ほかほか

ねこ侍

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第12話 襲来

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 俺は今、人生史上最高に、キラッキラに輝いていた。

 毎日が充実している。

 ああ。労働って素晴らしい。

 それというのも全て【ほかほか】のおかげである。

 初仕事の日に、試しに大鍋いっぱいのペク芋に【ほかほか】を使用したところ、目に見えて効果があったのである。それによりペク芋を煮る時間の大幅な短縮が実現したのだ。

 それから俺は三か月間、来る日も来る日も【ほかほか】を使い続けた。
 おかげで、スキルレベルもかなり上がっているようだ。

 最初のうちは大鍋いっぱいのペク芋に火を通すのに1時間程度はかかっていた。
 それでも五時間が一時間になったのだから大したもんである。

 だが、今では十分程度で全てほっかほかに出来る。

 十分!!

 すごくね?

 しかも弱い出力でだ。
 そう。スキルの出力調節も覚えたのだ。

 今では4台あった大鍋は1台だけの稼働で、十分な量の煮っころがしを生産できる様になった。

 もちろん空いた時間と人手も無駄にはしていない。

 新商品の開発だ。

 今の時代、様々な顧客のニーズに対応できるよう新商品の開発が必要不可欠だと考えたのだ。
 商品が「ご飯がペクペク ススムクン」だけでは心もとない。

 工場長は快く快諾してくれた。

 ペク芋は見た目もそうだが、味もサツマイモに近く程よい甘さがある。
 とすれば、元の世界でのサツマイモ料理なら失敗する可能性は低いはずだ。

 パクり?

 盗作??

 自分で考えろ???

 うはははは。聞こえんな。
 勝てばよかろうなのだぁぁ~。

 新商品開発が一段落したらレーベルへの出店計画も提案してみよう。
 そしてゆくゆくは「ハイム」全土に店舗を展開し、俺は美女に囲まれ何不自由なく生きていくのだ。

 俺がうふふふと鼻の下を伸ばしていると工場長が現れた。

「あ。工場長。おはようございます。新製品のスイートペクトは如何でしたか」

「ボソッ…………ク……タ。…………バ……レ」

「はい! ご期待に添える様に致します!!」

 と、今では工場長の信頼も厚い。
 いつの間にか意思疎通もこなせるようになった。

 ちなみ工場長のセリフは「よやっ。これからもがんってく」だ。

 わーい。こんなに人生スイートでいいんだろうか。
 甘い。甘すぎる。
 この仕事はまさに天職に思えた。

 俺は確実に調子に乗っていた。
 乗りまくっていた。

 直後、俺はそんなに人生甘く無い事を思い知らされるのだった。





 それは突然の事だった。

 なんだか外が騒がしいな。
 気のせいか悲鳴も聞こえるような……

 窓から外を見るとたくさんの村人が走っている。
 何かから逃げているかの様にも見える。

「あんれまぁ。ようこそペクトロ村へ」
「あんれまぁ。ようこそペクトロ村へ」
「あんれまぁ。ようこそペクトロ村へ」

 村の入り口にある村人A人形は、どこか壊れたらしくひたすら音声を流している。

 と、工場の入り口から数人の村人が駆け込んできた。

「逃げるっぺよーーーーーっ!!」

「ヒュドラだーーーーーっ!!!」

 えっっ!?

「ヒュドラって何??」

 思わず聞いてしまう。

 が、そんな俺を尻目に騒然とする工場内。

「自警団に連絡を!!」
「どこかに避難するべきだっぺか!?」
「……ボソッ……お……わ…………た…………」

「なんでヒュドラが村に……」
 ヨシコは泣き出しそうな顔をしている。

「落ち着いて!! 慌てないで。むやみに外に出たりしないで工場内にいましょう!」

 フサエが大声で叫ぶ。

「ねぇヒュドラって何??」再度聞いてみる俺。

「ダメだっぺよーっ! なんかまっすぐこの工場に向かっているみたいだっぺよーーーっ!!」
「んだ!! それを知らせにきただーーーーっ!!」

「えっ!!」

 更に騒然とする工場内。

「避難するべ!!」

「こんな時村に冒険者がいればーーー」

「でも最低でもⅭかDランクは必要よ!!」

 何人かが俺と眼があったが華麗にスルーしてゆく。
 うむ。賢明な判断だ。

「全員慌てずに速やかに村はずれの教会まで避難!! 私の後についてきなさい!!」

 フサエが大声で指示を出す。

 が、時既に遅し。

 工場の入り口をふさぐように、そいつは姿を現わした。

 横にいるフサエが青ざめた表情で呟いた。

「教えてあげる……。ヒュドラって…………あれよ」

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