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3:空白と知人と水族館
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ミカが帰った後、イツとお風呂に入った。
イツはずっとご機嫌で、余程、明日の水族館が楽しみなんだろう。
初めて会った人で、気を張っていたのかお風呂から出た後はすぐに寝てしまった。
イツが寝たら、家事を一通り終わらせる。
昔は時間もかかって、家事を終わらせたらすぐ寝ていたけど今では息抜きの時間を作れるようになった。
録画してある映画を毎日少しずつ観て眠くなったら寝る。これが俺の息抜きだ。
ただ、今日は俺も疲れてしまったので、早く寝ようと思った。
ピコン___。
スマホの通知だ。
こんな時間に誰だろう。
『明日何時に家に行けばいい?』
ミカからだった。
そういえば、連絡すると言っておきながら、すっかり忘れていた。
時間を伝え、アラームをかけて布団に入った。
「ママ、おきて。すいぞくかんだよ」
「おはよう。今日もありがとうね」
イツの頭を撫でながら、寝ぼけ眼を擦る。
2人で朝ご飯を食べて、支度をする。
「イツ、髪の毛結ぶからこっち向いて」
「うん!今日ははおだんご2個だよ!」
「はーい。水族館行くし、今日は水色のリボンつけようか」
「うん!」
ふわふわの髪を梳かして、おだんごを作る。
イツのお気に入りの髪飾りはリボンで何色もある。
全部お気に入りで選べないらしい。
「はい!完成しました!今日も可愛いねぇ」
「ほんとー?なにきようかなー」
ウキウキルンルンで服を探しに行ってる姿を見たら、こっちまで楽しくなってしまう。
迷いに迷ってイツは水色のワンピースを選んだ。
自分の身支度は済んでいるから、後はミカを待つだけだ。
「ママ!これ、きのうみせるのわすれてた」
「わぁ!とっても美味しそうなスイカ!きっと昨日スイカに負けないくらい美味しいだろうね。イツはお絵描き上手だもんね」
「えへへ。ありがとう、ママ」
イツは俺と違って、器用だし、絵も上手い。
俺は昔に比べ、不器用がマシになったとはいえ、側から見たら未だ不器用に見えるだろう。
小さいながら大人びていたり、なんでも器用にこなしているのを見るとイツはαな気がする。
それにαとの子供だから、αかΩのどちらか。
自分がΩだから、イツにはこんな経験してほしくない。
発情期は苦しいし、誰彼構わず誘ってしまう。
ただ、αも同じで、フェロモンが強ければ無意識のうちにΩを発情させてしまったり、欲に眩んだΩに騙されることだってある。
結局、Ωだろうがαだろうが性別に囚われて生きなければならない。
βだったらどんなに良かったか。
俺の両親はβだったけど、母方の祖母がΩだったからか、俺もΩになった。
β同士でも、Ωは生まれる。
もしかしたら、イツもβかもしれない。
そんな淡い期待が消せない。
俺がΩに生まれたのなら、イツがβに生まれても良いじゃないか。
「ママ!まだー?」
「ミカが来るから、もうちょっと待ってね」
「イツ......みかみのことずっとよびすてしてる。よくないけど、なんてよんだらいいのかわかんない」
「うーん。みかみさんにする?それかミカさんとか?」
「ミカさん!ママと同じよびかたにする!」
「ふふっ。イツは良い子だね。自分で気づけるのママ感心しちゃった。ママも気づかなかったのに!」
「かんしん......?」
「すごいなぁってことだよ。イツはどんどん成長していくね」
「やったぁ!イツ、みかみ......じゃなくてミカさんくらい大きくなりたい」
「まずは、ママのこと追い越さなきゃ」
「うん!おっきくなるから、みててね」
ピンポーン_______。
「あ!ミカ来たんじゃない?出てくるね」
「イツも行く!」
鍵を開けて、ドアを開けた。
「おはようございます。八英さん、伊月ちゃん」
「おはようー。上がってて。車のエンジンかけてくるね」
「おはよう、ミカさん!きのうより、おしゃれさんだね!」
「おはよう、伊月ちゃん。伊月ちゃんもそのリボン、お洋服に合ってておしゃれだね」
昨日ですごい仲良しになったなぁ。
イツは結構人見知りなのに。
楽しそうに話す2人を背に階段を降りた。
それにしても、今日も暑いなぁ。
冷房が効くまで、少し部屋にいた方がいいかもしれない。
車のエンジンと冷房をつけて、部屋に戻った。
ガチャ_______。
「でね、ママがね......」
イツの楽しいそうな声が聞こえてくる。
ミカって子供の相手得意なのかな。
「なんの話ー?ママがどうしたの?」
「あっ!えっと、ママが、その」
「八英さんがかっこいいって話だよ。ねー?伊月ちゃん」
「そう!ママがすてきって」
「イツもミカも嘘つかないの。バレバレです」
イツは耳をヤケに触ってる。
そしてミカは、手首を握ってる。
嘘をついた時の癖だ。
俺にはお見通し。
「本当は?ママも楽しい話に混ぜて欲しいなぁ」
「えっとね、ママがね......なふだにつけたほしが、ひとでだったはなし」
「それは、えっと、その......」
「僕が聞いちゃったんだ。他は星だったのに1つだけヒトデだったから」
「ママ、イツはママのそういうところすきだよ。おもしろくて」
「ありがとう......イツ」
恥ずかしい。
顔は熱い。
あんなに、余裕ぶって聞いたせいで余計に恥ずかしい。
「八英さん、なんで嘘って分かったんですか?いつも見破りますよね」
「えっと、2人の癖とミカはいつも俺のこと可愛いって褒めるから変だと思って」
「癖ですか?僕何かしましたっけ?」
「言ったら、直しちゃうから言わない」
「それもそうですね」
気づきたくなかったけどね。
嘘ついてるって知らない方が幸せな時もある。
「さて、行こうか」
「はーい!」
3人で車に乗り込み、イツは後部座席、ミカは助手席に乗った。
水族館までは1時間くらいかかる。
イツはいつのまにか眠ってしまっていて、ミカは窓に外を見て黙り込んでいて、少し気まずかった。
音楽でも流そうかと思った時だった。
「八英さん。伊月ちゃん本当に可愛いね」
「でしょ。俺が育てたとは思えないくらい良い子で可愛いよ」
「八英さんってストレートですよね。伊月ちゃんは天パ」
「そうだけど。やめてよ。イツの前でそういう話」
「分かった」
ミカは天パじゃない。
多分ミカは、イツの血の繋がった父ではないのだ。
ミカには悪いことをしたと思っている。
それでも、小さいイツにそういう話はしたくない。
今のままでも成り立ってるのに、掘り返したくない。
「八英さん。僕ね、八英さんが僕を好きじゃなくても、そばに居たいし、守りたいです。八英さんが他の人を好きになるのをきっと許せないです」
「きっと、もう誰とも付き合ったりしないよ」
「俺ともですか」
「ストレートに聞きすぎ。......俺、ミカのことちゃん好きだよ」
「え?今なんて」
「好き」
「嘘だ」
「嘘」
なんで好きって言ったのだろう。
言ってどうするのだろう。
今まで、適当にしてきたせいで信じてもらえなかったし。
運転中でイツもいるのに。
言わなきゃよかった。
嘘って信じてくれるかな。
運転中でよかった。
ミカがどんな顔をしているか見なくてすむ。
「八英さん。どっちなんですか」
「もう、知らない」
「付き合ってください」
「付き合えない」
「好きなのに?」
「好きでも」
「番になりましょう?」
「なれない」
付き合うのも、番もきっと俺は幸せになれる。
ミカは幸せにしてくれるだろうし、多分いるだけで幸せになれる。
でも、ミカは俺といても幸せになれない。
「もう、絶対に離せませんよ」
こっちのセリフだ。
一緒に居れば居るほど、離せなくなる。
「もう、ついた?」
「まだだよ。後15分くらい」
「イツ、すごいねてた。...わぁ!!うみ!」
「ねぇ。綺麗だね」
「おおきい!きれい!!」
イツが起きてくれてよかった。
「水族館楽しみだね」
「うん!ミカさんもねてる?」
「起きてるよ。後ちょっとだね」
イツとミカが楽しそうに話している。
イツには申し訳ないけどきっと今日で最後になっちゃうんだろうな。
「水族館見えたよ」
「ほんとだ!」
水族館から少し離れた駐車場に車を置いて歩いて水族館に行く。
「ママ、ミカさん、手繋ごう!」
「うん」
本当に家族みたいだ。
俺が素直になれたら、こうなったかもしれない。
水族館に入ると、案内があった。
「チケット買ってくるから2人はここで待っててね」
「お金後で渡します」
「いらないよ。今日我儘に付き合ってくれたお礼」
チケットを3人分買って、イツ達のところに向かう。
2人は熱心にパンフレットを見ていた。
「買ってきたよ。どこから行く?」
「ママ、イツはイルカショーがみたいから先にイルカショーのほうにいきたい」
「はーい」
イツはこういう時、ハッキリとしたいことを伝えられる。俺とは大違いだ。
ちょっと大人びて言うところが可愛い。
パンフレットを見るとイルカショーはC舘にあるようだった。
「C舘はこっちだね。八英さん、方向音痴なんだから着いてきてください」
「ママ、ミカさんにもバレてるんだね」
「恥ずかしいなぁ」
「だいじょうぶだよ。イツはちゃんとわかるから!」
「ありがとう。イツ」
ミカの案内でイルカショーを見れた。
イツは大興奮で、すごく楽しそうにしていて来て良かったと思った。
意外にもミカも楽しそうにしていて、やっぱり昔と変わらない気がした。
混む前にお昼にしようということで、少し早めに水族館の中のカフェに入った。
「あれ?三佳巳さん?」
「......雪くん!久しぶり!霜くんも!」
「お久しぶりです」
隣の人が知り合いだったようだ。
多分2人ともΩ。
どういう関係なんだろう。
「初めまして。鮎川 雪です」
「初めまして。神田 八英です」
「ほら、霜も」
「初めまして。雪の弟の霜です」
「こんなところで雪くん達に会うと思わなかったよ」
「ね、びっくりしたけど会えて嬉しい!」
素直で可愛い人。
俺とは大違いだと思った。
「イツ、口にご飯付いてる」
雪さんとミカがお似合いに見えてしまう。
優しそうで可愛くて素直で、やっぱりミカにはこういう人が似合うんじゃないかと思う。
「ママ......?」
「うん?」
「どうかしたの?」
「どうもしないよ」
「ほんとう?」
「本当」
「そっか!」
イツに気づかれるような顔をしていたのだろうか。
恥ずかしいな。
「よかった!2人が幸せそうで」
「三佳巳さんだって......」
「あはは、分かる?」
途切れ途切れの会話が気になってしょうがない。
楽しそうな声が頭の中を巡る。
「そんな心配しなくていいよ。雪と櫻田川さんはそんなのじゃないから」
「霜くん、俺そんな顔してた?」
「はい」
「そっか。ごめん」
2人は盛り上がっていて、楽しそうだった。
「2人はどういう関係なんですか」
「えっと、俺と櫻田川さんのこと?」
「はい」
どんな関係なんだろう。
昔、遊んでた相手だなんて言えないし。
かと言って友達でもない。
「櫻田川さんはきっとずっと、貴方を想っていますよ」
「......昔のこと知ってるの」
「少しだけです」
「そっかぁ」
霜くんは雪くんとは違って、素直そうでも優しそうでもない。
でも、不器用なだけで多分優しい人。
「霜くんは優しい子だね」
自分より少し高い頭を気づいたら撫でていた。
なんだか、イツに似ている気がして。
「あ!ごめんね。子供扱いしてるわけじゃないからね。ありがとう。霜くん」
「いえ......」
少し頬を赤くして、そっぽを向いてしまった。
「三佳巳さんも......良かった」
「実は......」
「え!......本当!?......会えて良かったね」
「でも......」
「雪、そろそろペンギンの餌やり始まるよ」
「え!じゃあ三佳巳さん、またね」
嵐のように去ってしまった。
「可愛い人だね」
「去年、お世話になったんだ」
「へぇ」
「八英さん?」
「イツ、次はどこ行きたい?」
「おっきいとこいきたい!」
「じゃあ次はそこに行こっか!」
可愛いくて素直。
見た目だけの屁理屈野郎しかも最低。
やっぱり、ミカはああいう子と一緒になった方がいい。
「ミカ、お会計は俺にさせてよ。今日のお礼」
「僕が払います」
「だーめ。先輩を立ててください」
「先輩?なんの先輩なんですか」
「忘れたの?あんなに教えてあげたのに」
「あぁ!バイトか。でも、バイトはもうお互い......」
「そんなのいいから」
これ以上お金を出してもらうのはダメだ。
スーパーでもお金を出さしてしまったし。
ミカにこれ以上迷惑をかけるわけにはいかない。
お会計を済ませ、イツと手を繋いで大きい水槽まで行った。
ミカは一歩後ろを歩いている。
イツはミカを1人にさせている気持ちになったのか後ろを何度も確認している。
「ママ、ミカさん......」
「そうだね。こっちくればいいのに」
黙って水槽を眺めながら後ろを歩いてるミカはなんだか知らない人に見えた。
「ミカ、俺が迷子になっちゃうよ」
ミカは驚いたみたいだった。
でも、それから笑って
「もう二度と見失いませんよ」
そう言った。
イツはずっとご機嫌で、余程、明日の水族館が楽しみなんだろう。
初めて会った人で、気を張っていたのかお風呂から出た後はすぐに寝てしまった。
イツが寝たら、家事を一通り終わらせる。
昔は時間もかかって、家事を終わらせたらすぐ寝ていたけど今では息抜きの時間を作れるようになった。
録画してある映画を毎日少しずつ観て眠くなったら寝る。これが俺の息抜きだ。
ただ、今日は俺も疲れてしまったので、早く寝ようと思った。
ピコン___。
スマホの通知だ。
こんな時間に誰だろう。
『明日何時に家に行けばいい?』
ミカからだった。
そういえば、連絡すると言っておきながら、すっかり忘れていた。
時間を伝え、アラームをかけて布団に入った。
「ママ、おきて。すいぞくかんだよ」
「おはよう。今日もありがとうね」
イツの頭を撫でながら、寝ぼけ眼を擦る。
2人で朝ご飯を食べて、支度をする。
「イツ、髪の毛結ぶからこっち向いて」
「うん!今日ははおだんご2個だよ!」
「はーい。水族館行くし、今日は水色のリボンつけようか」
「うん!」
ふわふわの髪を梳かして、おだんごを作る。
イツのお気に入りの髪飾りはリボンで何色もある。
全部お気に入りで選べないらしい。
「はい!完成しました!今日も可愛いねぇ」
「ほんとー?なにきようかなー」
ウキウキルンルンで服を探しに行ってる姿を見たら、こっちまで楽しくなってしまう。
迷いに迷ってイツは水色のワンピースを選んだ。
自分の身支度は済んでいるから、後はミカを待つだけだ。
「ママ!これ、きのうみせるのわすれてた」
「わぁ!とっても美味しそうなスイカ!きっと昨日スイカに負けないくらい美味しいだろうね。イツはお絵描き上手だもんね」
「えへへ。ありがとう、ママ」
イツは俺と違って、器用だし、絵も上手い。
俺は昔に比べ、不器用がマシになったとはいえ、側から見たら未だ不器用に見えるだろう。
小さいながら大人びていたり、なんでも器用にこなしているのを見るとイツはαな気がする。
それにαとの子供だから、αかΩのどちらか。
自分がΩだから、イツにはこんな経験してほしくない。
発情期は苦しいし、誰彼構わず誘ってしまう。
ただ、αも同じで、フェロモンが強ければ無意識のうちにΩを発情させてしまったり、欲に眩んだΩに騙されることだってある。
結局、Ωだろうがαだろうが性別に囚われて生きなければならない。
βだったらどんなに良かったか。
俺の両親はβだったけど、母方の祖母がΩだったからか、俺もΩになった。
β同士でも、Ωは生まれる。
もしかしたら、イツもβかもしれない。
そんな淡い期待が消せない。
俺がΩに生まれたのなら、イツがβに生まれても良いじゃないか。
「ママ!まだー?」
「ミカが来るから、もうちょっと待ってね」
「イツ......みかみのことずっとよびすてしてる。よくないけど、なんてよんだらいいのかわかんない」
「うーん。みかみさんにする?それかミカさんとか?」
「ミカさん!ママと同じよびかたにする!」
「ふふっ。イツは良い子だね。自分で気づけるのママ感心しちゃった。ママも気づかなかったのに!」
「かんしん......?」
「すごいなぁってことだよ。イツはどんどん成長していくね」
「やったぁ!イツ、みかみ......じゃなくてミカさんくらい大きくなりたい」
「まずは、ママのこと追い越さなきゃ」
「うん!おっきくなるから、みててね」
ピンポーン_______。
「あ!ミカ来たんじゃない?出てくるね」
「イツも行く!」
鍵を開けて、ドアを開けた。
「おはようございます。八英さん、伊月ちゃん」
「おはようー。上がってて。車のエンジンかけてくるね」
「おはよう、ミカさん!きのうより、おしゃれさんだね!」
「おはよう、伊月ちゃん。伊月ちゃんもそのリボン、お洋服に合ってておしゃれだね」
昨日ですごい仲良しになったなぁ。
イツは結構人見知りなのに。
楽しそうに話す2人を背に階段を降りた。
それにしても、今日も暑いなぁ。
冷房が効くまで、少し部屋にいた方がいいかもしれない。
車のエンジンと冷房をつけて、部屋に戻った。
ガチャ_______。
「でね、ママがね......」
イツの楽しいそうな声が聞こえてくる。
ミカって子供の相手得意なのかな。
「なんの話ー?ママがどうしたの?」
「あっ!えっと、ママが、その」
「八英さんがかっこいいって話だよ。ねー?伊月ちゃん」
「そう!ママがすてきって」
「イツもミカも嘘つかないの。バレバレです」
イツは耳をヤケに触ってる。
そしてミカは、手首を握ってる。
嘘をついた時の癖だ。
俺にはお見通し。
「本当は?ママも楽しい話に混ぜて欲しいなぁ」
「えっとね、ママがね......なふだにつけたほしが、ひとでだったはなし」
「それは、えっと、その......」
「僕が聞いちゃったんだ。他は星だったのに1つだけヒトデだったから」
「ママ、イツはママのそういうところすきだよ。おもしろくて」
「ありがとう......イツ」
恥ずかしい。
顔は熱い。
あんなに、余裕ぶって聞いたせいで余計に恥ずかしい。
「八英さん、なんで嘘って分かったんですか?いつも見破りますよね」
「えっと、2人の癖とミカはいつも俺のこと可愛いって褒めるから変だと思って」
「癖ですか?僕何かしましたっけ?」
「言ったら、直しちゃうから言わない」
「それもそうですね」
気づきたくなかったけどね。
嘘ついてるって知らない方が幸せな時もある。
「さて、行こうか」
「はーい!」
3人で車に乗り込み、イツは後部座席、ミカは助手席に乗った。
水族館までは1時間くらいかかる。
イツはいつのまにか眠ってしまっていて、ミカは窓に外を見て黙り込んでいて、少し気まずかった。
音楽でも流そうかと思った時だった。
「八英さん。伊月ちゃん本当に可愛いね」
「でしょ。俺が育てたとは思えないくらい良い子で可愛いよ」
「八英さんってストレートですよね。伊月ちゃんは天パ」
「そうだけど。やめてよ。イツの前でそういう話」
「分かった」
ミカは天パじゃない。
多分ミカは、イツの血の繋がった父ではないのだ。
ミカには悪いことをしたと思っている。
それでも、小さいイツにそういう話はしたくない。
今のままでも成り立ってるのに、掘り返したくない。
「八英さん。僕ね、八英さんが僕を好きじゃなくても、そばに居たいし、守りたいです。八英さんが他の人を好きになるのをきっと許せないです」
「きっと、もう誰とも付き合ったりしないよ」
「俺ともですか」
「ストレートに聞きすぎ。......俺、ミカのことちゃん好きだよ」
「え?今なんて」
「好き」
「嘘だ」
「嘘」
なんで好きって言ったのだろう。
言ってどうするのだろう。
今まで、適当にしてきたせいで信じてもらえなかったし。
運転中でイツもいるのに。
言わなきゃよかった。
嘘って信じてくれるかな。
運転中でよかった。
ミカがどんな顔をしているか見なくてすむ。
「八英さん。どっちなんですか」
「もう、知らない」
「付き合ってください」
「付き合えない」
「好きなのに?」
「好きでも」
「番になりましょう?」
「なれない」
付き合うのも、番もきっと俺は幸せになれる。
ミカは幸せにしてくれるだろうし、多分いるだけで幸せになれる。
でも、ミカは俺といても幸せになれない。
「もう、絶対に離せませんよ」
こっちのセリフだ。
一緒に居れば居るほど、離せなくなる。
「もう、ついた?」
「まだだよ。後15分くらい」
「イツ、すごいねてた。...わぁ!!うみ!」
「ねぇ。綺麗だね」
「おおきい!きれい!!」
イツが起きてくれてよかった。
「水族館楽しみだね」
「うん!ミカさんもねてる?」
「起きてるよ。後ちょっとだね」
イツとミカが楽しそうに話している。
イツには申し訳ないけどきっと今日で最後になっちゃうんだろうな。
「水族館見えたよ」
「ほんとだ!」
水族館から少し離れた駐車場に車を置いて歩いて水族館に行く。
「ママ、ミカさん、手繋ごう!」
「うん」
本当に家族みたいだ。
俺が素直になれたら、こうなったかもしれない。
水族館に入ると、案内があった。
「チケット買ってくるから2人はここで待っててね」
「お金後で渡します」
「いらないよ。今日我儘に付き合ってくれたお礼」
チケットを3人分買って、イツ達のところに向かう。
2人は熱心にパンフレットを見ていた。
「買ってきたよ。どこから行く?」
「ママ、イツはイルカショーがみたいから先にイルカショーのほうにいきたい」
「はーい」
イツはこういう時、ハッキリとしたいことを伝えられる。俺とは大違いだ。
ちょっと大人びて言うところが可愛い。
パンフレットを見るとイルカショーはC舘にあるようだった。
「C舘はこっちだね。八英さん、方向音痴なんだから着いてきてください」
「ママ、ミカさんにもバレてるんだね」
「恥ずかしいなぁ」
「だいじょうぶだよ。イツはちゃんとわかるから!」
「ありがとう。イツ」
ミカの案内でイルカショーを見れた。
イツは大興奮で、すごく楽しそうにしていて来て良かったと思った。
意外にもミカも楽しそうにしていて、やっぱり昔と変わらない気がした。
混む前にお昼にしようということで、少し早めに水族館の中のカフェに入った。
「あれ?三佳巳さん?」
「......雪くん!久しぶり!霜くんも!」
「お久しぶりです」
隣の人が知り合いだったようだ。
多分2人ともΩ。
どういう関係なんだろう。
「初めまして。鮎川 雪です」
「初めまして。神田 八英です」
「ほら、霜も」
「初めまして。雪の弟の霜です」
「こんなところで雪くん達に会うと思わなかったよ」
「ね、びっくりしたけど会えて嬉しい!」
素直で可愛い人。
俺とは大違いだと思った。
「イツ、口にご飯付いてる」
雪さんとミカがお似合いに見えてしまう。
優しそうで可愛くて素直で、やっぱりミカにはこういう人が似合うんじゃないかと思う。
「ママ......?」
「うん?」
「どうかしたの?」
「どうもしないよ」
「ほんとう?」
「本当」
「そっか!」
イツに気づかれるような顔をしていたのだろうか。
恥ずかしいな。
「よかった!2人が幸せそうで」
「三佳巳さんだって......」
「あはは、分かる?」
途切れ途切れの会話が気になってしょうがない。
楽しそうな声が頭の中を巡る。
「そんな心配しなくていいよ。雪と櫻田川さんはそんなのじゃないから」
「霜くん、俺そんな顔してた?」
「はい」
「そっか。ごめん」
2人は盛り上がっていて、楽しそうだった。
「2人はどういう関係なんですか」
「えっと、俺と櫻田川さんのこと?」
「はい」
どんな関係なんだろう。
昔、遊んでた相手だなんて言えないし。
かと言って友達でもない。
「櫻田川さんはきっとずっと、貴方を想っていますよ」
「......昔のこと知ってるの」
「少しだけです」
「そっかぁ」
霜くんは雪くんとは違って、素直そうでも優しそうでもない。
でも、不器用なだけで多分優しい人。
「霜くんは優しい子だね」
自分より少し高い頭を気づいたら撫でていた。
なんだか、イツに似ている気がして。
「あ!ごめんね。子供扱いしてるわけじゃないからね。ありがとう。霜くん」
「いえ......」
少し頬を赤くして、そっぽを向いてしまった。
「三佳巳さんも......良かった」
「実は......」
「え!......本当!?......会えて良かったね」
「でも......」
「雪、そろそろペンギンの餌やり始まるよ」
「え!じゃあ三佳巳さん、またね」
嵐のように去ってしまった。
「可愛い人だね」
「去年、お世話になったんだ」
「へぇ」
「八英さん?」
「イツ、次はどこ行きたい?」
「おっきいとこいきたい!」
「じゃあ次はそこに行こっか!」
可愛いくて素直。
見た目だけの屁理屈野郎しかも最低。
やっぱり、ミカはああいう子と一緒になった方がいい。
「ミカ、お会計は俺にさせてよ。今日のお礼」
「僕が払います」
「だーめ。先輩を立ててください」
「先輩?なんの先輩なんですか」
「忘れたの?あんなに教えてあげたのに」
「あぁ!バイトか。でも、バイトはもうお互い......」
「そんなのいいから」
これ以上お金を出してもらうのはダメだ。
スーパーでもお金を出さしてしまったし。
ミカにこれ以上迷惑をかけるわけにはいかない。
お会計を済ませ、イツと手を繋いで大きい水槽まで行った。
ミカは一歩後ろを歩いている。
イツはミカを1人にさせている気持ちになったのか後ろを何度も確認している。
「ママ、ミカさん......」
「そうだね。こっちくればいいのに」
黙って水槽を眺めながら後ろを歩いてるミカはなんだか知らない人に見えた。
「ミカ、俺が迷子になっちゃうよ」
ミカは驚いたみたいだった。
でも、それから笑って
「もう二度と見失いませんよ」
そう言った。
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理解しようと努めるも、涙は止まらず、食事も眠りもままならない。やがて「番に捨てられたΩは死ぬ」という言葉が頭を支配し、旭は絶望の中で自らの手首を切る。意識が遠のき、次に目覚めたのは病院のベッドの上だった。
流れる星、どうかお願い
ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる)
オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年
高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼
そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ
”要が幸せになりますように”
オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ
王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに!
一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので
ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが
お付き合いください!
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
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