ほかほか

ねこ侍

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第20話 盗賊との戦闘1

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「お客様の中に冒険者の方はいませんかっ! いたらお力を貸して下さい」

 あ。なんかドラマでこんなのみたことある。
 飛行機かなんかで重病人が出た時に「お医者様はいませんか!」ってCAさんが尋ねるあれだ。

 ただし、決定的にドラマと違っている事が一つあった。
 それは俺とフォルダー以外全員手を挙げている事だ。

 驚きの冒険者率だ。
 とは言っても、馬車内にはフォルダーと俺達以外には五名しか乗っていなかったのだが。
 挙げた手の中にはしわしわの手や、ネコっぽい手や、水かきのついた手も見える。

 なんか頼りないなー。

「ヨースケも冒険者だろ」

 そうでした。
 俺もしずしずと手を挙げる。

「おおっ。冒険者が七人もっ! 既に馬車の周りは盗賊に囲まれています。どうか力を貸してください!」

「ふぁ~あ。盗賊は何人位いるのかしら」

 あくびをしながら魔導師っぽい杖を持った女性が尋ねる。

「見える範囲では三十人くらいかと……」

 三十人!数では完全に負けている。
 戦う気なのか?

 しずしずと手を下げる俺。
 しかしみんなはやる気の様だ。

「馬車の中にいたままじゃ不利だ。さっさと外に出よう。」

 と、黒髪短髪の男が言葉通りさっさと馬車から降りる。

「そうじゃな」としわしわの手の老人が馬車を降りる。
「ニャー」と真っ白いネコの獣人らしい娘も続く。

 みんな次々と馬車を降りてゆく。

「はぁ。はぁ。水……」

 と言いながら出て行ったのは半魚人だ。
 あの人大丈夫!?

 最後に降りるのは俺だ。
 ちらっと馬車内を見るとフォルダーが心配そうな顔で「お気をつけて」と言ってくれた。
 
 馬車後方から降りて周りを見渡すと、緑色の肌をしたゴブリン達が馬車の左右から少しずつ近づいてくるのが見える。装備はぼろぼろの皮鎧もしくは布を纏い、手には一様に剣やこん棒等の武器を持っている。

 馬車前方の道には大きな岩が置いてある。
 なるほど。こうして立往生した馬車を狙うんだろうな。バックして迂回するのは馬車の構造上、簡単そうではない。

 しかし冒険者がこんなに馬車に乗っているとは思ってもいなかったのだろう。
 盗賊達はすぐに攻撃してくる気配は無く、馬車からはある程度距離をとっている。どうすればいいのか戸惑っている様だ。 

 ランジェは馬車の上に飛び乗ると大剣を手に取る。

 と、――しわしわの手――、背の高い立派な髭の老人がランジェに話しかける。

「お若いの。わしの槍もとってくれんか?」

「はいどうぞ。」

 馬車の屋根からランジェの大剣にも負けない程の大きな槍が顔を表す。
 いかにも重そうなその槍を、ほい、と老人に手渡す。

 女子高生が友達に鉛筆でも渡すかの様な気軽さだ。
 そんな渡し方で大丈夫かっ?
 
「すまんのぅ。最近腰が痛くてのぅ。」

 腰をさすりながら、老人は軽々と槍を受け取った。
 俺の心配は無用だった様だ。この世界はどこか狂っている。

「敵は馬車の左右に展開しながら近づいて来ています。距離は約十m。ゴブリンが大半を占めていますが、右手の奥にはオーガが一体。敵の司令官だと思われます。弓兵や魔導師は見当たりません」

 ランジェが馬車の上から周囲を見渡し、みんなに伝える。

「じゃ余裕だな。俺は右行くぜ。」

 と言うと、黒髪短髪の男が走り出した。

「あたしは左ニャー。」

 獣人娘も猛スピードで駆け出す。
 四足歩行だ。口には短剣をくわえている。

「わしも左にしようかの。」

 槍を構えた老人は左へと向かう。

「わたしは魔法で援護するわね」

 魔導師っぽい杖を持った女性はフワリと重力を感じさせない動きで馬車の屋根に飛び乗った。
 やはり魔導士の様だ。
 
「じゃ僕は右へ行ってくる。ヨースケはここに残ってフォルダーさんと御者さんの護衛をお願い出来るかな」

「OKだ。気をつけてな」
 
 ランジェは馬車の屋根から飛び降りると右手に向けて走り出した。

 みんながんばれよー、と見送る俺に御者さんが話しかけてきた。

「私は馬を狙われない様に馬車の前方を守ります。馬車の後方をお願いしても宜しいでしょうか。なぁに私も元冒険者ですから御心配には及びません。」

「あ。はい。わかりました。」

 御者さんは馬車の前方へ駆けていく。

 そうなると馬車の後方には俺と半魚人だ。

「はぁはぁ。エラ呼吸したい……」

 半魚人は苦しそうにしている。

 俺達の布陣はこうだ。

 <馬車前方>
 御者

 <馬車右側>
 ランジェ
 黒髪短髪の男

 <馬車左側>
 獣人娘
 槍をもった老人

 <馬車屋根>
 魔導士の女性

 <馬車後方>
 俺
 死にそうな半魚人

 馬車後方が不安で仕方が無い。
 俺はみんなを応援しつつ、こっちに敵が来ないように必死に祈るのであった。

 その頃、馬車右方向では既に戦闘が始まっていた。

 黒髪短髪の男「ジャイ」は徒手空拳の使い手である。
 あっという間に盗賊との距離を詰めると、右ストレート一発で一体目のゴブリンを沈める。

 視界の隅で別のゴブリンがこん棒で殴り掛かってくるのを確認すると、その攻撃を最低限の動きで躱し、右フックから左ボディ、前かがみになったところにショートアッパーと連撃を叩き込む。
 そして右足を軸に凄まじい速さで回転すると、強烈なバックブローで、後ろから襲い掛かろうとしていたゴブリンの、構えた剣と兜ごと頭蓋を叩き割った。

「っしゃあぁぁぁっっ! どんどん行くぜっ!!」

 少しだけ遅れて戦闘に参加したランジェは、そんなジャイの戦闘を横目で見つつ、大剣を横に薙ぎ払い、二体のゴブリンを一刀両断にした。そして、彼にこの場は任せても問題ないなと判断すると、司令官であろうオーガの元へ向かうことにした。

 しかしオーガの元へとたどり着くにはまだ四~五体のゴブリンがいる。
 邪魔だなと思うより早く、背後から頭の上を眩い光弾が通り過ぎていき、そのゴブリン達を吹き飛ばした。

 振り返ると、馬車の屋根の上にいる魔導士がこちらに向けて手をかざしている。
 何かしらの魔法で援護してくれたらしい。

 ありがたい。

 邪魔なゴブリン達はもういない。
 ランジェはそのまま一気に跳躍すると、オーガに向けて切りかかった。
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