ほかほか

ねこ侍

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第32話 ポコ・マッシュルーム

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 翌朝、俺達はスピネルへと向かう馬車に乗り込んだ。
 
 早朝だというのに、マッスルタザワとセイラが見送りに来てくれた。

 二人ははカサゴ行きの馬車に乗る為、ここでお別れだ。昼過ぎに出発するらしい。
 一晩限りの臨時パーティーだったが、彼らとの共闘は役割分担の重要さに気付かせてくれた。

 冒険者としてまだまだ学ぶ事は多いな。

「またね」

 手を振るセイラ。

「筋肉の神のご加護があらん事を!!」

 マッスルタザワも手を振る。

 ブオン! ブオン!

 うわー。すごい音がする。
 マッスルタザワ。お前は手を振らんでいい。

「ん~~~。マッスルッ!!」

 次はなんだ?
 
 マッスルタザワが両手を上にあげてポージングをする。
 ムキムキムキッと、どんどん肥大する筋肉。

 と、バリーンッ! とタンクトップがはじけ飛んだ。

 おお。いよいよ本当に意味が分からん。
 彼なりの見送りなのだろうか。
 ランジェはドン引きである。

 カラカラカラ、と次第に車輪が回り始める。

 俺達は馬車の窓から身を乗り出し二人に手を振った。
 
「じゃあな。筋肉の神によろしくな!」
「またお会いしましょうー」

 そうして俺達の乗った馬車はスピネルへ向けて宿営地を出発した。





 馬車の中、俺はランジェに聞いてみた。 

「なぁランジェ。筋肉の神っているのかな?」

「いないんじゃない?」

 真っ直ぐ俺の方を見ながら、即答するランジェ。
 
 うん。そうだよな……。
 俺ももちろん信じてはいないよ。
 
 俺を見つめるランジェ

 いや、本当だって……。
 ちょっと聞いてみただけだって……。


 尚もじーっと俺を見つめるランジェ。


 やめろ!

 もうやめてくれ! 


 じーーっ。


 うわー。それ以上俺を見つめるな!! 

 見ないでくれーっ!!


「ヨースケッ!」


「はい! ごめんなさい!」


「? 冒険者LVが上がってるねー。おめでとう」

 言われて胸にぶら下げているギルドカードを確認する。

「あ! 本当だ。上がってる!」

 LVが23から25に上がっていた。

「ミノタウロスを倒したからだね。おめでとう~」
 
 ぱちぱちと拍手をしてくれる。

 良かった、いつものランジェだ。

「やーやー、どーもどーも」

 俺達がそんな会話をしていると、前方の通路から、てててっと小さい影が俺達の前に現れた。

「あ! あの……昨夜はミノタウロス退治お見事でした。僕も何かお力になれればと思ったんですが、皆さんがあっという間に倒してしまわれたのですっ!」

 あら? ちっちゃいですねー。
 おめめがぱっちりとした可愛らしい男の子が話しかけて来た。
 座っている俺よりまだ身長が低い。
 ちょっと大きめの、ハンチング帽の様な青い帽子をかぶっている。

 宿営地に着くまでの馬車にはこんな子いなかったよな。
 じゃ宿営地で他の馬車から乗り換えてきたのかな。

 スッ。
 
 子供より一歩、右斜め後ろの位置に執事の様な姿の女性が立つ。
 右の前髪だけ長めにした特徴的な髪形をしている。
 顔の右半分はその前髪で覆われていて見えないが、東洋系の顔だちだ。
 話しかけて来た子とは対照的な、細目、いや糸目と言って良い程に目が細い。
 ニコニコと笑顔を崩さない。優しそうに子供を見つめている。

 ひょっとしたらお母さんかな。 
 でも服装や、なんというか佇まいが執事っぽいな。

 男の子を見るとほっぺを少し赤くして、もじもじしている。
 あまりの男の子の愛らしさに、思わず相好を崩しながら話しかける。

「坊やありがとうね~。でもおじさん達強いから大丈夫だよ~」

「ヨ、ヨースケッ。その人」

 ん? なぁに?
 俺はだらしない顔をしながら横にいるランジェを見る。

 すると子供が驚くべき発言をした。

「あ、あのですね。僕は小人族なので、こ、こう見えても32歳なんですっ。」

 なにーーーっ!

 グリンと首が90度回り、再度子供を見る。

 本当かっ!? 
 だとしたら俺より年上じゃないかっ!
 どう見ても幼稚園児にしか見えない……信じられない。

「こ、これはとんだ失礼をば……」

 謝りながらも俺は思う。
 こんな可愛らしい中年がいてよいのか。

 何となく流れる、気まずい空気。

 すると、今まで沈黙を守っていた女性が話しかけて来た。

「こちらこそ失礼致しました。主がどうしてもご挨拶したいと申されまして。主の名はポコ・マッシュルーム、私は執事のセイロン・ガーと申します。どうぞお見知りおきを。」 

「もー! 自己紹介くらい、自分で出来るよー」

「ふふっ。そうでしたね。失礼致しました」

 執事さんだったのか。

 いかん。

 二人がスーツ姿のお母さんと幼稚園児にしか見えなくなってきた。
 合法幼児プレイってやつだろうか。一部の人には羨ましい限りだろう。

 あとこの執事さん、なんだかとってもいい匂いがします。
 
「小人族の人達は人間より寿命が長いし、子供の期間が長いんだよ」

 そっとランジェが教えてくれる。
 ふーん。見た目は子供、頭脳は大人ってやつか。

 いや頭脳も子供か?
 
 だとすればそれは正真正銘の子供であろう。

 ん~。この世界については考え出したらキリが無い。

 あーもう考えるのはやめよー。

「どーも。俺はヨースケ、こっちはランジェ。よろしく」





 少し会話をした俺達は打ち解けていた。
 ポコはランジェの隣の席にちょこんと座っている。
 ポコのすぐ横にはセイロンが立っていて、相変わらずニコニコしている。

 話を聞くと、ポコは俺達がミノタウロスを倒したと話しているのを聞いて、お礼を言いに来たのだそうだ。
 町から町を渡り歩く行商を生業としていて、昨夜は宿営地にお店も出していたらしい。
 食糧庫にはいくつか商品も置いていたそうだ。

「希少な商品もありましたので助かりました」とセイロンが頭を下げる。

 その言葉にピンと来た俺。

「あ。もしかして、クサリバナナって持ってない?」

 ひょっとしたらと思い、試しに聞いてみる。

「ご、ごめんなさいっ。クサリバナナは扱ってないです」と申し訳なさそうにポコが答える。

 あらら、残念。

「あ、あんまし需要は無いと聞きますが、ひょっとして食べるんですかっ?」

「うん。知り合いがね」

 ダズならウホウホ言いながら喜んで食べそうだ。早く正気に戻してやらないとな。
 まーそんなに簡単には手に入らないよなー。

 俺ががっかりしていると、がたがたがたっと馬車が揺れた。
 有料馬車でも揺れる時は揺れるのだ。
 
 と、上から硬いものが落ちてきて俺の頭に当たった。

 あいたっ!!
 
 カランカランと床に転がったのはミノタウロスの角だ。 
 上を見ると、網棚に置いていた俺のズックからミノタウロスの角がはみ出している。
 さっきの振動で落ちて来たらしい。

 くすくすと、ランジェは笑っている。

 もー。

 俺が床に転がったミノタウロスの角を拾い上げ、ズックにしまい込もうとするとポコが話しかけてきた。

「も、もし良ければ。ミノタウロスの角を買い取りますよっ」

「え!? そりゃ助かるよ。何気に重かったんだよね」

 どのみちスピネルに着いたら、道具屋さんに売りに行こうとランジェと話をしていたのだ。

「こちらこそっ。じゃあお預かり致しますねっ」

 では、とセイロンがミノタウロスの角を俺から受け取り、ポコに一つずつ手渡す。
 それをポコがルーペで一つずつ鑑定を行う。

 うむむ……。

 これは……。

 等と言いながらミノタウロスの角を鑑定するポコ。
 傍から見ればおままごとの様に見えるが、本人は一生懸命お仕事中だ。

「ところでミノタウロスの角の用途って何? 武器とかになるの?」

「え、えっとえっと」ポコは困った様子でわたわたしている。

 こいつ本当に中年かぁ?

 かわいいな~。

 そんなポコに代わり、セイロンが助け舟を出す。

「主に代わりお答え致します。ミノタウロスの角は武器や防具よりは、インテリア用に加工したり、漢方薬等に使われる事が多いですね。変わったところではミノ笛と言う楽器の素材としても使用されますよ。」

 へー。武器にも使えそうだけどね。
 実際、俺にはたんこぶが出来たし。

「ミノ笛とはそもそも古代の民達が、神に祈りを捧げる際に使用していました。その神の名は、きんに……」
 
 と、セイロンが説明を始めようとした時、ポコが声を掛けてきた。

「か、鑑定終わりましたっ。セイロンこれお願いっ」

 渡された紙を見て、セイロンがほぅ……と言いながら布の袋に硬貨を詰める。

「お値段はこれで、いかがでしょうかっ」

 ポコに言われ、セイロンが袋を手渡す。
 中を開けてみると、十数枚の硬貨が入っていた。銀貨も数枚交じっている。
 うーん。正直相場がわからない。

「あれ? ちょっと多くないですか」と硬貨を数えながらランジェが聞く。
 
 そうなの? 
 でも多い分には黙っておけば良いのに……と思う俺ってセコイのだろうか。

「昨夜の騒動を治めて頂いたお礼込みのお値段ですよ。どうぞお気になさらずに」

「あ! それ僕が言おうと思ってたのにー!」
 
「ふふふっ。そうでしたか。失礼致しました」

 あ。この人、絶対わざとやってるな。

「で、では交渉成立でよろしいでしょうかっ」
 
「もちろん!」

 相場以上なら、何の問題もないよな。
 俺達は快く返事をしたのだった。
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