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第34話 ドンマイ
しおりを挟む俺達が降り立ったのは、スピネルの町の中の広場の様なところだ。
周りには広場を囲む様に、二階建てのレンガ造りの建物が建ち並んでいる。
建物の造りはどれも均一だが、屋根の色は様々だ。
赤色や青色、黄色、緑色、オレンジ色。様々な色の屋根が町を賑やかにしている。
その色とりどりの屋根を、夕焼けがより一層美しく染め上げている。
また、どの家もベランダ―やバルコニーに鉢植えが飾られている。
色鮮やかな草花たちが鉢植えから顔をのぞかせる。植物を愛する人が多いのだろう。
……心地いいな。落ち着く感じがする。
見回すと、360度広がる空。
圧迫感が無く開放的な印象を受ける。
んー。きれいだなー。
宿営地での夜空も美しかったが、夕焼け空はまた違う美しさがある。
レーベルでは四~五階建ての建物があったが、この町では高い建物は見当たらない。
ほとんどが二階建て、もしくは一階建ての建物だ。
ぽっ。
一斉に街灯に明かりが灯り出した。
スピネルの街灯は、レーベルの様に宙には浮かんでおらず、しっかりとした柱で地面に固定されている。
ひょっとして電気が通っているのだろうか。
電線は……見当たらない。
地下か? いや魔法の力かも知れないな。
と考え始めたが、いくら考えても答えは出まい。
この世界ではいちいち考えたらキリが無い事が多い。
でもやっぱり何となく考えてしまうんだよなー。悪い癖だ。
「スピネルって適度に田舎で、適度に不便でいい町だよねー」
ランジェが気持ち良さそうに背伸びをしている。
あれ? レーベルでも同じ事言ってなかった?
君はそろそろ本当に住民に怒られるぞ。
でも、いい町ってのは同意だ。緑が豊かで閑静な住宅街と言ったところかな。
子供のいる家庭に人気が出そうだな。
スピネルの町の東には、広大なスピネルの森が広がり、林業や狩猟など森に根付いた職を生業とするものも多いという。
目指すクサリバナナはそのスピネルの森にあるのだ。
「昼過ぎには到着する予定だったけど、夕方になっちゃったね。まずは宿をおさえようか」
確かにそうだな。
本格的に暗くなる前に宿探しをしなくちゃな。
まだそんなに寒くないとはいえ、野宿は勘弁だ。
ランジェがギルドカードを操作し、宿を探し始める。
「どうだ? 近くにありそうか」
「うーん。結構歩かないといけないみたい」
ランジェの手元を覗き込む。
なるほど。確かに一番近い宿屋でも結構距離がありそうだ。
大通り沿いに行けば道順は簡単そうだが、ぐるっと遠回りする事になるなー。
細い路地や、家と家の間を通り抜ける事になるが、ここはショートカットでいきますか。
俺も自分のギルドカードを取り出し、宿屋の位置を確認する。
「じゃーとりあえず行くか」
俺達は宿屋へ向かって、てくてくと歩き出した。
◆
薄暗い路地を歩く俺達。
思った以上に路地は複雑に入り組んでいて迷路の様だ。
都市整備計画とかしてないのだろうか。
無茶いうなって? うん、自分でも逆恨みなのはよくわかってます。
陽も落ち始めてきて、街灯も無い路地裏は結構暗い。
家々の窓からこぼれる明かりだけが頼りだ。
少し進んだところで、道が左右二手に分かれていた。
俺達は一旦立ち止まり、ギルドカードの裏の地図を確認する。
「うーん、次は右だな」
右側の少し細くなっている道からいけば近そうだ。
そうしてまた歩き始める。
そして、また分岐に出くわす。
一旦立ち止まり、道を確認。
そして歩き出して、また分岐。
そんな事をずーっと繰り返している。
道が分岐する度に、一旦立ち止まるのには理由がある。
それは俺がギルドカードを見ながら歩いていたら、思いっきり転んでしまったからだ。
「歩きギルカはだめだよ。」とランジェに怒られてしまった。
はい。すみません……。
しかしこれじゃ時間がかかって仕方がないな。
遠回りだが、大通りから行った方が結果的には早かったかもしれない。
分岐を右に進むと、更に細い裏道に続いていた。
人がすれ違うのがやっとな細さだ。足元はかなり暗く真っ暗である。
うわー。
さっさと通り抜けたいわー。
一刻も早く通り抜けたい気持ちが、自然と足を速める。
さっきから後ろでカツンカツンと何か音がする。
おそらくランジェの大剣が、壁か何かにぶつかっているのだろう。
しばらく進むと左右に道が別れている。
丁字路ってやつだ。
もー。また分岐かー。
「次は左だね」とナビをしてくれるランジェ。
はいはい、次は左ね。
しかしなかなか着きませんなーと、俺が道を曲がった瞬間。
そのすぐ足元に大きな物体があった。
「おわっ!!」
危なく踏んづけそうになるところを、ジャンプして回避する。
なんだっ!?
野良犬か?
いや……ひょっとして人か?
暗くて良くわからなかったが、結構な大きさがあったぞ。
驚いて振り返り、今自分が飛び越えた「なにか」を確認する。
おいおい……。
マジかよ……。
俺は眼を疑った。
なんとそこには、一人の少女が倒れていたのである。
◆
「ヨースケッ!どうしたの!?」
俺の声に驚いて、ランジェが走りながら道を曲がってきた。
「あー! ストップ! ストップ!!」
「え? うわっ!!」
足元の少女に気付いて、慌ててジャンプするランジェ。
少女を飛び越えて来たランジェのひざが、見事に俺の腹部にヒットする。
「ああんっ!」
自分でも思ってもみない声が出た。
「あ……ごめんね」
テヘペロするランジェ。
おふぅ……いいから……早くヒール……。
いやいや。
まずは倒れている少女が先だな。
「おい! 大丈夫か!」
慌てて少女を抱き起こす俺。
え? 軽い……。
俺は少女の軽さに驚いていた。
抱き起こした腕に、当然かかるであろう想定していた重み、それがほとんどなかった。
「ヨースケ……その子なんだか透けてない!?」
え?
言われて少女を良く見てみる。
本当だ……。
抱えている少女の顔の向こうには、俺の腕がうっすらと透けて見えている。
顔だけではなく全身がうっすらと透けているぞ。
これって、なんか見覚えあるぞ…………。
……。
そうだ!
俺が地球で転移した時だ!!
あの時、俺も同じように身体が透けていた。
見えるはずの無い、脚の向こう側の地面が見えていたっけ。
「なぁ、ランジェ。この子、今まさに転移してきてるんじゃないか」
「うん。そうだね。僕もそう思う」
特に少女に外傷は見当たらない。
胸がわずかに上下している。呼吸はしているようだ。
どうやら気を失っているだけみたいだな。
と、不意に両腕に発生する重み。
「うおぉっと」
危なく少女の頭を落としそうになるが、何とか堪える。
ふう。セーフ。
彼女の顔を見てみると、白い肌はうっすらと赤みを帯び、もう透けてはいない。
どうやら転移が終わったらしい。
ホッと安堵のため息をもらす。
後は意識が戻るのを待つだけだ。
改めて少女の顔を見る。
目を閉じていても感じ取れる整った顔立ち。
紛れもなく美少女だ。
銀色の長い髪に少しとがった耳。種族はおそらくエルフだろう。
ああ。実に羨ましい。
これが今時の正しい転移のあり方なんだよなー。
と、窓ガラスに映った自分の顔を見て、しみじみ不公平さをかみしめる。
「う、ううっ」
不意に、腕の中で少女が声をあげた。
良かった。意識が戻ったようだ。
「おい。大丈夫か?しっかりしろ」
俺は少女を怖がらせないように、なるべく優しく声をかけた。
「う……こ、ここはどこ」
薄目を開けて、不安げに周りを見回す少女。
「ここはハイムっていう世界だよ。落ち着いてよく聞いてね。信じられないかも知れないけど……君はたった今、別の世界から転移してきたんだよ。」
ランジェが、優しく諭すように少女に語りかける。
「え……?」
少女は目を見開き、ランジェと俺を交互にを見つめる。
ブルブルと全身が震えている。
無理も無い。
いきなり知らない世界に転移しただなんて、混乱するのも仕方無いだろう。
でも俺はゴリラにビンタされて起こされたんだぞ。
それよりは数倍ましな目覚め方だよな。
ごくりと少女の喉が動く。
「や……」
や?
「た…………」
た?
「やったぁーーー!!!」
少女は大きな声を上げ、両手を突き上げ万歳をすると、一気に飛び起きた。
そしてくるりと回転して俺たちの方を向く。
「これってあれでしょ。チートスキルであなたも無双! 美少女に生まれ変わり逆ハーレム状態!」
そして少女は、横にある窓ガラスに映った自分の姿を見て、
「よっしゃー! エルフきたー」
と、ガッツポーズを取っている。
発想が俺だ。
俺の中のヒロイン像が、がらがらと音を立てて崩れていく。
ランジェは驚いて声も出ない。
少女は窓ガラスの前でいろんなポーズを取り、自分の姿を確認している。
「うん。まずまず合格点ね」
何に合格したの?
外見は15~16歳位だろうか。銀髪にサラサラの長い髪は腰辺りまで伸びている。
ハッキリとした目鼻立ちに、幼さの残る顔だち。先程の言動が無ければヒロインとして満点だ。
背は俺より少し低いくらいか。ランジェよりは頭一つ高い。
柔らかそうな素材の真っ白なローブを身体にまとっている。
「あたしはルナ。ルナ・マテリアルよ。あなた達は助けてくれたのかな? どうもありがとう」
「あ、ああ。元気そうで何よりだ。俺はヨースケ、こっちはランジェ。俺達も異世界から来たんだぜ。よろしくな」
「えーーっ! そうなの!?」
ルナは俺とランジェを交互に眺め、俺の肩にポンと手をおいた。
「ドンマイ」
なんか腹たつな。
「俺は日本、ランジェはガルムヘイズって世界から転移してきたんだ。君は?」
「え? 色んな世界があるのね。あたしは【シジュール】から来たのよ」
そういうとルナは俺達に向かってウインクをした。
「これからよろしくね」
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