179 / 369
第5章
179話 ありがとう
しおりを挟む
「シリル、君の望みはよく分かったよ。でもね、公爵代理も君を大切に想っているから心配されていてね。それで……考えたんだけれど、クレイン公爵代理…どうだろう?シリルの言う通り、このまま正式に公爵の地位を継がれては?」
僕を抱きしめている叔父を見ながら、王太子はそう、打診して来て。
「しかし、殿下っ!そんな訳には参りません。兄の残した忘れ形見のシリルを差し置いて、そんな。」
「けれど、その忘れ形見のシリル本人が、貴方を公爵に、と望んでいるんだよ。前公爵の事ももちろん大切ではあるけれど、何よりも……シリルの気持ちが大切ではないかな。一時的な単なる気の迷いなら、私ももちろん反対するさ。けれど、彼は今までずっと思い悩んでいたくらいに、本気なんだ。なら、その彼の意を汲んであげるのも大切ではないかな。」
「…っ」
「でも、単に貴方が公爵位を継ぐとなると、シリルの立場が宙に浮いてしまう。その心配も、貴方にはあるのでしょう?だから、クレイン公爵代理……貴方が正式にクレイン家の次期公爵となり、シリルを養子にすればどうだろうか?そうすれば、シリルの望みは叶えられるし、公子の立場のままアデリートへ行く事も出来る。彼を手放す事になるとはいえ、立場の心配もしなくていい。それに、時折実家に帰省する事だって可能だろう。」
それで、どうだろうか?
と、ユリウス王太子は穏やかな笑みを浮かべて叔父と僕の方を見やった。
それは、命令などではなく、あくまでも一つの案として、考えてはくれないだろうか?
そう、叔父に促していた。
迷う叔父に、更に畳みかけて来たのはロレンツォ殿下だ。
「貴殿の令息は絶対に大切にすると約束しよう。これは救世の巫女との約束でもあるが。控えめながらも冷静に判断し、自制できる能力を俺は買っているんだ。必ず俺の助けとなってくれるだろうと信じている。だから、是非とも我が側近となり、アルベリーニ子爵令息と共に俺を支えて欲しいんだ。」
頼む。と、未だ戸惑う叔父と僕に、ロレンツォ殿下は頭を下げた。
「あ、あの、ロレンツォ殿下。頭をお上げ下さいっ」
「いいや、貴殿が是と言ってくれるまでは上げられない。」
「ロレンツォ殿下……」
恐縮する叔父に、殿下は頑として断った。
あの殿下が、此処までして下さるなんて。
それに、思いもしなかった。
例えお世辞だったとしても、僕の事買っているんだ、と言って下さるほどだったなんて。
「……分かりました。ユリウス殿下とロレンツォ殿下の提案、お受け致します。」
とうとう根負けした様に呟いた叔父は、少し寂しそうな顔をしながら、僕の顔を見て。
「いつも自分の事は二の次にしてしまうシリルが、口にした望みだ。どうして無下に出来るだろうか。」
「……叔父様。」
「戸籍上、私の息子という事になるが、シリルはそれで本当にいいのか。」
「もちろんです。叔父様がお許し下さるのなら。」
まだ涙目になりながらも、僕は真っ直ぐ叔父様の目を見てそう言うと。
叔父様は、瞳を潤ませながらも僕の頭にポンと手を乗せ、撫でてくれた。
「分かった。シリル……行っておいで。国が違えば勝手も違うから、きっと大変だとは思うが……疲れた時はいつでも帰って来ていいからね。それと、次の夏こそはリックやロティー達とも一緒に、公爵領の方にも行こう。領地の皆も、お前が来るのを楽しみにしていたんだからな。」
「はい……必ず。」
僕は力強く頷いた。
「……色々すまなかったね。これで、良かっただろうか、シリル。」
「はい。僕の為に、随分心を砕いて下さって、本当にありがとうございます。」
「良かった。二人の願いを叶えられて…」
ホッとした様に呟く王太子に、僕が首を傾げると。
「君の望みを叶える事が、カイトの望みでもあったからね。」
そう言い、王太子は目を潤ませているカイトの方を見やった。
「言ったでしょ?最高のハッピーエンドにしようって。今度こそ幸せにならなきゃって。俺達はもうすぐ元の世界へ戻るだろうけど、シリルの人生はまだまだこれからなんだ。俺達に出来るのは、君の幸せを願う事だけだから。地に足のついた未来を歩める様に、俺達から出来るのは、このくらいなんだ。」
どんなに凄い救済の力を持った巫子の自分達も、出来る事なんて限られている。
だから、相談して決めたんだ。
俺達は俺達の出来る手を使って、どうすればシリルを幸せにできるのか、考えたんだ。
これが俺達の精一杯。
だから、これからはシリルの手で掴みに行ってね。
遠慮して、離しちゃ駄目だよ。
そう、カイトと、カレンにも言われた。
————ありがとう。
最初は、敵だと思って、怖くて仕方なかっただけだったのに。
こんなにも、僕の事を……想ってくれて。
本当に、有難う。
僕はまだ薄っすら残る涙を浮かべながら、とても喜びに満ちた笑顔を向ける事が出来た。
僕を抱きしめている叔父を見ながら、王太子はそう、打診して来て。
「しかし、殿下っ!そんな訳には参りません。兄の残した忘れ形見のシリルを差し置いて、そんな。」
「けれど、その忘れ形見のシリル本人が、貴方を公爵に、と望んでいるんだよ。前公爵の事ももちろん大切ではあるけれど、何よりも……シリルの気持ちが大切ではないかな。一時的な単なる気の迷いなら、私ももちろん反対するさ。けれど、彼は今までずっと思い悩んでいたくらいに、本気なんだ。なら、その彼の意を汲んであげるのも大切ではないかな。」
「…っ」
「でも、単に貴方が公爵位を継ぐとなると、シリルの立場が宙に浮いてしまう。その心配も、貴方にはあるのでしょう?だから、クレイン公爵代理……貴方が正式にクレイン家の次期公爵となり、シリルを養子にすればどうだろうか?そうすれば、シリルの望みは叶えられるし、公子の立場のままアデリートへ行く事も出来る。彼を手放す事になるとはいえ、立場の心配もしなくていい。それに、時折実家に帰省する事だって可能だろう。」
それで、どうだろうか?
と、ユリウス王太子は穏やかな笑みを浮かべて叔父と僕の方を見やった。
それは、命令などではなく、あくまでも一つの案として、考えてはくれないだろうか?
そう、叔父に促していた。
迷う叔父に、更に畳みかけて来たのはロレンツォ殿下だ。
「貴殿の令息は絶対に大切にすると約束しよう。これは救世の巫女との約束でもあるが。控えめながらも冷静に判断し、自制できる能力を俺は買っているんだ。必ず俺の助けとなってくれるだろうと信じている。だから、是非とも我が側近となり、アルベリーニ子爵令息と共に俺を支えて欲しいんだ。」
頼む。と、未だ戸惑う叔父と僕に、ロレンツォ殿下は頭を下げた。
「あ、あの、ロレンツォ殿下。頭をお上げ下さいっ」
「いいや、貴殿が是と言ってくれるまでは上げられない。」
「ロレンツォ殿下……」
恐縮する叔父に、殿下は頑として断った。
あの殿下が、此処までして下さるなんて。
それに、思いもしなかった。
例えお世辞だったとしても、僕の事買っているんだ、と言って下さるほどだったなんて。
「……分かりました。ユリウス殿下とロレンツォ殿下の提案、お受け致します。」
とうとう根負けした様に呟いた叔父は、少し寂しそうな顔をしながら、僕の顔を見て。
「いつも自分の事は二の次にしてしまうシリルが、口にした望みだ。どうして無下に出来るだろうか。」
「……叔父様。」
「戸籍上、私の息子という事になるが、シリルはそれで本当にいいのか。」
「もちろんです。叔父様がお許し下さるのなら。」
まだ涙目になりながらも、僕は真っ直ぐ叔父様の目を見てそう言うと。
叔父様は、瞳を潤ませながらも僕の頭にポンと手を乗せ、撫でてくれた。
「分かった。シリル……行っておいで。国が違えば勝手も違うから、きっと大変だとは思うが……疲れた時はいつでも帰って来ていいからね。それと、次の夏こそはリックやロティー達とも一緒に、公爵領の方にも行こう。領地の皆も、お前が来るのを楽しみにしていたんだからな。」
「はい……必ず。」
僕は力強く頷いた。
「……色々すまなかったね。これで、良かっただろうか、シリル。」
「はい。僕の為に、随分心を砕いて下さって、本当にありがとうございます。」
「良かった。二人の願いを叶えられて…」
ホッとした様に呟く王太子に、僕が首を傾げると。
「君の望みを叶える事が、カイトの望みでもあったからね。」
そう言い、王太子は目を潤ませているカイトの方を見やった。
「言ったでしょ?最高のハッピーエンドにしようって。今度こそ幸せにならなきゃって。俺達はもうすぐ元の世界へ戻るだろうけど、シリルの人生はまだまだこれからなんだ。俺達に出来るのは、君の幸せを願う事だけだから。地に足のついた未来を歩める様に、俺達から出来るのは、このくらいなんだ。」
どんなに凄い救済の力を持った巫子の自分達も、出来る事なんて限られている。
だから、相談して決めたんだ。
俺達は俺達の出来る手を使って、どうすればシリルを幸せにできるのか、考えたんだ。
これが俺達の精一杯。
だから、これからはシリルの手で掴みに行ってね。
遠慮して、離しちゃ駄目だよ。
そう、カイトと、カレンにも言われた。
————ありがとう。
最初は、敵だと思って、怖くて仕方なかっただけだったのに。
こんなにも、僕の事を……想ってくれて。
本当に、有難う。
僕はまだ薄っすら残る涙を浮かべながら、とても喜びに満ちた笑顔を向ける事が出来た。
78
あなたにおすすめの小説
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
【完結】それ以上近づかないでください。
ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」
地味で冴えない小鳥遊凪は、ずっと憧れていた蓮見馨に勢いで告白してしまう。
するとまさかのOK。夢みたいな日々が始まった……はずだった。
だけど、ある出来事をきっかけに二人の関係はあっけなく終わる。
過去を忘れるために転校した凪は、もう二度と馨と会うことはないと思っていた。
ところが、ひょんなことから再会してしまう。
しかも、久しぶりに会った馨はどこか様子が違っていた。
「今度は、もう離さないから」
「お願いだから、僕にもう近づかないで…」
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
冤罪で追放された王子は最果ての地で美貌の公爵に愛し尽くされる 凍てついた薔薇は恋に溶かされる
尾高志咲/しさ
BL
旧題:凍てついた薔薇は恋に溶かされる
🌟2025年11月アンダルシュノベルズより刊行🌟
ロサーナ王国の病弱な第二王子アルベルトは、突然、無実の罪状を突きつけられて北の果ての離宮に追放された。王子を裏切ったのは幼い頃から大切に想う宮中伯筆頭ヴァンテル公爵だった。兄の王太子が亡くなり、世継ぎの身となってからは日々努力を重ねてきたのに。信頼していたものを全て失くし向かった先で待っていたのは……。
――どうしてそんなに優しく名を呼ぶのだろう。
お前に裏切られ廃嫡されて最北の離宮に閉じ込められた。
目に映るものは雪と氷と絶望だけ。もう二度と、誰も信じないと誓ったのに。
ただ一人、お前だけが私の心を凍らせ溶かしていく。
執着攻め×不憫受け
美形公爵×病弱王子
不憫展開からの溺愛ハピエン物語。
◎書籍掲載は、本編と本編後の四季の番外編:春『春の来訪者』です。
四季の番外編:夏以降及び小話は本サイトでお読みいただけます。
なお、※表示のある回はR18描写を含みます。
🌟第10回BL小説大賞にて奨励賞を頂戴しました。応援ありがとうございました。
🌟本作は旧Twitterの「フォロワーをイメージして同人誌のタイトルつける」タグで貴宮あすかさんがくださったタイトル『凍てついた薔薇は恋に溶かされる』から思いついて書いた物語です。ありがとうございました。
殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?
krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」
突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。
なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!?
全力すれ違いラブコメファンタジーBL!
支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。
【完結】その少年は硝子の魔術士
鏑木 うりこ
BL
神の家でステンドグラスを作っていた俺は地上に落とされた。俺の出来る事は硝子細工だけなのに。
硝子じゃお腹も膨れない!硝子じゃ魔物は倒せない!どうする、俺?!
設定はふんわりしております。
少し痛々しい。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる