異世界おっさん一人飯

SILVER・BACK(アマゴリオ)

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「もしよろしければ、少しお話を聞かせていただけませんか?七色茸が生息する場所や、何か手がかりになるようなことをご存知でしたら」
「ふむ……よかろう。七色茸は奥深い森の、特に樹齢数百年の古い松の木の根元にひっそりと生えることが多いと、古くから村に伝わっておる。そして、夜になると微かに光を放つとも言われておるな……。見る角度では様々な色合いになるたいう。じゃが、森の奥は魔物どもの縄張りじゃ。特に夕暮れ時や夜間は危険が増す。気をつけて行きなされ」
 
 老人の言葉に、期待と同時に警戒心が湧き上がる。危険を冒してでも手に入れる価値のある、幻の食材。それを納品した時の料理長の歓喜に満ちあふれた表情が目に浮かぶ。そして何よりも、あの七色茸を使った料理を味わえるかもしれないという期待が、俺の胸を高鳴らせた。危険は承知の上だ。
 
「貴重なお話をありがとうございます。行ってきます」
「森は欲をかくほど牙を剥く。もしなにか異変を感じたり、危険だと判断したりしたならば、決して無理はせず、いつでもこの村に戻ってくるんじゃぞ」
 
 老人の温かい言葉に励まされ、俺は村の奥へと続く森の小道を進んだ。彼の言葉の優しさが、張り詰めた心を少しだけ和らげてくれた。
 木々は生い茂り、昼間だというのに薄暗い。太陽の光は葉陰に遮られ、僅かに差し込む木漏れ日だけが頼りだ。足元には落ち葉が深く積もり、歩くたびにカサカサと乾いた音を立てる。辺りの空気はさらに湿り気を帯び、土と枯れ葉、そして得体の知れない森独特の濃密な香りが鼻腔をくすぐる。まるで、森そのものが生きているかのような気配だ。
 老人の言葉を頼りに、樹齢の古い松の木を探しながら森の中を彷徨う。幹が太く、威厳のある姿の松を探して歩く。時折、鮮やかな色の毒キノコや、珍しい形をしたキノコを見つけるが、どれも黄金色とは違う。焦らず、注意深く周囲を観察しながら、ゆっくりと奥へと足を進めていく。魔物の気配にも常に気を配り、耳を澄ます。

 どれほど時間が経っただろうか。日が西に傾き始め、森の中に徐々に夕闇が忍び寄ってきた。木々のシルエットがぼやけ始め、視界が悪くなる。そろそろ安全な場所を見つけて野営の準備を考え始めたその時、ふと足元で微かな光を感じた。

(なんだ!?何か光っているぞ……!?)

 目を凝らして見ると、深い落ち葉の下から微弱ながらも確かに、柔らかい黄金色の光が漏れている。しかし見る角度を変えると様々な色の光に変わった。心臓がドクンと大きく跳ねた。慎重に周囲を見回し、危険がないことを確認してから、手に持った木の枝でそっと落ち葉を払いのけた。そこに現れたのは……。

(もしかして……こ、これが七色茸か!)

 息を呑むほどの美しさだった。料理長に見せてもらった金茸よりもずっと大きく、両掌を広げたほどもある巨大なカサは、まるで精巧に作られた髪飾りのように神々しく輝いている。その輝きは、周囲の薄暗闇の中で、まるで自ら光を放っているかのようだ。肉厚なカサの下からは、微かに果物のような甘酸っぱい、それでいてどこかスパイシーな独特の香りが漂ってくる。その存在感に、思わず立ち尽くしてしまった。

 興奮を抑えながら、すぐに周囲を警戒する。老人が言っていたように、ここは既に魔物の縄張りだ。貴重な七色茸を見つけたという高揚感を押し殺し、耳を澄ませ、物音や気配を探る。静寂が支配する森の中で、自分の心臓の音だけが大きく響いているように感じた。
 その時、背後の茂みからガサガサという大きな音と共に、鋭い唸り声が響いた。
 
「グルルルル……!」
 
 ゾッとするような威圧感。
 
「まずい!」
 
 咄嗟に身を翻すと、そこにいたのは全身が漆黒の毛で覆われた巨大な狼だった。通常の狼のゆうに二倍はあるだろうか。鋭い牙を剥き出し、赤い瞳が獲物を定めるようにこちらを睨んでいる。

 ブラックウルフ。
この森の奥深くに生息する、凶暴で知能も高い魔物だ。こいつの縄張りに踏み込んでしまったらしい。
 ブラックウルフは低い姿勢のまま、じりじりと間合いを詰めてくる。その一歩一歩に、恐るべき力と俊敏性が秘められているのが分かる。油断すれば一瞬で喉元を食い破られるだろう。背中に冷たい汗が伝うのを感じながら、俺はゆっくりと、しかし淀みなく背中の大剣を抜いた。金属が鞘から滑り出す音が、森の静寂に響く。
 
「グルルル……!」
 
 魔狼の喉が再び唸り、次の瞬間、まるで黒い弾丸のように地面を蹴って飛びかかってきた!
 俺は咄嗟に身を屈め、ブラックウルフの巨体を紙一重でかわす。鋭い爪が空を切る「ヒュンッ!」という音が耳元で響き、冷たい風が頬を撫でた。体勢を立て直す間もなく、奴は素早く向きを変え、獲物を取り逃がすまいと再び襲いかかってくる。

(速い!想像以上だ!)

 ブラックウルフのスピードに舌を巻く。その動きは洗練されており、野生の獣の勘に裏打ちされている。普通の狼とは桁違いの俊敏さと判断力だ。剣を構え、魔狼の次の一手に全神経を注ぐ。
 三度目の突進。今度は避けるのではなく、大剣で真正面から受け止めた。魔狼の鋭利な牙が俺の剣に食い込み、激しい金属音が森に響き渡る。「キィィィン!」と耳鳴りがするほどの衝突音だ。強烈な力に押されそうになるが、全身に力を込めてなんとか踏ん張り、ブラックウルフの動きを封じる。その間にも、奴は牙と爪で執拗に攻め立ててくる。
 
「ハアアア!」
 
 俺は渾身の力を込め、剣を横に薙ぎ払う。魔狼は咄嗟に身を引いたが、その胴には俺の剣の切っ先が掠め、赤い筋が走った。
 
「グル……アウ……」
 
 傷を負った魔狼は、警戒の色を濃くしながらも、再び牙を剥いて威嚇してくる。しかし、その動きには先ほどの勢いがない。怯んだわけではないが、明らかに傷の痛みで隙が生まれている。

(今だ!仕留める!)

 俺は剣に風魔法を込めた。付与魔法だ。薄く緑色の光が剣身を包み込み、周囲の空気が僅かに震える。風刃を纏った剣は、斬れ味と速度が増す。
 
「くらえ!」
 
 風魔法を帯びた剣を、魔狼に向かって突き出した。魔狼は避ける間もなく、その一撃を受ける。
 
「ギャンッ!」
 
 断末魔の悲痛な叫び声を上げ、ブラックウルフはその場に倒れ伏した。黒い毛皮の塊の、生命の力が急速に失われていくのが見て取れた。体から力が抜け、ぐったりとしている。もはや動くことはないだろう。
 激しい呼吸と高鳴る心臓を抑えるため、深呼吸し気持ちを鎮める。辺りの静寂が、激しい戦いの終わりを告げていた。なんとか、勝てた。
 ブラックウルフの亡骸を一瞥し、再び七色茸へと向き直る。採取する前に、周囲に他の魔物が潜んでいないか、もう一度慎重に確認する。もう大丈夫そうだ。
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