕刻の風が強く吹き付ける。――覚悟していたはずなのに、実際に図書館を奪われるとこんなにも苦しい。胸の中で喪失感が暴れ回るが、それを押し込めて歩き出すしかない。

崩壊寸前の王国の記録を守りたかったが、拠点の扉は閉ざされた。果たして次の一手をどう打つ? セリナ王女は動けるのか? クラウスとレミィは無事か? 疑問ばかりが頭を駆け巡る。けれど、ここで諦めたら文字通りすべてが闇に葬られるだろう。

「……必ずやり返してやる。知識を武器にするって決めたんだから、こんなとこで終わるわけにはいかない」

自分に言い聞かせるように呟く。兵士の視線をかわしながら、足を速める。急がなくちゃいけない。たとえ図書館という大事な場所を奪われても、戦いはまだ続く。夜の帳の中で俺は、一縷の希望を頼りに進むしかない。

――今、街の空は不吉な暗雲に覆われている。まるで宰相バルドの影だ。だけど、俺たちはまだ終わってない。王女が動けないなら、俺たちが一歩進むしかない。司書スキルがあれば、記憶に焼き付いた書物の真実を“次なる文書”へ書き写すことだってできる。

図書館が封鎖されても、言葉までは封じさせない。――そう信じて、俺は慣れない夜道を駆け抜ける。石畳に当たる靴音が虚しく響いても、立ち止まる暇なんてない。追い風になるか逆風になるかは、自分の動き方次第だ。

深い暗闇の先に、かすかに灯る光を探しながら、俺は心を奮い立たせる。
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